朱い夢

朱い夢

静まり返り 眠る街を駆け行く

「………」

 音の無いセカイを走り抜ける。ぴゅうぴゅうと吹いて止まない風に乗りながら 端から端まで走り抜けた。
 大きな月がアレンを照らす。
 解れ行く世界の 欠片をひとひら 意思の火を片手に、縢り歩く。
 終わりなんて見えない仕組みなんだから なにも考えずにいよう。なにも。

 絓糸途切れ、ふと見れば僕だけしかいなかった。縋るものなどなくなって、その場に崩れ落ちる。
 座り込んだ先の水面には継ぎ接ぎだらけの身体が映った。他に誰もいなかったから、みんみんと鳴いている蝉に問う。

「これは………夢なの、幻なの……」

 くたびれては眠り、赤い夢を見る。篝火は倒れて 空を焦がした。
 急き立てられたかの様にゆらりとした足取りで歩き出す。孤独な太陽のように繰り返して。

 澄み切った青空、岩影にもたれて 頬撫でゆく風は「おやすみ」と呟いた。

「──おやすみ」



 解れ、解れ、欠片に戻る現し世の記憶は 霧散の瀬戸際を未だ見ず。
 辛うじて留める、形を繋ぐ敢えない魔法は 駆け換えの無い命の影。アレンはこの世界に最後の魔法を残した。
 動かぬその右手にはクチナシの花束を
 地に返る魂に、捧ぐ餞

 残されたセカイには縁なしの絶望と、できることならば暫くの永遠を

朱い夢

朱い夢

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • アクション
  • 青年向け
更新日
登録日
2015-04-08

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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