転校前夜

転校前夜

あの日あの時を書きました。

若かりしジレンマ

「もしもし。今いい?」
「いいけど…どうしたの?」
「いやさ、なんかほら、明日で最後かって思って」
「そうだねー…。寂しいけどお別れだっ」
「どこ行くんだっけ?」
「ちょっと遠くだよ。新幹線で2時間くらいの」
「それちょっとじゃなくて、だいぶだろ?」
「あはは。そうだね。むしろめちゃくちゃ遠い」
「そうだな」
「うん」
「………」
「………」
「それより今日の英語楽しかったな」
「楽しかったね」
「外国人の先生がめちゃくちゃ日本語うまかったし」
「ねっ」
「………」
「………」
「電話…ありがとね?」
「え?なんだよ急に」
「べーつに」
「変なやつー」
「変なやつですよーっだ」
「………」
「………」

『…すきだよ』

「え?うん?なんて言った?同時だったからわかんなかった」
「私も聞こえなかった。そっちから言ってよ」
「いやだ。恥ずかしいからもう言わない」
「けちー」
「いいよけちで」
「いいの?本当は違うよ?」
「なら取り消しといて」
「はーい」
「えらいえらい」
「わーい」
「今何時?」
「25時14分」
「25時?」
「そう。夜中の1時ってこと」
「へぇ。初めて知った」
「また大人になったね」
「大人…。そういえばお前と仲良くなった理由ってこういう話をするようになったからだったな」
「そう…だね。答えのない事ばっかり議論してはどっちが正しいか証明しあってたっけ。楽しかったなぁ。あの頃」
「お前にそういう一面があるってわかったときはテンション上がったなぁ」
「なんで?」
「普段は元気だけが取り柄で、適当なことしか考えてなさそうなお転婆のくせに、一人の時は人一倍、物事とか世の中について考えてるなんてさ」
「…ぷ。そのまま返すよ。その言葉」
「そうだな。自分でもそう思う」
「まぁ、でも私たちだからっていうのはあるよね」
「どういうこと?」
「かんかん照りの太陽の下では影がよく目立つでしょ?それと同じで、光ばっかり目にする機会の多い私達は、そばにある黒い部分も多く目に映ってしまう」
「まぁ、簡単に言うなら、悪い部分も汚れた部分も多く見てしまうってことだろ?分かるよ。きっと俺にしかわからないだろうけど」
「かもね」

『日陰は日向に憧れ、日向は日陰を嘲笑う』

「あはは。懐かしい。覚えてた?」
「もちろん。でも俺たちは偽りの日向で、実は日陰も望んでて、だけど日向も捨てられなくて、結局どっちなのかもわからない曖昧な1人達。これ好きだったな。ほんと」
「ひとりたちっていうのが本当によかったね。あくまでも二人じゃないんだよ?一人なんだよ。みたいな?」
「思い返せば若かった。今考えたらなんだそりゃっていうような意見が山ほどあったな」
「そうだね…」
「うん?どうした?
「別にー」
「泣いてる?」
「泣いてない」
「うそだ。泣いてる」
「泣いてないってば」
「心配するなよ。お前はどこでも元気にやっていける」
「それが辛いってこと分かってるくせに」
「それでも今まで生きてきた。本当はまんざらでもないんだよ。俺らはただのわがままなんだ。いろんな答えを見つけて分かっただろ?『そんなにうまくできた世界じゃない』ことくらい」
「うん…。本当は不満なんてない。って言ったら嘘。でも、ほんと。これって多分今だけだよね。悩むの」
「そう。俺たちもなりたくはないけど、大人にならないといけない。そのときは今までの考えを全部肯定しなきゃいけない。子どもに言い聞かせる立場にならないといけない。悩む自由を与えたい。若かりしジレンマを感じて欲しい」
「何急に大人になってるの」
「お前が泣くから」
「まだ子どもでいようよ」
「卒業だ。これからはもっと広い世界で悩まなくちゃいけない。いつまでも子供じゃいられない。それが答えのない…違うな。答えたくなかった答えに出した、俺の答えだ」
「やっぱり…そうだよね。私大人になります」
「おう。もう荷造りとか終わった?」
「当たり前じゃん」
「そうか。じゃあまた明日学校で」
「うん。本当にありがとう」
「こちらこそ」

『だいすきっっ!!』

プツ。ツー。ツー。ツー。

転校前夜

本当はもっといろんなことを書きたかったんですけど、これだけでわかる人にはわかるかなぁって思ったんで。もう書きませんでした。

転校前夜

中学、高校のゴールデンタイムを書きました。 ワガママな“ひとりたち”の最後の10分間です。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-06-22

Public Domain
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