たぬきときつね
リクエスト*同田貫夢
1
同田貫正国は実践向きの刀であり、その傾向は人の姿を成しても変わることはない。
故に、戦闘を好み、帰ってくると身体中に生傷が絶えない。
「…だからって、一軍から外すこたぁないだろ」
縁側に座り、ぼんやりと空を眺める。
本日、同田貫正国は出陣なし、つまりお休みの日だ。
遠征も内番も無し、と口酸っぱく言われては、従うしかない
「(…俺が剣を振るうのは、あんたのためなのに)」
三日月や左文字と違い、自分は飾る為ではなく、ただ振るわれる為に存在していることは知っていた。
同田貫自身も、部屋で篭ってるより戦場にいる方が好きだった。
だから多少の怪我は気にしなかった。
自分はただ一人、主の為に存在しているのだから。
「何を不貞腐れておる、若造よ」
「あ?…あぁ、小狐丸か。…別になんでもねーよ」
「わしに一軍の隊長の座を取られた気分はどうじゃ」
満足気に言う。
同田貫の代わりに隊長になったのは小狐丸だった。
と言っても今日は手入れ終わりで休みだが。
「おぬし、何故主様が隊長からおぬしを外したらわからんわけではあるまい?」
「…理由なんて知らねぇよ。あの人が俺よりお前を選んだってだけじゃねえの?」
刀なんてそんなもんだろ。
より強い刀が主のそばにいられる。
名誉も称号も関係なしに、ただ純粋に強い者のみが戦場に立っていられるのだ。
「あなや。たぬきは主様の事を好いておると思っていたが?
そこまでわからぬのなら教えてやろう。主様はたぬきを心配しておったのよ。毎回毎回破壊寸前になって戻ってくる貴様をみて、心優しい主様が傷つかぬはずがなかろう?
ぬしは痛くはないのやもしれぬが、主様の心はそうではないのだぞ」
「………そんなん、あいつが傷付いたって意味ねぇよ。
だいたい、俺ァ刀だ。色恋なんざ似合わねぇよ」
見た目が綺麗なら兎も角な。
そう自嘲気味に呟く同田貫に、小狐丸は勝ち誇ったような笑みを浮かべた
「ふむ…そうかそうか、たぬきは主様を好いてはおらぬのか。ならばこの小狐丸、たぬきの分まで主様を愛してやろうぞ」
「なっ…」
『小狐丸、同田貫、どうしたの?』
主が不思議そうな目で2人を見る。
会話は聞こえていないようで胸を撫で下ろしたのも束の間、
小狐丸が主に飛びついた
「主様っ、小狐丸めが手入れから戻ってまいりました。毛繕いをしてくださいませ」
(この狸ジジイ。どっちがタヌキだよ)
そう思いながらも、体は勝手に部屋へ戻ろうとする主を引き止めた
『…?』
「あ、…いや、その。……少し、話したい」
そう言えば、主は頷き近くの部屋に通される。
さて、何から話したものか。
「…あの狐から聞いた。随分と、心配かけたな」
『……』
「俺は使われる為にある刀だ。戦に出て敵を切り、折れたらそこまで。
…そう思ってたし、今でもその意思は変わらねぇ」
主の口元がきゅっと堅く結ばれる。
それをみた同田貫は慌てて言葉を続けた
「けどよ、俺、気付いたんだ。俺はあんたの為に刀を振る。あんたの為に敵を倒す。
だからあんたを心配させるようなことはしちゃいけないって」
『正国…』
「悪かったな、主。これからはちゃんと考える。だからあの狐じゃなく俺を一軍の隊長にしてくれ」
『…うん』
「っし!じゃあ俺は鍛錬してくる」
『あ、待って』
そう言われ、手のひらに握らされたのは綺麗な布で出来たお守り。
丁寧に名前まで刺繍してある。
『…怪我しないように、お守り』
「…おう、大事にする」
そう言って部屋をでた同田貫は、言いようのない恥ずかしさと嬉しさに動けずにいた。
少し触れた手が熱を持って熱い。顔も熱い。
「畜生…人間は厄介だな…」
End
たぬきときつね