柿の実色したT-bird

柿の実色したT-bird

ミカって娘

 クリーム・ソーダで乾杯してね。
イカレた友達とおさらばしたのさ、昨日の夜の事さ、俺もいい加減、疲れちゃってね。
あの子は外の車でずっと待ってたんだ。
俺の車かい?「サンダー・バード」62年型。
赤い、フル・オープンのヤツさ。
何だ、あんた知らないのかよ。
 あの子、ミカっていうのさ、ちょこんと座って待っててくれた。
髪はまっすぐに伸ばしたままさ、うん、まるで一本ずつ数えられそうに、揃えてたっけ。
俺?
その時はグリースで髪を後ろにまとめてた。ちょうど「ジェイムス・ディーン」のように。
仲間は笑うけど、結構似合ってた、本当さ。
まだ陽は西に残ってて、サンダー・バードのボンネットはいくらか暖かかった。
俺は一番海よりのバイパスを選んだんだ。
そう、時には波が道路を洗ってくれるっていうバイパスさ。
ソテツの林の間を走り抜け、南へ走った。
何にも目当てなんか無かったけどね、ただ走りたかっただけなんだ。
もう二十年も前のアメ車だろ、結構熱い視線浴びてそりゃあ気持ちよかった。
ミカはそんな事おかまい無しで、スースー寝息をたてていた。
きっと徹夜のゲームの疲れだろうな、俺だってそうだったんだ。
ゲームってのは、ダーツさ。
ミカはへたくそのくせに「俺に勝つまでやめないって」さ、結局それで徹夜だよ。
俺クラブに入ってたし、結構うまいんだ。
負け惜しみなんか言わないよ。
話し相手もいないし、俺はダッシュボードから、良く色づいたリンゴを取り出して、かじったのさ。
ジーンズで良く拭いてね。
姉貴は「薬とかがいっぱいついているから、良く洗いなさい」っていつも俺に怒っていたけどね。
一人じゃ食いきれなかったけど、ミカは眠ってるし、途中で外へ放り出した。
さすがに少し暗くなってきたんで、俺はサングラスを取り替えた。
お気に入りの「レイバン」さ。
そしてFMのラジオのスイッチを入れた。
懐かしいロックン・ロール、俺ストーンズ好きなんだ。
あの子はやっと目が覚めたみたい、目はつむっていたけどね、ちゃあんと膝でリズム取っていた、そうだなこんな感じ。
俺はサンダーバードのライトをつけ、やっとミカと口がきけた。
なんて言ったと思う?
「ミカ、コーヒー飲むか?」って。
無難なセリフだろ、あの子はこくりと頷いたんだ、そのうなずき方がイカしていた。

柿の実色したT-bird

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  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • サスペンス
  • 青年向け
更新日
登録日
2015-12-03

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