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小説ーbuu

とある高校の昼下がり、僕は友人の鹿野和馬〔しかのかずま〕に呼び出された。鹿野和馬。あだ名は馬鹿〔ウマシカ〕という。一見酷いようだが、彼は自他共に認めるバカである。特にひどいのが国語の成績で、それはもう会話が成立しないほどなのだが、まぁ、今はそんな事はどうでもいい。
問題は今日、その鹿野和馬に呼び出された時の事だ。鹿野和馬は明日からの家族旅行の間、ペットを預かって欲しいというのだが、何のペットかと聞くとどうにも言い淀むのだ。

「昨日までは猫だったんだけど」
まず言って昨日までという意味がわからない。それはペットが死んで新しいペットを飼ったという解釈でいいのだろうか。彼の場合は下手にこちらが質疑を挟むと情報が余計に混乱するのを僕は知っている。だから、僕は彼の話を黙って聞いた。
「えっとね……名前はブー。今も耳は猫なんだ」
しかし、今日の鹿野和馬の話は今までのそれとは一味違った。よほどに形容し難い事を説明しているのだろうか、いつもに輪をかけて話が見えない。
(またでたな。耳は猫?なら猫でいいんじゃないか?)
そんな疑問を持ちながら和馬の過去の会話を思い返すと、類似した様な言い回しはなくもなかった。そう言えば先日は教室で飼い猫の自慢をしていて
「にゃーにゃー鳴く可愛い猫なんだ」
などと言うから皆して呆れたものだし、そう考えれば別段不思議でもないのかもしれない。
「時々立って歩いて喋るのが面白いんだ。それでね、お風呂に一緒に入ると喜ぶんだよ」
僕はうんうんと相槌を打ちながらも混乱していた。立って歩くというのは掴まり立ちをする猫にも思えるし、喋るというのもただの鳴き声である可能性はこの鹿野和馬の言葉に限っては十分にあり得るのだが、同時に奇怪な想像も掻き立てられる。
(少し、落ち着こう。きっと自分の家に置くことで僕も平常で無くなっている。きっとそれだけなんだ)
一瞬脳裏に過った化け物さながらのブーの姿を頭からかき消して話を聞く。
「毛が随分減って今は胸と腰のあたりしか残ってないんだけど、それが妙にしっくりくるんだよね」
結論から言って僕は落ち着きを取り戻せずにいた。
(は!?毛が減る?もう高齢なのか?もしそうなら僕の家にいて何かあったら困るぞ!?それに残ってるのが胸と腰?)
僕も思春期の少年だ。そんな表現を聞いたらアニメにでる様な擬人化された女性のキャラクターの一人や二人は思い浮かんでしまう。
果たして、彼の家にはなにがいるんだろう。
「よく焼いた肉が好きでフォークを器用に……」
「家を出る時は言わないとどこまでも着いてこようとする……」
「家では一緒の布団に寝ているん……」
「物を壊したり、人に怪我させない様にはもう話してあって……」
「でも、尻尾を触ると危ないからそこだけは……」
……結局、僕は彼からブーを預かることを断ってしまった。聞けば聞くほどに好奇心と恐怖が増し、それでも最後には無難な反応が勝ったのだが、今になってそれを後悔する気持ちがあるのもまた事実だ。
屋上で一人、悶々としながら日のくれそうな校舎を眺める僕は思わず叫んだ。
「ブーって……ブーっていったいなんなんだぁー!!」
その問いかけは沈みかけた夕闇に呑まれる様にかき消され、とうとう答えは返って来なかった。

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  • 小説
  • 掌編
  • サスペンス
  • ミステリー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-11-06

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