あかいろ

私の視界に容赦なく飛び込んできたのは、馬鹿みたいに明るい赤色だった。
つい数時間前まで私と同じ黒い髪をした同居人が、まるで遠い星の人になってしまったみたいだ。右手にぶら下げたコンビニ袋をテーブルに置いて深く息を吐きながらソファーに腰掛た彼女は、開いた口を閉じられずにいる私をおかしそうに笑った。
「染めたの」
「なんで」
にんまり。そんな音がたちそうなくらい気味の悪い笑みを浮かべて、聞きたい?聞きたい?と体を乗り出してくる彼女が気持ち悪かったし、そんな彼女の赤い髪がもっと嫌で、私はぎゅっと眉を寄せた。どうせまたあの男だ。あの男の趣味に合わせて綺麗な黒髪を汚い赤で塗りつぶしてしまったのだ。私があなたの髪好きよって言ったことなんてきっと彼女は覚えていない。何だか腹が立ってきた。馬鹿な彼女は今、あの売れないバンドマンのことしか頭にない一緒に暮らしてる私のほうがずっと長い時間側にいるのに。友達なんてきっとそんなものよ。
あと一週間もすれば彼女はこの部屋を出て行くだろう。もしくは追い出されるか。

彼女がいつか、あんな男と付き合うんじゃなかったってギャーギャー言いながら私のところに帰ってきたら、その時は髪の色戻してって言ってみよう。揚々とあの男のことを語る彼女の話を聞き流しながら、心のなかでそう思った。

あかいろ

あかいろ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-12-05

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