Even beyond tha time

初めましてLogicalですっ!(^0_0^)
楽しんで読んで頂けると嬉しいです毎日更新していきたいと思います!!
宜しくお願いします(^^ゞ

プロローグ

時間を越えられたらどうする?
世の中には非現実的とか、不可解とか、まだまだ科学なんかじゃ解明出来ないことが沢山ある。
例えば、幽霊だの魔法だの。天使とか悪魔だって。
でも、それが案外存在してたりする。皆の分からないところでひっそりと暮らしているかもしれないし、潜めた力を何処かで発揮しているかもしれない。
つまり俺が言いたいのは、世の中わからねぇぞ、って事だ。
全知だ? 笑わせんな。
全てを知った人間なんていない。どんなに勉強したって、調べたって、世界は毎日新しいものが生まれては、消えていく。これは生物、植物、道具など全ての定めで、決して抗えるものでひない。
まぁ、小難しいこと話しちまったが、俺は時間を越えられる。
どういう訳か、越えたことはないが“出来る”ということは幼い頃から分かっていた。
不思議な話だろう。なんで、やったこともないのに分かるのかなんて俺も知らない。俺のこの力を信じてる奴なんて誰1人としていないだろうな。
だから俺は隠し続けた。普通の人のように振る舞ったんだ。本当は、やって自慢してやりたかったがな。
それで俺は、この力を最終兵器みたいに思ってたんだ。いざとなったらきっと守ってくれる、そんな力だって。
あぁ...それで、俺が時間を越えたらだな...

―― 大切な人に会いに行く ――

第一章

俺の彼女は、死んだ。
通りすがりのおかしな奴に腹・胸・首を貫通するほど強く刺されたんだと。
犯人は、狂った同然の奴で「殺るのは誰でもよかった」としか言わないらしい。
その日俺は、部活が長引いて、彼女に先帰っててと言っていた。
そしたらこの様だよ。全く、笑えるわ。
葬儀の時は人目なんか気にせず一番泣いた。向こうの家族も驚いていたな。
彼女の肌は透き通るほど白くって、閉じた目はおとぎ話の姫のように美しい。
でも、もう温もりはなかった。
あれだけ繋いだ手は、固まり、冷たく凍っていた。
あれだけ触れた顔は柔らかさを失い、痩けてしまっているようにも見えた。
あれだけキスした唇に、もう赤みはなかった。
泣いても泣いても彼女は戻ってこないという現実を受け止めた頃、俺は自分の能力を思い出した。
時を越える。そうすれば、あの時助けられたのではないか。
そう考えるようになってきた。
しかし、やり方も分からなければ、成功する自信もない。こんな現実ではあり得ないこと、手伝ってくれる奴なんかいない。
そんな感じで、俺の時間は、彼女が死んだときから止まっていた。

☆°.+☆°.+☆°·+☆

「お~い、千景(チカゲ)!!」
ひたすら真っ直ぐ伸びる廊下。もう皆部活に行った頃だと思っていたのに、不意に後ろから声をかけられた。
「なんだよ?」
後ろを振り向くと、そこにはクラスメートの飛鳥(アスカ)がいた。
「お前部活行かねぇの。顧問カンカンだぞ」
「知るか、やる気湧かねぇんだよ」
自分でも冷たいというのは分かっている。でも俺は、1人でいたかった。特に、いまくらいの時間帯は。
そのままもと向いていた方向に視線を戻すと、スタスタと歩いていった。
後ろから「こ、来れるんだったらこいよ!?待ってるから!!」と叫ぶ飛鳥の声が聞こえる。
返事もせずに歩き続ける。申し訳ないけど、今は本当にそういう気分ではない。ずっとこのままなのだろうか。
(キズナ)...」
彼女の名前を1人きりの廊下でぽつりと呟いても、あの明るい返事は無い。
俺は人生のドン底にいる気分だった。
虚ろになりながら歩いていると、図書室の看板が目に入った。夕焼けに照らされて、赤に近い橙色になっている。
なにも考えずに、ただ直感的に足を踏み入れると、静かで、とても落ち着ける場所であることに気付いた。
受付当番の人も、もういない。
俺は入り口から出来るだけ遠い席に座った。すると、机に伏せて、少し過去のことを思いだし始める。その為に、静かに目を閉じた。

第二章

眠たくなりそうな春の風。桜の木々の間に覗く太陽もまだ優しい暖かさを感じさせる程度だった。今日から、新しい生活が始まる。そう、俺は高校生になるんだ。
「よっす、千景ぇ!!」
まるで、風船が弾けたような大きくて爽やかな声で後ろから声をかけられ、背中をドンッと押された。ふらふらと、二、三歩前によろける。
「んなんだよ...って。え、飛鳥ぁ!?」
「そーだよ、同じ高校だっつったろ。宜しくな!」
そこに立っていたのは、幼馴染みの飛鳥だった。赤い髪は、中学時代に反抗心から染めたもの。意外と似合ってると言われて、今もそのままらしいが、確かにインパクトがあった。その赤髪を左後ろに黒いリボンで、ポニーテールに結んでいた。正直可愛い。
「おう、なんかお前と同じの小学校ぶりだし。あがるわぁ」
飛鳥は直ぐに走って隣にならんでくる。身長は小さめで、150cmくらいといったところか。
「そうか...そらよかったよ」
「なに?お前まだ空手続けんの?」
飛鳥は中学校で空手部に所属し、全国大会に出場するような実力者だった。それで俺も憧れて、空手部に入ってみたら、全国大会とまではいかないが、県大会を優勝することができて、そこそこ物になってきたところだ。
「うちは続けるよ。千景は?」
「俺は勿論続ける!!お前みたいに全国行ってやるよ!」
「ほう...このうちを超すと?」
飛鳥はニヤリと笑って、掌を扇のように使って顔をあおいだ。
「あぁ超してやるさ。そうするとって部活も同じになるな」
「だなーっ!やばい高校楽しくなってきたぁ!!」
「馬鹿。これからだろ」
二人で大笑いしながら、俺は飛鳥を頭をピシッと叩いた。飛鳥はやり返したつもりで、腹に蹴りを入れてきて、これが相当キた。
「うっぐおおぉぉお...いでぇよ、ばか!!」
「いやぁついついやっちまった」
エヘヘと笑って頭を掻く飛鳥の姿は小学生の頃から変わらない。
「ねぇ...これ、貴方の?」
清らかな水が流れるかのように、俺達の間を。その声はすり抜けていった。声の主の方を、二人で唖然としながら向くと、そこにはショートボブのまるで人形のような大きな目をした女の子が立っていた。制服と、リボンの色からして俺達と同じ。入学生だ。手には、折り畳み傘を持っている。あ、俺のだ。
「あ、あぁ。俺の俺の!!ありがとな」
ぎこちない笑みを浮かべ、傘を受けとる。
「うん、気を付けてね」
そう言い残すと、俺達を越して、スタスタと先を歩いていった。ふわりふわりと歩くたびに揺れるショートボブが印象的で、俺はその姿に釘付けになっていた。
「...なぁんか感じ悪くなぁい?」
飛鳥が俺の視界下にひょこっと現れた。随分とむすっとした顔をしているな。
「そうか?感じ悪かったら傘拾ってくれねぇだろ」
「へーぇ、そう思う?そう思っちゃう?」
なにを考えているんだこいつは。最後にまた「へーぇ」と言うと、俺から離れて先に歩き出した。
「おい、待てよ」
俺も鞄に折り畳み傘を急いで閉まって、慌てて追いかける。隣にならんでも、飛鳥はつーんとしていた。
「千景あぁいう人好きなの?なに?ショート派?ロングな私はお気に召さないって?」
「はぁ!?なにお前、嫉妬してんの!?」
ぷくくと笑うと、ますます怒って。
「はぁん!?嫉妬なんかするかボケ!お前のタイプ聞いてやってんじゃ!!」
分かりやすすぎて、笑えた。笑いを堪えながら、話を続ける。
「俺は髪型なんかより内面を見るよ。あ、ほら高校ついた」
指を指すと、飛鳥もむすっとした顔のままその指した方向へ視線を向ける。高校を見た飛鳥の表情はみるみる明るくなって。
「お、おおぉお!!でけぇ!」
「お前見たことなかったのかよ」
そこそこ呆れる奴だ。さっきまであんなに不機嫌だった癖に、今度は、目を輝かせて高校を眺めている。
「千景っ、行くぞ!」
不意に手を引かれ、校舎の中へと駆け込んだ。
「千景...くん、ていうんだ」
その二人の後ろ姿を眺めて、微笑む者が1人、いた。

第三章

「私ね、あの日から千景くんの事が好きだったの...」
入学式から1週間後。俺は放課後、体育館裏に呼び出されて、今あの時傘を拾ってくれた女の子に告白されている。どういうことだ。まだ俺は名前も知らないのにいつ惚れられた。いや、その前に俺なんもしてない。むしろこういう場合好きになるのは傘を拾ってもらった俺の方じゃないのか。いやいや、好きになった訳じゃないけど。
様々な考えが頭の中を駆け巡る。言葉も出ず、ただ唖然としていた。
「そうだよね、いきなり答えなんて出ないよね...明日まで待つから。じゃねっ」
彼女は、申し訳なさそうに苦笑いを浮かべて、腰辺りで小さく手を振ると走り去っていった。あぁ、走り方も可愛い。...なにを考えているんだ、俺は。
「...参ったな」
俺は両手で顔を覆い、しばらくその場に1人で突っ立っていた。今まで告白されたこと無いわけじゃない、それに付き合ったことないわけでもない。でもこんなにいきなりかぁ。
「飛鳥に相談するか?いや、それは良くないな。うん、自分で考えるか」
落ち着いて、ふぅと息をはくと、顔を静かに上げて空を見上げた。ちゃんと気持ちを伝えてくれたんだ。俺だってよく考えて返さないと。
くるりと足をUターンさせて、教室に戻る。まだ鞄を持ってきていなかった。

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「ふぅ...」
教室は夕日によって橙色に染められていて、俺1人の空間だった。どうしてだろう、こういうときは1人で居たいという俺の願いを叶えてくれたようだった。
けして早くもないスピードで歩き、俺の席までつくと、鞄を持って帰ればいいのに、何故かドスッと席に座った。
頬杖をつき、窓の外を眺める。夕日は綺麗だったが、先ほどのことでいっぱいな俺はなにも感じなかった。
「...千景?おい、なにしてんだ。部活も始まってんぞ」
飛鳥は息を上げて、教室の扉の前に立っていた。俺を探しにきたのか。
「俺今日だけは休む...」
俺はしばらくぼーっと飛鳥の姿を見つめるも、目を細めて、机に伏せてしまった。
「はぁ!?うちを越すんじゃねぇのかばーかっ!」
「うるせぇ...」
顔を上げずに小声で呟くように言った。
「...なんかあったの?」
その声だけは。夕日にも感動出来ないほど、1人を願っていたほど、いっぱいいっぱいになってしまっていた俺を貫くほど、飛鳥の声は頭に響いてきた。
頭をむくりと上げると、藁にもすがる思いで机から立ち上がる。
「飛鳥...」
一歩。机から離れた。
「な、なんだよ」
飛鳥は一歩引く。
「飛鳥、聞いてくれ」
今度は大きく一歩。早く飛鳥の元へ。
「だから何だよ!!」
飛鳥も同じくらい後ろに下がった。
「飛鳥っ!!」
俺はなにかに弾かれたように急に走り出すと、飛鳥に突進するかの勢いて近付いて行く。飛鳥は体を後ろに下げるも、廊下の壁にぶつかった。どんっ、と飛鳥を挟むように廊下の壁を叩く。飛鳥が逃げられないように。お願いだ、俺の話を聞いてくれ。
「な、んだ...よ。いきなり壁ドンなんか...しやがっ、て」
飛鳥は唖然として、俺を見上げた。そりゃそうだろう。いつもとはうってかわって真逆になってしまっているのだから。
「飛鳥、俺な...告白されたんだ」
「え、まじか」
飛鳥がぽかんと口を開ける。
「あの傘拾ってくれた子、覚えてるか?」
「あぁ...うん。まさか」
「その子」
「え!?なんで、まだ1週間でしょ!?」
「そう」
「てかなによ...千景それだけのことでこんなに悩んでたのか?」
飛鳥は俺の頬にするりと触れた。
「俺もわかんねぇ、告白されたのはついさっきだ。された時は、はいかいいえどちらにするかなんていうことしか考えてなかったのに...」
「のに?」
「時間がたつにつれ...なんだか変な感情が湧いてきたんだ。なんか、もっと別の奴がいるだろって俺自身に言ってるみたいな」
「...変なの」
飛鳥はくすりと笑う。それと同時に、手を離した。
「あのね、そんな感情誰だってあるんだよ。だから付き合いたいと思ったら付き合えばいいし、す付き合いたくないなら付き合わない。それでいいじゃん?」
はぁ、なるほど。この時の感情にそこまで縛られなくていいということか。心の荷がすっと軽くなる。自然に上がっていた、息も、肩も、落ち着いた。
「落ち着いた?」
「...おう」
「じゃ今日は無理せず帰ろうな?」
「え、お前は」
「うーん...サボる」
ぺろと舌を出して、えへっと笑った。
「悪いな」
「別に、千景のためじゃないし、ほら帰るぞーっ!」
「おい待てよ」
言ってること矛盾してんだ馬鹿。自分の席に戻ると、鞄を持って飛鳥を追いかけた。その時、夕日はとても綺麗に見えたのだった。

第四章

飛鳥のお陰で決心した俺は、あの後、告白をokした。今、あの傘を拾ってくれた子、絆と付き合い始めて丁度1週間くらいだ。俺は部活も友達も恋人も全てを両立して頑張っている。勉強なんて知らん。
絆はたまに飛鳥と帰ることも許してくれた。本当に、好い人。
それで、今日はまさしく久しぶりに飛鳥と帰ってる最中である。
「んでんで?どぅーなのよ、絆ちゅあんとはっ!」
「なんだその言い方」
一緒に帰って、暫く歩いて駅に近付いた頃になれば、急に質問攻めだ。
「ですからぁ...帰ってるときとか手ぇとか繋いじゃってんの!?」
「は?当たり前だろ」
「きゃーぁ!!やるねぇ、我が幼馴染みよ!!」
こいつなに1人で興奮してんだ。さっきから叫んだり、両手で顔を覆ったり、色々悶えてる。
「お前そろそろ周りに迷惑」
コツンと飛鳥の頭に拳骨を食らわせると、俺はふっと笑った。
「だってさぁ、うちこんなんだから付き合ったこととかないわけよ?」
「え、こんなんだからって?飛鳥普通に可愛いと思うけど」
「っあーっ!!」
両頬をぐいぐいと引かれた。痛い。
「違うってば!あのね...実は告白されるたびに照れてしまって、空手の技炸裂しちゃうんです」
「...そらないわ」
「うん、でしょ!?だから付き合ったことないの。内面的な意味で」
いい加減離せよ、と飛鳥の両手首を掴んでグイッと俺の顔から離す。
「だからぁ...憧れちゃうんだよねぇ」
ぐへへとなにを想像しているのやら分からない飛鳥の顔は、アイスクリームのようにとろけた顔をしていた。なんてだらしない。
「ふぅん、まあ頑張って彼氏見つけなさいね。飛鳥ちゅあん」
「うっざ!!なんなんっ!」
フォンッと風を切る音を響かせながら、俺の腰辺りの高さを回し蹴りが通過していった。どうやら、ぎりぎり届かなかったようだ。
「こ、こえぇよ...」
「ふんっ、行くよ馬鹿」
飛鳥は俺の先をずんずんと歩き出して、先に駅へ入っていった。

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「飛鳥ねぇ...まず髪の色とかもどうかした方がいいと思うなぁ」
俺はベッドに寝転がりながら、スマホを弄る。そして、とっさに頭に浮かんだ、今日の帰りの会話を考えていた。
「まぁ別に俺はあのまんまでいいと思うけど」
そう言ってごろんと寝返りをうつと、電気を消して、寝ることにした。

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翌日。
俺は部活が長引くので、絆には申し訳ないが先に帰っていてと伝えた。
絆は、笑顔で「うん、了解!」と言ってくれた。
そして、俺も部活が終わり空も紫色、つまり夜と夕方の中間のような色に変わってきた頃。俺は鞄を持って、生徒玄関を出た。
今日も色々あったな、なんて1人思い更けていると、後ろから慌てて走ってくる飛鳥に気付く。
「おい千景!!お前今すぐ病院いけっ!」
「は?なんで?」
「絆ちゃん、変なやつに刺されたって!!!!!」
「...飛鳥」
飛鳥に鞄を投げつけるように渡すと、真っ先に病院へ走った。ここから近い病院と言えば、神楽紋病院か。
絆が刺された、なんで。誰に。まぁ命に関わるようなレベルではないのだろう、きっと。でも、でも...もしも。いや、駄目だ。そんなこと考えちゃいけない。そんな気がした。
学校から10分ほど走り続けると、病院が見えた。俺はまた急いで走る。受付のお姉さんに、絆の病室を聞く。すると、何故か案内されたのは地下だった。
白い扉を開けると、そこにはもう絆の両親達がいて、わんわんと泣いている。部屋は全て真っ白。視線をベッドに眠る者の顔に向けると、すっかり暖かさを失ってしまった絆がいた。
「嘘だろ...」
俺も泣いた。両親達と共に。子供のように、わんわんと泣いた。
しかし、泣いても慰めてくれる暖かい手は無かった。

第五章

「なにこんなとこで寝てやがんだ...」
うちは、図書室の一番奥の席。誰にも見つからないような場所で、机に伏せて眠っていた千景の頬をつぅと撫でた。
「元気になってくれよ。頼むよ、千景」
机の隣にしゃがむと、頭を机に乗せて、千景と同じ目線で呟いた。
「なぁ...千景」
千景はなかなか起きない。こうして見てみると、まつ毛長いし、肌も綺麗なんだなぁなんて思いながら、うちは千景をうっとり眺めていた。
「んっ...」
千景が声を出し、うちはビクッと肩を震わす。千景は寝返りをうっただけだった。
「なんだよ!!ビックリさせんなっ!」
ガバッと立ち上がって、千景の背中をばんっと叩いた。千景は唸って頭を起こす。
「...なんだよ、飛鳥かよ」
いかにも不機嫌そうだ。挙げ句の果てに、睨まれてしまった。
なんだこいつは、うちの知る千景は何処行っちゃったんだ。もう、なんか。もう...いい加減にして。千景。
「うちで悪かったな!!あのさぁ!お気持ち察するけど、いい加減にしてよ!!!!!」
言ってしまったあとで、はっとなり口を押さえる。ここまで言う必要は絶対無かった。千景の心の傷を、更に深く抉ってしまった。
しかし、千景は黙って、うちを見つめてる。うちの言葉を...待ってるの?
「絆ちゃんだってこんな千景望んでないっ...うちも悲しいし、クラスの皆もあんたの友達も...絆ちゃんの家族だって千景を心配してる...!ま、周りの人に迷惑かけてんじゃないよ!!」
先程よりは、弱腰になってしまったが、まあうちの思いを伝えることは出来た。
「俺だって分かってる。でも、絆がいなくなったら、なんか体の一部をもがれたみたいに不便で、痛い。気持ちにもくる。だから、俺のこんな状態がどうにかなるんなら、とっくにしてるんだよばぁか」
千景は笑った。寂しそうに、悲しそうに。こんなに悲しげな笑顔を、うちは見たことがない。
しかし、うちはこの千景の言葉に強く心を打たれた。幼馴染みを助ける、その思いを一層強くさせた。足りないものを補えばいい。そうすれば...千景は。
両手をぐっと握りしめた。
決心して、一歩を踏み出す。椅子に座ってる千景の頭の位置は、私より低かったので、途中で膝をついた。そして、膝立ちの状態で、千景の顔を両手で押さえると、ぐっとうちに引き寄せる。そして...
千景の唇に優しく口づけをした。キスなんて、やり方わかんないし。初めてだからど下手くそかもしれないけど、千景の心を埋めるには、こうするしかないような気がしたから。
ほんの数秒。刹那に触れた二人と唇は、直ぐに引き剥がされる。
うちは、千景に突き飛ばされた。
「飛鳥...こんなことさせてごめん。お前、初めてだったんだろ?」
「それと、突き飛ばしてごめん。飛鳥にこんなことさせた俺が悪かったなよ」
あれ、これはいい方向かな。
「い、いや。うちこそいきなりごめん...」
やっちゃった感は無かった。千景は、微笑んでいる。その笑顔は、あの時。そう、入学式、暖かな太陽に照らされながら、桜道を共に歩いた。あの日の笑顔と一緒だった。
「元気でた?」
「少しな」
ニッと笑うと、ズボンのポケットに手を突っ込んで此方に向かって歩き出した。
「ど...どしたん」
「帰るぞっ!!」
千景は咄嗟に、うちの腕を引いた。ぐいっ、と空にも舞ってしまいそうな勢いで。そして、一気に立ち上がると、うちは自然と暖かい涙を溢していた。
「うお、どした?」
千景は、うちの顔を覗いてくる。
「千景のせいぢゃん~っ...ばがぁ!!」
今まで元気のない千景を見ていっぱい不安になった。どうすれば元気になってくれるか、夜な夜な考えた。それがついに、今日。報われた。心はほかほかと暖かかった。
「えぇ!?俺すか」
自分を指差して、とても驚いている千景。暫くしても泣き止みそうにないうちの手を引いて、図書室から出た。
千景こんときは恥ずかしかったろうな、だって大泣きしてるうちを連れてクラスまで行って、うちの荷物準備してくれて玄関まで走って、外に出ても周りの人の目は気になるだろう。でも、千景は決して手を離すことは無かった。
「ずびっ...千景。ありがと」
やっと泣き止んだ電車の中、うちは千景に寄りかかり、寝てしまった。

第六章

「なぁ、飛鳥聞いてくれ」
今日は、久しく千景の家に来た。相変わらずの散らかり様で、座る場所に困る。まぁ、男子の部屋といったらこんなもんなのだろうか。
「ん?」
部屋に入って早々、千景に声をかけられる。
「俺さ、絆に会いにいきたいんだよね」
私の前に立ち、背を向けて喋っていた千景は、くるりと此方を向いた。その瞳はとても真剣なものだった。
「いや...うん、そうしたい気持ちはとても分かるけと...」
「時間を越えてでも」
苦笑いして、やっぱりあの事を引きずっているのか、と宥めようとしたら、千景の言葉は私の体を反応させた。
「は?時間を越える?」
「ん」
なに言ってんのコイツ。漫画かアニメの見すぎかよ。唖然として、千景の真剣な瞳な見つめる。
「時間、越えられるんだ」
「何が?」
「俺が」
開いた口が閉まらない。どうしよう、なんて答えれば。
「俺さ、何か小さい頃から“時間を越えられる”っつぅ自覚はあって。でも、中々実践出来なかったっていうか、しなかったし、やり方もわかんなかったっていうか。だから、飛鳥に手伝ってほしい。この事を言ったのも、飛鳥が初めてなんだ...」
...これをうちに信じろと。はぁ。
「うん、千景が嘘をつくような奴だとは思わないけど、こんな非現実的なこといきなり言われても戸惑うってのはわかってくれるよな?」
「そりゃ。勿論だ」
「うん、なら信じよう。あくまで半信半疑だけども」
仕方無いなぁ、と腕を組んでため息をはいた。
「飛鳥ぁあ...」
うちに信じて貰えたことが相当じぃんと来たんだか、目をうるうるさせて、こちらを見つめてきた。いかにも泣きそうな顔だ。締まりのないだらしない顔してやがる。
「ま、こんなことうちに言ってどうしたかったんだよ」
「俺さ、時間を超えられる自覚はあったけどやり方は分かんないつったじゃん」
「おうよ」
「だから、一緒にやり方考えてくれよ!!」
千景はうちの手をぎゅっと握って、満面の笑みを此方に見つめてくる。うぅ、断りづら。
「い、いいよ...」
「まじでぇ!?」
今まで、一人でこの能力に悩んできたのかな。なら、うちが力になれるなら。
「んで...なんか思い当たることはあんの?」
「なんか前科学の担任が言ってたのは、ブラックホールがなんちゃらって...」
「ほーっ、千景が先生の話を聞いてるたぁ驚いたもんだ」
「たまたまタイムスリップの話になってて、眠気も吹っ飛んだんだ」
千景は、誇らしげに微笑んだ。
うちは、千景のベッドにぽすんと腰を下ろすと、足をがに股に。大きく開く。これがうちの通常スタイルだ。高校生にもなって男女が二人きりで、ましてや女子の方はベットに座ってるなんておかしな話だ。お互いに、親友以上恋人未満の関係であるからこそ出来ることなのであろう。
「んじゃ、ブラックホール観点から進めてくか」
うちもにやりと笑ってしまう。正直、面白そうなネタだと思ってしまった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

その後図書館に向かい、タイムスリップに関係ありそうな、ありとあらゆる本を漁り、読みまくった。半日ほど頑張った今。図書館のがらんと空いた和室コーナーで、二人はぐったりと疲れ、倒れこんでいた。
「...どうだぁ、千景。なんかわかった?」
「全然...なんにも」
二人とも畳の敷かれた、六畳ほどの部屋で、左右ばらばらの方を向いて寝ている。
「なぁ、うちの意見いっていい?」
「意見?」
「あのね、これはうちが見た映画の話なんだけど。なんか、速くなると時間って超えられるんだって」
「速くって?新幹線とか?」
千景は反応して、上半身を起こし此方を向いた。
「...さぁ、光速に近いくらい」
「無理だろうそんなん...」
また絶望。お互いに黙りこんでしまった。
暫くの沈黙の後、口を開いたのは千景の方だった。
「走ったりとかじゃダメなのか?」
本当に、小さな呟きのようだった。
「...さっき光速っていったじゃん」
「そっ...か」
また、沈黙に入ろうとしたその時、このままでは駄目だとうちが飛び起きる。
「で、でもやってみよ!?」
千景は急な大声に、驚いて、此方も飛び起きた。
「お、おう!!」
なんだこれ。走って光速なんか行けるわけないけども、取り敢えず可能性は試してみたい。
「じゃあ...明日にすっか」
「え?なんで?」
「外見ろ、外」
うちは窓の外を指差した。今日は晴れていたからか、星空が綺麗だ。
「おぅ...こんな時間か」
もうすっかり夜な外を見て、千景は立ち上がる。
「帰ろ帰ろーっ」
「だな」
二人で図書館を後にして、帰り道は言葉数少なく帰ってきた。また、明日ね。とだけ伝えて。

― 絆ちゃんのいた時間に。千景を飛ばしてみせる ―

家の前で、星空を眺めながらそんなふうに思ったんだ。

Even beyond tha time

Even beyond tha time

貴方は時を越えられるとしたら、どうしますか? きっとあの時隣に居てくれた 大切な人に会いに行くでしょう

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-09-10

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. プロローグ
  2. 第一章
  3. 第二章
  4. 第三章
  5. 第四章
  6. 第五章
  7. 第六章