Just be ***

ある一軒の家に目つきの悪いチビの男の子がいました。
この物語はそんなチビの男の子と、ある変わった女の子のお話。

プロローグ

朝日が昇ると同時に、ある赤ん坊の泣き声が病院内に響きわたった。
「元気な男の子ですよー」
看護婦が笑顔で赤ん坊を母親にわたす。
「ミカサ。よく頑張ったな。」
「エレンが付き添ってくれていたおかげ。」
父親になったエレンの目には涙が滲んでいて、耳も赤くなっていた。
母親のミカサはそれを見てクスっと笑う。だが、ミカサは赤ん坊の顔を見ると急に真剣な表情になった。
「エレン、この子の顔……。」
「え?」
「気の所為かもしれないけど、あの人に似てない?」
赤ん坊の頃など、皆容姿は似たり寄ったりだ。だが、ミカサは何かを察したのだった。
エレンもまじまじと赤ん坊を見ると、
「確かにそんな気がする。パーツはミカサ寄りだから余計そう見えるな。」
と、頷く。
看護婦は2人に近寄り、
「この子こお名前はお決まりですか?」
と聞いた。
「名前は決まったわ。」
「俺も前々から決めていた。」
2人はきっと同じ名前を頭に浮かべていたのだろう。顔を見合わせ、また幸せそうに笑った。
たくましく、仲間思いで、誰からも憧れる存在になって欲しい。

―――あの人みたいに。

1

20××年春。
真昼間なのに外にも出ず、インドアの生活を送るリヴァイは、ただただぼんやりと雲一つない青空を眺めていた。
春は出会いと別れの季節とよく耳にする。
だが、まだ小学3年生の自分にとってそんなことはどうでもよかった。面白いアニメが終わり、つまらない野球試合などの特別番組が放送されるこの時期は本当につまらなくて仕方ない。
春休みも今日で最後だ。特に用事もない。
いつもの事だ。もう慣れた。
学校では友達を作らず、休み時間は椅子に座って時計の秒針を見つめるか、教室に入ってきた虫がどこに行くのか目で追ったり、気になった埃を掃除するくらいだ。
俺だって好きでこんな生活を送っている訳じゃない。本当は喋ることは好きだ。はしゃぐことも好きだ。沢山の友達と外で遊びたい。
でも、この容姿のせいでそんなことは出来ない。こっちから話しかけてみればみんなが泣いて俺から逃げる。
以前、怖いって女子に言われたことがずっと頭に残っている。
思い出すとまた辛くなる。
リヴァイはふぅとため息をつく。
みんなが外で遊んでいる中、自分は部屋に寝転がって、スマホの画面をぼーっと眺めるだけ。
小学生はまだ早いと言われ続けても、ねだって買ってもらったこのスマホ。実は連絡先は親しか入れていない。買ってもらったその日にLEINという人気のSNSアプリを入れたが友達登録もしたことがない。
「友達がほしい。」
リヴァイは無意識の内にそう呟いた。

──リヴァイ!

ふと誰かが自分を呼んだ気がした。
部屋から出てリビングに行くと母親のミカサがいた。
「母さん。俺の名前呼んだ?」
ミカサはこっちを振り向き。
「呼んでないわよ。」
と、いつも通り愛想悪く言う。
目つきが悪いのは母さん譲りかもしれないと改めて感じた。
母さんは親父のエレンにしかあまり笑顔を見せない。子供である俺にも勿論見せることはあるが、その瞬間何かを思い出したかのように真顔に戻る。親父も同じく、俺に兵長とか呼ぶことがある。
二人はまだ29歳なのにもうボケが来てしまったのかと心底心配になる。
母さんが俺を呼んでないとなると、また、あの例の空耳か。
「そう。リヴァイ、買い物行ってきてくれる?ついでに好きなお菓子も買ってきていいから。」
ミカサはメモとお金をリヴァイに渡す。
「了解。」
運動がてらにはちょうど良いとジジくさいことを考えながら、リヴァイは家を出ていった。

2

いつも来るスーパーマーケットはおばさんだらけ。クラスメイトの奴を見かけることはまず無いからここは家の次に安心する場所だ。
リヴァイはメモに目を通す。
今日はカレーみたいだ。書かれている通りカレールウ、にんじん、じゃがいも、牛肉、チョコレート、玉ねぎを籠に入れて行く。
一応これで必要なものは揃った。ミカサが好きなお菓子を買っていいと言っていたことを思い出し、菓子売り場へ向かう。
その時、菓子売り場から突然子供の声が聞こえてきた。一瞬クラスメイトの誰かかと心配したが、顔を見ると知らない奴だった。
「買ってよー!ね?お願いします!本当に今日だけ!この巨人クッキーくっそ美味いんだって!いいでしょ!?」
俺より少し背が高くて、茶髪でボサボサ髪を乱雑に束ねた女が金髪のハンサムな長身の男の足にくっついて菓子をねだっていた。
「おい、女の子がクソとか言っちゃ駄目だと以前言ったのを忘れたのかい?」
「あーもう!はいはい、わかったから!」
自分より二三個年上に見える女が、まるでそこらのガキと同じように大人にねだる姿がなんとも滑稽で面白く、ついフッと笑ってしまった。
それに気づいて慌てて口を覆った時にはもう遅く、その女と男がこっちを振り向いた。女は眼鏡越しの目を見開きこちらを一瞥する。
「き、君は…!むぐっ!?」
女はリヴァイに向かって何か喋ろうとしたみたいだが、金髪男が女の口を塞ぎそれを防ぐ。
「やあ。はじめまして。」
金髪男は優しい口調でリヴァイに話しかける。
どこか懐かしいのは気のせいだろうか。
「こ、こんにちは。」
あまり身内以外とは話さないリヴァイは素っ気なく答えた。
「ここら辺に住んでいるのかな。もしかして君、マリア小学校に通っている?」
リヴァイの住んでいる地区にある小学校といえばマリア小学校くらいだ。だから、通っている小学校を当てられることは不思議な事ではない。
「あぁ。」
「この子は明日からその小学校に通うんだよ。学年は違うかもしれないが仲良くしてやってくれ。」
「わかった。」
まずこいつが俺と仲良くしてくれるような心の広い奴かが問題だがな。
と、心の中でそう思いながらリヴァイは、この女も皆と同じく自分をシカトする所を想像していた。
「あーもうこんな時間か。私達はそろそろ帰るよ。さようなら。ほら、行くぞ。お菓子はまた今度な。」
今まで塞いでいた手を外し、女は息をきらしながら、
「ぷはっ!はー…やめてよ死ぬかと思った!あ、じゃあね。また、学校で!」
と、リヴァイに言った。
「またね…か。」
また、会えばアイツは喋りかけてくれるのだろうか。
少し期待してしまう自分が恥ずかしいが、明日の学校がいつもより楽しみに感じた。
そう言えば、あいつは一体俺に何を話そうとしたんだろうか。

3

帰宅したリヴァイはミカサのいるリビングへ入った。
「ただいま。」
リヴァイは結局菓子を買わず、ミカサに頼まれた物だけを買ってきた。
「おかえり。お疲れ様。」
ミカサはリヴァイから買物袋を受け取りキッチンへ向かった。
「今日はカレーだろ?」
「そうよ。」
ミカサはまた素っ気なく答える。
「母さん。俺、母さんに何かした?いつも返事が素っ気ないのはなんでなんだ?」
ミカサの肩がピクリと動いた。
「どうしたの急に。怒ってるように見えた?」
「いや。ごめん、なんでもない。俺の気のせいだったんならそれでいいや。」
「…。」
リヴァイはリビングを出て自分の部屋に向かった。
俺にだけ素っ気ない態度をとると思っていたのはやっぱり勝手な勘違いだったようだ。
ミカサの性格上、仕方無いことなんだとリヴァイはそう割り切った。
リヴァイは自分の部屋に入って今日スーパーで会ったあの二人を思い出していた。
どこか懐かしい雰囲気を醸し出していたあの二人は、やっぱり初対面ではなかったのだろうか。あの女もなんだかこっちのことを知っているような素振りを見せた事も突っかかる。
考え込んでいるうちに時計の針はもう6時を指していた。
「ただいまー。」
エレンが仕事から帰ってきた。
エレンは医者であるエレンの父親グリシャ(いわゆるリヴァイにとっての祖父)の跡を継ぐ為、グリシャの病院で働いている。
「エレン。おかえりなさい今日は早かったのね。今晩はカレーなのよ。エレン、カレー好きでしょう?」
ミカサは一生懸命エレンに喋りかける。
「おお!今晩はカレーか。勿論好きだぞ。」
エレンは笑う。その笑顔を見たミカサは体を震わせて喜ぶ。
「おかえり。」
リヴァイも玄関に足を運びエレンを迎える。
「あぁ。ただいま!」
リヴァイにもふわりと優しい笑みを浮かべる。
その優しい顔はミカサに向けるものとは似ていたが、エレンはリヴァイを見て、どこか安心しているように見えた。
「リヴァイ。そろそろお風呂に入った方がいい。もう、湧いているから。」
「わかった。」
リヴァイは脱衣所に向かった。その後ろ姿をエレンとミカサはじっと見送っていた。
「エレン、ますますあの人に似てきたと思わない?過去の記憶は無いみたいだけれど、私達みたく突然思い出す可能性も無いことは無いとおもう。私が思い出したのはちょうど、今のリヴァイと同じくらいだった。」
「そうか…。俺はお前と出会った時、鮮明に思い出したんだ。もしもリヴァイが本当に兵長なら、あの恐ろしく辛かった過去はずっと忘れたまま、新しいこの人生を幸せに生きて欲しいんだけどな。」
「過去、リヴァイにとって存在が大きかった人物に出会って思い出すか、ある日突然何かのきっかけであの辛い出来事を思い出すか、記憶が戻らないまま新しい人生を歩んでいくか。」
エレンとミカサは目を合わせて、ふぅとため息をついた。
「リヴァイに兵長の記憶が戻ったら、俺たちに対する目が変わってしまうのかな。今はリヴァイにとって俺は父親で、ミカサは母親。もう、父さん母さんって呼んでくれなくなるのかもしれないのかもな。」
エレンの目に涙がにじむ。
「正直、前まではリヴァイのあの顔で母さんと呼ばれると、私の過去の記憶が蘇って良い気はしなかった。でもね、この頃ようやく、笑顔を向けれるようになってきたの。過去のエレンに対しての行動は、許されることでは無いと思っていた。だけど、もう少しなの。やっと、リヴァイの母親になってきたの……。それなのに、それなのに……。」
ミカサの目からは涙が溢れる。
「ミカサ……。」
エレンはミカサにそっと寄り添う。
「でも、それでも私の中の記憶全てが嫌だった訳では無いわ。残酷な世界にも美しいものは沢山あった。リヴァイにとっても美しかった過去がきっとあったと思うから‥‥思い出して欲しいとたまに思うことがあるの。」
「そうだよな。」
エレンが深く頷いた。
すると、廊下を歩く音がしてエレンとミカサは目を見開いて振り返る。そこには風呂から上がった部屋着姿のリヴァイが呆然とこちらを見て立っていた。
「母……さん?どうして、泣いて……。」
「リ、リヴァイ。」
エレンは手がピクリと動くだけで、金縛りにあったかのように動けない。
「リヴァイ……?今の話、どこから、聞いていた?」
ミカサは耳を塞ぎたい気持ちで一杯だったが、リヴァイに問いかける。
「話?俺は今ここに来たばかりだ。ところで、母さんが泣いてるのはなんでだ?父さんが泣かせたのか?」
エレンとミカサはホッと胸を撫で下ろす。
「リヴァイ、私が泣いていたのはエレンのせいじゃない。だから安心して。心配してくれたのね。ありがとう。」
ミカサはリヴァイに笑いかける。
あ、母さんが笑った。
リヴァイはミカサの笑顔を見て、胸が熱くなった。
「じゃあ、なんで泣いて……」
「リヴァイ。心配しなくて大丈夫だ。この頃寝不足であくびをしただけだから。」
この嘘は少々苦しいかとエレンは思ったが、リヴァイは素直に信じた。
「そうか、なら良かった。」
「あ、もうこんな時間。晩御飯にするからリヴァイ、手伝って。」
ミカサはいそいそとキッチンへ向かった。リヴァイもミカサに着いて行こうとした時、
「リヴァイ。」と、エレンはリヴァイを呼び止めた。
「なんだ?」
「学校は、楽しいか?」
エレンは心配そうな顔で問いかける。
こんな顔をされると、どうしても本当の事を言えなくなってしまう。
「うん。凄く楽しい…」
この一言でエレンの顔はぱぁっと明るくなった。
「そ、そうか!そうかそうか!」
エレンは軽い足取りでリビングへ入った。
ごめん。父さん。
リヴァイは小さな声でそうつぶやいて、明日こそは必ず友達をつくろうと決心したのだった。

5

今日は春休み明け、始業式だ。
学校の校門前でリヴァイは深く深呼吸をする。
今日は待ちに待ったクラス替えだ。新しい友達をつくるという目標を達成する為、今朝は風呂に入り体を清め、3回歯を磨き、お気に入りの服装で登校したのだ。
父さん、母さん。俺、頑張るから。
そう心の中で言い、リヴァイは一歩踏み出した。

掲示されていた自分の指定されたクラスの前に来た。
ざわつくクラスの中。一気に緊張が最高潮に達する。
便所へ行きたい。今すぐ逃げ出したい。
そう思ったが、リヴァイはそんな気持ちを捨て、扉の前でゆっくり深呼吸をする。
リヴァイ気持ちを切り替え、そっとドアを開けた。
全員がこちらを向き一瞥する。
「おはよ…う」
リヴァイは震える声で挨拶する。
静まり返るクラス。
嗚呼。嫌だ。この空気がとてつもなく辛い。
手足が震え、俯いたまま動けない。
だが、ある1人が声をあげた事でそんな状況は一瞬で変わったのだ。
「あーーーー!!アンタ昨日の男の子じゃない?凄い偶然!同じクラスだったのか!」
聞いたことのある声がした。
そう、つい昨日聞いた声だ。
リヴァイは顔を上げた。
目の前にはあの眼鏡の女が太陽みたいな笑顔をリヴァイに向けていた。
「クラスメイト同士仲良くなろうね!リヴァイ!」
女はリヴァイに手を差し出した。
女はそう言った後にあっと声を漏らした。
それと同時にリヴァイは1つ疑問がわいたのだ。
「なんで、俺の名前を知って‥‥?」
そう言い、リヴァイは女の手を握り握手した。
その瞬間、女の手から電気のようなものが体中を駆け巡り、頭を鈍器などで殴られたような強い衝撃を受けた。
体がぐらつき、壁にもたれ掛かる。

────兵長!

リヴァイはそれをきっかけに全てを思い出したのだ‥‥。
過去の残酷で美しい世界で起きた出来事を。
リヴァイはまだ揺れる頭を抑え、混乱している頭の中を整理しようと必死だった。
それを見た眼鏡の女は不敵な笑みを浮かべ、みんなに
「あれー?リヴァイーどーしたの?みんなー私、リヴァイを保健室に連れていったって先生に伝えといてー!」
と、言い残しリヴァイに肩をかして教室から出た。

Just be ***

Just be ***

過去の記憶が無いリヴァイが、あるきっかけでその全て思い出す。 自分より年上の過去の部下達、同期達と平和な生活を送る、 温かく、優しい、物語

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-08-25

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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