七夕
リクエスト*小狐丸夢
1
「ぬしさま!」
『わ』
「いやはや、ぬしさまのお声は大変かわいらしゅうございます」
ノアは身じろぎをするが、小狐丸に離れる気がないと分かるや否や、されるがままに脱力した。
小狐丸はノアの首元にしばらくすりすりと頬擦りをした後、やっと離れた
「ぬしさまぬしさま!明日は《たなぼた》などという祭り事らしいですな」
『……たなばた』
「小狐丸は野生ゆえそのような事したことがありませぬ、ぬしさまは知っておられましたか?」
こくり。と頷き、庭の竹藪を指差す
「そうそう、明日のために山伏が竹を調達すると申しておりました!
竹も、たなばたに必要なのですね」
『短冊』
「そう言えば短刀達が作っておりましたな。
ぬしさまに見せるのだと、楽しそうに話しておりました」
することがないと判断したのか、ノアは小狐丸に体を預け目を瞑った
「明日、楽しみですねぇ」
『…晴れるといい』
「石切丸にでも頼んでみますか」
2
「おぉ…これが七夕なのですね!」
夜、山伏が調達した竹は見事な大きさで、これなら沢山いる刀達の願いもみんなくくりつけられるだろう。
燭台切が「どうせなら皆で縁側で食べよう」と提案し、急遽御手杵や太郎太刀、次郎太刀達が縁側と庭に食べられるように準備してくれた。
そのため、いつもとは違い庭も飾り付けられていた。
「わぁ、良い匂い!」
「今日はお祭りだからね、皆の好きなもの、腕によりをかけて作っちゃった」
「燭台切のご飯は美味しいから好きだぞ」
「はいはい鶴丸さんつまみ食いしようとしない」
『…にぎやか』
戦も争いもない。誰も怪我をしていない。
少しうるさいけれど、たまには物騒なことを忘れてこんな平和な夕食もいいかもしれない。
そんな事を密かに考えるノアの口元は、いつもより少しだけ、口角が上がっている……ように見えた。
**
「さぁて、それじゃあみんな、願い事はかけたかな?」
「かけたー!」
「かけましたぁ!」
「よしよし、じゃあ葉っぱにかけていくからね、太郎さんにと次郎さんに渡してね」
それぞれが書いた願い事を太郎太刀と次郎太刀に持っていく。
ノアもそれに習い、太郎の元へかけていくと…
「ぬしさまのはこの小狐丸めが責任を持って飾りますゆえ、お任せくだされ!」
…と、自信満々な小狐丸に取られてしまった。
取り返そうとするもこの身長差で届くわけがなく、仕方ないので縁側に腰掛け見守ることにした
「ふんふーん♪…と、これでよし」
小狐丸の飾りとノアの飾りが隣どおしに飾られ、小狐丸は意気揚々として隣に座る。
「七夕は織姫と彦星と言う恋仲の2人が、一年に一度だけ逢瀬をする日だと聞きました
…もし私が同じような義務を課されたら…」
小狐丸の耳がぺしゃりと下がる。
ノアは撫でようと手を伸ばすが、それを見計らったように小狐丸が抱きついてきた
『!?』
「小狐丸は…お寂しゅうございますぅぅ〜っ」
ぺそぺそと落ち込む小狐丸の背中を、ノアはとんとんと撫でる。
『私が、守る』
「ぬ、ぬしさま…!この小狐丸、一生ついて行きますっ!」
『ん』
さっきまで凹んでいたのはなんだったのか、嬉しそうに頬擦りをする小狐丸。
一生どころか、来世まで着いてきそうだと、その場の全員が思ったのは内緒だ
End
七夕