五日間の天気

ルール・その日の天気をテーマに五日間書き続けられたら発表。

一日目、大雨

 この地域はいつも台風の被害が少ない。
 雨は降ってるのに、警報が出なかったばっかりに学校へ行かねばならなかった学生がため息をつく。警報が出ていないと言っても、雨はだばだば降るし、傘を差しても風に運ばれてきた雨で、足元は濡れて靴の中までぐちゃぐちゃだ。
 道行く人は、どんなにびしょ濡れになっても、足もとの水たまりに気をつけながら歩く。でないと、昨日今日、突然現れた小さな池に足を取られてしまう。
 なんとか雨による浸水被害を最小限に抑え、やっと屋根の下に辿り着いても、こんなに濡れた傘を持つ人がいたら何処かでぶつかって、結局自分も濡れてしまうのだ。
 「せっかく濡れずにここまで来たのに」と、若い女性がその友人に向けてひっそりボヤく。
 そこにいた人たちはやがて、働くため、学ぶため、あるいは家に帰るために傘で風をさえぎって歩き出した。どうしたって横殴りの雨で濡れてしまうだろうに、傘なんていったい何の意味があるのかと思いながらも、しっかりと傘の柄を握って進む。目は一生懸命に足元を見ている。耳は聞きたくもない雨音を聞いている。
 不幸にも雨に濡れた携帯電話が、不穏な音を立てた。玄関前の屋根のした、濡れた羽を乾かすために虫が張り付いている。

二日目、晴れ

 雨が上がった。夏の太陽が濡れた地面を照らして、蒸気を押し流すようなむっとした風が吹く。じとじととした夏に、晴れ渡る空が腹立たしいくらいだ。
 この間までは涼しい風の吹く日もあったが、今ではみんな半袖のシャツを着ている。なのに腕に何やら布を巻いている女性、長袖の上着を着ている女性もいる。縁の広い帽子をかぶっていてその表情は見えないが、どう考えたって暑いだろうに、涼しげに見えるのが不思議だ。
 近年、紫外線を浴び続けると発症する皮膚病などが話題だが、熱中症とどちらが怖いだろうか。いや、どちらも怖い。八方塞で生きにくい世の中だ。
 日なたではジリジリと肌を焼かれ、日陰に入っても生暖かい風に蒸されながらとぼとぼと歩く。自転車に乗ってすれ違った少年は、爽快な声で歌っていた。

三日目、曇り

 家を出ると、地面が濡れていた。昨夜も雨が降ったのかもしれない。
 白い雲が空を覆い隠し、いつもは遠くに見える山も今日は靄につつまれて見えない。
 食べ物屋の前で、そこの亭主と思われる老人がざかざか音を立てていた。箒を使って店の前の水たまりを掃いている。すると水たまりの中の水がざばざばと散っていく。訪れる客が足元を濡らさないための配慮だろう。まれにそういった光景を見ると、何となく人情を感じて私は好きだ。彼らの人柄や真意は別としてそういう「生活」に新鮮さを感じるのかもしれない。
 湿気た暖かい風に吹かれ、空もすっきりしないが、わりと気分良く道を歩く。傘を持ってきたが、けっきょく使う機会は無かった。
 あとで、知人に聞かされた話によると、雨は私が家を出る前に降ったらしい。

四日目、晴れのち曇り

 今朝は怖ろしく晴れていた。青々とした空は雲ひとつなく、まさに青天と呼べそうだ。
 空気が澄んでいるのか遠くの山の色まで見える気がした。太陽の白い光が木の葉を照らす。昨日までの湿気もなく、気持ちがいい日とも言える。しかし台風が去ってからと言うもの世間はぐっと暑くなり、キラキラとして見える光がジリジリと肌を焦がした。動かずにいても流れてくる汗を、ハンカチで必死に抑えながら用事を済ます。夏の光を受けてそよぐ木の下でくたびれたセミが、最後の足掻きだと羽をバタつかせ、通行人を驚かせた。
 ハンカチはぐしょぐしょになって体はべたべたになって暑さにウンザリして来たころ、やっと帰りの電車に乗り、湿ったハンカチをポケットに捻じ込む。うっかり弱冷車に乗り、いまいち汗の渇ききらないまま電車を降りると強い風が吹いた。駅を出ると今朝の天気がウソのように空に灰色の雲がかかり、光をさえぎっている。あの強い風に押されて、山にせき止められていた雲が流れてきたのだろうか。とにかく光がささず、この風に吹かれるとずいぶん気持ちがよく感じた。決して良く冷えた風ではないが、体の感じる温度がずいぶん違う。
 灰色の雲に感謝しながら、私は重い荷物を抱えなおした。

五日目、曇り時々晴れ

 てっきり晴れているものと思って家を出たが、歩けば歩くほど黒い雲が目に付いた。
 青空が見えるが、傘を持った方が良かっただろうかと、携帯電話で天気予報を確認する。すると、曇り時々晴れとされており、ひとまず安心した。天気予報に依存しすぎだろうか。
 それにしても、「曇り時々…」と言われる割には、空は晴れているように見える。確かに雲が所狭しと浮かんでいるが、高かったり低かったり、寄り集まらずに散らばっている。今にも一体化して雨を降らせそうではあるが、結局そのまま一日中すき勝手に青空を泳いでいた。
 太陽はときどき雲に邪魔をされながらも、白く地面を照らす。ニュースでは関東の方の気温が三十六度を越えたと話題になっていたが、こちらでは気持ちの良い夏だ。きっとこれから暑くなるのだろう。
 キラキラ光る緑の隙間からけたたましいセミの鳴き声が聞こえて、なんとなしにプールの匂いを思い出す。いよいよ暑くなってきたら、久しぶりに行ってみようか。

五日間の天気

五日間の天気

一日につき400字前後。夏の天気について。

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-07-22

CC BY-NC
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  1. 一日目、大雨
  2. 二日目、晴れ
  3. 三日目、曇り
  4. 四日目、晴れのち曇り
  5. 五日目、曇り時々晴れ