空をあおげば 

『誰もが雲に想いをのせた

人びとが忘れてしまったあの空に私たちは問いかけるだろう....』

鳥への嫉妬

春の木漏れ日がこの面白味もない古びた一軒家を照らしてい
窓の外では今日も忙しなく鳥たちが井戸端会議をしている
決まってこの2匹だ、翡翠ほどではないがとても綺麗な薄緑の鳥が2匹

鳥は自由すぎる 
地べたを歩き疲れたら飛び お腹を空かせれば餌を食べ、雨が降れば屋根で雨宿り、寒さを凌ぐ羽毛まで持っている
生きているだけで衣食住を容易に揃えてしまう
私たち人々が衣食住を揃えるのには死ぬほど働き、嫌いな上司に頭を下げ、行きたくもない飲み会に石膏で象られた笑顔で臨まなくてはならない
そんな競争社会で『競』存していかなくてはならない

私はそんな競争社会に敗れ長年勤めた会社を辞め、住み慣れた故郷に帰ってきた
自由に生きる鳥たちに憧れのような嫉妬を抱き、高校2年の夏に家の屋根から飛ぼうとしたことがあった
もちろん飛ぶことはしなかったが、家に入ろうとした時に足を踏み外し「落ちた」ことはあった
今でも鮮明に覚えている 離れていく赤い屋根、洗濯物を取り込む母親、雲一つない青空

あの日あおいだ空は二度と見ることはないだろう
いや見たくはない

空をあおげば 

空をあおげば 

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-08-31

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