色んな青春。

青春って、色んな形がありますね。

 制服を受け取ってから、家で試しに着て以来。春と言っても肌寒く、着るのは冬服。
 そんな、新品の制服を着て、私は本日晴れて高校生になった。
 願書の提出から合格発表までの間に何度か訪れたこの場所に、これから三年間通うのかと思うと、楽しみと不安が混じり合って、胸の奥が変な感じがする。
 自転車を所定の位置に停めて、教室に向かう。
 この高校は、良くも悪くも普通で地味な高校だけど、憧れの人へ会うために私は入学した。
 その人は、私の兄の同級生で、イケメンではないけれど、背が高くて、手が大きくて、地味なことが特技なんだと笑っていて、そして優しかった。
 本気で悩む私を慰めてくれて、勇気をくれて、何度も助けてくれたその人に近付きたくて、この高校に入学した。もちろん、他にも理由がちゃんとあるけれど、親には、そっちの理由を話したけれど、私の第一の志望動機は、その人と同じ公社にいたい、叶うなら同じ教室にいたい、それだけだ。

 教室から、入学式のため移動する。
「ねぇねぇ、里見さん。」
 担任に指示されたとおりに、二列に並んで歩いていると、隣の子に話しかけられた。確か名前は・・・。
「福本さん?」
「うん、夏乃。福本夏乃。よろしくね。」
「私は、里見愛子。こちらこそよろしく。」
「気軽に名前で呼んでっ」
 夏乃は、私の肩の位置に頭のてっぺんがある小さな子で、下から向けられる笑顔が可愛らしかった。
「愛子は、部活決めてる?」
「ううん、まだ。でも何かしら入ろうと思ってる。夏乃は?」
 私としては、あの人がいる部活に入部したいところだけれども、これは他の人に話すようなことではない。私の胸の中に秘めておくべきことだ。
「私はね、バレーだよ!」
「バレーって、バレーボール?」
「あっ、この身長でって思った?でも、ずっと続けてるし、バレー、好きなんだっ」
 夏乃がいつからバレーボールをしているかは知らないけれど、こんな良い笑顔をする子がコートにいたら、元気が出るな、と思った。
 私たちは、体育館に着くまでずっと話をしていた。気付いたら、高校生活最初の友達が出来ていた。

 入学式中は、ちょっとだけ緊張したけれど、新入生代表の子の挨拶がある頃には、何で緊張していたんだろうと思った。
 そして思い出したけれど、私はこういう式はあまり好きではなかったことを思い出した。オトナたちの話は、格式ばっていて、つまらなかった。
 せめて、寝ないようにしようと思い、憧れの人との高校生活を妄想して暇を潰していた。
「篠崎正俊先生は、県立桜崎高等学校に転任されました。」
 ハッとしてマイクの前に立つ知らないオトナを見る。見るというより、凝視する。
 いま、なんと・・・?
 篠崎正俊とは、私の憧れのその人ではないか。
 その人が、転任?
 私の憧れの人は、この高校に、いない?
 その後、どうにか周りの同級生と一緒に、立ったりお辞儀したり座ったりし、気付いたら教室に戻っていた。
 あぁ、私の第一の志望動機が・・・。

「よくそんな理由で、高校決めたよねぇ。何回聞いても笑えるし、その後のアンタ凄すぎるでしょっ」
 自分のひざをばしばしと叩きながら、夏乃は笑っている。いつ見ても元気が出る笑顔だった。
「そんな笑わないでよっ!!夏乃だって、凄い人しっ!」
 夏乃のほうが凄いと思う。
 夏乃に会った時は知らなかったけれど、夏乃は4歳の頃からバレーを始め、身長は伸びなかったけれどその代わり、リベロとして大活躍した。大活躍どころではなかった。夏乃は、小学校の頃から日本代表だったのだ。
 何が、アンタ凄すぎるでしょっ、よ。アンタが凄かったから、私は頑張れたのよ。
「あっ!始まる!!」
「ホントだ!!音量上げて!」
 テレビ画面では、女子バレーボールのオリンピックの中継が始まった。
「でも、まさかさ、こんなことになるとは思わなかったよねぇ。」
「本当よね。愛子が好きな人への思いをバレーに向けて、バレーは高校スタートなのに選抜に選ばれるし、日本代表になっちゃうし、しかも最終的に、その人と結婚してるし。」
「それは っ!たまたまよ!からかわないで。にしても、正直な話、私は夏乃がいたからバレー続けられたし、あの人とも結婚出来たと思ってるのよ。」
「何よ突然。私だって、愛子の言葉で何度も立ち上がれたわ。あら、やだわ。これだから歳はとりたくないわね。」
夏乃が目元を押さえる。それは、私も。
「あっ!良かったぁ。まだ始まってなかったぁ。って、ばぁば、泣いてるの?大丈夫?」
私と夏乃が、二人して目元を押さえていると、リビングの扉と可愛らしい声が聞こえる。
「おかえり、ゆぅちゃん。大丈夫よ。おばあちゃんたちは、何でもなくても泣いちゃうのよ。」
「そうなんだ。あ、夏おばちゃん、こんばんは。」
「はい由里ちゃん、こんばんは。」
由里は、早足で自分の部屋に荷物を置きに行き、戻ってきた時は部屋着になっていた。
「それにしてもさぁ、ばぁば達凄いよねぇ。お互いの孫が一緒に日本代表なんだもん。」
そう、私たちは、一緒に日本代表としてコートに立ち続け、私は引退してからあの人と結婚し、夏乃は引退後もバレー界に残り、若手選手の育成に尽力して、結婚後もしばらくはそのまま残り続けた。
そして、私たちの孫たちは今、あの頃の私たちのように日本代表として、あの夢のようなコート上にいる。
「でも、まさか、うちの信助が絵理ちゃんに選んでもらうと思わなかったわぁ。絵理ちゃん、可愛らしいしモテモテだったし。」
「それは、こっちこそよ。絵理は昔から信助くんの事好きだったみたいよ。」
と、そこで試合開始の笛がなる。こうなると、もうお喋りの時間はおしまい。
『さぁ、始まりました。今大会、好成績を残してる双子の明穂、紗香コンビは今日はどんなパフォーマンスを見せてくれるのか注目です!』
実況の声が私たちの自慢の孫たちを紹介する。
私たちの青春は、最高のカタチで受け継がれている。

色んな青春。

色んな青春。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-10-18

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