火のクニの詩(五)国造り

 巨人は滅びた国を引き摺ってやって来た。巨人は常闇の溜まりにそれを浮かべ、その後、さらにいくつもの廃れた島を国に括りつけた。国造りの始まりである。
 巨人たちがいつ、どこで生まれたのかは誰も知らない。彼らは時が来るとふいに現れて、どこでもない、新たな地を拓こうとする。彼らは時空を一足で跨ぎ越え、二足で忘却の彼方に立ち去って行く。そのため新地は常に、それでまでに存在したいかなる国からも、遠くかけ離れた場所に造られるのであった。
 巨人によって練られた塊は、やがて大筏のように常闇を漂い始める。巨人はそこへ、より強固な土地とすべく、大量の赤い土くれと、黒く硬い岩を運び入れる。国造りは大仕事だ。巨人の中には力尽き、その場に倒れ、朽ちるものもでる。だがその屈強な身体は新たな国の苗床にもなろうし、いずれ獣の――――常闇を彷徨うのは、はぐれ鴉ばかりではない――――の糧ともなろう。どうあれ巨人はその赤黒い、熱と血とがせめぎ合う身体を軋ませて働き、その魂を酷使する。
 巨人が島と島とを押すと、間の岩は赤く、美しく燃え上がる。巨人が土を撫でつけると、国は一面まっ平らになり、古に栄えた国を包みあげる。巨人は土の層を薄く、丁寧に幾重にも塗り重ね、熱で活気を帯びた岩を、ゆっくりと練る。
 仕事の最後に、巨人は国に海を注ぎ入れる。黄泉の向こうの、母なる大洋からはるばる汲んで来た霊水を、勢いよく、溢れる程に、流し込む。この役は一団の中で最も背の高い者が行わねばならない。選ばれた巨人は高々と甕を掲げ、届き得る最も高い場所から、土地に向かって一気に雨を降らせるのだ。
 ようやく水の捌けた頃、新たな国の息吹が聞こえ始める。
 微かな、しかし太い、長く轟く海鳴りの産声を聞きながら、巨人は役目を終える。枯れて死を待つべきものはそこに残り、まだ魂の尽きる運命にないものは、ゆっくりと、一歩、一歩を深く踏みしめながら、帰って行く。
 そうして残された巨人の亡骸は、じっと新たな国の光芒を見守りながら、腐る。

火のクニの詩(五)国造り

火のクニの詩(五)国造り

混沌とうねる思念はやがて詩となり、編まれた詩はいずれクニを造る。世のどこかに浮かぶ「火のクニ」で伝わる、神話めいたいくつかの物語。 ……巨人たちの仕事は、国を造ることだった。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-04-12

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