《小説》交換日記 第1章 ハル 第3話


ハルさんへ
お友だちになってくれてありがと。
最初の質問です。あなたはなぜ、一人でいますか?


和美からの交換日記を見て、ハルは校外学習のときの和美の言葉を思い出していた。

「私と友達になってくれませんか?」

先生と友達になるってどういうこと?

ハルは、和美から今まで考えてもみなかったことを言われて、思わず「はい」と答えたものの、

明日から先生とどんな風に話せばいいのかなぁ?
なんだかドキドキするような?
早く先生に会いたいような?

和美が書いた交換日記を見ながら、ハルは明日からの自分を想像してみた。友だちなんだから、休み時間は一緒に過ごすのが普通?というか、自然だと思った。
ハルは今まで、いや、しばらく学校では一人で過ごしていたのだ。自分の席に座って、クラスの友だちの楽しそうな様子を見るのが好きだった。その友だちと一緒に話している自分を想像すると、幸せな気持ちになれるからだ。それだけで十分だった。
それだけでいいのには理由があった。和美は、その理由をハルに質問したのである。ハルは、それを今まで誰にも話したことがない。話せないのである。話すということは、友達になるということだから。

ハルは鉛筆をにぎった。友達になってくれた先生を失いたくない。ても、書かなければならない。むしろ、先生に打ち明けてみよう。自分の不安を。ずっと誰かに聞いてもらいたかった。誰かに聞いてもらって、それで、それで。

それで?
どうなるんだろう?
先生まで?

でも、ハルは先生に打ち明けようと思った。髪を撫でる風のような和美の声が、ハルの何かを変えていたのだ。心の窓が微かに開いたから。


先生
交換日記、嬉しいです。
先生、今まで誰にも聞いてもらえなかったこと、いざ聞かれると、胸の音が誰かに聞こえてるんじゃないかって思うほどドキドキしました。

先生、私怖いんです。私が好きになった友だちは、みんないなくなっちゃったんです。
幼稚園のときにこの町に引っ越してきて、仲良くなったマリちゃんは2週間で遠くへ行ってしまいました。
1年生のときのに仲良しになったトモくんも、ひと月で引っ越してしまいました。
2年生のとき毎朝一緒に学校に通っていたリサちゃんは今アメリカにいます。
3年生でも、4年生でも、やっぱり仲良くなった友だちはみんないなくなってしまいました。
仲良くなると、友だちはみんな私の前からいなくなってしまうんです。幼稚園のときも、小学校に入ってからも、私たくさん泣きました。大好きな友だちと別れるのは辛いから。ずっと一緒に居られると思ってたのに。
先生
先生と友だちになったら、先生もいなくなっちゃうのかなぁ?そんなの嫌です。
私怖いんです。友だちと親しくなると別れがやってくるから。別れは辛いから。だから私は一人でいることに決めました。一人でいれば別れはやって来ないから。

先生、教えてください。
どうして友だちは、私の前からいなくなってしまうのですか?
どうすれば別れなくてすみますか?

先生、お願いです。
先生はいなくならないでください。

ハルより


書き終えたハルは、こんなにも正直に、先生に打ちあけられたことに驚いていた。頬をつたう温かな雫が交換日記の上に落ちた。手でぬぐったら、名前の文字がにじんでしまった。それをハルは書き直そうとはしなかった。その名前のにじみにも、先生は気づいてくれると思ったからだ。気づいて欲しかった。先生なら、自分の全部を受け止めてくれると思った。

「先生に会いたい!」

「明日の休み時間は先生の近くにいってみよう」と決めた。何が話せるかわからないけど、友だちになったんだから大丈夫だと思った。そう思ったら、早く明日になってほしいと、ドキドキがワクワクに変わった。また、胸の音が聞こえてしまいそう。

「先生に会いたい!」

窓の外を見ると三日月が見えた。これから満月になろうとしている月を見れたのが、何だか嬉しかった。

「あとどれだけ待てば満月になるんだろう?」

ハルは笑顔だった。

《小説》交換日記 第1章 ハル 第3話

《小説》交換日記 第1章 ハル 第3話

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-10-22

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted