雨くゆる、日曜2時に紫陽花まえで。 【スピンオフ2】

雨くゆる、日曜2時に紫陽花まえで。 【スピンオフ2】

~ たこパをしよう ~ ■ 前 編

 
 
 『たこ焼き器なら、ウチにあるけど。』
 
 
 
そのイセヤ前部長が至極あっさり放った一言で、思いがけず ”たこ焼きパーティー ”は
イセヤ邸で開催されることになった。
 
 
アサヒとナツが思い付きで発案した ”たこパ ”。

まずたこ焼き器を購入するところからスタートするはずだったのだが、メンツを集めてからに
しようと取り敢えず参加してくれそうな人に片っ端から声を掛けていた。
 
 
ダメモトで連絡したアサヒは、正直自分の耳を疑った。

イセヤはあまりそうゆう部員同士での集まりに参加するようなタイプには見えなかったし
実際もう卒業して陸上部員でもないのだ。
おまけに ”たこ焼き器 ”を持っていて更に ”結構な頻度で作っている ”なんて・・・
 
 
 
 
 (丸々2年一緒にいたのに・・・

  部長にそんな一面があったなんて、俺としたことが・・・)
 
 
 
 
おまけに電話向こうのイセヤの声は、突然掛かって来たこの電話にも、不意に誘われた
たこパにも喜んでいる風で、イセヤを兄と慕うアサヒにはその反応が嬉しくて仕方なかった。
 
 
 
 『サノマネージャーにも連絡しようと思うんですが・・・』
 
 
 
そう言うアサヒに、イセヤは『あぁ、ちょっと待って。』 と少し電話から離れすぐさま
『行くってさ。』 と返事が来た。
 
 
『え? ・・・マネージャー、今、いるんですか?』 驚くアサヒに、

『え? ・・・いるけど?』 イセヤもその反応に逆に驚いた。
 
 
 
なんだかどこか、あまり噛み合っていない気が互いにしていた。
 
 
 
 
 
アサヒとナツ、イセヤとミサキ、そしてダイスケと新1年生マネージャーのスミレが
参加することになった、たこ焼きパーティー。

スミレは入れ違いで卒業した大先輩のイセヤとミサキが参加するという事を訊いた途端
自分が参加していいものか迷っていたが、ナツに強引に押し切られての参加となった。

不安気な顔を向けるスミレに、ダイスケが笑いながら言う。
 
 
 
 『前部長もマネージャーも、いい人だから大丈夫だよ。』
 
 
 
それでもまだ尚、まるで居場所がなさそうな心配顔のスミレ。
 
 
 
 『僕も行くし、ナツもいるんだから・・・ 大丈夫だって。』 
 
 
 
そう言うダイスケはいつものポーカーフェイスが、今日はどこかやわらかく感じて
スミレははじめて見るダイスケのそんな表情に思わず目を逸らした。

その時、少しだけ心臓が早く打ち付けた事に、スミレ自身気付いていなかった。
 
 
 
まだまだ猛暑が続く8月の、とある土曜。

その日、6人は駅前で待合せをしていた。
ジリジリと日差し照り付ける昼時のそこは人でごった返していて、ただ立って待つの
でさえ人波に軽く流され、その熱気も相まって汗が噴き出る。
 
 
最初に待合せ場所に着いたのはアサヒだった。
辛うじて一人分だけ空いたベンチに腰掛け、背を丸めて休日の気怠い空気を漂わせ額の汗を拭う。
 
 
次に、ナツとダイスケが一緒にやって来た。

ナツがアサヒの姿を見付け嬉しそうに手を振ると、アサヒも笑って振り返す。
ふたりの右手首のミサンガが、同時にやさしく揺れる。

ダイスケはそんな仲良さそうなふたりを横目に、小さくペコリと会釈をした。
 
 
すると、駅向こうからイセヤとミサキが並んでこちらにやって来る姿。

いつ見てもなぜか後輩陣には安心する ”部長 ”と ”マネージャー ”ふたりの佇まい。
アサヒ・ナツ・ダイスケの3人は、まだ小さく見えているだけの先輩ふたりに
嬉しそうに軽く会釈をする。
 
 
そして最後に、慌てて走って向かって来るのが新1年生スミレだった。
 
 
 
 『スミレちゃ~ん! こっち、こっち~!!』
 
 
 
ナツが満面の笑みで少し背伸びしながら、日焼けした小さな手を左右に振る。

待合せ時間は過ぎていないので遅刻ではないものの、一番遅くに到着してしまった
スミレは申し訳なさそうに眉根をひそめ謝った。

そして初対面の大先輩イセヤとミサキに、仰々しく自己紹介をするともう一度、
『遅くなってすみませんでした!!』 と深々と頭を下げた。
 
 
『ちょっと、アサヒー・・・』 そのスミレの姿に、ミサキが眉をしかめ口を開いた。
 
 
 
 『アンタ、どんだけわたし達のこと ”怖い先輩 ”だって吹き込んだのよ!

  スミレちゃん、なんか、怯えまくってんじゃないの~!!』
 
 
 
そう言うとミサキは、小さく縮こまるスミレの肩を抱いて『取って喰いゃしないっての』 と
ニヤリ。口端をつり上げて笑って言った。

その顔は、本当に喰ってしまいそうな笑顔だった。
 
 
 
 
 
6人揃ったところで、駅前のスーパーでたこ焼きパーティーの買出しをする。

ダイスケがカートを押し、それに女子トリオ ナツ・ミサキ・スミレが続きアレコレ騒がしく
食材を選んでいる。 トリオの顔は一様に嬉しそうで、白い歯がこぼれっぱなしで。
 
 
『お餅とかチーズとか入れたい!!』 他者の意見も聞かずナツが売り場からそれを
持って来てカートに放る。
 
 
『え?今日ってたこパでしょ? お好み焼きじゃないよね~?』 ミサキがそれに
怪訝な顔をし首を傾げ、再び売り場へ戻してしまう。
 
 
『小さく刻めば・・・ 入れられなくも、ないんじゃないですかね~?』 スミレが
すかさずフォローしている途中で、『あ! 納豆とかも変わり種で面白いかも!!』
ナツが次の食材を自由に次々掴んでは放る。
そしてミサキに却下され、スミレがやんわりフォローするという流れを延々繰り返していた。
 
 
 
 『多、数、決、に。 しましょう!!』
 
 
 
女子トリオの全くまとまりがない遣り取りに、最も冷静な男ダイスケがぴしゃり言い放った。
3人の顔を見すがめ、それはまるで小学生に説く教師のようで。
 
 
 
 『いい・・・?ナツ。 なんでもかんでも入れてるけど、

  みんなが食べたい物じゃないとダメなの、分かるよね・・・?』
 
 
 『サノ先輩・・・。 全部が全部、却下してたら買い物進みませんよ!』
 
 
 『セトさん・・・。 無理やりナツなんかフォローしなくても、全然大丈夫だから。』
 
 
 
ダイスケの至極真っ当な意見に、女子トリオが揃って素直に『ハイ。』と返事をした。
その三者の背中のカーブは、廊下に立たされる小学生のそれ、そのもの。

それをブラブラと只つっくいて後ろを歩いていたイセヤとアサヒが、授業参観に来た
親のようにクククと肩を震わせて笑って見ていた。
 
 
 
 
 
やたらと時間が掛かった買出しを終え、駅から程近くのイセヤ邸に到着した一同。
アサヒもナツ達も、勿論遊びに来たことなど無くお邪魔するのははじめてだった。
 
 
自営で商売をしているイセヤの両親は、土曜も自宅続きになっている店に出ていて
自由にキッチンを使っても問題なかった。

『お邪魔シマ~ッス!』 一同声を揃えて挨拶すると、ぞろぞろとリビングに上がる。
玄関で脱いだみんなの靴を、一番最後に入ったスミレがちょこんとしゃがんで全員分揃えている。

それをチラリ振り返って見ていたダイスケが、少し驚いた目を向け微笑んだ。
 
 
 
リビングの座卓テーブルにたこ焼き器を置き、6人で準備に取り掛かっていた。

料理が得意なミサキが生地を作り、スミレは中に入れる具材を細かく包丁で刻んでいた。
男子トリオは、焼く準備をはじめたり、皿を出したり、ドリンクの準備をしたりしている。
 
 
ナツだけが、ひとり。ソワソワと、しかし一番頬を赤くして嬉しそうにキッチンと
リビングを何往復もムダにウロチョロしている。
 
 
ズビシッ。 いつもの垂直チョップがアサヒからお見舞いされた。
 
 
 
 『なーにやってんだよ、手伝えよ~・・・』
 
 
 
笑いながら覗き込むと、『だってさー・・・ な~んにも、やる事ないんだも~ん。』
そう言って、アサヒが掴む準備中のコーラのペットボトルを奪おうとする。
 
 
 
 『ちょ! コレ、俺の仕事だー・・・』

 『あたしがやるから、貸して下さいよー・・・』
 
 
 
グーパンチしたりくすぐったり、子供のようにキャッキャとじゃれ合って笑っていると、

『そこのふたり! イチャイチャするなら外でやって来て。』 冷静にミサキに一言
いわれて、ふたりは途端に照れくさそうに俯いた。 『・・・サ~せぇん。』
 
 
イセヤとミサキが顔を見合わせ、ぷっと笑った。
 
 
 
 
 
 『やりたい!やりたい!やりたい!』 

たこ焼きのふちが少し焼けて固まってきた頃、作ることに慣れているイセヤが竹串で
たこ焼き器の穴をなぞりながらひっくり返すと、ナツが騒がしく竹串を握りしめた両手を
ジタバタ動かした。
 
 
やっと始まったたこ焼き作り。
慣れた手つきでたこ焼きを回転させるイセヤの隣に引っ付く、やたらと騒々しい小柄。
 
 
 
『オノデラー・・・ もうちょっと待ってろって。』 優しく言い聞かせようとするイセヤ。
 
 
『えー・・・ やりたい!やりたい!早く代わって、ブチョー!』 全く聞く耳を持たない。
 
 
 
 
 『取り敢えず、最初のコレだけでもちゃんとしたヤツを・・・』
 
 
 『やりたい!やりたい!ブチョー、ずるいー!!』
 
 
 
 
 『ちょっと慌てんなって、オノデラ・・・』
 
 
 『ブチョー!!!』
 
 
 
すると、温厚なイセヤが吠えた。
 
 
 
 『アサヒっ!! ”お前の ”コイツ、黙らせろっ!!』
 
 
 
滅多に声を荒げることのないその低音が、たこ焼きが鉄板に焦げる香ばしい焼き音に
混じりリビング中に響き渡った。
 
 
イセヤに怒られたことより、”アサヒの ”と言われた事が恥ずかしくて、ナツは急に
貝のように口を閉じ静かになった。 

アサヒも照れくさそうに『ばーか。』 イヒヒ。と笑ってナツの頭に垂直チョップする。
そして互いにツンと顎を上げ睨み合うように目を向け、クスクス笑い合っている。
 
 
そんなふたりに、ミサキが呆れて言う。
 
 
 
  『・・・なに? 今日、ノロけに来たの・・・? アンタ達。』
 
 
 
 『・・・ちがっ!!』

 『・・・ちがっ!!』
 
 
同時に言って、ふたり同じように口許を緩めて俯いた。

普通にしてるつもりでも傍から見れば ”じゃれ合っている ”ように見えてしまう事が
照れくさくてどうしたらいいか分からなくて、気まり悪げに互いチラっと目を合わせた。
 
 
 

~ たこパをしよう ~ ■ 中 編

 
 
真夏の午後のリビングは、たこ焼きの熱にみんなの止まない笑い声と熱気がプラスされ
冷房が入っているはずなのに、一同汗だくで一様に顔が赤い。
 
 
イセヤにやっと焼き係を代わってもらったナツが、乱雑にたこ焼きをひっくり返す。

手先は器用なはずなのに、何故か料理となるとナツはからっきしダメだった。
鉄板で火傷でもするんじゃないかと、見守る一同がハラハラと心配で気が気じゃない。

ナツが焼き始めた途端、テーブルは飛び跳ねた液や具材で汚れはじめた。
竹串を危なっかしく握る指先にも液が付き汚れている。
 
 
すると、
 
 
 
 『ぁ。 ミサキー・・・ キッチンからおしぼり持って来て。』
 
 
 
『ん~。』 イセヤの声に立ち上がってキッチンへ向かったミサキ。
 
 
そのふたりの遣り取りに、その他一同が一瞬、無言になりかたまった。
みな、今自分たちの耳に聴こえた ”それ ”が聞き間違いか否か脳内リピートしている。
 
 
確認せずにいられないナツが、口火を切った。

『今・・・ ”ミサキ ”って呼びました・・・?』 ナツが目を見開いている。
 
 
 
 『・・・ん?』
 
 
 
イセヤが、言われている意味が分からず首を傾げる。
すると、なにか思い付いたように少し呆れながら笑ったイセヤ。
 
 
 
 『え?お前・・・今更? 知らなかったのか~? フルネーム、サノ ミサキだぞ?』
 
 
 『いやいやいやいやいやいや、 そーじゃなくてデスね・・・

  下の、名前・・・を、呼び捨てに・・・しました・・・?』 
 
 
 
ナツ以外の、アサヒ・ダイスケ・スミレも必死の形相で、皆おなじように身を乗り出している。
4人が雁首揃えてイセヤを凝視して、二の句を継ぐのを固唾を呑んで待っている。
 
 
キッチンからおしぼりを持って来たミサキ。
今リビングで交わされていた遣り取りは聴こえていなかった様子で。
 
 
 
 『イセヤ君・・・ あの、2段目の引出しにあるやつでいーんだよね?』
 
 
 
 
 『イ セ ヤ く ん っ ?!』

 『イ セ ヤ く ん っ ?!』

 『イ セ ヤ く ん っ ?!』

 『イ セ ヤ く ん っ ?!』
 
 
 
4人、まるで『せ~の!』 とタイミングを合わせたかのように、一斉に声を張り上げた。
イセヤとミサキは、この一同の反応の意味が全く分からず目を白黒させている。
 
 
 
 『あのー・・・ 当時、部活ん時って・・・
 
 
  部長はサノマネージャーのこと、”マネージャー ”って呼んでましたよね・・・?

  マネージャーは、部長のこと・・・  ”部長 ”って・・・。』
 
 
 
 『うん。』

 『うん。』
 
 
イセヤとミサキが同時に頷く。 それがなにか?という顔を向けて。
 
 
 
 『ぇ・・・。 で? 今は・・・ ”ミサキ ”と ”イセヤ君 ”??』
 
 
 『今は、ってゆーか・・・

  ・・・当時から、部活以外ではそうだけど?』
 
 
 
ミサキがキョトンとしながら、あっけらかんと言う。
一同、イセヤに目線をスライドさせると、その顔も同じようにキョトン顔で。
 
 
 
 
 『フツー・・・ 付き合ってたら、そーゆーモンじゃないの?』
 
 
 
 
イセヤの口から至極当たり前のように飛び出した ”付き合ってる ”というワードに
アサヒ・ナツ・ダイスケ・スミレの4人が絶叫した。
 
 
 
 『ええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!』
 
 
 
 
何故か、イセヤとミサキが付き合っている事は部員はみな気付いていなかった。

元々イチャイチャするタイプのふたりではないし、呼び名も部内では ”役職呼び ”
だったし、部活終わりの帰宅時もふたりで帰ってはいたものの、それは只単に方向が
同じだからだと何故かみんな思い込んでいた。
 
 
”部長 ”と ”マネージャー ”というあまりにしっくりくる自然なふたりの姿に
それ以外の関係を想像したことなど、みな一度も無かったのだった。
 
当のふたりも、わざわざ発表するような事ではないので特に何も言わず。
気付かれていなかったという事実に、逆にイセヤとミサキは驚いていた。
 
 
『いいいいいつから、っスか・・・?』 アサヒが人一倍うろたえながら訊く。
 
 
 
 『アサヒが入部してすぐ、だよねぇ~?

  ほら、連絡網作るのに住所訊いて回ったことあったじゃない? あの時。』
 
 
 
ミサキがなんだかちょっと思い出し笑いをするように、可笑しそうに頬を緩める。
そんなミサキを、イセヤはどこか他人事みたいに笑って眺めている。
 
 
 
 『ええええええ・・・・ なんか・・・チョォ~嬉しい!!

  すっごい嬉しい!! あたし、泣きそう! ヤバイヤバイ!!』
 
 
 
ナツが涙目になりながら、顔を真っ赤にして興奮している。

アサヒは、信頼して止まないこのふたりの関係に今まで気付けずにいた事に、
どこか悔しそうなもどかしそうな、心中複雑そうな表情を必死に隠そうとしている。
 
 
素敵なイセヤ・ミサキカップルの姿にすっかり陶酔してしまって、今焼いているたこ焼きの
ことなど頭の中からキレイサッパリ忘れ去っていたナツ。

すると、『ナツ先輩!!』 スミレが慌てて竹串を奪いひっくり返すも、下半分真っ黒焦げに
なったツートンのたこ焼きは、よく言えばとびきり香ばしいにおいをリビング中に漂わせ
一同呆れ顔で大笑いした。

もくもくと目の前で上がる煙に、ナツがケホケホとむせている。
 
 
『コゲコゲだから、もうダメじゃね?』 むせるナツの背中をやさしくさすりながら
アサヒが竹串で転がして遊んでいると、

『勿体ないじゃないですか~・・・』 と、スミレが焦げた部分だけペティナイフで
切り落として、焦げていない半球の断面にとろけるチーズを乗せ、ふたつくっ付けると
ソースやマヨネーズで美味しそうにそれを盛り付けた。

まるで、普通の美味しそうなたこ焼きに変身した半球のたこ焼き。
 
 
 
 『すごいじゃん。』
 
 
 
笑いながらぽつり小さく褒めたダイスケに、スミレの顔が嬉しそうにパっと華やいだ。

その一瞬の微笑みをミサキは見逃さなかった。
 
 
 

~ たこパをしよう ~ ■ 後 編

 
 
 『ねぇねぇ~、スミレちゃ~ん・・・

  ここの男子3人の中で、一番いいなって思うの、だ~れ~ぇ??』
 
 
 
ミサキはニヤニヤと緩む頬を無理やり引き戻し、さり気なく、たまたま思い付いたかのように。
イセヤは隣に座るそんなミサキの後頭部を、こっそりパコンと軽く叩いた。
 
 
 
 
  (まーた・・・ ミサキの、余計なお世話病がはじまった・・・)
 
 
 
 
突然のミサキからの質問に、面食らってアタフタするスミレ。
今までの流れでどうしてそんな質問がとぶのか、全く以って意味が分からない。
 
 
 
 『ぇ・・・ えーっと・・・。』 
 
 
 
『もし万が一、それがイセヤ君でも、アサヒでも、別に気にせずに言っちゃっていーから!』

そのふたりではないという確証の元、ミサキはこの質問をしているのだが。
 
 
もじもじと困惑顔を向け、口ごもるスミレ。
所在無げにその指先は無意味に爪をはじき、目線は中空を彷徨う。
 
 
 
 『じゃ、質問かえるわ!

  自分より背が高い人と、低い人なら・・・ どっちがいい?』
 
 
 『・・・そりゃぁ、高い方が・・・。』
 
 
 
 
 『じゃぁ、痩せてる人と、太ってる人なら・・・?』
 
 
 『ん~・・・ どっちかってゆうと痩せてる、方が・・・。』
 
 
 
 
 『じゃぁ、ムダに元気なタイプと、物静かなタイプだと・・・?』
 
 
 『ぇ・・・? えーっと・・・ 物静かな方がいいですかね・・・。』
 
 
 
 
 『年上と年下だったら?』
 
 
 『・・・年上の方が・・・ 頼り甲斐、ある方がいいです・・・。』
 
 
 
 
 『じゃぁ、一人称は・・・  ”俺 ”と ”僕 ”、だと・・・?』
 
 
 
ここまで来た段階で、ミサキが引き出そうとしている固有名詞に気が付いたスミレ。

真っ赤になって瞬きを繰り返し、無意識のうちに指先を絡めたり爪をはじいたり。
ソワソワと落ち着きなく、髪の束を赤く染まった耳にかけたり。
 
 
『どっち?どっち??』 メデューサのように目をギラつかせて詰め寄るミサキ。

すると、袋のネズミ状態のスミレがさすがに気の毒になって、助け舟を出したイセヤ。
後ろからミサキの口を大きな手でふさぐと、またしてもパコンと後頭部をはたく。

そして、リメイクたこ焼きをパクっと口に放ると『うん、ちゃんと旨いね。』 と
やわらかく微笑んだ。
 
 
すると、『ねぇ。最後の質問の答えは~?』 ミサキの ”策略 ”に気付いていない
ナツが無邪気に続けた。

慌ててイセヤはナツの頭にも手を伸ばしパコンとはたくと、アサヒに向けてナツを
顎で差し(お前の、どうにかしろ!)と目で合図する。
続いてアサヒからもチョップされたナツ。 『え?なに??』 キョロキョロと見渡す。
 
 
 
すると、真っ赤に俯いたままスミレが、律儀にも小さく小さく答えた。
 
 
 
 『・・・ ”僕 ”、の方が・・・ なんとなく、やさしい感じがしますよね・・・。』
 
 
 
(あと一押しっ!)ミサキが心の中でガッツポーズの腕を上げかける。
 
 
『・・・て、ことは~? この3人だと~ぉ?』 イセヤに口をふさがれたその指の
間をぬって最後のトドメに入るミサキ。
 
 
 
 
 
 『・・・・・・・・・・・・・モチヅキ、先輩・・・・です、かね。』
 
 
 
 
『え!!!』 自分の名前が呼ばれて、ダイスケが目を見張りあからさまにうろたえた。

目の前で繰り広げられる攻防戦の意味が全く分かっていなかったダイスケ。
まさかその矛先が最終的に自分に向かうなんて考えてもいなかった。
 
 
もやしっ子の色白肌がみるみる赤くなってゆく。
パチパチとせわしなく瞬きを繰り返し、照れくさ過ぎて誰の顔も見られない。
 
 
 
 『そうだったの~?! スミレちゃん。

  でも、ダイスケって口うるっさいし、細かいし、な~んか小姑みたいだよ? いいの~?』
 
 
 
ナツが口を挟んだ瞬間、ミサキに両頬をつねられて横に引っ張られた。
 
 
 
 『なななんですかぁー・・・ せんぱーい・・・ やーめーて・・・』
 
 
 
ミサキはナツの耳元で『ヨケーな事ゆうな!馬鹿オノデラっ!』 小声で怒った。
 
 
 
 
 
その後は、やたらと満足気に勝ち誇るミサキと、まるで空気が読めていないナツ。
呆れ顔で、でもどこか愉しそうに笑いを堪えるイセヤとアサヒ。

そして、ダイスケとスミレは互いの方に目を向けることも出来ず、急に他人行儀に
ソワソワと落ち着きなかった。
 
 
夕方になり、たこパは解散の時間となった。

後片付けを終えたイセヤがミサキに言う。 
『ミサキはもうちょっとウチにいるんだろ?』 笑いを必死に堪え、コクリ頷くミサキ。
 
 
 
 『お前さ・・・ あの、アレ! 今度貸すって言ってた、アレ、

  貸すから、ちょっと残ってー・・・』
 
 
 
アサヒがナツに言うと、『なに?貸すって、なにが??』
キョトンとして何度も聞き返す。 『いーから! ちょっと残ればいいの!』
 
 
 
『お疲れ~!』 『またね~!』 『セトさん頼むぞ~!』 『気を付けてね~!』
先輩たち4人にニヤニヤ顔で見送られ、ダイスケとスミレふたりがペコリ頭を下げ帰ってゆく。
 
 
ナツ以外の3人は、玄関のドアをバタンと閉めた途端、大笑いした。
 
 
 
 『ゴーインだなぁ・・・ サノ先輩・・・』
 
 
 
アサヒがミサキの鬼のような質問責めを思い出し、呆れ顔で笑う。

『ちょっと荒療治すぎたんじゃないか~?』 イセヤもミサキを睨みつつ口許は緩んでゆく。
 
 
『え? なんの話・・・?』 ナツだけが、相変わらず話についていけず。
 

すると、ミサキは嬉しそうに笑って言った。
その顔は男らしくて、凛々しくて、眩しいほど神々しい。
 
 
 
 『ああゆう子は、背中タックルする勢いで押し込んでやんないとね・・・。』
 
 
 
 
 
夕暮れの帰り道。

まだまだ気温が高い夕刻に、ヒグラシの耳障りな音が延々響き、暑苦しさを助長する。
ダイスケとスミレは、照れくさそうに前後に少し距離をあけて歩いている。
 
 
あんな皆がいる前で、お遊び程度の大して意味の無いものだとしても名指しされて
迷惑だったかもと、不安気な目を落としてトボトボとスミレが歩く。 

前をゆくダイスケの表情を見るのが怖くて、顔を上げられない。
 
 
そんなスミレをチラっと振り返り見た、ダイスケ。
足元に目線を落としツムジしか見えないその姿は、きっと先程のアレを過剰に気にしている風で。
 
 
 
 『あのさ・・・ あの、別に僕、怒ったりとか・・・ 別にしてないから、

  あの・・・ 変に気使ったり、気にしなくてヘーキだから・・・さ。』
 
 
 
聴こえたその声に上げたスミレの顔は、真っ赤になってまるで泣き出しそうに見える。
『すみません・・・。』 小さく返したスミレに、ダイスケはぷっと笑って言う。
 
 
 『だから・・・ 謝ることないから、ほんとに・・・。』
 
 
 
少しだけ居心地の悪い沈黙が、ふたりの間を通り過ぎた。
 
 
 
 『あの、半分たこ焼き、チーズでくっ付けたやつ・・・ アレ、美味しかったね~?』
 
 
 
なんとか話題を変えようと必死なダイスケが、スミレを盗み見ながら微笑んだ。

いつも淡々とした口調のダイスケが、ほんの少したどたどしく早口になっている。
咄嗟にそれがダイスケの気遣いだと分かったスミレ。

がんばって口角を上げ頬に笑みを作ると、少し早足でダイスケに追い着き並んだ。
 
 
 
 『だって・・・ 捨てちゃうのなんか勿体ないでしょ~?

  半分だって、小さくたって、ナツ先輩が一生懸命焼いてくれたたこ焼きですから。』
 
 
 『そうだね・・・

  ってゆうか、セトさんて・・・ マネージャーに向いてるよね。

  気が利くってゆうか、気配りが出来るってゆうか・・・。』
 
 
 
ダイスケから不意にかけられた褒め言葉に、スミレが分かりやすく嬉しそうな表情を向けた。
先程、がんばって作った笑顔は、心からの微笑みに変わる。
 
 
 
 『・・・ありがとうございます。

  わたし、頑張ってるひと応援するの好きなんです。得意なんです・・・。

  今はまだ、全っ然ですけど、

  モチヅキ先輩の右腕になれるように頑張ります・・・。』
 
 
 
スミレのまっすぐな言葉に、ダイスケが照れくさそうに目線をはずした。
 
 
 
 『ぁ、はい・・・

  僕も、ガンバリます・・・。』
 
 
 
ふたり、微笑み合う。
互いにさり気なく気遣い合うやわらかな空気に、なんだか、やさしい風がふたりの間に流れた。
 
 
 
 『ぁ、モチヅキ先輩。 そう言えばこないだの短距離の記録・・・』
 
 
 
いつの間にか話題はマネージャーの仕事の話に移り、いつまでも話し声は途切れることなく
ふたりは肩を並べ歩いた。
話に夢中になり気が付けば互いの家へ別れる分岐点で足を止め、尚もしゃべり続けている。

もう街灯のあかりが灯り、ふたりの影がしっとりと伸びている事にも気付かない程夢中になって。
話が尽きてしまうのが寂しいかのように、次々話題を紡いで。
 
 
 
ゆっくり、顔を出していた三日月。

ふたりの背中から、遠慮がちに。 しかし、やさしくあたたかく覗いていた。
 
 
 
                           【おわり】
 
 
 

雨くゆる、日曜2時に紫陽花まえで。 【スピンオフ2】

雨くゆる、日曜2時に紫陽花まえで。 【スピンオフ2】

『雨くゆる、日曜2時に紫陽花まえで。』スピンオフ2です。 アサヒとナツが計画した ”たこ焼きパーティー ”を開催。 スミレを捉えたミサキの暴走は誰にも止められない?! 本編【雨くゆる、日曜2時に紫陽花まえで。】 【番外編1、2】 【スピンオフ1】も、どうぞご一読あれ。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-08-27

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. ~ たこパをしよう ~ ■ 前 編
  2. ~ たこパをしよう ~ ■ 中 編
  3. ~ たこパをしよう ~ ■ 後 編