夏の音*中編
遅くなって申し訳ありませんTT
夏の音 中編です。
だらだら続きます…次で最後です。
浴衣をいくつも。
7月29日、今日は、彩夏は華夜と一緒に様々な店が立ち並ぶ繁華街に来ていた。
「華夜、いい浴衣あった?」
「ううん、全然見つかんないや。私にはどんな浴衣が似合うかな?」
「華夜はねー…背ちっちゃいし…、うん、こんなのがいいんじゃない?」
そう言って彩夏は白をベースとしてパステルカラーのカラフルな小さな水玉模様が散りばめられた可愛らしい雰囲気の浴衣を差し出した。
「わあ!すごい可愛いね!彩夏ちゃんはやっぱりセンスあるなぁ」
「どういたしまして!でさ、華夜はこっちとこっち、どっちの浴衣がいいと思う?」
彩夏が見せた浴衣は、一つはクリーム色に赤い金魚の模様のもの。
もう一つは紺の生地に大きな白い花柄をあしらい、アクセントに赤や金のラインのついたものだ。
「うーん、どっちもかわいいね…、でも彩夏ちゃんならこっちの方がいいとおもうよ!」
華夜は後者を指した。
一応聞いては見たが、彩夏もなんとなくそちらの方を気に入っていたので、華夜と同意見になったので少し安心した。
「夏祭り楽しみだねー!はやく来ないかなー!」
「あと1週間ないんだし、もうすぐだよ!」
なんて華夜と話していると、店員がやってきた。
「お客様、よろしければこちらの浴衣ご試着になられますか?」
「あ、じゃあお願いします」
「かしこまりました、ではこちらにどうぞ」
そう言って店員に連れられ、彩夏たちは浴衣の試着をさせてもらった。
「はい、できましたよ。いかがでしょうか?」
「ばっちりです!ありがとうございます」
「彩夏ちゃんできたー?私できたから見てほしいな」
「あたしもできたよ。華夜どんな?」
華夜の試着室を覗くと、そこにはしっかりと浴衣を着こなした華夜がいた。
あまりにも浴衣が華夜に似合っていて、浴衣を着た華夜が可愛くて。
きっとこんなに可愛い華夜を見れば、アイツはいっそう華夜を好きになるんだろうな、なんて思ってしまった。
「彩夏ちゃん?私、変…かな?」
その声でハッとする。
そうだ、今は考えちゃいけない。
「ぜんっぜん!そんなことないよ!むしろ浴衣めっちゃ似合ってるしかわいすぎて固まっちゃった」
「ほんとに!?すごい嬉しい、ありがとう!彩夏ちゃんもすっごく似合ってるしかわいいよ!」
お互いを褒めちぎったあと、着付けてくれた店員さんにもお礼を言い、浴衣を買って店を出た。
――――
やっぱり、あたしに勝ち目はないんだろうな。
家に帰り、ベッドの上に寝転がる。
華夜が爽太のことを好きなのも、爽太が華夜のことを意識してるのも。
全部全部知ってるんだよなぁ、あたし。
つまりは二人は両想いで、あたしの立ち入る隙なんかこれっぽっちもないわけで。
「『初恋は実らない』かあ…」
よく言ったと思う。事実、あたしの初恋は実りそうにない。
でもまあ、このまま何もしないで諦めるってのは嫌だ。
スマホをいじりながらダラダラと過ごしていると、SNSで『7月30日は女の子から男の子に告白する日』なんて記事を見た。
今日は…7月29日、の、今は午後10時30分を少し回ったところ。
『女の子から男の子に告白する日』まで、あと2時間もない。
いっそ便乗して、潔く散ってみようかな、なんてね。
.
午前0時を回った。彩夏はスマホで電話をかける。
無機質なコール音が響く。彼は出るだろうか。
「はい、もしもし?」
4コール目で出た。
「あ、もしもし、爽太?こんな時間に電話しちゃってごめんね」
「いや、いいよ。どうした?珍しいじゃん」
「あー、うん。ちょっと話しあってさ」
「そっか、何?」
「…とりあえず、そのまま聞いて欲しいんだけどね、―いきなりなんだけど、あたしは爽太のことが好きです。」
「…そっか、ありがとう。でもごめん、俺は華夜ちゃんが 「知ってる」 んだけど…、え?彩夏知ってたの!?」
「だから、知ってる。見てれば分かるよ、コイツ華夜のこと好きなんだろーな、って」
「、じゃあ、なんで今そんなことを」
「勝ち目ないと思ったから。華夜はかわいいし優しいし女の子らしいから、あたしがどんなに爽太を好きでいたって、あたしの想いは報われないから。ずっと好きな気持ち引きずるのいやだったから、いっそきっぱりフラれちゃおうかな って。だから爽太は気にしなくていいよ。あたしが勝手に言ってフラれただけだから。」
「…でも、」
「『でも』って言ったって、じゃあ爽太はあたしのこと好きになってくれるの?あたしはそんな同情で付き合うならお断りだし。あと、今日は『女子から男子に告白する日』なんだって。それに乗っかってみただけだよ」
「…おう」
「あー、もうこの話は終わりね!あたしと爽太は幼馴染みの大親友。あたしは[大切な幼馴染み]の爽太の恋を応援するし、協力する。爽太、がんばってね」
「…ああ、ありがとな。ほんとに。」
「じゃあ切るね。おやすみ~」
「うん、おやすみ」
――――
「あーあーやっぱつらいや…」
爽太にはああ言ったけど、長年の恋心がこんなことだけで消え去ってくれるわけなくて。恋を応援する、なんて実際に想像してみたら切なすぎて。
「ふ、っく、ひっく、うぅ…」
溢れだした涙は止まらないまま、あたしはその夜に瞼を腫らした。
ひとつの恋のおしまいの話。
夏の音*中編
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