あおぞら

初めての小説です。ある少年と少女の物語です。甘酸っぱく、ふわっとなくなるマシュマロのような感覚で作成しました。読んでいただけると嬉しいです。

私の話

「ねぇ、君の夢は?」
百田は言った。私はそこに立ち止まったまま、何も言えなかった。
「夢について最近考えてみたんだ。そしたらね、世界を平和にすることが夢だと思った。」
百田は躊躇なく言い放った。ある日の午後のこと。その日は、学園祭だった。私と百田は買い出しに出かけていた。
 百田はそれから、止まることなく話し続けた。世界を平和にするために自分が何をしようと考えているか、そして何をしてはいけないかということ。時折その表情が、悲しげに見えた気がした。暑さの少し残る、とんぼが飛び交う季節。高校二年生の秋。百田に教えてもらったことは私にとって貴重なものとなった。そして、それは最後の思い出になった。なぜなら、私と百田が「夢」について話した日の翌日、百田は死んだ。あっさりと。世界を平和にすることもなく。
 私の母は看護師で、私も漠然と看護師になろうと考えていた。それは特に理由があるわけでもない。イメージが良くて、稼げる仕事が他に思いつかなかったし、それ以上に魅力的な仕事が思いつかなかったからだ。だから「夢」なんて考えたことはなかった。ただ漫然と日々を過ごしていたし、だからと言って今の生活が嫌いでもなく、好きでもない。そんな感じだった。
 私と百田が初めて話したのは、「夢」の話をしたほんの数か月前、1学期の期末テストの頃だった。私の前の席へ移動した百田が、私にプリントを配るときだった。
「はい、これあげる。」
それはお菓子についている小さなおもちゃだった。
「あ、ありがとう。」
私は、なぜ百田がそのおもちゃをくれたのか今だに分からないのだが、その丸くて黄色いキャラクターが元々好きだったため、特に遠慮することもなく受け取った。きっと、自分の欲しいおもちゃが出なかったのだろうと思った。
 その頃の私は、やる気があるわけでもなく、かといってそれを気づかれるのは嫌なので、まじめを装うという変な生活を送っていた。それに反して、百田はどちらかというと率先して活動するタイプであったし、成績も良かった。だから、おもちゃをもらった私は、少しうれしい気持ちになっていた。それまで気にしていなかったが、少し知りたいなと思った。
 私はいつも通学の電車で本を読んでいるのだが、いつも乗っている電車に同じように本を読んでいる人がいて、それが百田だと気付いたのはしばらくしてからであった。私が気付いたのとほぼ同時ぐらいに百田も気づいた。しかし、百田は別のクラスメイトに話しかけられ、電車を降りて行った。私も、いつも駅で待ち合わせている悦子と学校へ向かった。悦子はボーイフレンドがおり、それは別クラスなのだが、そのボーイフレンドの話を聞きながら、毎朝通っていた。今まで百田と話さなかったのは、今年初めて同じクラスになったことも関係すると思うし、それまでは席もだいぶ離れていたこともあると思う。
電車で初めて声をかけられたのは、おもちゃをもらった次の日だった。その日は珍しく、一本早い電車に乗れたので広い座席を優雅につかって座っていると「おはよう。」と後ろから声をかけられた。ちょうど私の読んでいるミステリー小説が佳境にさしかかっていたときであった。そのため、反応しようか迷ったが、近くに座っているのが私だけであったため、きっとこの声は私を知っている誰かなのだろうと思い、顔を上げるとそこに百田がいた。「おはよう。」
 話しかけたのは百田なのに、それ以上に話してこないため、私から沈黙を破った。
「こないだのおもちゃありがとう。私あのキャラクター好きなんだ。」
「そうなんだ。ちょうどよかった。」
 それから、とりとめのない話を二人でするようになり、悦子もボーイフレンドと通学するようになったことから、一本早いその電車に私も百田も乗るようになった。本を読む代わりに、百田は色んな話をしてくれた。百田の家の話、百田が留学していた時の話、百田が剣道を始めたときの話。そのどれもがおもしろく、興味深いものだった。それまで、漫然と過ごしていた日々が楽しくなってきた。
 通学を一緒にするようになり、百田と話す機会は学校内でも増えた。
そして、文化祭当日になった。
「ねぇ、一緒に買い出し行かない?」
百田に声をかけられた。百田は調理担当で、私はチラシ配りをしていたのだが、始まってからしばらく経過し、少し暇をしていたため一緒に買い出しに行くことにした。
 「うわ、これもう売り切れてるよー。」
百田が見ている方向を見ると、私にくれたおもちゃ入りのお菓子が並んでいた棚であった。
「百田がこのおもちゃを集めているなんて、意外だね。どれが欲しいの?」
「いや、どれが欲しいとかじゃないんだ。」
一緒に学校へ帰る道の途中で、百田は「夢」の話をした。
 「世界を平和にするには、誰でも通らないといけない道がある。それは、非難を受け入れること。」
「非難を受け入れること?」
「非難を受けるということは、自分の意見を持っているということ。自分の意見を持つとその意見に非難を浴びせる人はどうしてもいるんだよ。まずは、非難の声をきちんと聞くことが大切なんだ。決して非難の声に応戦してはいけない。」
「それって、平和と関係あるの?」
「戦争はなんで起こるんだと思う?」
「なんでだろう。」
「それは、人が人を非難して、その非難を受け入れられないからなんだよ。」
「なるほど。」
「それと、もうひとつ。大切な人がいるということ。」
「大切な人?」
「そう。大切な人がいてその人に大切にされている。それだけで、人は優しくなれるんだ。」
「百田はすごいね。そんなこと考えたこともなかった。」
「今日は話せてよかった。誰かに話したくってうずうずしていたんだ。聞いてくれてありがとう。」
 それから、またいつもの日常に戻っていった。百田が死んだこと以外は。
 私の人生は、百田と出会うことで輝きを持ち始めていた。そのため、百田が突然いなくなったことは当時の私には暗闇に放り込まれたようであった。
 そんな私を見かねて、母が百田の留学していたオーストラリアのシドニーへ連れて行ってくれた。
シドニーはとても魅力的なまちだった。人々は楽しげであり、とても陽気で、力強くも見えた。くよくよ悩んでいる暇はない。人生は一度しかないのだよ。そう言われている気がした。憂鬱に私の中でうごめいていた正体不明の疑問が解決した気がした。なるほど、誰も私を救ってはくれないのだな。自分で、自分を救わないと。
久しぶりに息を吸った。目を閉じ、音を聞いた。ただそばにいて、心を満たしてくれる、そんな存在になりたい。あなたがいるだけで私は救われる、そんな人になりたいと思った。
ありがとう、百田。

あおぞら

登場人物の少なさや曖昧な部分が多く、わかりにくかったと思いますが、最後まで読んでいただきありがとうございました。人生は一度きりですが、自分の中での転換期は何度も起こると思っています。転換期に出会った後、それをプラスにとらえられるように夢を忘れず、前向きに生きていきたいと思います。

あおぞら

ある少年が語り始めた『夢』。 『夢』を持った少年と、同級生の私が過ごした日々の物語です。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 恋愛
  • 青年向け
更新日
登録日
2015-10-21

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