お隣さん

1、猫と私

 チリン、チリン
鈴の音が聞こえて、私はゆっくりと玄関のドアを開ける。
「おかえりなさい。今日はどうでしたか?」
そう言いながら、毎日の散歩から帰ってきた一匹の猫を家の中に入れる。
この猫、スイは私の友達が捨てられていたところを見て拾ってきた。友達の家にはすでに1匹のおばあちゃん猫がいたため引き取れなかったので代わりに私が育てることになった。
スイは衰弱していて動物病院に連れて行った時には
「あと数分遅かったらきっとこの子は死んでいたでしょうね。本当によかったですねぇ。」
と言われるほど危険な状態だった。
引き取ったときはまだ薄汚れていて目も炎症を起こしていてしょぼしょぼだったけど、今では綺麗な黒縁模様で、目もぱっちりと開くようになり、綺麗な緑と青が混ざった色をしている。
部屋にはいったスイはいつも座っているクッションの上に乗り毛づくろいを始めた。
私はスイの隣でそれを眺めているのが一番好きな時間だからスイがやめるまで見守っていた。
 数分後にスイが毛づくろいを終えてクッションでウトウトし始めた時に、チャイムがなり男の人が訪ねてきた。
「すみません、急に。」
「いえいえ。」
訪ねてきた人は最近隣に引っ越してきたらしく、近所の人への挨拶だった。
(斉木さんかぁ…。ちょっとかっこよかったなぁ…。)
そんなことを思いながらスイのいる部屋に戻ると母がスイにご飯をやっているところだった。
「誰だった?」
「最近引っ越してきたえっと…斉木さんだったかな。これからよろしくお願いしますだって。」
「へぇ、そうなのね。今度挨拶にでも行こうかしらね。」
「ンニャー」
スイも気になるのかな。斉木さんいい人っぽかったからきっとスイもなつくだろう。
「そろそろご飯にしましょ。」
「うん!」
ご飯を食べ、スイと一緒に少しテレビを見たあと、私はぐっすりと寝た。


明日からの学校で今までの自分には考えられなかったことが起こることなんて思ってもみなかったように。

2.斉木さんと私

 「行ってきます。」
今日から3学期だったため、ちょっとワクワクしながら学校に向かう。
高校に入って初めての3学期は雪が降っていてすごくワクワクしていた。
「おーい!凜ちゃーん!」
私を呼ぶ声のするほうを見ると、中学からずっと一緒の結友ちゃんがいた。
「おはよう結友ちゃん。」
「おはよ~。今日は寒いねぇ。」
と、体を震わせながら結友ちゃんは言う。
私はカイロとマフラーと手袋とコートで完全に寒さ対策をしてきていたためそこまで寒いとは感じられなかったが、結友ちゃんを見ていると本当に寒そうだ。
冬休みの間お互いが何をしていたかを話しながら学校に向かっていると、結友ちゃんがふと思い出したように
「そういえば今日転校生くるって知ってた?」
といった。
「そうだったんだ!どんな人なんだろう。」
転校生…またワクワクすることがひとつ増えたな、とワクワクで胸がいっぱいになってきた頃、学校に着いて結友ちゃんとはクラスが違うためバイバイをして教室に入る。
「おはよ~凜。あんたほんっと寒がりね。モッコモコしてる。」
「おはよう和姫ちゃん。そんなにモコモコしてるかなぁ?」
「してるって。」
あはは。とえくぼを作って可愛く笑う和姫ちゃんはこのクラスで一番最初に出来た友達で、誰に対しても優しいいい子だ。
和姫ちゃんと宿題の確認をして、結友ちゃんから聞いた転校生の話をして盛り上がっていると、
「おーい。自分の席についてー。HR始めるわよー。」
大きな声で入ってきた先生が「はいって。」と誰かに入るように言った。
「今日からみんなと一緒に学んでいく斉木真耶くんよ。」
「今日からよろしくお願いします。」
…斉木…真耶。昨日挨拶に来ていた人だ。真耶というのか。
少しだけ目があった気がしてちょっとドキッとした。

 真耶くんはいろんな人に話しかけられていて女子の間でも噂されるくらいかっこいい人だ。
そんな真耶くんは私のことを覚えていたらしく、放課後私のところへと来た。
「昨日夜に挨拶行ってごめん。」
「いいよ。真耶くんもこの学校だったんだね。」
不思議なことにあまり男の人と話さないが真耶くんとは普通に話せるようだ。
「うん。でも平田さんと同じクラスになれてよかったよ。家も近いから今日からよろしく。」
「こちらこそ。何かあったら相談してね。」
「ありがと。ところで平田さんのとこは動物飼ってる?」
昨日来たときスイはいなかったはず…。なぜわかったのだろうか。
「うん。猫が一匹いるよ。」
「ほんと?今度会いたいな。俺動物大ッ好きなんだよね。特に猫!」
…真耶くんとはとっても気が合いそうな気がした。
「ほんと!?私も動物だいっすきなんだけど、その中でも猫いっちばん好きなの!だからスイを飼ってるんだぁ。」
「へぇ、スイっていうのか。ますます会いてぇ。」
「今度遊びにおいでよ。スイもきっと喜ぶよ。」
「じゃあ俺も猫飼ってるから連れて行ってもいい?」
「もちろん!楽しみ~。」
こうして次の休みにお互いの猫を見せ合うことになった。

 家について、隣の斉木さんが同じクラスに転校してきたこと、今度遊ぶことになったことを母とスイに話した。
スイもほかの猫に会うのが久しぶりらしく尻尾を振って楽しみにしているようだった。

お隣さん

お隣さん

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-12-04

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  1. 1、猫と私
  2. 2.斉木さんと私