金剛になった女性 - 鎮守府Aの物語

金剛になった女性 - 鎮守府Aの物語

それは、艦娘となる人間たちの物語。
金剛がある鎮守府(仮名:鎮守府Aとしています)に着任した頃の展開。
着任した金剛が、鎮守府Aで運用される特殊な艤装をきっかけに心の葛藤を繰り広げる話。

自分の艦これ世界の設定で書いてるので独自に決めた艦娘の本名や家族構成が出てきます。
また、性格も公式とは若干異なる場合があります。
※物語は20xx年、今より60年以上未来という設定です。実際に艤装や艦娘が実現されたら、
という想像のもと、下記のような設定を考えています。

世界観・要素の設定は下記にて整理中です。
https://docs.google.com/document/d/1t1XwCFn2ZtX866QEkNf8pnGUv3mikq3lZUEuursWya8/edit?usp=sharing

人物・関係設定はこちらです。
https://docs.google.com/document/d/1xKAM1XekY5DYSROdNw8yD9n45aUuvTgFZ2x-hV_n4bo/e

現在のある日

「ヘイ!テートク!鎮守府のお仕事そろそろ終わりデスよね?」
 執務室に入ってきて早々、金剛が提督を誘う。
「たまにはデートしまショ!デート!」提督の机に近づきながら金剛が続ける。


「すまんな。これから五月雨達の中学校に行って部活動の行事を見ないといけないんだ。」
 右手で謝る仕草をして提督が言った。


「Oh... そうデスか。ん。じゃあまた今度ネ。」
「あぁ。」
 おとなしく引き下がる金剛。金剛が執務室を出ようとしたとき、ふと提督が思い出すように話した。
「そういえば、金剛もうちの鎮守府に来てからずいぶんくだけてきたよな。」
 普段慌てたり恥ずかしがることがない金剛が珍しく慌ててお願いする。
「Hm? Oh!? ここに来た当初のことデスか。恥ずかしいから思い出さないでほしいデス!」

着任

 鎮守府Aに金剛が配属になった。執務室にて。
横「金剛担当、ヴィクトリア・オーチャード・剛田と申しマス。よろしくおねがいしマス。」
 お辞儀をして金剛は静かに挨拶をした。
横「ようこそ鎮守府Aへ。私がここの鎮守府の提督、西脇です。」と提督。


横「職業艦娘の方が来てくれて助かります。これでうちの艦娘たちを大規模出撃任務に出すことができる!皆の練度を高めることができます。うちとの所属契約は3ヶ月ですが、その間よろしくおねがいします。」と提督。
横「よろしくおねがいします、提督。」と金剛。


((きっと、ここの提督も他のところと同じ。わたしを単なる兵士としてしか、立場上優位になる要素としか見ないんデショウ・・・))
 金剛には、思うところがあった。


 彼女は職業艦娘になってから、これまでいくつかの鎮守府で活躍をして優秀な戦績を残してきた。いずれも深海凄艦との激戦が起きやすい海域担当の鎮守府であった。
 たまたま前の鎮守府での所属契約が満期間近だったのと、鎮守府Aにて出撃任務の成功報酬が新たな艦娘の配属であり、その要求がされたのとタイミングが合って、金剛は鎮守府Aに配属が決定した。
 彼女にとって4ヶ所目の鎮守府となる。


横「あまり英語が得意ではないものでね。ここからは日本語で説明させてもらいます。」と提督。
 金剛をソファーに座らせ、向かいのソファーに座る提督。


「うちの鎮守府について簡単に説明いたします。」


 鎮守府Aの組織構成図、秘書艦の構成、大本営から指示されたこの鎮守府の役割等を説明する提督。
「うちでは、秘書艦を分業制にしていてね。次のように割り振っています。」
***
・総秘書艦(提督の代理、直接サポート、他秘書艦の総まとめ)
 →五月雨、妙高(五月雨が学生のため代理の担当。随時変わる。)
・戦略秘書艦(作戦行動の立案、設計。)
 →那珂(初代)、五十鈴(初代那珂殉職後)、扶桑(初代、のち山城)、加賀
・人事・教育秘書艦(艦娘の平時の教育、新規着任艦娘の管理)
 →高雄、妙高、隼鷹、羽黒(後半2名は本業が教師のためアドバイザーで非常勤扱い)
・広報営業秘書艦(他鎮守府、近隣企業、団体、地方自治体との交渉など)
 →足柄、青葉、那珂(初代、2代目ともに)
・技術開発秘書艦(艤装、通常兵装、施設の設計開発・メンテナンスの管理)
 →明石、夕張
・総務秘書艦(随時変更あり。直接の作戦行動の旗艦、平時は事務・総務、提督の業務のサポート、鎮守府内の管理等)
 →五月雨、比叡(説明当時の艦隊の旗艦ら。その後すぐに変更)
※第三艦隊、第四艦隊の編成許可を得ていないため総務秘書艦はこの当時2人体制という設定
※他の鎮守府でいう秘書艦は、1番目の総務秘書艦にあたる
※明石は一応艦娘だが非戦闘要員のためほぼ専業。
***


「俺は本業は会社員、総秘書艦の五月雨は学生でね、席を開けているときが多いから俺らが不在時でも鎮守府をうまくまわせるように、秘書艦を分業制にしてこの鎮守府を運用しています。皆の本業の得意分野を加味して割り振っています。そして職業艦娘は俺の代理にできるから助かるんです。」


 今まで所属していた鎮守府のやり方とはかなり違う鎮守府Aと、西脇提督に対して金剛は妙な感覚を覚え始めていた。前の鎮守府からは、鎮守府Aは激戦区ではない退屈で平凡なところ、そこを管理する提督も民間出身の冴えない男だと聞かされている。
 この鎮守府Aが実際はどのようなところなのか、これから身を持って確かめていこうと金剛は思った。

鎮守府Aの艤装

 その後金剛は教育秘書艦である高雄と羽黒からいくつかの説明を受け、その後艦娘と艤装について講義を受けた。


((配属時に毎回聞かされる話し、これで4度目デスね・・・))
 4度目の同じ内容に辟易する金剛。しかし4度目の講義内容は、今までとは違う説明が出てきた。


「・・・ということが艤装の一般的な説明ですが、鎮守府Aではつぎのように教えられています。


・・・


ということです。これは初期艦である五月雨ちゃんと、提督が鎮守府A開設前に大本営より、特別講義で聞いた内容とのことです。」と高雄。


「ち、ちょっと待ってくだサイ。それは今までの鎮守府で一度も聞いたことがありマセン!それは本当なのデスか?」
金剛は驚きを隠せない様子で質問する。
「私達も最初は信じられませんでした。艤装は艦の能力を人間の身に合うように伝達し、海上にて高度で繊細な活動ができるための仕組みとしか他の鎮守府では教えられてないようですが、これが当鎮守府で教えられる艦娘と艤装の説明です。」


 金剛がこれまでの鎮守府で教えられたのは、艤装の性能をきちんと伝達させるために、装着者との同調が一定の高さであることが求められること、それを使いこなすには健康的な人間、という程度であった。
 しかしこの鎮守府に配備される艤装は、装着者の心、精神の状態を検知してそれにより性能を変化させるというのだ。
 わかりやすく言えばつまり、機械が人の心や精神を理解して動く。


 他のところでは精神力がどうのこうの、思いがどうのこうのといういわば曖昧な要素は伝えられていない。それが一般的なのだ。それ以上の仕組みは知らないし、知らなくてもいいように運用されている。この世界における艦娘は所詮は武装した、ただの人間なのだ。


「・・・このことが広く知られれば、深海凄艦との戦いも一気に楽になると思いマス。広めマショウ。」
 金剛は提案した。


「いけません。これは他の鎮守府に漏らしてはいけない情報です。これに関するすべての情報は提督と五月雨ちゃん、そして教育秘書艦である私達しか知りません。とはいえ、この鎮守府の艦娘には基本のことなので、当り障りのない程度に簡単に教えています。」
高雄は強い口調で注意した。


「Oh...だったらなぜ私にすべての情報を教えたのデス?それは秘密の情報デショウ?私は短期間の契約だし・・・」
「だから金剛さん、着任前に秘密保持の誓約書にサインしましたよね。ですのであなたは他の鎮守府でこのことを話さないでいただきます。
 提督の真のお考えはわかりかねますが・・・。提督はこのことをあなたに教えるように指示しましたけど機密性の高い情報ですので、私達の独断で秘密保持の誓約書を書いていただきました。このことは提督も了承済みです。」
事務的に注意と説明をする高雄。


「そんな大事な情報をなぜ短期所属の私なんかに・・・それにこの鎮守府って一体?」
 金剛は誰に問うわけでもなく、鎮守府Aについて疑問を漏らした。高雄はニコッと笑い、あえてそれに答えた。
「出撃任務が多くない、普通の鎮守府ですよ。本当のところは私達はおろか、おそらく提督ですらも知らないはずです。これ以上は憶測になってしまいますし。」


((この鎮守府・・・今までの鎮守府とは違う。私はどうしたら・・・))
 金剛は不安を持ったが、鎮守府Aにますます興味も持った。

見せつけられる現実

 その後しばらくは金剛は鎮守府Aに慣れるため、様々な任務を担当して過ごした。出撃は多くないと言っていたが、金剛が着任してから2ヶ月で5~6回あった。他の鎮守府と比べて、そう変わらない頻度だ。金剛はそつなくこなしていった。


 館内を歩いていて提督と会った。
「ヴィクトリ・・・じゃなかった。金剛。あなたが来てくれたおかげで出撃任務が舞い込んできています。当鎮守府の艦娘たちの練度も相対的に高まってきているようです。本当、感謝してるよ!」
「それはよかったデスね。」空返事な金剛。


((初日に教えられてから何回か出撃も演習もありましたが、一度も艤装の本当の力を発揮できていまセン。一体どうしたらできるんデスか・・・))
 鎮守府Aの艤装をもっと扱えるようにするためのチャンスは何度かあったが、金剛はいずれの試す機会でも失敗していた。


「あ、金剛さーん!」
軽快な声で比叡が呼びかけてきた。
「Ah, 姉妹艦の比叡デスか。」
「姉妹艦同士、今度帰りにお茶して行きませんか?金剛さんったら、何度呼びかけても断るんですもの。そろそろ観念してもらいますよぉ?」


 比叡は鎮守府Aの中でも扶桑と並んで古参の戦艦艦娘。彼女はそのアホみたいに明るい性格で、他の艦娘と積極的に接して仲良くしている。金剛はそんな比叡を、正直言ってうっとおしく感じていた。が、大人しい両親の血ゆえか、感情をはっきり出してものを言えない部分があった。
 あまりに深く考えすぎると、そうなるのだ。


「Oh...比叡。何度誘ってもらっていますが、私は職業艦娘ですので外に行きマセン。それに私はプライベートを大事にしたいのデス。それにここの鎮守府とはあと残り1ヶ月の所属なので・・・」


「そんなつれないこと言わずに行きましょうよ~あ、じゃあ司令も合わせて3人で行きましょう!司令が嫌ならええと・・・そうそう。青葉ちゃんって高校で新聞部やってるそうで、それ活かして鎮守府やこの町の面白いネタを記事にするんですよ。でね~」
 と話し出したら止まらなくなっている比叡。


 さすがに度が過ぎたのか、金剛は思わず怒鳴った。
横「Shut up! (しつこい!!うるさい!!)」


「へっ!?」
 突然英語でまくしたてられてあっけにとられている比叡をよそに、金剛は早足で去っていった。
((あんなアホみたいな人が練度高くて、戦力として優秀だなんて認められマセン!なんであんな人が・・・私のほうが戦いでは優秀なのに・・・))


 比叡は、金剛が認めるように鎮守府Aの中でも扶桑と並んで高練度、いざというときに強さを発揮しやすい艦娘なのだった。金剛は、あんなにおちゃらけていて戦いでは目立った動きをしていない比叡がなぜ強いのかが理解できなかった。
 事実、戦闘においては比叡よりも金剛のほうが指揮能力が高く、回りからも評価されてはいるのだが、実際の攻撃能力は比叡に劣っていた。


((精神力も、心も私のほうがしっかりしているはずデス。強いデス・・・!))

提督たちの思惑

「司令、失敗しちゃいました。うまく誘えませんでしたよぅ・・・」
 とあたまをポリポリかきながら報告する比叡。


 執務室には提督と比叡、教育秘書艦の高雄、妙高がいた。
「そうか、ご苦労さま。さて、どうしたものか。」
「職業艦娘というだけあって確かに強いし現場での指揮能力もあるんですけど、いまいち飛び抜けた感じがありませんね・・・」と高雄。


「金剛が加わって確かにうちの全体の練度は上がった。戦力増強につながったのは確か。けど、それだけなんだよ。俺が期待したのは、もっとこう・・・なんというか。」
 期待の職業艦娘を迎え入れたのはいいが、自身の彼女への扱いも彼女自身の振る舞いも納得が行っていない様子の提督。


「提督のお気持ちわかります。彼女は仲間というか、戦いに来てるだけの人という感じなんですよね。軍人肌というわけでもなく。それに周りと深く接しようとしないというか・・・」
 と高雄は的確な指摘をした。それに対して相槌を打つ提督。


 提督の気持ちや考えを代弁するかのように妙高も続ける。
「提督が欲してるのは部下というよりも仲間でしたよね。組織においてはある程度の上下関係や役割は必要でしょうけど、艦娘制度の鎮守府は会社ではないし、ましてや本当の軍隊でもないので、あまりきっちりしすぎる上下関係はどうかと私も思います。それでも秘書艦を分業制にして私達を適切に割り振ってくださっている提督のお考え支持しています。でも鎮守府を転戦してきた彼女がうちのやり方を理解して受け入れるかどうかは・・・それに彼女にうちの和を乱されては他の子たちにも支障がでるかと。」と最後に不安を表す妙高。


 比叡は頭をかいて口をはさむ。
「あたし難しいことわからないんすけど、あたしは今までどおり金剛さんが心開いて仲良くなれるようにいろいろアタックすればいいんですよね?」
「あぁ、比叡の方は引き続き頼む。仲良い子たちを動員してもいいから。」

鎮守府Aの事情

 比叡は執務室から出て行った。それを確認して提督は再び口を開いた。
「俺と五月雨が大本営から最初に教わった、精神の高揚による艤装の性能変化。それが何によって発揮できるか、そこまでは大本営は教えてくれなかった。だから俺なりに考えて今までこの鎮守府の運営方式にも絡めて皆と試してきたが・・・」


 歩きながら語り、机にもどって席に着く提督。
「俺がやりたかったのは、仲間同士、大切にする意識をみんなに持ってもらってどうにかできないかということなんだ。」
「仲間意識、だから提督は比叡さんに何度も金剛さんを誘って仲良くなってもらおうと?」と高雄。
「あぁ。けど2ヶ月経ってもこの状況だ。彼女は思うように振る舞えてない。」


 提督が説明を始める。
 彼は艤装の動的性能変化と言っている艤装の隠された機能。これを彼や艦娘ら最初に目の当たりにしたのは、五月雨と時雨たち白露型に着任した子たちだった。五月雨および時雨たち白露型の艦娘は、みな同じ学校出身の同級生である。(五月雨は初期艦として、その後五月雨が学校の友人や黒崎先生(のちの羽黒)に艦娘のことを話して艦娘部を発足させた経緯がある)


 その当時の状況は次のようなものであった。
 ある出撃任務中、時雨達が今まさに轟沈間近の危険状態に陥った。旗艦の五月雨が自身も中破して同調率が低下していたにもかかわらず、普段より出力の高い、高速の雷撃を放った。周囲にいた他の敵も爆散するほどの強烈な一撃だったが、五月雨はどうやったのか覚えていなかった。
 艦娘の砲雷撃のデータはすべて収集されているため、後で速度やどれくらいの頻度で消費されたのかがわかるようになっている。


「で、最初に実証できたのが・・・五月雨ちゃんだったということですよね。」と高雄。
教育秘書艦である二人は知らされていたことだが、確認しあう。
「あぁ。その後、他の艦娘たちでも同じように危機に陥った局面があったそうだが、同じような高出力はなかなかできなかった。それで俺は確信したんだ。生半可な仲間意識ではない、相当に強く相手を思う心と強い精神の高ぶりが合わさらないと動的性能変化は発揮できないんだと。」


 妙高がそれに続いて思い出すように話し始めた。
「その後私がこちらにお世話になって以降、その本当の力を発揮できたのは確か・・・」


「那珂、そして比叡だけだ。」
 両名とも底抜けに明るい性格で、交友関係が広かった。それでいてだれと分け隔てなく接する傾向があった。彼女らは同じ艦隊の艦娘たちをただの随伴艦やメンバーとしてではなく、常日頃大切に思う気持ちがあり、鎮守府Aのやり方や配備される艤装と非常に相性がよかった。
 仲間が危険に陥ったとき、彼女らはかなり高い確率で艤装の動的性能変化を発揮して使えている。
「・・・那珂さんはともかく、それは比叡さんが火力の高い戦艦担当だからではないのでしょうか?」
 と高雄は疑問を口にした。


「いやいや。ただそれだけじゃ説明できない現象があるんだよ。砲弾や燃料の消費や同調率の履歴は記録されているだろ?リミットを越えて普段より弾薬や燃料を一度に多く消費していたんだ。そしてある瞬間に同調率が跳ね上がっていた。それらが動的性能変化の証拠だと思う。」


 提督がさらに続けた説明は裏話的で妙高も高雄も知らなかった。動的性能変化には他の犠牲もある。異常に疲れが残るのだ。那珂も比叡も顔には出さないタイプなのだが最初の頃は次の日二人とも半日は寝てることがあった。五月雨に至っては丸一日半も学校休むくらいだ。


 少し間を開けて提督は続ける。
「やや脱線してしまったが、俺は姉妹艦同士あの比叡と金剛の接触を多くし、競わせることでうちのやり方に慣れて金剛が打ち解けてくれないかなということを期待していたんだよ。」提督。


「ですが彼女に艤装の秘密を教えるのはまずかったのではと思います。3ヶ月という短期間の契約でもありますし。」と妙高。
 教えずに過ごさせるのでは自分のやり方にそぐわないとし頭をふる提督。提督の思惑をすでにわかっているのか妙高も、でしょうね、と頷いた。
「1週間や1ヶ月でこの状況ならわかりますが、さすがに職業艦娘で2ヶ月経ってもこの状況というのは・・・よその鎮守府では問題ないのでしょうけど、うちに限っては・・・彼女はあまりに人を避けすぎです。人間性の問題としか。」
 と鎮守府Aの事情を含めて心配する高雄。


「人間性の問題だとすると俺らじゃ無理だな。なりゆきに任せすぎたかな。」
 腕を組んで唸りつつ悩む提督。
「羽黒さんや隼鷹さんたち教職員の方にも意見を伺いたいですね。」
 高雄は提案した。


 三人共この場での話し合いはこれ以上続けても何も進展なしとみた。後日、本業が教師の二人が出勤してくる日に交えて再開することにした。それまでは比叡に任せるつもりだった提督だが、やや不安を感じていた。

金剛のトラウマ

 別の日、羽黒と隼鷹も交えて提督と教育秘書艦の二人、合計5人で打ち合わせすることになった。なお、総秘書艦の五月雨は学校に行っている時間のため妙高が代理だ。


 羽黒と隼鷹も事の仔細は事前に伝え聞いており把握している。
「教育者の立場からみて、どうだろうか?金剛は成人した女性だし、中学生を指導してる二人からすれば勝手が違うとは思うけど・・・」と提督がまず口を開いた。


 羽黒は隼鷹の顔を見、隼鷹は目を閉じて少し考えている。そしてまずは隼鷹が提督に対して口を開いて質問した。
「まず聞きたいのはさ提督。初日以来金剛と会話したことある?」
「え?まぁ・・・たまになら。簡単な挨拶程度には。」
「じゃあ金剛が普通に長々と話すのは見聞きしてないんだね?」
「あぁ。」


 それを聞いて隼鷹は羽黒と何か言葉をかわし、相槌を打ったあと、再び提督に向かって言った。
「あのね。会話不足。コミュニケーション不足だよ。あとそれだけじゃないよ。ちーっとデリケートな問題かも。金剛は確かハーフの人だったよね?」
「あぁ。そうだ。」


 隼鷹も金剛について知ってはいたが、一応提督に確認したのちに続ける。
「うちの学校にもハーフの子がいるんだけどさ、家庭の事情で日本語がうまく話せずにそれを引け目に感じて、周りと打ち解けられなかったらしいんだよ。そういう出自とか言語の問題さ。」


 一旦隼鷹はお茶を口にした。
「口に出して笑われたらどうしよう、とか、怖くなってしまうんだろうね。」
「あぁ、なんとなくわかる。それが金剛にもってことか?」
 と提督は尋ねた。
「うん。学校ならさ、解決の糸口はなんとかして見いだせるんだよ。同じ集団で3年も集団生活が続くんだもの。どんなにボッチだって多少なりとも他の生徒や先生と関わらないといけないし。なんだかんだで周りが上手く守ってあげられるんだよ。」
 隼鷹が熱く語る。


「でも社会に出たら違う。すべての行動が自己責任だろ?まあ同じ会社や団体でずっと長くってなら同じかもしれんけど、艦娘制度は最長で5年任期だけどプライベートもあるからそこまで長くやる人はほとんどいない。人の流れも割りと流動的さ。
 きっと彼女はさ、うちのハーフの生徒と同じなんだろうさ。いい歳した自分の話す言葉が笑われたらどうしようって。でも艦娘やってる以上は周りとのコミュニケーションが大事だから会話しないといけない。だから自分が傷つかない程度の会話しかしようとしない。おそらくそういう状況が続いてきたんだろうね。その結果が今の彼女ってわけさ。」


 腕を頭の後ろで組んで背もたれに身体を寄せ、隼鷹が更に続ける。
「艦娘になる前の彼女がどう生きてきたかは知らんけどさ、少なくとも艦娘になって今までと違う現実を見せられて縮こまっていった可能性は捨てきれないよね。」


 バトンタッチというかのように隼鷹は隣に座っていた羽黒の肩を叩いた。それにすこし戸惑ったが隼鷹の意を汲むように羽黒が口を開いた。
「彼女の心を開くには、やっぱり会話をするしか無いと思います。私達も出来る限り彼女と接触しますけど、ここは鎮守府のトップである司令官さんが金剛さんに話しかけるべきだと思います。そのほうが周りに示しもつくと思います。」


 羽黒に言われて、提督は少し考えこむ。少し照れを含んだ表情で返事をする。
「俺が話しかけるのかー・・・。正直女性に話しかけるの苦手なんだよなぁ」
 といったあと、少しの間がありその場にいる全員に突っ込まれた。


「またまたご冗談を」と高雄。
「じゃあ私達はなんなのでしょう・・・?」にこやかだが言葉の最後が怖くて目が笑ってない妙高。
「ここにいるのあんた以外全員女だよ・・・」呆れるような笑いを口に表して隼鷹が言う。
(小声で「女として見てもらえてない・・・!?」と眉をひそめて羽黒。


 慌てて提督は弁解する。
「いやいや!仕事で話しかけるのとプライベート含んで話しかけるのは違うだろ。すでに共通の話題があればいいがまずはそこから聞き出さないといけないし。こんなことならもっと早くこういうアプローチ進めておきゃよかったよ・・・」


「いい歳した男だろ!ブーたれるなって。デートに誘うようにガツンガツンといきゃいいんだよ」
 そう言った隼鷹に高雄や妙高は乗る。
「そうですね。まずは食事に誘ってみるのが掴みとしてはよいかもしれませんね。」
と高雄。
「もし練習台が欲しかったらうちの羽黒を使ってもいいですよ?この子もそろそろ男性恐怖症を直さないといけないですし。」
 温和な妙高が羽黒を指さし珍しく煽った。そんな従姉の妙高に羽黒は驚きつつ反論した。
「んもう、お姉ちゃん!私は男の人と話すのが少し苦手ってだけよ・・・!」


 妙高と羽黒のやりとりに反応に困った提督だが、あえて触れないようにした。


「それで、俺がするのはいいとして、せめて高雄さんと妙高さんにはサポートしてほしいよ。」
 という提督のもくろみはこうだ。
 高雄と妙高は結婚している女性のため、男の立て方など旦那さんでわかっているだろうし、女性視点でどう振る舞えばいいかを教えてくれると踏んでいるためだ。そんな考えに気づいたのか、高雄と妙高は快く承諾する。


 その後、提督と金剛のデート作戦?を隼鷹が他の艦娘にバラしてしまったため、執務室や食堂で提督を見かけるたびに面白がって協力しようとする艦娘が後を絶たなかった。

提督を囲んで

 ある日の執務室。
「・・・で、俺はなぜ君たちに囲まれているんだ?」
 執務室の真ん中にいる提督の周りには、妙高と高雄を始めとして数人の艦娘たちが立っている。


「那珂ちゃんの第一ファンの提督にはぜひとも男を磨いてほしいと思ってね!」と那珂。
「あたしは面白そうだから那珂さんについてきたのよ。」と川内。


「私は記事の取材のためにいます。あぁ、でも司令官がかっこよくなってくれるのには興味ありますよ!」
 カメラと、ノート代わりのタブレットを持つ青葉。彼女がいるということはこのあと絶対ヤバイことになる、となんとなく恐怖を提督は感じていた。


「時雨たち、君らまでいるとはね・・・」時雨たちに気づいた提督がため息をつく。
「だって・・・夕や村雨さんが行こうっていうから。」照れながら時雨が言う。
「イケてるおじさまになってほしいし~」と村雨。
「なってほしいし~」とまったく悪びれた様子のない夕立。
「おじさん言うなよせめてお兄さんって言ってくれよ・・・」と涙声の提督。
「私達中学生からすれば33歳って十分おじさまよ。下手したらパパですもの。」
 辛辣な一言の村雨。
「わーい!パーパ!」村雨の最後の一言を無邪気に繰り返す夕立。


「五月雨、せめて君はこいつらを止めて欲しかったな。」
「だってだって・・・私も提督に協力したかったですし・・・」他の子に対してわりと真面目な思いで
 その場にいるのがわかり、提督はややほっとする。


足柄もいる。ガッツリ提督を見ている。
「私は会社の同僚として西脇くんがどうするどうなるのか気になるし。」
「黒崎さ・・・足柄さん。会社では絶対言わないでくださいよ・・・」と提督。
「さあて、どうしようかしらね~」
 足柄こと黒崎冴子は西脇提督と同じ会社の(部署は違うが)社員である(羽黒こと黒崎理沙の姉)。変につながりがあるため、提督は正直言って足柄として鎮守府でも彼女と接しなければいけないのが苦手だった。


「まさか真面目な加賀さんまでいるとは。」
「私だって女です。今後の参考のために殿方がデートに挑むのにどう準備するのか知りたいだけです。ただ意見はさせていただきます。」
「赤城さんは?一緒じゃないのか。」
 普段つるんでいる赤城がいないことに気づく提督は聞いた。
「赤城さんは今日は本業の仕事があるのでパスです。」と加賀。


「おい隼鷹。この状況の責任とれよ。」と提督。
 ソファーに座って手のひらをひらひらさせている隼鷹。提督のほうは見ずに何か雑誌を読んでいる。


 その後その場にいるメンツで、提督の服のコーディネートやデートスポット、口数が少なく暗い雰囲気の、反応が薄そうな金剛に対してどう会話を展開させればいいかをあれやこれやと話し合っていた。


 少し時間が経ち、自席に座って話し合いを眺めている提督。そばには総秘書艦の五月雨と妙高がいる。
「俺はただ金剛と話せればいいだけなのに、なんかおおごとになりつつある気がする。」


「まぁまぁ。みんな提督のこと思ってくれてるんですよきっと。」
 ニコッと笑って優しくフォローする五月雨。
「目的がどうであれ、こうしてみんなで和気あいあいと話してお互いを思い合う。うちの鎮守府の事情にあった光景だと思います。早く金剛さんもこういう輪の中に入ってこられると良いですね。」
 妙高はこの鎮守府を取り巻く事情を含めて、今後の展望に期待を持ちながら言った。

金剛のお昼時

 出撃がない時間帯は艦娘は鎮守府と町中を自由に出入りしてもよいのだが、職業艦娘である金剛は基本的に鎮守府敷地内から出ない。(とはいえ寮は鎮守府敷地内ではなく近くのマンションなのでそことの行き来はある)


 お昼時になり、多くの艦娘は気の置けない仲の良い者同士で食堂に行ったり、町へ食事をしに行くのだが金剛は一人だ。何度か比叡から一緒にご飯食べに行こうと誘われたが、そのたびに断っている。
 以前ならグイグイ来てなかなか引こうとしなかった比叡だが、ここ2・3日してわりとあっさりと引き下がっている。


((わかっていマス。みんなこうして、だんだん私から離れて行くのデス。これは仕方ないデス。))


 金剛は自身の中にあるトラウマにも似た感覚をわかっていた。いや、トラウマだった。
 一生懸命話しても周りから何度も聞き直される。離れたところでクスクスと声を潜めて笑い声が聞こえる。それが繰り返されるのが嫌で仕方なかった。だからどうしても会話を避ける、人々の輪の中に入りたくないという行為によって、次第に周りが自分から離れていってしまうことも自覚していたのだ。わかっていたが、変に周りと仲良くしようと努力して変わるのを避けてしまう自分もいる。
 もともと日本語を思うように話せなかったので、話す必要がなさそうな艦娘になろうと思っての今の状況だが、現実は酷であった。どうしようも出来ないもどかしさを金剛は感じていた。


 お腹が鳴るのを聞いた。悩んでいても空腹にはなる。
 いつもどおり鎮守府の敷地内の端にある、ヨーロッパ風のベンチと簡易テーブルのところに足を運んだ。この一角は静かで人通りもなく、金剛は気に入っている。そして買ってきたサンドイッチを口にし、パックの紅茶を飲む。それがお昼のパターンである。


 が、その日は先客がいた。
「Ah, 提督・・・なぜここにいマスか?」
「ここはさ、鎮守府開設当時、俺と五月雨が仕事の息抜きや憩いの場として今後も使えるようにって、自分のポケットマネーから出して買ったベンチとテーブルがあるんだ。いわば思い出の場所さ。鎮守府の施設もだいぶ拡張されたからほとんど来なくなって、もう誰も使ってないと思っていたんだ。」
「そうだったデスか。思い出の場所を私が使ってはいけないデスね。今度から別のところに行きマス。」
 表面だけの笑顔を見せてそう言い、踵を返そうとする金剛を提督は呼び止めた。


「いやいや!ダメとは言っていない。むしろ俺と五月雨以外に使ってくれる人がいて嬉しいんだ。
今後もぜひ使って欲しい。」


 提督は金剛に近づいて笑顔で呼びかける。
「今日はあなたに用があるんだ。用というか、お昼一緒にどうですかってお誘いなんだけど。」
「Oh, ゴメンなさい。一人で食べマス。」
拒否されるとわかっていたのか、提督が素早く返した。
「どうか一緒にお昼行ってください。あなたと話がしたいんだ。どうか。」
先程よりも声に真剣味が感じられた。が、金剛は受け入れられない。


横「ゴメンなさい・・・」
と金剛は英語で拒否する。


「これはいいたくないんだけど、提督命令だ。金剛、どうか俺と一緒にお昼を食べにいってくれ。」


 そこまでして私と何を話したいのか。今までの鎮守府の提督と違う。妙に自分と接しようとするこの提督は何なのか。金剛も馬鹿ではない。むしろ聡明なほうだ。この鎮守府に職業艦娘として着任してはや2ヶ月。戦績はよいとされたが、この鎮守府独自の運用と教えには未だついていけてないのだ。しまいには姉妹艦である比叡に嫉妬しはじめる今の自分がいる。
 この鎮守府を統括する立場として、相手が傷つかないようなやり方で自分を叱責するのだろう。覚悟を決めて金剛は返事をした。


横「ハイ。」

提督と金剛

 その日の金剛は出撃はないがいつ緊急の任務が発生してもいいように、金剛型の制服である巫女服を着続けていた。(艤装の性能伝達をサポートするチップが随所に埋め込まれているため、普通の巫女装束より若干重みがある)
 が、町へこのまま繰り出すのは正直言って恥ずかしい。事情を知らない人が見れば単なるコスプレだ。更衣室に戻り簡単に脱げる上だけ脱ぎ紺のジャージを着て、提督が待つ本館の玄関口へ向かった。


 そのあまりにおしゃれをしていない格好で現れた金剛に、提督は困ったすえに一言。
「ええと・・・実用的でいいね。」


 カチンとはこないが、金剛は少しだけ心の奥底でシュンとした。その様子を敏感に読み取ったのか、提督は謝った。
「あまり気の利いたこと言えなくてすみません。でももう一言言わせてもらうと、制服のままでもよかったんじゃないかな?」


「・・・恥ずかしいデス・・・」
 消えるような声で金剛は言った。
 提督は納得いった様子でそれ以上突っ込まなかった。


 見た目に反して、提督は饒舌だった。しかし一生懸命話題を出している様子が伺えた。が、金剛も人に対してそれほど気の利いた返しは苦手なため、相槌を打つことしかできない。
 提督が金剛を連れてきたのは、全国チェーン店の飲み屋だった。


「飲み屋のお昼ご飯はさ、定食としてバランス取れてるし価格も抑え目でいいんだよ。金剛も誰かと一緒にお昼行くときは覚えておくといいぞ~」と提督。


 お昼時のピークを外していたため、店内は人が少なかった。店員に案内されて二人が入ったのは個室だ。
「個室は楽でいいね。金剛も崩して楽にしようよ。」
「ハイ。」


 お昼のメニューを注文して待つ間、提督がまず口を開いた。
「最近の調子はどうかな?うまくやれてますか?」
 当たり障りのない質問をしてくる提督に、金剛は返した。
「ハイ。・・・ハイ。」
 思っていた本当の事を切り出す勇気がなく、金剛は覇気のない返事をするだけ。そんな金剛に、提督は質問を変えてまた聞いてきた。


「うちの鎮守府のやり方、どうかな?できてる?」
 金剛はこの鎮守府に来て悩んでいた事をズバリ聞かれた。


「・・・イイエ。できません。」
「難しいだろ、艤装の本当の力って。機械が人の心や精神を理解できるのかって疑いたくなるでしょ。」


「提督、本当にその機能はinstallされているんデスか?私は信じることができません。」
 提督は、以前高雄たちのいる場で話した艤装の性能変化を経験した比叡たちのことについて話した。(食事が来たので途中箸を進めながら)


「・・・というわけなんだ。だからうちにいる艦娘はみな、それをできる可能性がある。あとはその、繊細なまでに精神の変動を検知する艤装、それを扱うあなたたち艦娘本人の気持ち次第なんだ。」


 提督はそのあと謝るように続けた。
「うちのことをよく知らないのに、歴戦の職業艦娘だからといってうちのやり方もすんなりできるだろうと勝手に思い込んで放っておいて、すまなかったと思っている。教育の秘書艦任せにしないでトップである俺がもっと親身になってあなたに教えてあげるべきだったのにな。」
「Oh, 提督。あなたの気持ちありがとう。でも私はあと1ヶ月だけの所属。今更できるようになても意味ないデス。」
 すでに諦めつつある金剛。そんな金剛を見て提督は励ました。


「あと1ヶ月だからとか言わずに、あなたには艤装の本当の力を扱えるようになってほしいんだ。今後他の鎮守府でもこの仕組が公開されて使えるようになるかもしれない。その時あなたには、心身ともに誰からも頼れる存在になって活躍してほしいんだ。そのために、うちの鎮守府を踏み台にしてくれてかまわない。」


 金剛は考え込んだ。なぜこの提督はたった3ヶ月しかいない自分をここまで思ってくれるのだろうか。職業艦娘であり良い戦果を残してこられたと自負しているが、それはあくまで艦娘として仕事に何も思いを含めずにやってこられたからこそ。自分の持つ恐怖の観念をやり過ごして来られたからこそ。
 しかしこの鎮守府に来てうまく行かなくなった。そのすべては、心や精神を検知するという艤装の隠された機能と、それを何とかして活用しようとするこの鎮守府とそれを推し進めるこの提督のせいだ。
 せっかく隠せてきた自分の持つ恐怖をえぐり出される思いを毎日どこかで見せつけられるのだ。
正直居づらいと感じることさえある。そんな考えを見透かされたのか、提督が言葉を続けた。


「勝手ながら、あなたに関することを教育秘書艦と一緒に話し合って対策を練っていた。どうすれば金剛、あなたが俺らに心を開いてくれるかって。」


 金剛は何か言おうとしたが、それを提督に止められた。
「最後まで聞いてくれ。さっきも言ったが、この2ヶ月放っておいてすまなかった。あなたは十分強いから、通常の訓練はもはや不要だと思う。あとはあなたのトラウマをどうにかすれば、艤装をもっとうまく扱えて戦力としてパワーアップできるようになるんだ。」


 そこまで金剛は聞いてやっと反論した。
横「やっぱりデスか。艤装!艤装!あなたも私を単なる戦う人としてしか見ていなかったのでしょ!私をネタにして艤装の実験台としか・・・」
 金剛は早口の英語でまくしたてる。


「聞いてくれ!艤装のことだけじゃないんだ。あなたのような・・・美しい女性が暗く過ごしているのが見ていられないんだ。きっとあなたは元々は明るくて元気な人なのだと想像している。今のように自分で自分の未来を狭めるなんてしてほしくないんだ。艤装は、元のあなたを取り戻すきっかけになれればと思っただけ。俺自身の気持ちで、あなたの助けになりたいんだ。あなたを大切に思いたいんだ!」


 提督の言葉には熱がこもっているのが感じられた。いきなり告白めいた言葉を聞かされて、金剛は頭が真っ白になり慌てふためき、まともに提督の顔を見ることができなくなった。そんな金剛をよそに提督は続ける。ちなみに提督も少し顔が赤かったのをちらっと金剛は見えた。


「よそでどういう運用されていたか知らないけどさ、俺が統括するあの鎮守府では、明確に部下と思う艦娘なんていない。全員仲間さ。志を同じくする、同志。困っている仲間がいたらみんなでどうにかしてあげたいと思うわけさ。もちろんよくあるテレビドラマやアニメのように全員が全員聖人君子だったり物分かり良いわけないから、悩んでいる人に気づかないかもしれない。俺だって鎮守府を出たらただの会社員さ。限界があるからみんなで手分けするんだ。」


 少しの間を開けてさらに続ける。
「それにもし大本営から艤装のあの仕組みについて聞かなかったとしても、うちに配備される艤装が他の鎮守府のものと同じだったとしても、俺は自分が統括する鎮守府は今のような運用にするつもりだったよ。化け物と戦っているんだ。せめて鎮守府の中では和気あいあいと心や精神を休めてもらいたいからね。」


 金剛は提督の本音をついに聞くことができた。今までの鎮守府の提督とは明らかに違う。伝え聞いていた、普通の人、凡人、冴えない男。そんな言葉が霞んで消えるくらい、実は熱い人、仲間を大切にする人なのだと、見方を改めた。ほのかに、心臓が跳ねる感じがした。
 この人ともっと話したい。この人に助けてほしい。もっとこの鎮守府にいたい。そんな気持ち、感情が次第に金剛の中に沸き上がってきた。

想う日々

 金剛は期間限定で第一艦隊旗艦(総務第一秘書艦)兼、総秘書艦(五月雨の代理、妙高から交代)になった。


 普段の提督は都内にあるIT企業の会社員である。彼の鎮守府へのその週の出勤スケジュールを把握するに、月水金土の4日、月水金は午後、土は丸一日とのこと。金剛は職業艦娘のため常に鎮守府内に待機しており、その週は木金土と出撃任務のため日本を離れて南東へ行く。
 そのため直接に提督の秘書として働けるのは実質月・水の2日だけだ。


((秘書というからには提督のスケジュールを把握しておかないといけまセン。少しでも長く側にいるために、駅まで迎えに行ったほうがよいのデショウか?))


 あの日からマンツーマンであるが、提督と少しずつ身の上を話すようにし、お互いのことを知るようになってきた。提督と話すようになって、金剛は少しずつ明るい雰囲気を出すようになってきた。まだ他の艦娘とは思うように話せないが、それでも大きな進歩だ。


 提督と話していて安心できるのは、なによりも提督は自分の話し方を笑わない。真面目に聞いてくれる。聞き取りづらくて聞き返す際も、うまい聞き返し方をするので気にならないのだ。未だ日本語に慣れない文法や話し方がある際は、提督が教えてくれる。


 これまでもボーイフレンドはいたことはあったが、ここまで親身に優しく接してくれる人、異性に出会ったことはなかった。27歳になって金剛は初めて激しく心揺さぶられるものを感じ始めていた。


 傍から見ても、金剛は提督に気があると周りの艦娘らは気づいていたが、そっと見守ることにしていた。(提督は金剛の気持ちや周りの配慮など気づいていなかったが)
 教育秘書艦や協力関係にあった一部の艦娘たちから余計なこと言うなと止められているのだ。


 その日も提督と話すのが待ち遠しく、金剛は提督を駅まで迎えに行くことにした。お昼少しまえに提督は駅に到着すると鎮守府に連絡があったから、お昼を一緒に食べられればと考えていた。


 駅に着いてしばらくすると、提督らしき人物が改札を抜けて近づいてくるのが見えた。
「て、提督・・・く?」
 勇気を出して少し大きな声で呼びかけようとしたが、やめた。語尾が消えるような声になった理由は、提督のとなりにいた少女が目に入ってきたからだ。


 彼女は早川五月、艦娘名を五月雨という。
 鎮守府開設時から提督とずっと一緒にいた中学生の女の子だ。鎮守府外のためか、紺の制服を着ている。
 歳の離れた兄と妹、下手をすると父と娘の雰囲気を出す二人だが、金剛は気づいた。今はまだ、仕事で繋がった仲の良い男性と女の子という感じだが、少しの間しかあの鎮守府にいない自分なんか太刀打ち出来ない、いや。あの鎮守府の中で提督に気があるかもしれない他の艦娘たちでも入り込めない繋がりがあるのがはっきり感じ取れた。
 その少女は年若く、きっとまだ恋に恋する年頃なのだろうが、提督を見る笑顔がまっすぐなのだ。性格をねじ曲げていた自分にとっては、あまりにもまぶしすぎた。


 きっともし、何かの間違いで自分や他の艦娘が提督と思いを遂げてしまったとしたら、まだ若い彼女は心が千切れるくらいに落ち込むかもしれない。自分らが、彼女の貴重な青春時代のひとときを、下手をすると未来を奪いかねない、と勝手に想像する金剛。
 余計な心配しすぎるところも金剛が暗くなった後に生まれた性格の一つなのだ。


((私は大人デス。大人なら大人らしく、未来ある子供を見守るべきデス。あと1ヶ月切ってマス。だから私の方こそ貴重な思い出としてとっておきマス))
 他人の恋路を邪魔したくない金剛は身を引いた。金剛は、自身が恋していることをまだハッキリとは自覚していなかったが、他人に興味を持てるようになったからこそ五月雨をひと目見ただけで、彼女の様子がわかるようになっていた。


 思わず隠れてしまっていた金剛だったが、気持ちを少し整理できたのか、出て行って提督と五月雨の二人に話しかけた。なお考える時間が少し長かったのか、提督と五月雨は少し過ぎ去っていたあとだった。そのため後ろから声をかける形になった。


「Hello! 提督、五月雨。二人を迎えに来まシタ。」
「お、金剛か。ちょうどよかった。さっきの電車内で五月雨とたまたま会ってさ、少し時間あるから
お昼食べに行こうと話していたんだ。金剛もどうだ?」
「金剛さん、一緒に行きましょ!私も金剛さんとお話できたらな~って。」
 やはり眩しい五月雨。
「OK。私もそろそろ提督以外の人と話せるようになりたいデス。あとすこしなので、Let's Tryします。」
 少し前まで暗い雰囲気だった金剛が話しかけやすそうな雰囲気になっており、提督も五月雨も安心感を得ていた。

爆発する感情

 木曜日から土曜日まで、金剛は日本から南東の方向に出撃していた。


 目的の海域までは艦娘専用の護衛艦で行くのが常だ。それは他の国の艦娘も同様である。当たり前だが艦娘の艤装でいくら海上を単独で進めるようになるとはいえ、燃料は普通の船よりも少ない。作戦や戦闘以外で消費するのは避けられるべきなのだ。
 日本からは鎮守府Aと、中部地方と四国にある鎮守府から艦娘の艦隊が派遣され、一隻の護衛艦に計18人と18人分の艤装が乗り込んでいた。他の国からの出撃も同じようにその国の護衛艦や巡洋艦に艦娘が乗っている。
 帰路に着く際も同じ状態で帰還する。(途中護衛艦の補給や休憩のために第三国の港に寄港する)


 南東への出撃任務から金剛たちが帰ってきた。アメリカと中国の艦娘の艦隊と合同で取り組んだ深海凄艦の撃退は大成功のうちに終わったのだ。
 鎮守府Aからは次のメンツで参加していた。
 旗艦金剛。彼女が職業艦娘なので、学生艦娘も中規模以上の出撃任務に参加させることができる。というわけで同じ艦隊に駆逐艦不知火、黒潮の二人が、不知火らの学校の艦娘部の顧問および保護者として隼鷹、同じ軽空母仲間の飛鷹も参加していた。
 そして、姉妹艦の比叡も参加していた。
 ちなみに隼鷹は非常勤の教育秘書艦でもあったため、裏の目的では生徒の指導や金剛の監視など別の作業も兼ねている。


 鎮守府Aに帰還したあと、隼鷹が裏で提督に報告した内容は、いささかまずいものが含まれていた。なんと金剛が、意図的でないにせよ他の鎮守府の艦娘に艤装の動的性能変化・心を検知する機能の存在について話してしまったのだ。他の鎮守府の艦娘らはそんなこと一切知らなかったため、金剛の話を一蹴してそれ以上話は広がらなかったが、その後の金剛の対応もまずかった。
 旗艦は金剛であったので、起こした問題についても合わせて問いただすことにした。


「金剛、報告書は見ました。作戦成功ご苦労様。・・・と言いたいところだが、帰還するまでが作戦行動なのは言われなくてもわかっているよな?」
「ハイ。」


「隼鷹から話は聞いた。帰還途中に他の鎮守府の艦娘たちにバラしてしまったそうだな。」
「・・・ハイ。」
 相槌なのか、そうですという意味なのか、金剛はハイしか言わない。


「それ自体は仕方ない。まあいい。どうせ他の鎮守府の艤装は動的性能変化は起きないから嘘だと思われてもさ。だが喧嘩はまずい。他の鎮守府とのいざこざはまずいんだ。ことの顛末を教えてくれ。」
 これまで優しく接してくれて会話してきた提督が、聞いたことがない強い口調で問いただしてきた。彼が怖くなったがここはあくまで仕事場。金剛は説明し始めた。


「比叡をバカにされたので怒りマシタ。その後の相手の言い方も許せませんデシタ。頭にキて手をあげ、演習を申し込みました。」
 彼女の説明とさきほどの隼鷹の説明をまとめることによると、同艦隊にいた比叡が他の鎮守府の艦娘よりも(動的性能変化により)高出力での砲撃を繰り返していたのが他の鎮守府の艦娘の気に触った様子とのこと。比叡の艤装は不正改造されていたのではとか、比叡は同調率も低くて艤装をうまく扱えていないだけの計画性のない初心者・ラッキーガール、アホなだけなのではと。


 あまりに態度悪く言われていたが、比叡は持ち前の明るさでそれを意に介さず受け流している様子。が、金剛はそれが我慢ならなかった。鎮守府Aのこと、(提督から聞いていた)比叡のこと何も知らずに適当なこと言い並べるんじゃないと。
 比叡に対しては陰口でも言われていたと知り、それが彼女の怒りを倍増させていた。彼女は、比叡に対する相手のやり方を、自分に重ねていたのだ。


 金剛の怒りは相当なもので、その流れで艤装のことをバラしてしまった。それでも相手が馬鹿にするのをやめず、艤装のことについて信じようとしなかったのでつい勝手な演習を申し込んでしまった。比叡や隼鷹ら、そして駆逐艦二人が止めに入ったが聞く耳持たず、演習には自分一人で挑むと金剛は言い放った。


 その時金剛は頭に血が登っていたが、変に冷静な部分もあった。今なら艤装と心の力を発揮できるかもしれないと。自分が勝ったら比叡に謝れと約束を交わし、金剛VS他の鎮守府の艦娘6で演習を始めた。
 しかし艤装の動的性能変化はまったく起きず、圧倒的な戦力差もありあっさり負けてしまった。結局比叡をばかにされたままで、さらに自分も啖呵を切って挑んだはいいが恥ずかしいまでの負けを見せつけられた。悪口は自分にもついてしまった。妄言する鎮守府Aの金剛、と。


 今まで2ヶ月の間見たことがなかった金剛の激しい荒ぶりに、比叡や駆逐艦二人は驚いた。駆逐艦二人にいたっては怖がって残りの帰路では同じ部屋にいようともしなかったらしい。


「提督。勝手な演習してしまい申し訳ございませんデシタ。ですが教えてくだサイ。あのとき私は今なら激しい怒りで艤装を完全に使いこなし、相手をアっと言わせることができると確信していまシタ。けれど演習ではいつもどおり、普通の性能しか発揮できませんデシタ。なぜデス?何が原因デシタか?」


「・・・本当ならここで、怒りだけではダメだとかかっこいいこと言えればいいんだけど、残念ながら金剛。本来の戦闘以外では精神を検知する機能をスキップするようにしているんだ。他の鎮守府の艤装と同様にうちに配備される艤装も普段はオフにしている。これも大本営からの指示でね。つまり、演習では他の鎮守府の艤装と同じ制限のもと、同じ性能しか発揮できないんだ。このあたりも着任当初の研修で教えていたと思ったのだが・・・」
 きちんと説明してくれた提督に金剛は感謝ではなく、文句を言った。


「・・・!そんな!そんなこと教えてもらっていないデス!それじゃあ私の行動は無駄だったということデスか!?あなたの言うとおり、私は比叡を、仲間を大切に思いマシタ!今ならデキると思っていマシタ。その証明が許されないなんて・・・」
「せっかく君がそこまで比叡を、仲間に対して想えるようになったのに、濁す形になってすまない。
今度はそれを、深海凄艦との戦いの中で発揮して欲しい。」


 金剛は俯いて可能性を否定する。
「・・・強く想うなんて、そう何度もできるとは思えマセン。特に私なんか・・・。周りに迷惑をかけてしまい、どういう顔して残り約2週間、比叡や駆逐艦のあの子たちと接すればいいのかわかりマセン。」
 頭に血が登っていたときの行動とはいえ、まだ暗いところのある自分が他人を思い、感情を爆発させたことに自分自身驚きを隠せない金剛だったが、二度とそういうことはできないだろうと感じるところがあった。


 今まで口数が少なく、協調性もなかった金剛が荒ぶった、珍事件だと他の艦娘に知られればまた影で何か言われ、クスクス笑われバカにされるかもしれない。再びトラウマになるのではと恐怖が芽生えてくるのを感じていたのだ。
 提督から、2~3日身体を休めてゆっくりするように金剛は言われた。

比叡

 同じく出撃から帰ってきた比叡は、嬉しさにあふれていた。提督と教育秘書艦らのお願いとはいえ、仲良くなろうと猛烈にアタックしていた金剛が、心を開くのを通り越して、自分をかばってくれたのだ。


 だれに対しても別け隔てなく明るく接して仲良くなれる比叡こと、日名島桜だったが、無闇やたらに明るくポジティブなのではない。明るい雰囲気に反して意外と陰口・悪口は気にして(表面には出さないが)凹みやすいほうだ。頭は良い方ではないので難しいことは考えない質。
 そして世話焼きでもある。いきすぎておせっかいなところもあるが、悪気があるわけではない。なので比叡に接する人はだれも彼女を憎めないと思って気楽に接することができる。


 金剛には比叡自身にない、指揮能力、人を(良い意味で)操る力があった。性格に影があるのでそれが戦闘以外で発揮されないのがもったいない、と比叡は思っていた。
 暗くしている人を元気づけてあげたい。
 比叡自身で説明がつけられないフィーリングが合うとでもいうのだろうか、何か感ずるところがあるのだろう。それが比叡に、金剛へアタックさせ続けさせる原動力になっていた。


 アタックしては拒否され、それの繰り返しの矢先、先日の出撃任務中に起きた事件である。頑なに自分を拒否し続けてきた金剛が自分をかばって相手に反論して(やりすぎではあるが)演習で反撃してくれたのだ。姉妹艦だから、提督らにお願いされたから始まった金剛へのアタックと想いだが、ついに通じ合えたと確信していた。
 これほど嬉しい事はない。


 その日、仲の良い艦娘たちとの雑談はほどほどに、早めに帰ることにした。比叡も当分は待機状態だった。


((むふふ!帰ったら椿と楓にも話してあげようっと。姉ちゃんの同僚にはこんなに熱い人がいるんだって。))


 比叡は3人姉妹の長女。下には今年社会人になった日名島椿、まだ大学生である日名島楓の2人の妹がいる。おしゃべりでもある比叡は、とにかく誰かに話して嬉しさと喜びを分かち合いたく思っていた。
 その後、金剛についての話や鎮守府での話を毎日聞かされ、思いを張り巡らせて期待をふくらませた妹達は数ヶ月後、日名島椿は戦艦榛名として、そのさらに数ヶ月後に日名島楓は戦艦霧島として鎮守府Aに着任することになる。

海の上で想う

 その日提督は宿直の日であり、鎮守府内に泊まっていた。その日は職業艦娘が数人と、同じく交代勤務のため夜勤をしている通常の艦娘が数人残っているだけだった。
 提督が宿直室から出て買い物をし、本館へ戻る途中、道路を挟んだ向かいにある工廠と出撃用の水路のあたりに人影があるのが見えた。


 金剛は総秘書艦の仕事を適度にこなし(五月雨の不在時の代理)、提督の指示どおり出撃任務からは少し離れて待機と称して休む日々。前回の出撃の時に起こした問題、その時演習のためにできなかった艤装の動的性能変化、それを残り約2週間で今度こそやると、証明したいと思っていた。


 総秘書艦の権限を利用して金剛は夜間に工廠から自分の艤装を運び出し、出撃用の水路から海上に出て行った。出て行ったはいいが、今は夜。近隣には民家もあるため、砲撃の轟音をたてすぎるのはよくない。やれるとしたら、ごまかしが効く1~2回。


 いざやろうと思った時、何を想えばいいのか困った。
 前に提督が自分に対して言った、艤装は元の自分を取り戻すきっかけになれれば、と。その一言が妙に頭の片隅に残り、ちらついていた。


((元の私、ヴィクトリア、ってなんデショウ。私、いつから暗く、ネガティブになっていたんデショウか。なんだかもう思い出せない。))


 海上は静かだった。ほのかに吹く風が気持よく、思いを巡らせるには良い気候でもあった。


 金剛ことヴィクトリアが日本に初めてきたのは、成人してからだった。それまではずっと母の故郷であるイギリスで過ごした。イギリスにも艦娘制度と艦隊はあったがその時は興味がなく関わろうともしなかった。日本に来て、どうやら深海凄艦の侵攻が頻発している国だということを知る。
 日本語には全然慣れておらず、それを心配した父からの勧めもあり、特に会話をしなくてもすみそうな艦娘になることにした。通常の艦娘ではなく、職業艦娘だ。格段に高い給与が出る。試験があったが頭のよいヴィクトリアは難なく合格し、そして艤装との同調の試験。
 ヴィクトリアは、かつてイギリスで建造され旧日本海軍の一級の戦艦になって活躍した「戦艦金剛」のあらゆるデータがインプットされた艤装とフィーリングがあった。合格圏内の高い同調率を示し、その日からヴィクトリアは艦娘名、戦艦金剛の一人として、他にも数人いた金剛担当者とともに日本国の職業艦娘として登録された。


 その後ヴィクトリアは金剛としていくつかの鎮守府に配属され、戦うこと数年経った。日本語は少し覚えてきたがいまだにうまく話せず、話したくても怖がっていた自分が続いた。
 勝手の知らない日本にきて接するのは父だけ。他に長時間触れ合う人がいなかったため性格は次第に暗くなった。父や母の前でだけは明るく振る舞えたが、外は怖かったため感情を出せなかったのだ。
 これまでの鎮守府では、艤装が旧日本海軍の軍艦のイメージだからとして、編成が史実にそったものばかりされてきて随伴艦のメンツも固定されていた。普通なら仲良くなれそうものだが、不幸にも史実に沿って編成された各鎮守府の艦娘の誰もが、自分とウマが合わない性格や態度の人間ばかりで、打ち解けられないでいた。
 各鎮守府の艦娘に対する扱いは大体、兵士・コマ扱いだったり、良くて、明るい雰囲気のアットホームな職場ですと称するような、単にまとまりがないだけの個人主義の普通の会社のような集まりだったりして、人単体としては興味が無く居させるだけのところもあった。各鎮守府の提督は皆優秀だった。優秀すぎて本業そっちのけで艦隊運営に力を注いでいる人もいた。
 鎮守府Aのような待遇は(探せば他の鎮守府でもあるのだろうが)初めて経験するのだった。


 今この鎮守府に来て自分は少し変われた。それは提督・・・と比叡達、他の艦娘のおかげだ。
 比叡は姉妹艦であり、(勝手に)ライバルであり、きっとあの鎮守府にはこれからも欠かせない存在だ。
 一方の自分はどうか。3ヶ月の所属契約であと2週間。戦力として期待され、一応その目的を果たせた。だがそれだけだった。あの鎮守府では、戦闘以外で思わなければいけないことが存在したのだ。それは自分の恐怖、苦手意識を克服しないとやっていかれない、仲間との協調。


 あの鎮守府に来て自分のトラウマに、昔から抱えてきた恐怖に向き合わなければいけなかったが、提督がそれを少しずつ直してくれた。
 そしてそれらの要素の先にはあの鎮守府に配備される、本来の形の艤装がある。あれを使いこなせないまま、契約が終わっていいのか。プライドが許さない。


((頭が痛いデス・・・比叡のように何も考えず、気楽に過ごせたらどんなによいデショウ。))
 比叡には比叡の事情はあるだろうが、金剛はそこまでは含めなかった。


 せっかく数キロ離れた海上に出てたのに思い込むだけで、結局一発も砲撃をしないまま帰還した。工廠に艤装を戻そうとその方向に歩き始めたら、そこには提督がいた。


「!!て、提督・・・なぜここにいマスか? す、すみまセン。勝手に艤装を付けて海上に出てしまいまシタ。」
 金剛はまたしてもやらかしてしまったと思い、提督にひたすら謝った。
 またあの時の、強い口調の提督に叱られる。そう思ったら心臓が縮むような感じを覚えた。どんなふうに叱られるのだろうと心配する金剛の想像を裏切るかたちで、提督は声をかけた。


「ご苦労様。夜の海上警備大変だっただろう。本来なら身軽な艤装の駆逐艦や軽巡の子たちにさせるんだけど、あいにく人がいなくてねぇ。艤装重いのに戦艦の君に出てもらって申し訳ない。ありがとう。」


 いや違う。なんでそんな勝手な想像で言うのか。


 見当違いなことでにこやかに自分に感謝をする提督に何か反論しようとしたが、提督が話し続けたので金剛は言えなかった。
「感謝を込めて、金剛。あなたには臨時で砲撃の訓練を許可する。これ、提督としての特別許可だよ。後追いで近隣には説明するから。おもいっきりやってしまおう。」
 片手でOKサインを出して言う提督。


「え・・・デモ・・・なんで?私は・・・」
 金剛は何か言おうとしたが言葉が続かなかった。
「いいから。」
 提督はそれだけ言って金剛の弁解を何も聞こうとしなかった。

心を検知する艤装

 提督は非戦闘員用で同調が不要な、足にのみつける艤装を付けて、金剛と一緒に海に出た。水上バイクや一人用の船などあるにはあるのだが、提督はあえて艤装にした。


 金剛は戦艦金剛用の制服を身につけて海上を進んでいるが、提督は上下ジャージに足には簡易艤装と、はたから見ればかなりマヌケな格好だった。
「燃料をあまり使うわけにもいかないから、あそこまでだな。」
 提督が目的のポイントを指さす。それは鎮守府から2キロもいかない程度にしか離れていない、何もない海上だ。


 ポイントまで二人で海上を進む。ふと金剛は思った。これは夜のデートじゃないかと。急に意識し始めてしまい、金剛は顔が熱くなるのを感じた。
「風が気持ちよいデス。ほてった身体にはちょうどいいデスね・・・」
「ほてった・・・?あぁ、これ結構運動になるからな~」
 うっかりほてったと言ってしまったが、提督は気づいていないため別のことと勘違いして返した。


 目的のポイントに付き、金剛は砲撃の準備を始めた。
 と、そこで提督が金剛に近づいてきた。


「そうそう忘れてた。」


 と言って提督は突然金剛の腰(おしりにちかいあたり)と艤装の隙間に手を入れ、艤装を弄って手探りで何かを確認しはじめた。


「What's!? Oh! 何をするデス!?」
「あぁ、ゴメンなさい。もしかしたら精神の検知機能がオフになったままかもしれないから。」


 といって、艤装の側面の蓋を開け、中にあるスイッチに指をひっかける。
「これ、うちに配備される艤装にのみあるスイッチだから。他のところはこのスイッチ部分がまるごと存在しなくて押せないようになってるらしいよ。」
 そう言って提督はパチン、とスイッチを入れた。


「よし、準備できた。いつでもいいぞ。」
 本人は気づいているのかいないのか気にしていないのか。(機械を操作するためとはいえ)いきなり女性の背中に手を入れてよしOK、などとあっさり済ませて彼はどういう神経しているんだと金剛は少しだけ憤りを覚えたが、それ以上に、以前感じた心臓が跳ねる思いを今回も強く感じていた。


 いつでも砲撃できる状態になった。まずは軽く一回、35.6cm連装砲を撃った。


 当たり前だが兵装の砲弾の大きさは単なる名目上のサイズである。人間が装備できる艤装のサイズに合わせるために実際の大きさではない。20xx年にもなると安全に物理的に圧縮する技術が発達しており、およそ10分の1でも等倍のサイズの威力を発揮できるように、艦娘の艤装向けの砲弾は技術の粋を集めて開発されている。
(実際の砲弾でなく、レーザー銃な仕組みに代替されている兵装もある)


 当たり前に普通に砲弾が飛んでいって、見えなくなったあたりで海面に着弾、轟音を立てて爆発したのを確認した。安全のため、提督は金剛から10数メートル離れている。


「一応これも記録されているから、あとで消費量や飛距離を確認しよう。」と提督。


 ふぅ、と金剛は一息ついた。
「じゃあ次、何かを強く思ってみよう。なんでもいい。身近な例だと・・・そうだ。この前の出撃のとき、あなたがキレた、比叡への悪口あたりがいいかな。あの時の怒りと悔しさを思い出すんだ。」


 そうはいうが、今はすでにそんな気分ではない金剛。身近な例。そこに着目した。


 最後の1ヶ月(まだ経っていないが)、急激に自分が変われたのはそばにいる提督のおかげ。彼は自身で言っていたように自分一人ではうまく鎮守府を回せないから、艦娘と役割分担するほど運用能力は普通で、彼自身も確かに普通の人だった。
 しかし艦娘を、艦娘としてだけでなく本来携わっている中の人間として捉え、扱おうとしている。彼が見ているのはあくまで人としての艦娘なのだ。
 そんな彼の働きかけがなければ今自分がこうしていることはできなかった。もしかしたら、出撃任務のとき、比叡が悪口を言われたのも気にせず、そのまま帰還していたかもしれない。可もなく不可もなくすごして終わって、あの鎮守府を去る未来があるのかもしれない。
 彼がほんの少しでも自分を気にかけてくれたから、今の自分があり、自分が変わったからこそ、良きにせよ悪きにせよあの場にいた比叡達の自分に対する評価が変化し、今後の接し方が変わる未来が待ち受けているのかもしれない。それは今までどおり怖いことだったが、彼が一緒にいてくれたら少しは大丈夫かもしれない。


 せっかく提督(や五月雨ら数人)となんとか話せるようになったのだ。話すのを怖がっていたらダメだ。このままここを去りたくない。彼のいるこの鎮守府を去りたくない。
 なにが凡人だ。冴えない男だ。そんなことはささないなこと。自分にとっては恩人であり欠かせない男性だ。


 そう考え始めたら、激しい思いが金剛の心を揺さぶっていた。
 それに合わせて、艤装との同調がわずかに高まる。より一体化に近づいたのを金剛は感じた。ついに艤装が金剛の心・精神状態を検知し、フル稼働しはじめたのだ。


金剛はやっと気づいた。この高まる思いは、提督に対する恋なのだと。


 艤装の稼働状態が早まるのと合わせて、自身の心臓の鼓動が早まるのを感じた。この人の側にいたい。提督ではなく、会社員西脇の側に、ヴィクトリアとして側にいたい。


 が瞬間、あの少女が頭によぎった。まっすぐで純真なあの子。一度は身を引こうと思った。高まる思いは止まらないはずだったが、一瞬の理性がその高まりを少し遮る。
 自分の勝手な思いだけじゃいけない。あの二人が手をつなぐ未来が垣間見える。彼、提督自身の思いも大事にすべきだと。あの人の一番じゃなくてもいい。いつか彼に公私ともに必要とされる未来の可能性が少しでもあるならそれでいい。その選択は自分がするのではなく、提督がするのだから。
 どんな結末にせよ、提督に将来選んでもらえるふさわしい艦娘、そして女性になろう。


 目を閉じている金剛はそのように思いを巡らせる。そして提督を想う気持ちと艤装の同調がさらに高まってきた。タイミングを把握した。


 大きく息を吸い、大声で金剛は叫んだ。
「提督ぅ!!!
私はぁ!!!!
あなたのことおぉ!!!!!」




横「I love you!!!」




 先程よりも激しい轟音とともに、35.6cm連装砲2基と、15.2cm単装砲1基から、それぞれの兵装のリミットを越えた連続した砲弾が放出された。着弾したあとの爆発は先ほどよりも2~3倍はありそうな光景だった。
 耳をつんざくような砲撃音に思わず提督も耳を塞いだがそれでも聞こえてくる激しい音だった。そのため、ネイティブな英語の発音で言った金剛の最後の言葉は完全にかき消され、金剛本人すらもちゃんと発することができたかわからないくらい聞こえなかった。


 そして心に湧き上がった燃えるような思いを表したくてひとつの造語を、轟音が収まり始めた最中に発した。


横「バーニング・・・ラァーーーーーヴ!!!!」
 少しだけ、頬に涙が滴り落ちていたのに気づいてすぐに拭い取った。
 気合を入れるかのように大声で叫んだため、今度は提督にもはっきり聞こえた。


 役目を終えた艤装は急に静かになり、同調率は平常時にまで低下した。金剛は提督のほうを振り向いた。心身ともに疲れ果て身を傾け水面に倒れそうになる。すかさず提督が近寄ってきて支えようとしたが、提督が付ける簡易艤装では装着者の腕力までは向上しないため当然支えきれない。
 二人ともひっくりかえる形で水面に倒れ、慌てて起き上がった。二人ともぐしょ濡れである。


 誰が先かはわからないが、二人ともクスクスと笑い始めた。
「おめでとう!金剛!うちの鎮守府で4人目、外からの人だと初めてだよ。艤装の動的性能変化を発揮できたのは。」


横「ありがとう。提督。本当にありがとう!」と英語で金剛は返事をした。


「何を思ったのかは聞かないけど、バーニングラブ?気合が入ってていいと思うよ。それにここまで大声を出せるようになったなら、もう大丈夫だよな!」
 提督は金剛の真意にはどうやら気づいていないようで、サクッと告白を流されたが、今はそれでもいいと金剛は思った。


 鎮守府に戻り、艤装を工廠にしまった。寮であるマンションは鎮守府の目と鼻の先にある。提督はそこまで送っていこうとしたが、金剛は自分も今日は待機の当番なので、このまま本館に戻ろうと言った。
 そのため二人は鎮守府の本館まで戻ってきた。


「これをきっかけに、あなたの人生が明るいものであることを期待しています。残りの期間、どうか俺の鎮守府の仲間と、可能な限り接して打ち解けて、悔いの残らないよう過ごして下さい。」
 金剛はあとすこしの期間で、鎮守府Aを去る身だ。しかし金剛はある考えを固めていた。それを思い切って提督に言うことにした。
 この先、どんなことがこの鎮守府や提督、そして自身の身に待ち受けていようと臆さない。


「Excuse me, 提督。お願いがありマス。」

着任!

 所属契約から3ヶ月の契約満了になり、金剛は鎮守府Aを離れることになった。提督にお願いして誰にも迎えはしてほしくないとして、しずかに去っていった。あるお願いもしていたため、提督はその最後の待遇について承諾していた。


 次の日執務室に比叡が飛び込んできた。
「司令!!なんて金剛さんが昨日で最後だっておしえてくれなかったんですか!?お別れ言えなかったじゃないですか!!どうしてくれるんすかぁ!!」
 普段怒ることがない比叡が珍しく怒って提督につめよってきた。ちなみに比叡は黙って立っていれば凛とした美人なので、吐息がかかるくらい近寄られて提督はちょっとドキッとした。


「すまない。でも金剛がどうしてもっていうから。それよりも比叡、君に吉報があるんだ。」
 提督がそういうと、側にいた総秘書艦兼人事・教育秘書艦である妙高が、秘書艦席から書類を出して提督に渡した。


「なんですか、それ?」と尋ねる比叡。


「実は、新しい艦娘の着任なんだ。聞いてくれ。なんとうちにも正式に金剛が配属されることになったんだ。やったね!」
 茶化すようなガッツポーズをして提督がそう言うと、比叡は眉をひそめてなぜか表情を暗くした。


「え・・・?昨日の今日で新しい金剛の人ですか!?さすがのあたしでも気持ちの切り替えなんてすぐにできません!なんで決めちゃったんですかぁ!すぐに新しい金剛が着任する予定だったのなら、最初からヴィクトリアさんを迎えないでくださいよ!!」


 姉妹艦だからという最初の意識を越えて、ヴィクトリア・オーチャード・剛田と日名島桜として仲良くなりたいと心から思えてきたのに。自分にヴィクトリアである金剛と仲良くしろと言ったのは司令官自身なのに。なんでこうも変わり身が早いのか。
 怒りがこみ上げてきた比叡だが、そんな比叡をよそに提督が続ける。


「まぁまぁ比叡。最後まで話を聞けって。ねぇ、妙高さん、五月雨?」
「えぇ。」
「はい。」
 提督と五月雨、妙高は顔を見合わせてニヤニヤする。


 提督の机からみて左にある扉は執務室の隣にある部屋と通じている。五月雨が扉に近づいていって、ノブに手をかける。
「金剛、入ってきなさい。」
 その一言と同時に五月雨はノブを回して扉を開け、その部屋にいる人物を招き入れた。


 隣の部屋から出てきた金剛その人は、その場にいた全員が見知った顔だった。
「Hey! 比叡、妙高。・・・そして五月雨、提督!よろしくネ!」
「え?え?え?なんで? どうしてヴィクトリアさんが!?」
「だから言っただろ、正式に金剛が配属されたって。」
ドヤ顔で提督は比叡に言った。


 事の真相はこうだ。
 あの日の夜、金剛が提督に願い出たのは、職業艦娘から鎮守府Aの通常艦娘への転属だった。それは、国家的にも優遇された立場から、一時金しか出ない一鎮守府の普通の艦娘へと、格下げにも近い扱いになることだった。
 職業艦娘はその立場上、一つの鎮守府への所属ではなく、国家(大本営)に所属する形のため、いくつもの鎮守府に任務のために派遣と称して一時契約で所属することがある。つまり一つの鎮守府に留まらない艦娘なのだ。
 それに対して普通の艦娘は各鎮守府との直接契約であり、基本的には契約先の鎮守府から離れることはない。


 提督はなぜそんなことを?と尋ねたが、居心地がよいから、せっかくだからこの鎮守府の力になり続けたい、とだけ金剛は言って本当の理由を提督には教えなかった。本当の理由は、教育秘書艦である妙高と高雄にしか教えなかった。(二人は既婚者であるため、金剛はある意味安心して相談できた)
 戦力としても申し分なく、艤装の本当の力を扱えるようになった彼女が鎮守府A専属の艦娘になるなら願ってもないことなので、提督は思うところはあったが快く承諾した。


 ちなみに職としての艦娘ではなくなるため、金剛は実質無職になる。プライベートの仕事についてはこれから決めるという。提督は鎮守府から斡旋して紹介してもいいが?と持ちかけたが金剛はそれを断った。


「比叡。姉妹艦として、ヴィクトリア個人としても、これからもよろしくデス。私決心しまシタ。日本語では・・・吹っ切れたというのデショウか?もう、話すの怖がりマセン!」
「金剛さんその意気です!あたしは金剛さんの一番の味方です!それに・・・あたし、なんだかんだでお礼言いそびれちゃって。あの時あたしをかばってくれて、本当にありがとうございました!すごく嬉しかったんですよ?
 そうだ!敬意を込めてお姉さまって呼んでもいいですか?呼びますよ!」


 なんで敬意を込めるとお姉さまって呼ぶようになるんだと、比叡の思考がわからなかった提督、五月雨、妙高の3人は心の中で突っ込んだが、そんなことは金剛と比叡にとっては関係なかったようだ。


「よくわかりマセンが、ハイ。どのように呼んでもいいデス。」
「じゃああたしのことは桜って名前で呼んでください!」
「それは・・・businessとprivateの区別はつけマス。この鎮守府にいる間は比叡と呼ばせてくだサイ。もちろんprivateでは・・・ネ!」ウィンクして比叡を見る金剛。
 比叡はさっきから明るかった表情をさらにパアっと表情を明るくさせ、隠し切れない喜びを表していた。
 ひとしきり比叡と再会に対する喜びをわかちあった金剛は、真面目に提督の方に向き合った。


「提督、コノ度のゴ対応マコトにありがとうございマス。私、これからもここで頑張りマス。privateの仕事はないのでこれから頑張って探しマス。よろしくお願いしますネ。」
「あぁ。こちらこそよろしくお願いします。職業艦娘でなくなったのは少々もったいないけど、あなたの気持ちが優先だからね。俺はそれを尊重する。俺はただの艦娘金剛を迎え入れたんじゃない。金剛担当、ヴィクトリア・オーチャード・剛田さん、あなたを迎え入れたんだからね。」


「・・・職業艦娘の特権がなくなっても、金剛ではなく私を見てくれる・・・嬉しいデス・・・」
 俯いてつぶやく金剛、そして提督の最後の一言を理解したとき、金剛は机越しに向こうにいる提督に思わず飛び込んでいった。


「テートクぅ!!やっぱりあなたのことラブデース!」
「わわわ!いきなりどうした!?」
 その場にいる全員が金剛の突然の行動に驚いた。


「金剛さん・・・」
 相談を受けていた妙高は、金剛が自分自身で明かしてしまうような行為をしたことに驚いて苦笑いしたが、それもこの鎮守府における想い合いの一つの形なのだと、彼女を見守ることにした。


 一方五月雨は、突然金剛が提督に抱きついたのに心底驚き、そして次にこう思った。大人ってこんなに大胆に振る舞えるんだ・・・と、顔を真赤にしてただただ感心するばかりだった。
 彼女は少しだけ、心の奥底でチクっとするのを感じた。まだ五月雨が、提督に対する自分の気持ちには気づいていない頃である。


 提督から離れて、金剛が他の4人に見せた笑顔は、彼女が五月雨に対して見出したような、心から明るくてまぶしい笑顔だった。


「やっと、本当の私になれた気がシマース!」


END

金剛になった女性 - 鎮守府Aの物語

小説初投稿で、もともと漫画向けの案として書いていたので文章構成が甘いですがご容赦ください。
鎮守府Aという形で自分の考える鎮守府での話を今後も書いていこうかと思っています。

金剛になった女性 - 鎮守府Aの物語

それは、艦娘となる人間たちの物語。 金剛がある鎮守府(仮名:鎮守府Aとしています)に着任した頃の展開。 着任した金剛が、鎮守府Aで運用される特殊な艤装をきっかけに心の葛藤を繰り広げる話。 艦これ・艦隊これくしょんの二次創作です。なお、鎮守府Aの物語の世界観では、今より60~70年後の未来に本当に艦娘の艤装が開発・実用化され、艦娘に選ばれた少女たちがいたとしたら・・・という想像のもと、話を展開しています。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-07-24

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work
  1. 現在のある日
  2. 着任
  3. 鎮守府Aの艤装
  4. 見せつけられる現実
  5. 提督たちの思惑
  6. 鎮守府Aの事情
  7. 金剛のトラウマ
  8. 提督を囲んで
  9. 金剛のお昼時
  10. 提督と金剛
  11. 想う日々
  12. 爆発する感情
  13. 比叡
  14. 海の上で想う
  15. 心を検知する艤装
  16. 着任!