髪梳き
リクエスト*太郎太刀夢
1
「主よ…」
『はい』
「何を…しているのですか」
と問えば、『髪を梳いています』と短く答えられ、会話が終了してしまう。
…私が聞きたかったのはそう言うことではないんですが。
検非違使に手痛くやられ、手入れ序でに、と髪を解かれたはいいものの、
他人に触られるのは自分でやるのとは違い少し気恥ずかしい。
おまけに相手が主であっては尚更。
「…主の髪を弄っていた方が楽しいのでは?」
『いえ、太郎の髪は綺麗ですから』
どう言う意味かわからなかったが、
思い返してみれば、前に次郎太刀と髪の扱いが大変だと話していたような。
しかし先ほどから髪だけではなく首筋に指があたり、中々落ち着かない。
緊張…と言うのか、自分でもよくわからない
主といるとよく緊張するので次郎に相談したところ、
「兄貴もついに恋?応援するよ!」と…。
恋?恋とは、人間がするものではないのだろうか。
『太郎』
「はい」
『痛くないですか?』
「えぇ、少し擽ったいですが」
『そうですか…太郎の髪を弄るのは好きです』
「え…」
『なので、また触らせてください』
驚いて後ろを振り向くと、柔らかく微笑む主と目が合う。
─と、心臓の音がやけにうるさく感じた。
『…どうかしましたか?』
「いえ…いえ。なんでも。」
心臓は一層煩く、顔が火照る。
これが次郎の言っていた「恋」とやらなのか。
「…えぇと、主」
『はい』
「……今度、月見酒でもしませんか」
小さな主は不思議そうに小首をかしげる。
確か飲めない年齢ではなかったはずですが…
『いいですよ、三日月も誘いましょうか』
彼は月がよく似合う、と続けられ、何とも複雑な気持ちになる。
嫌いだとか、苦手だとか、そう言うことではない。
ただ何と無く、二人だけで月を眺めたいと思った
「いえ、その…2人でしたいのですが」
そう言うと、これまた不思議そうに見上げられる。
柄にもなく心を乱された今の私はどんな顔をしているのか、
もしかしたらそんなに面妖な顔をしていたのだろうか。
と、少し不安に思いながら返事を待っていると、主は嬉しそうに微笑み頷いた。
「ありがとうございます」
さて、次の満月はいつだっただろうか。
それまでに、この気持ちの正体はわかるのでしょうか。
人間のようで、なんとも滑稽といえばその通りだけれど、
不思議と、そんなに嫌ではない。
End
髪梳き