ひあそび

ドライブにつれてって?


その一言からすべてが始まった。
高校卒業後、やむを得なくフリーターへと転身した私は日々アルバイトをしていた。当時高校1年生からアルバイトをしていた飲食店の店長が高校卒業前に隣町の店舗に異動するとのことだった。私は新人の時からその店長と仲が良く、私が上がったあとはいつも女子高生のくだらないお話に付き合ってくれた。
店長は30代後半、私が高校2年生の終わり頃、10年間付き合った彼女と籍を入れた。聞いた私はいつものようにからかいながら祝福すると、店長は「そろそろ落ち着きたい」とぽつりと呟いた。もう結婚して子供がいるかと思ったと言った記憶がある。
それからなんとなく時は過ぎて高校卒業前に隣町に異動すると伝えられた。最初は仲のいい友達が居なくなる程度の悲しみだった。

店長がいなくなった翌月、応援でうちの店舗に来た。たまたま閉店までのシフトで暇な時間にまたいつものようにくだらない話をした。話は盛り上がり、よし、今度ドライブに行くか。と。
たぶん店長は冗談で言ったんだろう。私は本気に捉えて。日付まで決めて、ドライブに行くことになってしまった。


4月末の深夜、グレイのレガシィが約束の場所へと停められる。わたしはそれに乗り込んだ。まさか本当にこんな事になるとは思えなくて、既婚者だと知りながらも悪い事をしてるような気もして、でも店長とお話するのはとても楽しくて。車は目的もなく首都高速に乗った。なんとなく車を走らせて着いた先は横浜。およそ3時間程度。横浜なんて行ったことない。車は奥へと走り、ある公園にたどり着いた。

「なにかあったら交番に駆け込むから」

その公園の近くに交番があり、彼は若干怯えながら冗談っぽく言った。わたしは交際歴も無く、20も離れた既婚者である店長の方がよっぽど何するかわからない。いつものようにそれはわたしのセリフですと笑いながら返した。高台にある公園は遊ぶための公園でもなく、ベンチがあるだけの言わば有名デートスポット。そんなデートスポットに店長とバイトが浸る。
ベンチに座ると、まっすぐに高速道路。夜景の綺麗な場所だったのを覚えている。スカイツリーはあれだよ、東京タワーは?などと交わしたのも懐かしい。楽しい話も捗り、話はシリアスに店長は異動してからの奮闘を語り始めた。店長は怒らない人だった。バイトの嫌なところとかも嫌だなって思うだけで何も言わなかった。怒るのは別の社員に任せて今思えば、自由な人だった。出会って初めて聞いた愚痴にまた新たな発見に嬉しくてたくさん聞いたり応えたりした。

時刻は午前1時を回る、車は家路に向かって走り出した。家に着けばまた昨日と同じような生活が始まる、もうこんなくだらない話をしたり楽しい思いをするのはもう無いと、焦ってしまい思わず、煽ってしまった。
煽ってしまったが、店長は想像以上に大人で、その感情は今だけだ。と慰めてくれた。それでこと済めば良かったものの余計煽ってしまい、店長を困らせてしまった。
ようやく県内に戻ると、高速道路の端っこに停められ、おいでと手を広げられ、思わず抱きついた。ものすごくあったかくて大きい。初めて男性に抱きしめられた。まさかの展開に息詰まったようにパニック状態になっていると、唇を奪われた。



悪い遊びに目が覚めた瞬間だった。

ひあそび

ひあそび

不倫の一歩手前

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-08-09

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