天使の声

終わらない雨

  僕らの住む夜ノ守村は雨がやまない。いや、やんだ時を見たことがないから終わらないと言ったほうがいいかもしれない。なんにしろ今日も降っている。昔はこの村のシンボルであったろう樹齢数百年を超える桜の木は面影もなく腐りきっていて今では何の木だったかも分からない。そしてこの町には呪いのようなものがある。
 ①ほかの人はこの村に出入り可能だがここの住民は出れない。
 ②ここに生まれた人は大人になると消える。
この二つの呪いの解呪法は分からずに今に至っている。原因が雨だということは火を見るより明らかだったため、世界各地からありとあらゆる研究者が調べに来たが何も分からず帰っていった。だが、このままだと町がなくなってしまうとの理由で一時的な対策としてある年の村長が掟を制定した。
 ①親は子供の許嫁をつくりなさい。
 ②お互いが20を超えたとき子を残しなさい。
 ③呪いの解呪法を探し続けなさい。
 ④上記の掟を破ることは許されない。
僕たちは小さな村の、この掟の中だけで生きていた。水槽で生きている魚のようにみせかけの自由の中でずっと・・・・・・

「なあ、空。俺たちもう少しで卒業だろ。だから四人でなにか特別なことしないか?」
友達の碓氷 弌は真剣な表情で言ってきた。
「まあ、そうだけど。例えば?」
「んー、そうだな。解呪法を探すとかはどうだ。もし見つかれば俺たちは長生きできるぞ」
「却下だな。今を楽しく生きればいいし。それに、本当は死ぬことを何にも思ってないだろ」
たぶん死ぬことが怖いと思っているのはこの村にはただの一人もいない。解呪法を探す奴なんて今じゃいない。
「まっ、それもそうだな。じゃあ秘密基地を作るとかー、学校を爆破するとかー・・・・・・」
馬鹿な話を聞き流しつつ雨がカーテンのようになっている外を眺める。別に今の生活に不満を持ったことは一度もない。このまま大人になればいいかなと思っている。
「なーに馬鹿な話をしてんのよ。全く、小学生でもあるまいし」
一人の女の子がため息をつきながら近づいてくる。彼女の名前は不知火 詩。俺たちと同じ高校3年生で俺の許嫁だ。
「詩、お前はなんかやりたいことはあるか??」
詩に言われたことを気にせず弌が聞いた。
「そんなことより文化祭でしょうがっ!もう来月よ。そっち優先」
「そうか。そういえば文化祭なんてあったっけ」
完全に忘れてた。確かうちのクラスは喫茶店もどきをやるんだっけ。
カフェと喫茶店の違いってなんだろう。確かお酒があるかないかの違いだったような。
「聞いてるの?!空」
いきなり声がする。くだらないことを考えていてもちろん聞いてない。
「え?えっとなんだっけ?」
「ちゃんと聞いててよね。今日は生徒会だから先に帰っててって言ったの」
「あー、なるほど。了解。じゃあ今日の夕ご飯は俺が作るよ」
よろしい、と満足げに彼女は教室から出て行った。あたりを見まわして気づいたが弌はいつの間にかいなくなっていた。昼はあんなに騒がしかった教室は夕焼けに染まっていてこの世に自分ひとりしかいないんじゃないかという錯覚に陥る。本当はそんな訳ないのに。
「帰るか」
誰に言うわけでもなくそうつぶやいて教室を後にした。
許嫁どうしは一緒に住むことになっている。理由はよくわからないが多分、お互いを知れということなのかもしれないし親がいないぶん助け合って生きていけということかもしれない。まあ、いつもは俺がこんな性格だから頼り切ってしまってるんだけど。

天使の声

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天使の声

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更新日
登録日
2015-10-09

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