深海魚の貞操主義について

深海魚の貞操主義について

深海387メートル。
心の傷の深さまで。

お母様が云いました

深く潜り過ぎちゃ駄目よ。
深海には恐い生き物が住んで居るからね。
お前の其の弱い心何て、一口で飲み込まれて仕舞うんだよ。

私は弱くなんか無い、
ムッとした私は夜の街へ潜りました

其処には初めてが輝いて居ました
何時しか小学校で習った、
あの黒い小さな魚の物語の様に
深海には面白い物が一杯でした

唯、あの魚とは違って率いる仲間の居ない私は
独りでより深く海へ潜りました
其処で出会った、見掛けばかり大きなマグロは
お母様が云った通り、一口で、一晩で私を飲み込みました

それでも私は痛くも苦しくも有りませんでした

嗚呼、此れが深海か。
きっと此処が海の底で、
此れ以上深く潜る事何て無いんだなあ。

ふと、お母様の顔が浮かびました
お母様は私の音読を毎日褒めて下さいました
其れなのに今、私が読み上げる言葉の数々は
何の意味も持たない、欲情を規定の箱に流し込んだだけの音

お母様、今やっと解りました
深海に潜ると謂う事は
程よく太陽の光が当たり、
水面がきらきらと薄瑠璃色に煌めく
お母様と謂う海を捨てる事何ですね
だからお母様は私に深海へ潜るなと云ったのです
私と謂う、小さく弱い魚を喪うのが淋しいから

大丈夫です、お母様
私はつい最近バタ足を覚えたのです
深海に居れば居る程、日光が恋しいのです
そして私が自由に泳ぐ事が出来るのは
一番広い貴女の海なのです

お母様、心配なさら無いで
深海魚は貞操主義なのです

深海魚の貞操主義について

深海魚の貞操主義について

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-06-30

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