窓の外

「いつかその日がくればいいわね。」 
 彼女は窓の外に目をむけて言った。
「だってあなたは努力しているもの。いつか叶うわ。」
 彼女の発する音は、言葉と呼ぶにはあまりにも薄っぺらだ。
しかしどこか、人を惹きつける響きであった。
「努力…か。」
 吹けば消えそうな声でつぶやいた。
 短い溜息とともにこぼれた単語へ、彼は思いをめぐらす。
 特段怠惰であったつもりはないが、何かに懸命であったわけでもない。
およそ努力とは無縁の人間だろう。
「そうでしょう。だってあなた、真面目じゃない。」
 彼女の視線は相変わらず窓の外。
 まるで枯木に宿るサナギが孵るのを眺めるかのように動かない。
「真面目…か。」
 かすれた声でつぶやく。
 またしても自分に似合わない単語だ、と彼は思う。
 寡黙で融通が利かないのは承知している。
 だが、それを真面目ととらえるのはいかがなものか。
 彼女に見える景色が自分と違うのならば、それに触れてみたい。
 しかし、彼が見たのは窓の外の枯木ではなく、窓に映る歪んだ彼自身だった。

窓の外

窓の外

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-10-12

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