《小説》交換日記 第1章 ハル 第4話

交換日記 第1章ハル 第4話

ハル 第4話

ハルの交換日記を読んで、和美の涙も頬をつたいノートに落ちていた。
「お願いです」
の文字が和美の涙でにじんでしまった。「ハルより」の文字もにじんでいた。それを見て、ハルの涙もこのノートに落ちていたことを知った和美だった。

交換日記を読み終わると、教室の窓から夕焼けが見えた。その夕焼けをハルも見ているだろうか?もし見ていたら、和美とハルは同じ「とき」を過ごしていることになる。和美は、見ていてほしいと心から思った。夕焼け空を二羽の鳥が横切って行った。

次の日の休み時間、教室で和美が子どもたちの宿題を見ていると、目の前にハルがいた。何を話すでもなく、ハルは笑顔だった。和美はペンを止め、
「ハルさん、交換日記ありがと。私読みましたよ。」
「はい。」
と、ハル。やっぱり笑顔のハルだった。
「お返事書きますからね。待っててくださいね。」
という和美の言葉に、やっぱり、
「はい。」
と、ハル。

そんな会話に気がついた何人かの女子が、和美の教卓に集まってきた。ハルが休み時間に誰かと話してるなんて、めったにないから。
「なになに?何話してるの~」
と、クラスの元気者のリンがはしゃぐと、雰囲気がパッと明るくなる。
「あら、みんなが集まってくれるなんて嬉しいわ」
和美も明るく返した。
「そうだ!なんかゲームしませんか?」
和美がさりげなく提案すると、ハルは「みんなの中のハル」になれた。ニコニコしながらみんなとの時間を楽しんでるハル。和美の提案にすぐにまた反応したのがリンだった。
「ゲームの名前はわからないけど、面白いのあるよ。一人がお題を出すのね。残りの人が答えるの。例えば何人かが同じ答えを言ったとするでしょ。その人数が一番多ければ勝ちなの。買った人たちだけ点数がもらえるの。分かった?」
みんなでやってみることにした。初めにお題を出すのは和美。
「じゃあね~?運動会といえば?」
ハルとリンとチエが自由帳に「玉入れ」と書き、サクラとヨーコが「鈴割りと」と書いた。
「じゃあ、オープン!」
和美がクイズの司会者みたいに言うと、みんなパラパラと笑った。みんな答えを見回して、ハルとリンとチエが、ハイタッチを交わしながら満面の笑み。
「やったね!」
と、声をかけあっているのを和美は笑顔で見ていた。そして、
「次のお題よ。行事がいいわね。じゃあ、みんなが好きなクリスマスといえば?」
みんな思い思いに答えを書いていった。みんな書き終わり、和美の合図を待っていた。
「オープン!」
それぞれ友達の答えを覗き込んで確認した。ハルとチエは「プレゼント」。リンは「サンタクロース」。サクラが「イルミネーション」。ヨーコが「ケーキ」。ハルとチエがまたまたハイタッチで喜ぶと、リンが顔をくしゃくしゃにして悔しがった。その顔が面白かったようで、和美も子どもたちも大笑い。その様子に気がついた他の子どもたちもたくさん集まってきた。
「何やってるの?」
と、興味津々。集まってきたみんなで同じゲームを楽しんで休み時間が終わった。

その日の夜、和美はハルとの交換日記の返事を書き始めた。今日の休み時間の様子を思い出しながら、ハルの質問にどう答えたらいいかを考えていた。「友達になると、いなくなる」というトラウマをハルに乗り越えさせるために、どんな言葉をかけてあげられるのだろう?和美は、ハルからの交換日記を読んだときから、ずっと考えていた。

ハルさんへ

今日の休み時間のゲーム、楽しかったですね。久しぶりだなぁって思いませんか?みんなであんなに大笑いしたのって。ハルさんが私の所に来てくれたおかげです。また遊びましょうね。
まずは、ハルさんのお願いに対する答えですが、私はいなくなりませんよ。安心してください。あなた方の担任ですもの。ずうっと一緒にいたいくらいです。でも、あなたたちは必ず巣立ちます。その時は、さよならのかわりに、
「行ってらっしゃい!」
と笑顔で伝えるつもり?です。なぜ「?」かって、もちろんお別れしたくないからです。笑顔作れるかなぁ?
次に、ハルさんの質問に対する答えです。ハルさん、友達は去ってしまったのではなく、遠くに行っただけです。それも、お友達の事情ではなく、お友達の家庭の事情です。ハルさんが離れたくなかったように、お友達だってハルさんと離れたくなかったに違いありません。ハルさんがいっぱい泣いたように、お友達だっていっぱい泣いたと思いますよ。同じ寂しさを分け合ったお友達なんですね。きっとお別れする前は、喜びとか楽しみも分け合ったのでしょう。
ハルさん、あなたがお友達を好きでいることが何より尊いのではないでしょうか?もちろん、ずうっと一緒にいられたら、それはそれで幸せです。でも、ハルさん、離れたってそのお友達のことは忘れられないでしょ?その「忘れないこと」が何よりの「友達の証」なんだと思うのです。その「友達の証」をたくさん持つ人に私はなりたい。そう思いませんか?
だとすると、大事なのは「つながること」です。あなたが大切な人とつながることです。
「手と手」で繋がることです。温もりを大事にしましょ。
「目と目」で繋がることです。優しいあなたの眼差しで心が温かくなります。私もクラスのお友達も。
もしも、これから別れがあったとしても、「友達の証」さえあれば、遠く離れたってあなた方は繋がっています。繋がってさえいれば、喜びも悲しみも分け合えます。きっと。

ハルさん、学校はつながることを学ぶところです。勇気をもってつながりましょ。私も、いつかやって来る別れの日に、向き合う勇気をもとうと思います。きっと泣いてしまうけど。でも、私は大切なあなた方と繋がりたいの。だって、あなた方は私の人生の大切な「宝物」ですから。

ハルさん、本当のことを私に打ち明けてくれてありがとう。交換日記のあなたの涙を私は忘れません。これからも交換日記を楽しみにしていますよ。また、私と空を見に行ってくれますか?ふわふわ雲を探しに行きましょ。

先生より


書き終えた和美は、鉛筆を置き、つぶやいたのだった。
「ハルに会いたい!」

つづく

《小説》交換日記 第1章 ハル 第4話

《小説》交換日記 第1章 ハル 第4話

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-10-22

Copyrighted
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