スターダスト[小説編]

ある日の夜。
それはそれは星がきれいな日のことだ。
とはいえ、普段は東京に住む僕には空を眺める習慣などあるわけもない。
結局、それがいつもより良い風景なのかは知らない。
ただ僕の求めていた景色には相違なかった。


くそ田舎とあざ笑っていた祖父母の家に来ようと決めたのには、ちょっとした訳があった。
簡単にいうと逃げてきたのだ。都会の喧騒、慌ただしい日々、慣れない仕事……。
精一杯やっているつもりなのだ。しかし与えられるのは理不尽な罵声ばかり。やってられん。


星空を見上げて思う。
あの星の速度はどのくらいなのだろう。
どれだけかけて、こんなくそ田舎にたどり着いたのだろう。
煌々と輝く光、今にも息絶えそうな光。


ふと、思いついて、小学生の時に一度だけ使った望遠鏡セットを引っ張りだしてみる。
ついでに星座早見表も一緒に。
「えーと、あれがあれで、こっちがそれで…」
まるで夜空に描かれた答案用紙を採点するように、表と照らし合わせていく。
なんと懐かしいことか。童心に帰って次から次へと光の点滅をたどる。

……点滅?

よく見ると、どれも瞬いているのがわかる。

ああそうか、星だって光っぱなしじゃないのか。ちゃんとサボってんじゃん。
なんだか急に肩の荷がおりた気がした。


満天の空、その中でも一番くすんだ星に向かってつぶやいた。
「君には君のペースがあるんだね」
ずるくなんてないよ。
「それでも君は確かにここにいられるんだ。」
そう、休み休みでいいんだ。
そしたらその合間の一生懸命をきっと誰かが見てくれる。


結局僕は祖父母に挨拶をすると、そのまま最終の便で東京へ向かった。忙しない明日に想いを馳せながら。

スターダスト[小説編]

スターダスト[小説編]

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-10-25

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