あるいはいかにして僕が知床半島と呼ばれるようになったか(三題噺)

都外某所で行われた三題噺です。所要時間40分

三題:知床半島/放課後/今時の若者

「着床の意味、わかるか」「ええ、人並みには」
 保健体育の授業中に突然尋ねられ、上記のように切り返したところ、僕のあだ名が『知床半島』で確立されてしまった。結構センスを感じざるを得ないあだ名だった――特に『半島』というところがなんとも示唆的で情緒がある――と思っていたのだが、それが原因で僕たちのクラスは学級会を開くことに相成った。そういうわけで、この八月のなかなかに暑い放課後、もう気持ちが完全にモンスターハンター二Gに向かっているにもかかわらず、僕たちは学級会を開いている。
「……先生は、残念だよ」
 青髭がかなりやばいことになっている先生が口を開いた。こういう、一人称が『先生』である教師というのは全くの例外なく人間性が地に落ちたクズだと相場が決まっている。かけてもいいが、読者諸兄には残念なことに、配当は『屑である』が一点ゼロが故に、君達にもあまり旨味のある賭けにはならないだろう(だって『屑でない』に駆けることなんて無いだろ?)。この教師もその例に漏れずロリコンで(注意:僕は教師の全てがロリコンだと宣言したわけではない。少なくとも一人のロリコンが教師になっており、その教師は僕の眼の前に居るそれだと言っているだけだ)、最悪的にロリが大好きだという咎を背負っている。その責め苦に耐えているならば僕としても賛辞を送りたいのだが、クラスの綾奈ちゃん(小さい頭にショートヘアの、いわゆるロリらしいロリだ)に手を出しているため、完全に屑だ。もはやクズすぎていうこともない。なぜならプールがあった日、綾奈ちゃんが「私のパンツがない」と泣いており、その日先生は早めに帰ったからだ。とっとと死ね。
「あのな、お前らは、優しいやつだと思ってたよ」
 実際、ロリコンよりは数十倍は優しいと思う。クソみたいなセンスのネクタイ(ペイズリー柄)を緩めながら、先生はドアの方に近寄った。ネクタイがかわいそうだ。これから綾奈ちゃんはペイズリー柄を見るたびに、自分のパンツがなくなったことや、小学校六年生の時に担任の先生にやたらボディを触られたり、水泳の時に「アルバム用だからぁ」と言ってめちゃめちゃ写真を取られたり、ダッフルコートを揉まれたことを思い出すのだ。合掌。
「でもなあ! いじめがあんだろ、このクラス! 何だ、今時の若者気取っていじめか? かっこいいとでも思ってんのか!」
 先生は突然ドアを叩いた。うるせーよロリコン。とっとととっつかまれ。僕の気持ちは伝わったのか、クラス内に「半島」「ザ・ペニンシュラ」「北方領土と交換しよう」などといった言葉が流れた。先生は完全に決まったと思って、男らしく彩奈ちゃんの方を向いた。
「でも、先生、僕はいじめられてないですよ」
 僕は着床のことを脳裏によぎらせながらそう答えた。先生はとびきり『悲しそうな顔』という顔をして、いいんだよ、しれ、井上、と答えた。隣の岩崎が「ゲフッ」と笑って、まるで読経をしているお坊さんが突然牛肉をむさぼり食いながらどぎついアイドルソングを歌い出したみたいな空気になった。
「お前がいじめられているのは知っている。お前だって辛いよな、喋っていいぞ。頑張れ。大丈夫。少しずつでも話していこう。大丈夫、俺がついている!」
 ロリコン が なかまに なったぞ!
 僕は半ばブチ切れながら席を立った。そしてロリコン教師に向かって、「黙れ、綾奈ちゃんのパンツ俺にもくれ!」と怒鳴った。
 綾奈ちゃんが僕の方を見ている。完全にドン引きしている。それはなんというか、すごく、その、いい。マジでいい。結構下半身側にくる。なんというか僕の息子が今時の若者的若さを見せている。僕は『知床』の一件以来、なんというか、言いにくいのだが、女の子にドン引きされるのが、性的興奮のトリガーになってしまっていたのだ。

あるいはいかにして僕が知床半島と呼ばれるようになったか(三題噺)

あるいはいかにして僕が知床半島と呼ばれるようになったか(三題噺)

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-08-20

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