朱い夢
静まり返り 眠る街を駆け行く
「………」
音の無いセカイを走り抜ける。ぴゅうぴゅうと吹いて止まない風に乗りながら 端から端まで走り抜けた。
大きな月がアレンを照らす。
解れ行く世界の 欠片をひとひら 意思の火を片手に、縢り歩く。
終わりなんて見えない仕組みなんだから なにも考えずにいよう。なにも。
絓糸途切れ、ふと見れば僕だけしかいなかった。縋るものなどなくなって、その場に崩れ落ちる。
座り込んだ先の水面には継ぎ接ぎだらけの身体が映った。他に誰もいなかったから、みんみんと鳴いている蝉に問う。
「これは………夢なの、幻なの……」
くたびれては眠り、赤い夢を見る。篝火は倒れて 空を焦がした。
急き立てられたかの様にゆらりとした足取りで歩き出す。孤独な太陽のように繰り返して。
澄み切った青空、岩影にもたれて 頬撫でゆく風は「おやすみ」と呟いた。
「──おやすみ」
解れ、解れ、欠片に戻る現し世の記憶は 霧散の瀬戸際を未だ見ず。
辛うじて留める、形を繋ぐ敢えない魔法は 駆け換えの無い命の影。アレンはこの世界に最後の魔法を残した。
動かぬその右手にはクチナシの花束を
地に返る魂に、捧ぐ餞
残されたセカイには縁なしの絶望と、できることならば暫くの永遠を
朱い夢