《小説》交換日記 第1章 ハル 第2話

《小説》交換日記 第1章 ハル 第2話

ハル 第2話

ハルは今日も自分の席に座っていた。

教室では、おとなし目の女子たちがおしゃべりしてたり、お絵描きしてたり、また、1人で読書してる子もいたり。

だから、別にハルだけが教室で静かにしてるわけではない。ただ、他の子と違うのは、ハルは座っていても、友達の中にいるのだ。
誰かが楽しそうに話していれば、その友だちの方を見て一緒ににっこりしてるのだ。誰かが楽しそうにお絵描きしてるのを見て、やっぱりにっこり笑っているのだ。

ハルは、友だちが楽しそうにしてるのを見ると、幸せな気持ちになるみたい。
そのことに気づき始めた和美は、なぜハルは友だちの側に来ないのだろうと思うのだ。

校外学習で市内の科学館へ行くことに。自由見学のあと、楽しみにしていたお弁当の時間。和美はハルを探していた。科学館の前の広い芝生の公園の隅にハルはいた。友だちは遊具の近くにシートを引き、食べた後に遊ぶのでしょう。準備万端!

ハルはサンドイッチをほう張りながら、空と空気を感じていた。空には、ハルの大好きなふんわり雲が気持ちよさそうに浮かんでいた。
和美は、ハルと一緒に空を見たくなった。
「ハルさん、どの雲が好き?」
ドキッとしたハルは、こんなにも近くに和美が来ていたことを、声をかけられるまで気づかなかった。どの雲が好き?と聞いた和美の声が、ハルには髪を撫でる心地よい風のように感じた。
「あの、少し離れて浮かんでる雲…」
と、すんなり言葉が出てきたことに、ハル自身が一番驚いていた。と同時に、和美ともっと話したくなっていた。ハルの心の窓が微かに開いたみたい。

「私はあれだなぁ。その隣りの、ほら、うろこみたいに沢山並んでるの。にぎやかで好きだなぁ。」
ハルは和美の目を見つめていた。和美の目は笑っていた。そして、
「私も…」
と、ハル。今度は和美がハルの目を見つめた。ハルの目は澄んでいた。透き通っていた。和美はそれが嬉しかった。私はこの子のために教師になったんだと。
「ハルさん、私とお友だちになってくれませんか?」
和美の言葉が、ハルの心の窓の隙間からスゥッと入り込んできた。やっぱり、さっきの心地よい風のように。自分のどこかが透明になってしまいそう。
「お友だちはね、なに言ってもいいのよ。なんでも言うの。それが私にとっての本当の友だちなの。遠慮しなくていいの。だから、本当のことしか話さないの。こういうの素敵だと思いませんか?」
一息に言った。ハルの透明なところに和美が入り込んだ。ハルと和美は「二人ぼっち」になれた。
「はい」
と言うハルの返事は、どっちの答えだったのか。友だちになること?
それとも素敵だということ?
和美の中ではどっちでもよかった。
「交換日記しよ!」
と、片目をつぶって見せた。ハルの頬が夕焼けの色になっていた。まだお昼なのに。

次の日、早速、和美はハルに交換日記を渡した。たった2行の文章だけを書いて。

ハルさんへ
お友だちになってくれてありがと。最初の質問です。あなたはなぜ、一人でいますか?


つづく

《小説》交換日記 第1章 ハル 第2話

《小説》交換日記 第1章 ハル 第2話

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-10-22

Copyrighted
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