三題噺 ―2―

本文

あれは……いつだったか。
引っ越してすぐにお葬式があって、男手が必要
だと言われ、訳の分からないまま、ひたすらに
準備を手伝った日の……次の休日だったろうか。


秋晴れのいい天気だったと思う。
いつもなら休日は天気が良かろうが悪かろうが
書庫にこもって読書三昧の時間を過ごすのだが。
その日は何故だか無性に紅葉が見たいと、その
ために、ひさしぶりに外出してもいいかなどと
思ってしまったのだ。


一度これだと決めてしまえば、面倒くさがりな
自分とは思えないほど、てきぱきと計画を巡ら
せることができるのだが、我ながら変な性格だ
と思う。


さて。ここらへんで紅葉狩りができるところは
あったかとしばらく考えていると、手伝いの時
この近くに渓谷があるから行ってみるといいと
言われたことを思い出した。――あそこは紅葉
はもちろん綺麗だが、知る人ぞ知る珍しい滝が
あるとも。……まぁ、うろ覚えではあるのだが。


詳しい場所は思い出せないが、外は絶好の行楽
日和だ。たとえ見つからなくても、この周辺の
散策がてらの運動としてもいいのかもしれない。
……それに今はまだ早朝。誰もいないだろうし。


さっそく動きやすい服装に着替えて、靴を履く。
玄関を出ようとしたところで、ひとつ忘れ物を
していることに気づいた。


家の中に入り階段を上っていく。2階の部屋は
ダンボールの箱が、ところ狭しと置かれている。
そのひとつを開け、ごそごそとお目当てを探す。


ここらへんに入れたはずだが。……あぁ。これ。
――箱から取り出したのは、小さなカメラ。


幼い頃から写真を撮られるのが嫌で堪らないが、
風景を撮るのだけは好きだった。そんなカメラ
嫌いのカメラ好きでもある。ここに越してくる
前に在庫処分で――それでも値段は高かったが
売られていたのを奮発して買ったのだが、到着
当初のドタバタで、すっかり存在を忘れていた。


……おまえのことを思い出せて良かったよ。そう
呟きながら肩にかける。ちょっとばかり探すの
に時間を取られたと思いながらも、足早に道を
急いだ。


数分歩き回ったが、渓谷へと続く道は案外すぐ
に見つかった。さくさくと落ち葉を踏みながら
歩いていると、古ぼけた木の看板が目に入った。


その看板には、手書きで「うらみの滝は→」と
書いてあった。


……知る人ぞ知る、怨みの滝か。縁切り寺の滝
バージョンみたいなものだろうか?


丑の刻参りのような儀式をして、怨みを晴らす
のならば、人気がない今の時間は最適なのでは。
誰かに会ったら、まずい。いろんな意味で非常
に、よろしくない。


……どうしたものか。一瞬考えたが、もし誰か
いたとしても、見つからなければ大丈夫だろう。
それに……その儀式をこっそり見学できるかも。
そう思い、看板の指示通りに山の奥へと歩みを
進めていった。


今思えば、久しぶりの運動でかなり疲れて思考
が働いてなかったと思う。……まぁ、それでだ。
結果から言うと、滝には人がひとりいたんだ。


……そう。俺がさよさんと初めて出会ったのは
そのうらみの滝だったんだ。

三題噺 ―2―

これは、ASKノベルゲームメーカーでの60分企画【三題噺】で作成した物語です。今回のお題は「階段、谷、葬式」です。


今回は、時間配分を間違えたので中途半端なところで終わってしまいました。次回は、この物語の続きが書けたらいいのですが、はてさてお題は何になるのやら……。

三題噺 ―2―

三題噺の物語 これは、「―1―」より、少し前のお話。 ~作者より~ 三題噺の企画では続き物を書いていく予定です。 どこまで続けることができるかわかりませんが、 お付き合いのほどよろしくお願いします。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-11-06

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted