音、聞こえる。

風、

いつものような日常にさっと風が吹く。誰も訪れないような小さな部屋で、ひとりわたしは何かにみみをすます。すると、カーテンが少し揺れかすかに土の香りを運んできてくれた。そして、その小さな部屋で風は言うのだ。ここは、君だけなのかい。よっぽど外に出てないんだね。部屋になんの音も入ってなかったようだよ。隣に置いている電話だって!大きなため息をつくと風はすっと消えていった。わたしはあの風のきた場所を想像しながら、一言つぶやいた。どこから来るのかしらね。おかしな風よ。こんな時に来るのだからよっぽど暇に違いないわ。わたしは目を閉じて遠くに見える春を見つけようとした。しかし、曇りガラスが目の前にあるように薄っすらとしか感じない。それから、パサパサのパンとワインを開け食事を始めた。乾いたパンは、味気もなくおなかも満たしてはくれない。ワインだって、酸っぱく面白みのないピエロのようだった。その時また風が入って来て言った。そんなので満たしてはくれないよ。雲って何も見えやしないんだろ。孤独になるだけさ。空腹だって、おまけに近いのだから。にせもののぶんざいで、隠してるだけじゃないか。あー。君はここに本当にいるのかい?ふふふと笑いながら、ワイン瓶をかすめていった。いったいなんなのであろう。先ほどから、、同じやつなのか?まったく。そしてワインを口に含んで飲み込む間、部屋の中を見返してみた。白と黒のコントラストが目の奥で騒ぎ出す。

音、聞こえる。

音、聞こえる。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-10-02

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted