観戦記

中学生3年の夏

「将棋なんて親父の趣味」。なんてイメージはちょっと時代錯誤。今、様変わりしていると思います。【今、県内各支部の役員が子ども達に期待をしており、熱心に接している。昔は年寄りが縁側で将棋をしているイメージから、学業の一部としてやっている】
 8月2日に毎夏恒例の小中学生を対象とした福島民友新聞社杯が開催されました。今年の「中学生の部」の参加者は6名。決勝戦で対戦する齋藤貴志君と私は、4月のアマ名人戦で対戦しており、その時は齋藤君にあっさりと負かされていました。今回はリベンジをします。
 齋藤君は、小林隆仁君と松本悠希君に勝って決勝進出。私は橋本皇聖君と松本悠希君、小林隆仁君に勝って決勝進出を果たしました。
 齋藤君は、小1の時に将棋を覚えて、小3で松井さつきさんの道場へ通い始めたそうです。得意戦法は横歩取り、角換わりとの事。私は小3で将棋を覚え、【その年の秋に父が申し込んだ「全会津子供将棋大会」に参加をし優勝をしました。本格的に将棋を覚えるために、】秋山仁志先生の子ども将棋教室へ通い、小4には会津王将会支部へ入会しました。
 さて本題に移りましょうか。初手はなんとびっくりの▲6八銀。後手は普通に△8四歩と突いてきます。そして次の一手が、なんと驚きの▲7九角。これには齋藤君も2分長考していました。皆さんこの戦法何だか分かりますか?▲7九角の狙いとは。

嬉野流

嬉野流

 皆さんは嬉野流と呼ばれる戦法をご存知ですか?初手▲6八銀、二手目▲7九角と引いた形が嬉野流という戦法の出だしなのです。僕は初めてこの戦法を見た時は、ふざけた戦法だなと思いました。
 嬉野流とは、アマチュアの嬉野宏明さんが考えた戦型に天野貴元さんの研究を付け加えた戦法です。
 本譜は第一譜の途中図の辺りから、後手は矢倉模様になりました。指始図の▲6九玉では、▲3六歩、△2二銀、▲3五歩、△同歩、▲同銀、△6四角、▲5五歩、△同歩、▲2四歩、△同歩、▲2三歩、△同銀、▲2四銀の変化もありました。
 指了図では私が2歩得しているものの、△4四歩に対して▲5七銀上がるとしてしまったことで、持久戦模様となってしまいました。手順で行けば▲3六歩と突くべきでした。嬉野流は急戦調なので、持久戦に持ち込まれると苦しくなる事もあるのです。

曼珠沙華

本譜は3筋と5筋で歩を交換した後、持久戦へと持ち込まれました。
第3図の△9三香〜△9二飛車は△9六歩、または△8五桂の端を狙うのが目的です。私は先攻されると勝率が良くないので、▲4五銀から先に仕掛けることにしました。斎藤君の攻め駒は飛、香、桂と揃っています。問題はこの△9二飛をどう捌くかなのです。私の▲4五銀に戦力はありませんが、相手の出鼻を崩すことが出来ました。
 指了図は、攻めと守りの銀を交換したので、私の方が良いはずです。この日の私は、優勝する事しか頭になく、とにかくガンガンと攻めていました。正にこの将棋もそれを物語っているようでした。
斎藤君は、この時点で、僕より5分くらい時間を使っていましたが、表情一つ変えることなく、力強い駒音を立て指していました。ですが所詮は卵で石を脅かすような物。私の精神力は崩れません。
 昨年、私はこの大会で予選落ちをしています。今大会の私は気持ちに迷いがなく、豁然大悟でさらに捲土重来を心に秘め大会に挑んだ次第です。
 駆引きの続く中盤戦。吉凶のそれぞれ2つの意味を持つ曼珠沙華(彼岸花)は、私にとってどちらの花を咲かせるのでしょうか。

師匠

 対戦相手の齋藤君は松井さつきさんの道場でプロ棋士の棋譜を何枚も並べているとの事です。
私は毎週土曜日と日曜日に、会津王将会支部の道場に通い、武蔵支部長(以下、師匠)から指導して頂いております。
 師匠が僕の将棋の事で必ず言うことがあります。「田部君は将棋では強いんだけど、気持ちが弱いんだよな。気持ちが強かったら全国でも通用するんだけどな。」と、毎週のごとくおっしゃいます。
 師匠は、過去に全国大会で3位の成績も収めている実力者です。しかし、師匠は対局中にペラペラ喋りながら指していて、対戦相手が勝勢になると、「イヤー参ったなぁ。○○君強いなー」等と、盤外戦術を用いる事があります。私も師匠のそれにやられた事があり、正直言って本当に強いのかなぁ?、と疑問に思った事もありました。
 本譜は私が▲1五歩と突いた瞬間、△8五桂と跳ねるか、△7五桂と打った方が良かったかもしれません。指了図は後手の飛車が使えていないので、どのように使うかが勝負の鍵となるようです。

会津の加藤一二三

私はいつも、大会で負けた将棋を師匠(武蔵支部長)に見て頂いている。
早い時はいいのですが、長くて1時間くらい検討をして頂く事もあります。感想戦の時も、他人の将棋に口を出してる時が度々あり、同じ局面を何十回にわたり検討することもあります。私が思うに、師匠が入る感想戦では、師匠側が持つ方がいつも負けている印象が強い感じがします。
私が感じる師匠の印象は、加藤一二三九段に似ているという事。1年くらい前の事、師匠と将棋を指している時、師匠がいつもの如く、駒音高く龍を盤上に叩きつけました。私が取ったその龍の下には一匹の蚊が成っていたのでした。私はあれ以来、師匠が加藤一二三九段にしか見えなくなってしまいました。
 本譜は、△6六桂と打たれて少し困リました。▲6七金ですと駒を渡した時に即詰みが生じてしまい、▲8八金も△6七桂で困ります。平凡な手のようですが、これで齋藤君がリードした気がしました。私は▲6七歩と最善の受けをしました。齋藤君がこの後、△7八桂成から△4三桂と打ったため▲5六桂が生じてしまいました。△7八桂成〜△4三桂の所では△7五桂と打つべきでした。指了図では馬も作りこちらが優勢になった気がしました。

自戦記を書く

 去年から私は、自戦記を書きたいと師匠(武蔵支部長)に願い出ていて、大会2週間くらい前から師匠に、「この大会で決勝戦まで残ったら自戦記を頼む。もし途中で負けたら観戦記をお願いな。」と言われました。私はその言葉を言われた時は嬉しかったです。どうせ書くなら、優勝して自戦記を書きたいと対局中も思っていました。観戦記を書きたいと思い始めてから皆さんみたいに素晴らしい自戦記を作り上げたいと思うようになりました。それですので本大会は、自分では必死で頑張りました。しかし、4月のアマ名人戦での斎藤君との敗戦が頭に残っており、自分の思う通りにはなりませんでした。
 指始図では馬を作り、後手の金を剥がしてこちらが良いと思ったのですが、△6七銀から斎藤君の反撃もあり、さらに私は秒読みまで入ってしまい、一瞬アマ名人戦での敗戦が頭をよぎりました。私は▲3三歩と打ち、詰めろをかけました。斎藤君も、角ではなく、4六金寄りとするべきでした。今日の齋藤君は名人戦で対戦した時より、終盤力が強くなっている気がしました。

感謝

 第7譜は、▲3三龍に対し角で受けましたが、金で受けるのもありました。以下▲4二銀後、2二玉、▲3一金、△1一玉、▲1三香、△1ニ角、▲2二龍、△同金、▲2一飛、△同金、▲同金、△同玉、▲2二歩、△同玉、▲3三銀打、△2三玉、▲2四金で詰みですが、こちらの方は手順が長く間違え易かったかもしれません。
 本譜4二銀と指した時は勝利を確信しており、さらに斎藤君が投了した時は、とておも華々しい気分でした。
 現在中学1年生の齋藤君は、後2回民友杯や中学生選抜戦への参加資格があります。来年は今年以上に活躍を期待したいところです。
私は今回のこの民友杯への参加が、小中学生を対象とした県内の棋戦では、最後の大会となりました。小学4年生で初めて本大会に参加をし、今日までの5年間、本当に多くの方々に出会い、また支えられてここまで来ることができました。私は高校に行っても将棋を続けたいと思います。関係者の皆様には、今後も引き続きご指導を宜しくお願い致します。
 最後に、私の観戦記を、一週間ご覧頂きありがとうございました。観戦記の執筆に関してはまだまだ未熟な私ですが、これからたくさん書かせて頂きたいと思っています。
ありがとうございました。

観戦記

観戦記

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-10-12

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 中学生3年の夏
  2. 嬉野流
  3. 曼珠沙華
  4. 師匠
  5. 会津の加藤一二三
  6. 自戦記を書く
  7. 感謝