羊の女の子が語った話

大石秀宣

羊の女の子が語った話

 私は北の地に住む、羊の女の子です。私は太ってて、足が遅いから、いつも置いてけぼり。だからいつも、ひとり木陰で寝てばかりいました。

 或る日、目が覚めたらお日さまが出ていて鳥さんたちが歌っていました。ポカポカ暖かいので眠ってしまっていたようです。なんだかおばあちゃんの夢をみていたような気がしました。おばあちゃんは私が泣いているとき、いつも笑って歌ってくれたのです。
 ふと遠くを見ると、羊の女の子たちが、楽しそうに歌っていました。みんな綺麗で、なんだか惨めな気持ちになってしまいました。私はひとり木陰に隠れて歌うことにしました。
 それから、ひとりで気持ちよく歌っていると、突然後ろから声がしました。
「みんなで歌いましょうよ。お日さまの当たるところで歌うと気持ちいいわよ。」びっくりして振り向くと、美人の羊さんがいました。痩せていて、毛並みがとても綺麗なので人気者の羊さんでした。
「大丈夫、私はここが好きなの。」私はついついきつい言い方で答えてしまいました。すると、美人の羊さんは、
「分かったわ、邪魔してごめんなさいね。もし気が向いたら遊びにきてね。」とにこっと笑って、また他の女の子たちのところへ戻っていきました。
 美人の羊さんの後ろ姿を眺めながら、羨ましいなあと思いました。スタイルが良くて、ほっそりとしています。神様はどうしてこんなに不公平なのかしら。溜め息をついていると、なんだか辛い気持ちになって涙が出てきました。
 そしてひとりで泣いていると、あたりがだんだんとぼやけてきました。すると、うっすらと人影が見えたと思ったら、突然おばあちゃんが目の前に現れました。おばあちゃんはにっこり笑ってこう言いました。
「悪いところばかり見ないで、良いところだけを見るの。本当は、あなたも綺麗なのよ。」そして、おばあちゃんは私の頭をなでてくれました。
「ほら、もう泣かないの。」そう言うと、いつものように歌ってくれました。私は目を閉じておばあちゃんの歌に包まれていました。温かくて、お日さまも出ていました。とても心地よくて、だんだん意識が遠くなっていくようでした。

 或る日、気が付いたら、木陰で横になっていました。お日さまが出ていて気持ちがいいので、眠ってしまっていたようです。なんだかおばあちゃんの夢をみていたような気がしました。そうだ、私は歌を歌っていたのです。魅力的になりたくて、歌の練習をしていたのを思い出しました。
 ふと遠くを見ると羊の男の子たちが、かけっこをして遊んでました。その中に好きな男の子もいました。競争をしているようです。私は夢中に見入ってしまいました。ゴールまであと少し、みんな横並びです。「がんばれ!」私は心の中で応援しました。すると、ゴール前で一歩抜き出て、好きな男の子が勝ちました。私は嬉しくて嬉しくてたまりませんでした。
 喜びに浸っていると、好き男の子は息を切らせながら木陰にやってきました。
「疲れたあ!少し休憩。」と言って、私の近くに座り込みました。そして、好きな男の子は、私に気が付くと、
「いつもここで何してるの?」と、聞いてきました。私はドキドキして心臓の音が聞かれてしまうのではないかと心配しました。私はあまりに緊張していたので、
「お花を摘んでるだけ。」と、ついついそっけない言い方になってしまいました。そして、
「誰か好きな羊さんにあげるの?」と、笑顔で聞いてくるので、私は顔から火が出そうになりました。すると、
「おい、いくぞ!」と別の男の子たちに呼ばれて、好きな男の子は行ってしまいました。
 私は、はっと我に返りました。きっとこわばった顔をしていたに違いありません。もっと優しい言い方をすればよかった、ああすればよかった、こうすればよかったと後悔ばかりです。でも、きっと私なんか相手にされていないんだ。そう考えたら辛い気持ちになって、涙が出てきました。
 そしてひとりで溜め息をついていると、あたりがだんだんとぼやけてきました。すると、うっすらと人影が見えたと思ったら、おばあちゃんが目の前に現れました。おばあちゃんはにっこり笑ってこう言いました。
「過ぎたことはもう考えないの。また風が吹くまでじっと我慢するの。」そして、おばあちゃんは私の頭をなでてくれました。
「辛いときは笑うの。何も言わなくていいから、ただ笑うの。」そう言うと、いつものように歌ってくれました。私は目を閉じておばあちゃんの歌に包まれていました。温かくて、お日さまも出ていました。私も小さな声で歌いました。とても心地よくて、だんだん意識が遠くなっていくようでした。

 或る日、気が付いたら、木陰で横になっていました。お日さまが出ていて暖かいので、眠ってしまっていたようです。なんだかおばあちゃんの夢をみていたような気がしました。もうお日さまが傾きはじめていました。そうだ、お花を摘んでいるところだったのです。私には好きな羊の男の子がいました。渡す勇気はありませんが、お花を摘んでいるだけで幸せだったのです。
 やがて、なんだか騒がしいと思ったら、羊の男の子たちがこちらにやってきました。木陰で休憩するようです。私は男の子たちに話しかけられるのが苦手だったので、木の裏に隠れて、お花を摘むことにしました。すると、男の子たちの話し声が聞こえてきました。どうやら羊の女の子たちのうわさ話をしているようです。
「やっぱ痩せてるあの女の子が可愛いよなぁ。」
「俺は毛並みの綺麗なあの子がタイプだな。」
なんだかとても胸が痛くなる話でした。私は聞きたくなかったので、お花のことだけを考えるようにしました。でも、男の子たちの話がどうしても耳に入ってきて、とても嫌な気持ちになりました。そして、しばらくして、ようやく男の子たちはどこかへ行きました。
 私は、太っていて、毛並みも汚くて、いいところが何一つありません。みんないなくなってしまえばばいいのに。そう考えたら辛い気持ちになって涙が出てきました。
 そしてひとりで泣いていると、あたりがだんだんとぼやけてきました。すると、うっすらと人影が見えたと思ったら、おばあちゃんが目の前に現れました。おばあちゃんはにっこり笑ってこう言いました。
「本当の声って、とっても小さくて聞こえないものなのよ。だから、ちゃんと耳を澄ませるの。そうしたら、幸せな声だけが聞こえてくるのよ。」そして、おばあちゃんは私の頭をなでてくれました。
「我慢してればちゃんと風が吹くから大丈夫よ。」そう言うと、いつものように歌ってくれました。私は目を閉じておばあちゃんの歌に包まれていました。温かくて、お日さまも出ていました。私も泣くのを我慢して歌いました。とても心地よくて、だんだん意識が遠くなっていくようでした。

 或る日、気が付いたら、木陰で横になっていました。お日さまが出ていて気持ちがいいので、眠ってしまっていたようです。なんだかおばあちゃんの夢をみていたような気がしました。もうだいぶお日さまが傾いてきて、少し寒くなってきていました。もうそろそろお家に帰らないと。
 すると、向こうから誰かがやってきました。美人の羊さんです。痩せていて、毛並みが綺麗なので人気者の羊さんでした。
「こんにちは。邪魔してごめんなさい。ちょっとここで待ち合わせなの。」そう言って、にこっと笑いました。
「大丈夫よ。私もう帰るところだから。」そう言って、私もにこっと笑いました。
 すると、また向こうから誰かがやってきました。その姿を見ると、私は思わず木陰に隠れてしまいました。密かに好きな羊の男の子だったからです。どうしてふたりがここで会うんだろう。気が気ではありませんした。そして、好きな男の子は、
「突然、呼び出してしまって、ごめんね。」と、美人の羊さんに言いました。すると、美人の羊さんは、
「大丈夫よ。呼び出した用って何?」と、言いました。
 それから、二人はしばらく黙っていました。私は心臓が飛び出してしまうくらいドキドキしていました。
 そして、好きな男の子がようやく口を開きました、
「実は前から好きだったんだ。」と、美人の羊さんに言いました。すると、美人の羊さんは、
「え、本当?嬉しい!」と、手で顔をおさえて、言いました。
 私は走ってその場から逃げました。
何も考えずに走って走って、逃げました。
走りながら涙で顔がぐちゃぐちゃになっていました。
 すると、あたりがだんだんとぼやけてきました。そして、うっすらと家が見えたと思ったら、そこはおばあちゃんの家でした。
私は泣きながら、駆け込みました。そしておばあちゃんの胸に飛び込み泣きました。
「うえーん、うえーん!」
 おばあちゃんはにっこり笑ってこう言いました。
「全部受け容れちゃうの。」そして、おばあちゃんは頭をなでてくれました。
「おばあちゃんは悩みなんてないじゃん!」私は泣きながら叫びました。
おばあちゃんはしばらく黙っていました。そして、また穏やかに言いました。
「受け容れたことはもう目の前には現れなくなるのよ。そして清らかな風が吹くようになるの。」
「おばあちゃんの嘘つき!風なんて吹かないじゃん!」
私は泣きながら叫びました。
「うえーん、うえーん!」
泣きながらおばあちゃんの髪の毛をむしりました。
「うえーん、うえーん!」
これでもか、これでもかと日が暮れるまで、おばあちゃんの髪の毛をむしりました。
おばあちゃんはずっと目を閉じて、黙っていました。
そして、だんだん意識が遠くなっていきました。

 或る日、気が付いたら、木陰で横になっていました。お日さまが出ていて気持ちがいいので、眠ってしまっていたようです。なんだかおばあちゃんの夢をみていたような気がしました。
 辺りはもう夕暮れでした。もう帰らないと。空を見上げると、トンビとカラスが飛んでいました。よく見ると、トンビは傷だらけでした。カラスがいじめているのです。トンビは弱ってしまってヨロヨロでした。カラスの攻撃を一生懸命逃れようとしますが、とうとうトンビはくるくる回りながら地面に落ちてしまいました。そして、カラスが追ってきて、トンビの頭やお腹を、ぶすっ、ぶすっ、とつついていました。私はとても悲しい気持ちになって、涙が出てきました。
 そしてしゃがんで泣いていると、あたりがだんだんとぼやけてきて、私は懐かしいおばあちゃんの家にいました。すると、うっすらと人影が見えたと思ったら、そこには若い頃のお母さんがいました。お母さんは大きな声で泣いていました。その隣にはおばあちゃんが横になって死んでいました。
 私は外に飛び出しました。
「うえーん、うえーん!」
 泣きながら、走りました。
「うえーん、うえーん!」
 泣きながら、どこまでも走りました。
 涙で顔がぐちゃぐちゃになっても、構わずに走って走って走りました。
 そして、気が付いたら海まで来てしまっていました。
 はじめて見た海はとても穏やかでした。ふと空を見上げたら、おばあちゃんの笑った顔がぼんやりと浮かんでいました。私は泣きながら歌いました。おばあちゃんに届くように大きな声で歌いました。

 そして、だんだん意識が遠くなっていきました。

 或る日、気が付いたら、目から涙が溢れていました。どうやら眠っていたようです。なんだか長い長いおばあちゃんの夢をみていたような気がしました。
 うっすらと目を開けてみると、隣で旦那さんが「おはよう。」といってキスをしてくれました。
 お日さまがでていて、鳥さんたちが歌っていました。

羊の女の子が語った話

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ヨルニナルマデ

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