素直になりたい
リクエスト*陸奥守夢
1
「よぉほむら!」
『…陸奥、何の用なの』
「相変わらずおんしゃ仏頂面やの~」
『陸奥が騒がしすぎるんだよ』
「ほがなんじゃ幸せも逃げゆうよ」
皇ほむらが縁側で休んでいると、その隣に陸奥守吉行が腰を下ろす。
何か用があるのかとほむらは身構えるが、その様子もなく、ただ外を眺めている。
『…なにか私に用事があったんじゃないの?』
「いや、特にゃなんちゃーがやない」
『あ、そう』
そこで会話が途切れ、虫の鳴き声だけがやけに耳に刺さった。
ほむらはちらりと陸奥の方を見る。
彼は沈黙を苦に思っていないようで、蛍を目で追うその顔はどこか嬉しそうにも見える。
『(…もっと素直になれたら、この時間ももっと楽しいんだろうなぁ…)』
口を開けば喧嘩、というわけではないが、ほむらはどうにも自身の気持ちを素直に伝えるということが苦手らしい。
元からその傾向はあったが、ここ最近、特に陸奥守が関わると尚更、気持ちとは裏腹な言葉ばかり出てくる。
本当はもっと素直になって、笑顔の一つでも気軽に見せることができたなら。
そう思いはするものの、行動に移せないのが最近の悩みだった。
『…はぁ』
「なんじゃ?腹でもみしくれてしもうたちやか?」
『いや、何でもないよ』
「(…せっかくきれえな顔やき、笑ったらもっと可愛いと思うんやけど)」
『(陸奥からの視線が痛い…何か言いたいことでもあるんだろうか)』
陸奥年線を合わせないように、ほむらは月を見上げる。
暗闇を照らす満月は、彼女の心とは正反対に雲一つなく輝いていた。
『…月が、綺麗だ……』
「おぉ…そうじゃぇ」
『………あっ…』
言って、気づく。
かの夏目漱石は、《I Love You》を「月が綺麗ですね」と訳したという。
もちろん先ほどの言葉にそんな他意はないが、気づいてしまっては無駄に意識してしまう。
「どうしたが?顔が赤くなちゅう」
『な、んでも…ない』
顔の赤さを悟られないように背を向けると、不意に髪が引っ張られるようん感覚を覚える。
慌てて後ろを向くと、陸奥が楽しそうにほむらの髪をいじっている最中だった。
『っ…何、してるの』
「…いんや、前から思っちょったがほむらの髪はげにまっこときれいじゃと思うてのう」
『そんなこと、初めて言われた』
「わしは前から思っちょった」
珍しく真剣な声に、どきりと心臓が高鳴る。
「ほむらの髪は綺麗じゃ」
『…な、何回も言わなくていいっ』
「つんでれ、やったかのう」
『ううううるさいなぁ!もうっ!』
自覚するほどに頬が熱くなる。
それを隠すように立ち上がり、踵を返す
「どこに行くがか?」
『ねるっ』
「ほうか、また明日のう」
『……また、明日ね。…おやすみ』
「おん!」
ほむらの姿が見えなくなると、陸奥は赤く染めた頬を隠した。
「(げにまっこと…おんしはきれえじゃ)」
End
素直になりたい