10才、20歳

私から私へ

雲が忙しなく空を駆けてゆく風の強いその日、1通の手紙が私のもとへ届いた。
白い封筒に、歪な文字で、私の名前が記されている。
封筒に郵便番号を書く枠が無かった為か、わざわざ、これもまた歪な長方形で書いてある。
住所と共に何故か、通っていた小学校名まで隣に並んでおり、少し不気味に感じた。
裏側の送り主を見たところで、私は思い出した。

「4年3組12番 小島 優」

私の名前だった。
市のイベントで、10年後の自分へ手紙を書き、タイムカプセルを埋める企画が丁度、私が10歳の年に行われたのだ。
私は、面白そうと思い参加していた。
その事に、送り主を見てやっと思い出した。

私は3日前に20歳の誕生日を迎えていた。
凄いタイミングだなと思いつつ、封を開けてみることにした。
いつもならビリビリと手で開けるが、きっと大切に保管するだろうと思い、鋏を使い丁寧に開けてみる。
中には、数枚の原稿用紙が折りたたまって入っていた。
何を書いたか全く覚えていなかった為、不安と期待が混ざったような感覚に、少し緊張を覚える。
それでも、軽い気持ちで原稿用紙を開いた。

『10年後のわたしへ
4年3組12番 小島 優

20才の私は、なにをしていますか?いまと同じように、バスケットをしていますか?
バスケットせんしゅになっていますか?
10才のときのゆめをかなえていますか?
いまはぜったいゆめをかなえたいと思います。
バスケットあきらめてますか?
1人ぐらし、をしていますか?
たのしくて、おもしろい、じんせいを、おくっていますか?』

まだ読み始めだったが、20歳になったばかりの私は、10歳の私に圧倒されている。
バスケットを高校まで続けていたが高校2年生で辞めてしまった。頑張ることを諦めてしまった。
10歳の私。ごめんね。諦めちゃったよ。
1人暮ししているけど、君が望む楽しくて面白い人生とは程遠い生活になっているよ。
少し胸が痛む。

『けっこんしていますか?けっこんしていたらこどもがいますか?いたらなんにんですか?そのときまでぜんぜんわからないけどがんばってください。
大学はいってもいかなくてもいいよ!だけど高校はてんこうしないでそのままのほうがたのしいと思います。』

結婚はしていないです。子供もいません。1人もいません。頑張りますね。
大学行かなくていいんだね。じゃあ行きません。すごく上から目線だけど気にしないよ。
高校は転校せず、3年間同じ所に通いましたよ。君の言う通り楽しかったです。
胸の痛みは治まった。

『今のわたしは、高校や中学はたのしいのかなぁって思うときもあります。どうでしたか?友達100人できましたか?もしかして1000人や10000人できましたか?とてもたのしみです。おかあさんとおとうさんのいえは、かってあげましたか?これは、10才のときのやくそくだったよね。
けいたいはどのくらいしんかしてるのかふしぎです。』

友達10000人は一生かかっても無理ですね。
本当に友達と呼べるのは数人しかいませんよ、残念だけど。
家を買ってあげる約束?!
20歳の私には少し無理がある約束なので、キャンセルでお願いします。ごめんね。
携帯はきっと驚くほど進化していますよ。
雲行きが怪しい。

『小学校では、いじめられていました。だけどすごくくやしくて、すぐいいかえして、けっきょくさいごは、なかなおりでした。』

それを人は喧嘩と呼びます。いじめではないです。
頭を抱えそうになる。

『このたいむかぷせるをだしたのはすう人です。(4年3組はわたしいがいだしてないとおもいます。わたしだけです。すごいー!なーんちゃって。いまのはじまんでーす。)
えへへ。おもしろかったですか?たぶんおもしろくないとおもいます。』

何で面白くないと思っているのにもかかわらず、括弧まで付けて書いたのかは理解出来ませんが、冷めた感じは少し面白いですよ。
手で顔を覆いたい。

『さいごに1つしつもんがあります。いいですか?
いいっていったらしつもんさせてもらいます。色々しつもんさせてくれてありがとうございました。

10才のわたしより。』

最後のは何でしょうか。今いいといっても質問、してくれませんよね?すごく気になります。
書くなら最後まできちんと書きましょうね。


所々つっこみながら全文を読み終えた。良い思い出の品が増えたなと思いながら、原稿用紙を床に裏向きで置いた。
すると、裏側に何か書いてあるのが視界に入った。
裏向きのまま、手に取ってみる。

『さいごのしつもんみつかっちゃいましたね。
ではしつもんします。あいってなんだと思いますか?わたしは知っています。なので20才のわたしも知っているはずです。こたえなさい。』




10歳の私へ。
愛とは何ですか?教えて下さい。
20歳の私より。



どう考えても20歳の私の負けだとわかった。
綺麗に開けた封筒と思い出を、ビリビリに破いてごみ箱に捨てた。

10才、20歳

10才、20歳

成長しているようで、成長していなかった。そんなお話です。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-09-26

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