誰よりも優しいあなた
リクエスト*田中龍之介夢
1
「けっこう人多いな…結崎、はぐれんなよ」
『は、はいっ』
休日の仙台駅に、田中龍之介とマネージャーである結崎麻由は買い出しに来ていた。
実はこっそり田中に片思いをしている事が菅原や清水にバレてしまい、気を利かせてこうして2人で買い物に行くようセッティングしてくれたのだ。
だが……
『(こ、こんなの…まるでデートみたいじゃないですか先輩方……っ)』
当人の麻由は、嬉しさどころか緊張で心臓が爆発しそうだった。
しかし田中はそんなことも気にせず顔を覗き込む
「どうした?酔ったか?」
『はひぇっ!?な、なんでもないです…!』
「そうか?……ほら」
遠慮がちにずい、と差し出されたのは彼の大きな手だった。
『…へ?』
「ひ、人多いからな!…はぐれたら困るだろ」
『え、あ、でも……っひゃ!』
「いいから、握っておけよ!」
恥ずかしさに麻由がもじもじしていると、痺れを切らしたのか田中がやや強引に麻由の手を掴み、歩き出す。
その頬は、寒さのせいか少し赤かった。
『(た、田中先輩の手……男らしくてかっこいい…)』
「(結崎の手…ちっさいな)」
**
「…えーと、エアサロンパス買った、テーピング買った……こんなもんか?」
『は、はいっ、メモにあったのはそれで全部です』
「けっこう早く終わったなー……そうだ、さ、さっき喫茶店?あったろ。
…ちょっと休んでいくか?」
『ふぇっ!あ…はい、田中先輩がいいなら…ご一緒したいです…』
「お、おう、そうか、…よかった……じ、じゃあいくか」
2人は、またどちらからともなくそっと手を繋ぎ歩き出した。
少し歩くと、可愛らしい店構えの喫茶店があった。
店に入り席に着くと、田中の視線がやけにささる。
『?…あ、あの…?』
「あ、っ、悪りい、…その、…結崎は嫌じゃなかったのかな、と思ってよ」
『嫌というのは…』
「同じ買い出しでも俺みたいなのより、スガさんとかと来た方が楽しかったんじゃねーかと思ってな」
その言葉に、麻由は胸が詰まる思いだった。
そして、小さな声で呟く
『…わ、私は……田中先輩、が、いいです…』
「へっ」
『田中先輩は…優しいし、かっこいいし、…その、とても素敵な人、だと…思いますっ』
「え、あ、ゆ、結崎?」
今までの胸に溜めておいた言葉が、堰を切ったように溢れ出す。
ぽろぽろと涙をこぼしながらも、麻由は伝える
『…他の人じゃ、だめなんです……』
「…あ、あの、結崎、それって…」
『!あ、すみません私っ……し、失礼しますっ!!』
急に恥ずかしさが込み上げ、顔を赤くして席を立とうとする麻由の手を、田中は反射的に掴んで引き止めた。
「ま、待って、くれ…その、俺も言わなきゃいけないことがある」
『ぅ…は、はい…』
観念して椅子に座ると、田中は暫くそわそわとした後大きく咳払いをして麻由に向かい合う。
ドキドキと早い鼓動が、繋がれたままの手を通して伝わった。
「…俺は、……俺は、お前が好きだ」
『………へっ?』
てっきり振られると思っていたのに。
予想外の答えが彼の口から出て来たことにより、麻由は恥ずかしがるより先にキョトンとした顔で田中を見つめる
「でも、怖がられてると思ってた」
『こ、怖いと言うか…恥ずかしくて…』
「…そうか……ってことは、両想い、ってやつ、なのか?」
『そ、そうです、よね……?』
田中の嬉しそうな顔を見て、また顔に熱が集まる。
これは夢だろうか、妄想なのだろうか、と麻由がぐるぐると考えていると、田中が麻由の手をぎゅっと握った
「…俺なんかを好きになってくれて、ありがとうな。……ま、麻由」
『そんなこ…と……っ!?』
「ノヤっさんに自慢しねーとな!」
『へぁ、はい……り、龍之介、先輩…』
赤く染まった頬で愛しい人に名前を呼ばれ、心臓がいつもより音を立てて跳ねる。
言うなればこれが、恋というやつ、なのだろうか。
End
誰よりも優しいあなた