残響

残響


「もう朝か…」

声に出したのか心で思ったかもわからないほど頭が回らない。

布団に包まれていながらでもわかる外の寒さ。

「嫌だなぁ…」

と、口に出す。

この前まで蒸し暑い日々だったのにすっかり冬の色が強くなる。

このままだと準備を済ませて家を出ていつも通りの生活をする、夢を見ながら二度寝をしてしまうから、いかんいかんと自分を奮い立たせ外に出る。

「さむっ」

このままだとまた布団に戻ってしまうと思い、すぐに靴下を履く。

何故だろう、足を温めれば体が温まる気もする。

そのまま洗面所へ向かい顔を洗う。

温水のスイッチを入れればなんの苦労もなく顔を洗えるのだがそんなこと言っている暇はないのだ。

蛇口をひねる。顔を洗う。やはり冷たい。


母はいつも早起きだ。いつも決まった時間に起きなにかしらの準備をしている。

朝食をとり、再び洗面所へ向かい歯を磨く。

そして荷物を整えて学校へ向かう。


ドアを開けた、エレベーターを呼び下に降りる。

オートロックのドアを内側から出て息を吐く。

白い。

「おお」

思わず声がでる。もうこんな季節なのかと。


鼻から息を吸う。

冷たい空気が奥にあたる。

頭の中に酸素が行き渡る感覚に胸が高鳴る。

この感じだ、この感じが大好きだ。

さて今日の授業はなんだろうか、駅へと向かう。



学校が終わった、今日はなにもない日。

そのまま家に帰ってもいいのだが何故かもったいない気もする。

河川敷に行こう、ふと思った。

どうして河川敷なのかはわからないがそんな気分だったのだ。

家とは反対方向だがたまにはいいだろう。


河川敷は素晴らしい。
他では見れない、感じないことを僕に与えてくれる。


あの長い河川敷を見ていると自分が世界に溶け込んでいる気になる。

いまも溶け込んでないのかと聞かれたらそういうわけではないのだが。



河川敷についた。

階段を登り視界が開けて、夕焼けに照らされる川や対岸の高速道路、グラウンドを見る。


この景色が本当に好きだ。

僕は芝生に腰を下ろす。

イヤホンを片耳つけて、好きな音楽を流す。


この「4時半」が、永遠に続けばいいのに。そう思った。

遠くの方で野球をしている少年たちの声。

犬の散歩をする人。

スーパー帰りの自転車。

「みんな『生きてる』んだなあ…」

なんてことを考える。

「生きてる」ことについて考えると頭がおかしくなる。

自分は何者なのか、この世界とはなんなのか。

そもそも世界とはあるものなのか、何もないことが真なのではないか、


しばらく考え何を考えているのか意味がわからなくなって考えるのをやめる。


バットがボールを捉えた音が大きく響き、僕のもう片方の耳に残り続けている。

残響

残響

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-11-07

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