デパート

1

「用事、それだけならもう切るけど、いい?」

 相変わらずなんて言いぐさだ、と私は思った。「それだけ」って、まるでさっきの私の、心からの真剣な相談が。大したことない話だった、みたいな言い方だ。

「うん、ありがとう。夜中にごめんね。おやすみなさい」

 ため息が相手の受話器に届く前に、どうにか通話終了のボタンを押す。髪をふいていたバスタオルを洗濯物のかごに放り投げて、ベッドに尻餅をついた。

2

 相性がいいカップル、っていうのは、いったいどんな感じなんだろう。等身大の自分を受け入れてくれるとか、ありのままの自分でいられるとか。それは無頓着とか、相手に関心がないとか、そういうのをポジティブに勘違いした人たちの、妄想にしか聞こえなかった。

 だって私は、我慢しなかったことなんて、ただの一度もなかったんだから。

 私は明日、デパートに出掛ける。そこではいろんな国の人が、いろんな値段で売られていて、きっと私の等身大も、ありのままも、気に入ってくれる人がいるだろう。

デパート

デパート

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-08-03

Copyrighted
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