先生

リクエスト*ギルベルト夢

1


〝せつなる恋の心は尊きこと神のごとし〟

と、樋口一葉は言った。
因みに私はまだその意味がわからない。

恋なんてしたことが無い。誰かを好きになって、愛し合って、なんて、そんなの
…夢の中の話だ。


**


「だーれだっ」


何時ものように本を読んでいると、突然視界が塞がれる。
あれ、この声は確か…

『っえ、あ、……え、エドァルドくん…?』

「正解♪」

ぱっと視界が明るくなり、嬉しそうなエドァルドくんがひょっこり顔を出す。
彼はエドァルド・フォンヴォック。同じ大学の同期で、専攻も同じという。
所謂…友達?いや、そんなおこがましいな…し、知り合い、かな?


「隣、いいかな」

『あっ…はい!ど、どうぞ…』


広げたままの課題や資料を片づけると、「ありがとう」とキラキラした笑みで言われた。
そのまま彼はパソコンを取り出し、何やら操作をしている

『エドァルドくんは機械が得意でいいなぁ…』

「土居さんは苦手なの?」

『うーん…なんていうか、……難しくて』

「あ、じゃあ今度…「土居!」」

『はぇっ!?…あ、せ、先生』


振り向くと、参考書?を持ったギルベルト先生がこちらに向かってきているところだった。
机に腰掛け、ニィっと笑って手に持つ本を渡される。
前に欲しいと言っていた本だ


『…これは?』

「前に読みたいっつってたろ?」

『え、あの…』

「いつも頑張ってる土居に俺様からプレゼントだ」

『!?!?』


言葉がついて行かない。
ギルベルト先生はここでも人気の先生で、生徒もいっぱいいて、私のことなんて覚えてるはずが無いと思っていたのだけれど。
憧れていた先生から、欲しかった本を手渡されるなんて。


『で、も…あの、先生…』

「礼とかいらねえからな。俺は土居が歴史を勉強してくれることが嬉しいんだよ」


くしゃりと髪を撫でられ、名前を呼ばれ、顔に熱が集まる。
お礼を言わなきゃならないのに、言葉が出てこない。

『あ、っ、ありがとうございますっ!』

なんとかそれだけを言って、恥ずかしさのあまり図書室から飛び出してしまった。
後ろでエドァルドくんや先生が呼ぶ声が聞こえるけど、今更戻れない。
恥ずかしくて、顔が熱い。どうしようもなく心臓がうるさい。


『…先生…』


この気持ちは憧れのはずだ。
そう言い聞かせ、なんとか心臓を落ち着かせた。

2

「楓!チャオ」

『あ、ロマーノくん、おはよう』

「ベッラベッラ、今日放課後お茶しない?」

『ふ、フェリくんも…おはよう』

「やぁ楓!おふぁほう」

『…えーと…アルくんは相変わらず元気だね…』


ここの人たちはみんな個性豊かで国際色豊かだ。

「楓ー、課題やった!?ワタシ忘れたヨー…」

『わ、湾ちゃん…』

「大体興味のある国のことについて調べろだなんてワタシ達には……」

『?』

「イヤ、なんでもないヨ!楓はどの国について調べたの?」

『私は…』

バッグの中から課題を出すと、彼女は目をパチクリさせた。
なんだろう、なんか変なことでも書いてたかな

「す、すごい量…プロイセンについて?」

『うん、調べてるうちに楽しくなっちゃって…』

「アイヤー…楓ってば真面目すぎるヨ…」



**



「土居、ちょっといいか?」

『え、…あ、先生』

「今朝出してくれた課題のことについてちょっとな。
…図書室まで来られるか?」

『は、はい』


ギルベルト先生に呼び出され、また心臓が早鐘を打つ。
なんかミスをしただろうか、と少し不安になりながらも、言われるがままに図書室へと向かった。

3



『し、失礼します…』

「お、来たきた。」

先生は相変わらず机に腰掛け、嬉しそうに手招きをする。


『あの、課題のことで、って…』

「あー……それな、アレだアレ。…理由付け」

『…へ?』


意味がわからずキョトンとしていると、眼鏡の奥の紅い瞳が揺らめいた


「女へんに子、でなんて読む?」

『え?…好き、…?』

「…おう、それだそれ」

『?』


それ?それってどれだろう?
というか先生は何がしたいのか?
ぐるぐると考えていると、視界が暗くなり唇に温もりが触れる。
同時に頬のあたりに眼鏡の冷たさを感じ…え?


『…………Σッ!?』

「ケセセッ、気付くの遅せぇよ」

『な…え…、あの…???』

キスされた!?ギルベルト先生に!?なんで!?


「楓に惚れた」

『だ、れが、ですか?』

「俺が」

『誰に?』

「楓に」

『……え、えーと…』

「まどろっこしい。俺様が楓に惚れたんだよ」

さらっといいのける。

「お前はどうだよ、俺のこと、好きか?」

『あの…えぇと…すごく尊敬してます』

「尊敬じゃなくて、好きかどうか聞いてんだよ」

『わ、わかりません、…誰かを好きになったこと、ないから…』


可愛い子なら未だしも、
こんな自分が誰かを好きになるなんて今まで想像すらしてなかった。


『でも、先生といると…ドキドキして、
……す、好き、なのかもしれないです』

「……やべぇ楓超かわいい」

『へ?…っん…』


耳が熱くなるのと同時に、今度ははっきりと、キスをされたのだとわかった。
頭の中がぼうっとしてふわふわする。キスって、こんな感じなんだ
苦しくて、でもあったかくて、溶けそうな気分だ


「…っは、悪りぃ、ちょっとやりすぎたか…?」

『…ぁ、』

唇が離れたことに少し名残惜しさを感じていると、
先生が困ったような表情で頭をかく。

「あー、そうだ。も一ついっておかなきゃならねぇことがあるんだけどな」

『な、なんでしょう』

「…実は俺、国なんだよ」

『………へ?』

「プロイセン王国。大昔に滅んだ国……の、意思?みたいな?」

『あ、あの、意味がよく…』

そりゃ先生は変わった目と髪の色をしているけど、
それにしたって…国?


「まぁ…そうだな、時間はたぁーっぷりあるし…」

『っわ…』

「俺のこと、たくさん教えてやる」


机に押し倒され、指を絡められる。
人気はないとはいえここは図書室。いつ人がくるか…


『せ、先生っ』

「ギルベルトって呼べよ、楓」

『…ぎ、ギルベルト……さん…?』

「よくできました」

『ふゃあっ!?』

首元にぴりっとした刺激が襲う。

『な、何して…』

「恋人同士がすることなんて決まってるだろ?」

『でも、先生っ』

「だからギルベルトだって…まぁ、そういうシチュエーションもイイな」

『な、なっ…』

「安心しろ、優しくシテやるよ」


しゅるりとネクタイを外すその姿は、とてもかっこ良くて
とりあえず明日の授業は休むことになりそうです。


End

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更新日
登録日
2015-06-28

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二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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