《小説》交換日記 プロローグ

私が中学生の時、担任になった若い先生が毎日交換日記をしてくれていた。すべての生徒が喜んでいたわけではないが、少なくとも私は担任の返事を見るのが楽しみだった。
悩みを書けばアドバイスを書いてくれて励まされた。嬉しかったことを書けば、一緒に喜んでくれた。悩める少年にとって、たったこれだけのことが心の支えになるのだということを私は身をもって体験している。
また、容易に悩みを伝えられるわけでもないことも私は経験で知っている。内に秘めた悩みに気づいてくれる、気づこうとしてくれる先生がいてくれたら…。そんな風に「待つ」しかない辛さ。そういう経験をした私にしか書けない話があるのでは。そんな思い上がった私ですが、下手くそな文章を誰かに読んでもらいたくなり、投稿することにしました。もしよかったら感想など寄せて頂けたら幸いです。

プロローグ

〈プロローグ〉

和美は、今日もクラスの子どもたちとの交換日記を読んでいた。子どもたちの日記には、誰それと上手くいかないだとか、目標にしていたものをクリヤーできただとか、お休みにはどこにいたのかとか、先生に質問だとか…。ときには笑い、ときには眉間にしわを寄せて読み、ときには子どもの発想力に感動したりする。子どもたちが下校してから、和美にとって一番楽しみな時間は、交換日記を読む時間なのであった。

和美が小学校の教師になりたいと思ったのは、小学校5年生の時。ちょうど転校した先の担任の先生も、その年に赴任したばかりの新米教師だった。見た目はかなり頼りなさげで、正直言ってヤバ目。母親も心配するくらいのビジュアルだった。
「よろしく。先生も今日が初めてなんですよ。」

しかし、その先生といると不思議と和んでくる。別に、特別に笑顔が素敵だとか、話が面白いとか、そんなのは無い。
「なんだろう?この感じ?」
一つだけ気づいたことがある。大人と子どもなのに、ずっと歩幅が同じだった。それに気付けるのは、和美がいつもうつむき下を見て歩く癖があるからかもしれない。

和美は、転校初日の緊張をいつの間にか忘れていた。人見知りの強い彼女にとって、この担任との出会いはありがたかった。なぜなら、笑えたから。転校生は第一印象が全てだから。教室に向かう廊下の窓からチラッと空を見上げたら、綿菓子みたいな雲が浮かんだ呑気な空だった。心もふっと軽くなったりして。

教室に着くと、クラスは新米の先生ということで、大盛り上がり。みんな嬉しそう。そういう雰囲気の中にいると、和美が転校生だってことも忘れられてしまいそうだったけど、新米先生はちゃんと和美をクラスのみんなに紹介してくれた。
「和美さんも早く『みんな』になれるといいね。」
それは和美に言われたのか?
それともみんなに言ったのか?
「なれる」なのか、「慣れる」なのか?
和美は自分に言われたんだったら、「みんな」って何かいいなって思った。
「『みんな』になるかぁ。」
もう一度、心の中で言ってみた。

新米先生との想い出話は、いい話ばかりではなく、どちらかというとかわいそうな思い出の方が多かった。初めは珍しく、ちやほやしていたが、そういうのは長くは続かない。トラブルと反抗の連続。はっきり言って、崩壊に近かった。だって新米だもの。
ただ、和美にとって、自分の人生を方向づけてくれたものは、自分と同じ歩幅で歩いてくれた先生と、教室で自分を紹介してくれたあの言葉だった。
「みんなになる!」

それが、和美が小学校の教師になって実践したいことの一つなのだ。

つづく
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《小説》交換日記 プロローグ

《小説》交換日記 プロローグ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-10-21

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