濃い。

白。

真っ白なキャンバスが好きだ。どの色をのせようか、何を描こうかたくさん考えて胸が躍る。けれども、ふと見てみると私のキャンバスはまだ真っ白のままだった。

鈴谷ゆか、高校1年生。夏休みは終わったけれど、彼女の課題はその大半が真っ白だった。自称進学校を名乗る彼女の学校は勿論課題をやらないものを許しはしないわけで、多くの学生が放課後になると課題をもって科学室へと向かう。科学室の黒板の前には学年主任が待ち構え、課題の進路状況を一人一人確実にチェックしていくのである。終わった者から順に教室を抜けて行き、終わらない者は終わるまで毎日毎日放課後に居残りというこのシステムは最早この学校の伝統として受け継がれている。1年の半分まで過ぎると大体固定メンバーも現れだし、ゆかは長期休暇明けの居残りレギュラーと化していたのだった。
「美生!科学室だよね、一緒行こう?」
ゆかはホームルームが終わると同時に同じくレギュラーの佐々木美生のもとへと向かってった。同じクラスの美生は何事にも面倒臭がりで、いわゆるやれば出来るのにやらないという女子だった。
「なんで勝手に科学室ってきめてんのさ、わかんないよ?生まれ変わった佐々木になってるかもじゃん。そもそも課題終わらせるとか当たり前だし、ほら、私優等生だから。」
「昨日ラインで『課題諦め〜』とか言ってたのだれかな〜。ほら早くしないと席前の方になっちゃうよ。」
ゆかは笑いながら廊下にでて行き美生の準備を見つめていた。窓の外ではまだ蝉が大合唱していて、学生たちの夏休み感はまだ暫くは消えないだろう。ぼうっと教室の中を見つめていたゆかは、後ろからかけられた声に気づかずただぼうっと宙を見つめていた。
「…さん、鈴谷さん!」
「わっあおなに吃驚した!…村田くんか!どうしたの?」
ゆかの後ろに立っていたのはサッカー部所属の同じく科学室レギュラーの村田広樹だった。178センチの村田152センチのゆかと並ぶとかなり大きくみえる。
「生物の課題提出しなくていいの、それとも自分が終わるまでわざとまってんの、生物係さん。」
「あ、忘れてたー!!違うよ、生物だけはちゃんとやったから!後でいく!」
「なんだ、わざとじゃないのかよ。わざとだったら俺の生物もまってもらおうと思ったのにー。」
そう言って笑う村田につられてゆかも笑う。
「いやだ!遅れた時は自分で提出してください〜。」
ちょっと拗ねたふりする村田を見つめながら、なんとはなしに窓の外を眺めてみる。笑う時に細まる目が猫のようだと思ったのはいつだったかな、と考えているうちに教室から美生がたくさんの課題を抱えて出てきた、
「佐々木さん、課題やってなさすぎじゃね?」
からかう村田にムッとした様子をみせる美生。
「村田君よりはやってるから!村田君こそ早く終わらせないとサッカー部のレギュラー外されちゃうよ。」
ふざけ合いながらも笑い合う2人と一緒になってゆかも笑う。
夏が終わるにはまだまだ長く、3人の居残りも当分は続いていた。

濃い。

濃い。

  • 小説
  • 掌編
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  • 恋愛
  • 青年向け
更新日
登録日
2015-10-05

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