「ハイスクール!ノーリターン!( 第1話〜第42話 ボイスドラマ用シナリオ版)随時更新

「ハイスクール!ノーリターン!( 第1話〜第42話 ボイスドラマ用シナリオ版)随時更新

ハイスクール!ノーリターン!

Tacci著
artwork/kudan

#1「君との誓い」
#2「発熱の理由」
#3「ミラクル過ぎる」
#4「宣戦布告」
#5「嵐の前の一悶着」
#6「さらば友情」
#7「奪われた恋」
#8「連鎖する悪夢」
#9「真相と決断」
#10「火のついた乙女心」
#11「胡桃の恋」
#12「窓辺の二人」
#13「秘密の静寂」

#14「青春マリンロード」
#15「絆の鐘」
#16「一触即発」
#17「ガールズ・トーク」
#18「レッツ・パーティー!」
#19「穴があったら入りたい!」
#20「桃色に染まる二人」
#21「サクランボの実る頃」
#22「夢なんかじゃない」
#23「家族会議」
#24「夏の終わり」
#25「あの日と同じ空」
#26「揺れる想い」
#27「ありがとう」
#28「忘れ物と贈り物」
#29「キミがいる」
#30「ベストフレンド」

#31「桃栗祭がやってくる!」
#32「新入部員の凱旋」
#33「こえ劇スタート!」
#34「ミラクル再び」
#35「瑠璃野遥の置き土産」
#36「幼き恋」
#37「正義の味方、現る!」
#38「アクシデント」
#39「キミがいない」
#40「リセット」
#41「ちぎれゆく絆」
#42「希望の匂い」



主要登場人物一覧

練祢 小百合(ねりね さゆり)・・・物語の主人公で、律とは幼なじみ。底抜けにアクティブな性格だが、恋にはちょっと奥手な女の子。律に対して密やかな恋心を抱くも、あと一歩踏み出せずにいる。声優部所属。

黒坂 律(くろさか りつ)・・・小百合の幼なじみ。思い込んだら一直線な不器用でアツい性格。将来の夢は作家、のはずだったが...ひょんなことから小百合とともに声優を志すことに。ラノベ研究会所属。

麦野 胡桃(むぎの くるみ)・・・チャーミングな容姿とは裏腹に、皮肉屋で気の強い一面を併せ持つが、根は優しく世話焼きな小百合の良き理解者。演劇部所属。

望田 清十郎(もちだ せいじゅうろう)・・・その物腰の柔らかさとフランクな性格で、仲良し4人組のムードメーカーを務める。その知的なルックスに似合わずアツい一面も。演劇部所属。

#1〜#5

#1〜#5

ハイスクール!ノーリターン!


主要登場人物一覧

練祢 小百合(ねりね さゆり)・・・物語の主人公で、律とは幼なじみ。底抜けにアクティブな性格だが、恋にはちょっと奥手な女の子。律に対して密やかな恋心を抱くも、あと一歩踏み出せずにいる。声優部所属。

黒坂 律(くろさか りつ)・・・小百合の幼なじみ。思い込んだら一直線な不器用でアツい性格。将来の夢は作家、のはずだったが...ひょんなことから小百合とともに作家兼声優を志すことに。ラノベ研究会所属。

麦野 胡桃(むぎの くるみ)・・・チャーミングな容姿とは裏腹に、皮肉屋で気の強い一面を併せ持つが、根は優しく世話焼きな小百合の良き理解者。演劇部所属。

望田 清十郎(もちだ せいじゅうろう)・・・女性の扱いに長け、その物腰の柔らかさとフランクな性格で仲良し4人組のムードメーカーを務める。その知的なルックスに似合わずアツい一面も。演劇部所属。

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ハイスクール!ノーリターン!
第1話
「君との誓い」


 7月も中旬に差し掛かった、暑い夕暮れの河川敷。
 その日も私と律くんは、彼自身の書いたシナリオで、掛け合いの練習をしていた。
 夕涼みとは言え、二人とも熱を込めて演技し過ぎてしまって……。
 私はローファーを脱ぎ、律くんは学生ズボンの裾を捲り上げ、
二人して鞍流瀬川に足を浸して涼を取っていた。
 茜色に染まる河川敷の石畳み……林から降り注ぐ蝉時雨……。
 すべてを鮮烈に覚えている。彼から切り出された言葉も……全部。



小百合「絶対叶えようね、律くん……!」

律「ああ、約束だぞ!」

小百合「うん、約束。……あたしたち二人とも、お互い夢を叶えたら……やっと挑戦出来るんだね、その約束……!」

律「そうだ。まあとりあえず今はお互い、修行あるのみだな」

小百合「うん……!私、絶対瑠璃野さんみたいな素敵な声優になるっ!」

律「ああ、俺だって…!絶対すっげえ作家になって……作品をアニメ化してみせるっ!」

小百合「うんうんっ……なんか今からドキドキするね……!」

律「うん……!」

 わたしと律くんとは、幼馴染にして現在18歳の高校3年生。別に付き合ってるとか、そうゆう仲ではない……今のところ。
 それに律くんは鈍いから、きっとあたしの気持ちなんて……知らないだろう、多分。
 そんなこんなで、あたしたちは二人きりになると、もっぱら将来の展望や世間話ばかりなのでした……。

小百合「律くんの原作がアニメになるとか……!」

律「んでもって……!小百合がそのアニメでヒロインを演じるとか……!」

小百合(こっ、これは……っ!意気投合の匂い…!ぷぷんとですっ!)

小百合/律「うんうん…!すっごい楽しみっ!」

 私たちは、目をキラキラさせて同じ言葉を叫びました……。手を伸ばせば届く距離で笑っている律くん。そう、私は彼に想いを寄せていました……。でもなかなか切り出せなくて、もどかしい思いを多々これまでしてきましたが、それはそれで楽しい時間でもあって……。
 もし私の気持ちが通じたらなぁなんて……たまに考えたりするけれど……。もし告白に失敗して、それが原因で今の関係がギクシャクするのも怖くて……あと一歩踏み出すことが出来ないあたしなのでした……。

律「……あ、そういえばさ、今季アニメどれ見てる?」

小百合「えとね……クロノ・サーカスかな」

律「おお!俺もそれ見てる!ヒロインの瑠璃野さん、めっちゃかわいいよな!マジ天使っ!結婚したいよ〜!」

小百合「むっ…。で、でもでも!主演の石田俊介さんだって超かっこいいもん!私、石田さんの声が一番好き!誰かさんと違って、声にオトナの包容力あるし!」

律「む…」

小百合(こ、これは…っ!ジェラシーの匂い…!ぷぷんとですっ…!)
「律くん…ひょっとして妬いちゃった…?」

律「な…なんで俺が小百合にヤキモチ焼くんだよっ!」

小百合「ムキになるのが余計あやしい〜!」

律「ちぇ…やっぱやめた」

小百合「やめたって…なにを?」

律「……さっきの約束」

小百合「……え?」

約束してからまだ間もないというのに、私の心にはその一言が世界の終わりを告げられたかのように重く響きました……。

小百合「…なんで?」

律「正確に言うと、変更だ」

小百合「…変更?」

律「ああ。……俺、作家にもなるし、声優にもなるっ!」

小百合「…律くん」

律「な、なんだよ…」

小百合「ううん、びっくりしただけ…」

彼からのまさかの一言に、私は鳩が豆鉄砲を喰らったように立ち尽くしました……。

律「うん。でさ!小百合と共演するっ!俺の書いた原作で!」

小百合「…てゆうか…前の約束より、もっとハードル高くなってない?」

律「いーの!絶対すっげえ声優になって……石田俊介なんかよりもっともっとかっこいい声優になんの!」

小百合「ふふ……律くんかわいい」

律「ば、ばか!からかうなよっ」

小百合「ううん、からかってない……。私たちの約束がもっと楽しみになったから……嬉しくってつい」

律「な、ならいいんだけどさ……。よし、んじゃ今日も掛け合いトレーニングやるぞ」

小百合「律くん、声優目指す発言したからかな……なんか今までと目の色変わったね」

律「ま、まぁな」

小百合「今までは私に付き合ってくれてた感じだったけど……ふふ!」

律「え……小百合と付き合う……?」

小百合「な……! そそそそんなこと言ってない……!」

律「だ、だよな? 悪りい汗、聞き間違えた……!」

小百合「…う、うん…」

 あまりの気恥ずかしさに、お互いの視線が忙しく泳いでしまいます……。うまく話を切り返せたら良かったのですが、こうなってしまうともう私はパニックです!

律「…ごめん」

小百合「べ、別に謝んなくてもいいよ……」

律「そ、そっか……」

小百合「うん……」

律「よ、よし!じゃあやるぞ……あ、メールにシナリオ送ったからな! 見てくれよ」

小百合「うん、えっと今回のシナリオは……タイトル、なになに『イモート・コントローラー』……ふふふ! なにこのタイトル!」

律「いや、シスコンブラコン兄妹の話。ちなみにコメディじゃないぞ」

小百合「え、そうなんだ?」

律「おう。なんてゆうかあれだ、絆みたいなオチに持ってきたいなあって」

小百合「あはは、了解。じゃああたしこの妹役ね」

律「うん、俺が兄貴役な!」

小百合「お兄ちゃん、お願いします……!」

律「ははっ。ようし、今日も一丁やりますか!」


第2話へ続く


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ハイスクール!ノーリターン!
第2話
「発熱の理由」


 私と律くんの掛け合い開始からおよそ10分。とにかくセリフの中に《お兄ちゃん》という言葉、呼びかけの多い役で……!幸い周りには誰もいませんでしたが、もしこれを聞かれていたらなどと思うと、かなり恥ずかしいやり取りです……!

律「お前のことは、お兄ちゃんが絶対守る……!」

小百合「こうして、兄妹の絆はより深まったのでした、おしまい。……はい、お疲れ様でしたぁ!」

律「ふぅ、終わった終わった」

小百合「なんとか演じられたかな…」

律「うーん……」

小百合「…?どしたの律くん」

律「いや、やっぱ小百合の声、存在感あるなって」

小百合「え…本当に?…嬉しい」

律「でもな〜!それに比べて…俺はダメだなぁ…ぜんぜんかっこよくない」

小百合「そんなこと…ないと思う」

律「はぁ…やっぱ俺なんか、声優とか無理なのかな…」

小百合(こ、これは…っ!励ましてあげるべき匂い…!ぷぷんとですっ…!)
「私はッ……律くんの声……」

律「ん?」

小百合「好き……だよ」

律「……熱でもあんのか?小百合、顔赤いぞ?どれ……」

小百合「ひゃっ……律くん何をッ⁉︎」

律「いや、熱ないか触っただけ」

 律くんの暖かい手のひらが私のおでこに添えられていて……!これでは照れてしまって、更に顔が赤くなってしまいます……!

律「う〜ん、やっぱお前、熱あるんじゃないか?更に赤くなってきて…」

小百合「も、もう大丈夫だよ…!あはは…///」

律「そか?ならいいんだけどさ…」

小百合(こ、これは…。乙女のピンチの匂い…!ぷぷんとです…っ!「あっ!あ〜ッ!そうだ、そういえばさ、今週末に公開収録あるんだよね!律くん知ってる⁉︎」

律「話が見えんわ!どこで何の収録?」

小百合「あっうん、名古屋アニメーションがやってる声優スクール分かる?」

律「いや、わかんない」

小百合「うん…とにかく、そこのビルの一階にね、ガラス張りのレコーディングブースがあるのね。そこでなんと! クロノ・サーカスの公開生収録が行われるのっ!」

律「マジかよッ! てことは…! 瑠璃野さん来んのッ?」

小百合「む……。た、多分ね。わかんないけど、石田俊介さんは来るってネットで見た…!」

律「む……。石田俊介、ね。お、面白そうじゃん。まあ俺がこの目でどれほどの奴か見極めてやるよ」

小百合「もう律くん、石田さんを敵対視しすぎだよぉ」

律「べ、別にそんなんじゃねーし!俺のお目当ては瑠璃野さんだもんね」

小百合「むぅ……何よ瑠璃野さん瑠璃野さんて。デレデレしちゃって!それはそれでなんか悔しいじゃないかぁ」

律「はぁ?なんで小百合が悔しがるんだよ〜!」

小百合(ま、またしても!乙女のピンチの匂い!ぷぷんとですっ……!)
小百合「あ、それはその……」

律「よくわからんな、小百合は。まあいいや、んじゃ週末そこ行こうぜ」

小百合「うん、じゃあ週末、だね…」

律「おう!じゃあ今日は解散な!」

小百合「あっ、うん」

律「あ、そうだ......小百合」

小百合「な、なに……?」
小百合(こ、これは……!まさか告白の匂い!ぷぷんとですかっ⁉︎)

律「お前、風邪っぽいみたいだからさっ。お大事にしろよ!じゃあなっ!」

小百合「あっ……行っちゃった。もう……律くんて本当鈍感!私一人で赤くなってバカみたいだよう……!あーもう律くんのバカ!」



そして、お待ちかねの週末がやってきました!
お互いの都合で、律くんとは現地にて待ち合わせです!


小百合「律くん、道に迷ってるのかなぁ。もう収録始まっちゃうよ」

律「あっ、いたいた!小百合〜ッ!」

小百合「あっ!良かった〜間に合って!」

律「悪い、ちょっと考え事してたら道に迷ってさ」

小百合「ふふ、律くんらしいよう本当に」

その時、レコーディングブースの前の人だかりが、なにやらざわつき始めたのです。

小百合「始まるみたい!もっと前に行こう!」

律「ちょ、小百合っ!待てってぇ」

小百合「ふう、なんとか最前列ゲットです……!」

律「あ、ああ。でもこれ、すし詰め状態だな……!」

小百合「う、うん……そうだね…///」
(ふぇぇぇ…!勢い余って乗り込んだまでは良かったものの……!まさか律くんとこんなに密着することになるとは思ってなかったぁぁぁぁ///)

律「おい押すなよッ…。まったくッ…。小百合、大丈夫か?」

小百合「…う、うん…」
(いやぁぁぁぁなにこの状態…ッ!まるで後ろから抱きしめられてるみたいに…!どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう///)

石田「皆さんこんにちは!本日はクロノ・サーカス公開収録にお集まり頂き、誠にありがとうございます!」

律「あ」

小百合「?……ああっ!石田俊介さんッ!来たぁぁぁぁ!」


第3話へ続く


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ハイスクール!ノーリターン!
第3話
「ミラクル過ぎる」



律「あいつが……石田俊介か」

その時、ブース脇に置かれたスピーカーから声が聞こえてきました!

石田「皆さんこんにちは!本日はクロノ・サーカス公開収録にお集まり頂き、誠にありがとうございます!」

品の良い仕立てのスーツに身を包み、爽やかなショートカットに柔らかい雰囲気の黒縁眼鏡…更に!口元からこぼれる白い歯の輝きの眩しさに…!女性ファンから黄色い声援が飛び交っています…!

「きゃ〜!石田さーん♥︎」
「俊介く〜ん!こっち見て〜♥︎」

律「ち、大人気だな……。確かにルックスもイケてやがる」

小百合「はぁ♥︎石田さん素敵……!早く生収録が聴きたいっ♥︎」

律「ふんッ…。さぁて、お手並み拝見といくか」

石田「暖かいご声援ありがとう!では早速ですが、収録を開始していきますので、どうぞ皆さんお静かに願いますね!」

「は〜い♥︎」

律「さっさと始めやがれってんだ」

小百合「…もう律くんたら」

収録を観覧しながら、横目に律くんの様子を伺ってみる…。険しい目つきで石田さんを観察しています…。あたしはと言えば…やはり憧れの人気声優を前にして、その圧倒的な実力、オーラを肌で感じ、黄色い声が出そうになるのをさっきから必死で抑えている次第ですぅぅぅ!



石田「はいっ!これにてクロノ・サーカス第4幕の収録が無事!終了となりました〜!ご声援ありがとうございました〜!」

「キャ〜!石田さん最高でした〜♥︎」
「俊介く〜ん!まだ行かないで〜!」

石田「あはは…皆さん申し訳ありません……!僕はこれからまた次の収録に行かなくてはならないのです〜!また皆さんにお会い出来るのを楽しみにしてますからねっ!それではご機嫌よう〜!」

「ああ〜ん!俊介くん行っちゃった〜!」
「さあ帰ろ帰ろ〜」

小百合「はぁ…!ようやくすし詰めからの解放……!しかも挟み撃ちでドキドキしてしまった〜///」

律「挟み撃ち?」

小百合「な、なんでもないようっ!それにしても石田さんの演技……!すごかったよね!」

律「ああ。確かに石田俊介は……最強かもしれん。くそう……」

小百合「うんうん!私も改めてそう思った〜♥︎ってあれ?律…くん…?どこ消えちゃったの⁉︎」
(こ、これは…!私…ッ…迷子の匂い…!ぷぷんとですっ…!)


律「…こんなとこにクロノ・サーカスのポスター貼ってやがらぁ。
(ちくしょう……実際に生で本人を目の当たりにしてどうだ。……石田俊介。なんて存在感たっぷりの声!演技!実力派にしてあのルックス……!俺みたいな小僧、勝ち目なんてねーだろ……!)

「そのポスター、良かったら持ってっちゃって」

律「え?いや、俺そうゆうつもりじゃ……って、ああっ!」

石田「やぁ。確か君、最前列で観覧してくれてたよね?」

律「い……石田俊介だ!」


第4話へ続く


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ハイスクール!ノーリターン!
第4話
「宣戦布告」



石田「正解!君は?」

律「あっ…えと、俺っ…黒坂律ですッ!」

石田「律くんか。あ、興味本位で伺いたいんだが、ちなみに君はクロノ・サーカスでどの声優のファン?」

律「瑠璃野さんですけど……あ、そんなことより石田さんッ!まさかこんな風に話せるとは思ってなかったから……今!い、言わせてもらいますッ!」

石田「ど、どうしたのそんな顔して」

律「石田さん……俺は、あなたに今日!宣戦布告しますッ!」

石田「せ、宣戦布告?」

律「はいっ!」

石田「なんでまた僕なんかに?」

律「そ、それはッ!お、俺の大好きなやつが……石田俊介のことばっかりかっこいいって言うからッ、です…!」

石田「……。あっはっは!そっかそっか……そりゃ申し訳なかったね……」

律「べ、別に謝ってもらわなくていいですッ!そんなの俺がッ!将来あなたよりかっこいい声優になれば……!きっとあいつを振り向かせられると思ってますから……!」

石田「ははは……。そっか、まあ事情はよく分かった」

律「絶対に……あなたには負けませんから…!俺と小百合は、あなたと瑠璃野さんよりもっともっとすごい声優になりますから…!言いたいことはそれだけです……失礼します」

石田「律くんと小百合さん、だね」

律「あっ、しまった」

石田「…ちなみに、律くんと小百合さんは同じ学校かな」

律「あ、はい」

石田「いや、実は僕も…出身は愛知でね。ひょっとしたら律くんが自分の後輩だったり、なんて思ったものだから」

律「そうだったんですね! え、石田さん母校どこすか?」

石田「神田高校だよ。律くんは?」

律「神田すか!え〜!隣町じゃないですか!あ、俺と小百合は桃栗山高校です!」

石田「ほう!それは面白い。僕の後輩じゃなく、まさか彼女の後輩だったとはね」

律「彼女って…石田さんの彼女ですか?」

石田「あはは!違う違う!個人情報だから名前は明かせないが、知り合いの声優が確か、桃栗山の卒業生だったなって」

律「え!!誰っすか〜!気になる〜!」

石田「あはは、いやごめん。僕はプロフで出身校の公開してるけど。彼女はしてないんだ」

律「そうなんすね…わかりました」

石田「うん、ぬか喜びさせてごめん」

律「いえ」

石田「それにしても…恋か。……青春だなぁ。律くんの今の言葉を聞いて、僕も懐かしい記憶が蘇ったよ」

律「懐かしい記憶……ですか?」

石田「うん。実はね、今じゃそこそこ人気者になったけど…昔はそうでもなかったんだ」

律「え。そうだったんですか」

石田「うん。僕にはライバルがいてね……そいつはすごい奴でさ、いつも僕の十歩先を進んでた」

律「石田さんの十歩先……?」

石田「ああ。伊達ツバキ役の古川慶一郎って分かるかい?」

律「はい、石田さんと同じく、大人気声優ですよね」

石田「そうだね。彼とは古い仲でね、学生時代からの付き合いなんだ」

律「おお、そうなんですか……!」

石田「うん。彼に負けたくない一心で、ここまで登り詰めたんだ。今の僕があるのは、悔しいけど彼の存在があったからなんだよ」

律「そんないきさつが……!」

石田「クロノ・サーカスのキャスト選考でも、彼とやりあった。そして見事、主演の座を勝ち取ったんだ」

律「なんてハイレベルな闘いなんだ…!」

石田「今も変わらず、彼はすごい声優だよ。尊敬して止まないくらいにね。でも…」

律「…でも?」

石田「バチバチに意識してガムシャラになってたあの当時は…僕も今の君みたいな目をしてた。…そんなことを思いだしてね。懐かしくなったのさ」

小百合「あっ、いた!律く〜ん!」

律「ゲッ、小百合…!」

石田「……律くん」

律「あっ、はい!」

石田「僕は逃げも隠れもしない。きっとここまで登っておいで」

律「石田さん……!」

石田「その時は真剣勝負だ。僕も主演の座は譲らない!おっといかん。では失礼するよっ!」

律「あっ!」

小百合「はぁっ…はぁっ…も〜!律くんたらー!突然迷子になっちゃうんだから〜!…って、あれ?今律くんが話してた人ってもしかして……」

律「……ああ、石田俊介だよ」

小百合「えー!律くん…?失礼なこととか…言ってない…よね?」

律「おう、心配すんなって。宣戦布告しただけだ」

小百合「良かった〜♥︎って…え?今…宣戦布告…って言わなかった…?」

律「言った」

小百合「はわわわ…!なんてことを…!」

律「でも…思ってたより嫌なヤツじゃなかったけど…な」

小百合「律くん…!それでそれで、他に石田さんとどんなお話したの⁉︎」

律「内緒」

小百合「えぇぇ〜⁉︎なんでなんでなんで〜⁉︎」

律「安心しろって。ちゃんと小百合のことも伝えといたからさ」

小百合「きゃあ♥︎律くん!ありがとう〜♥︎え〜!なんて伝えたの⁉︎」
(こ、これは〜///私が石田さんの大ファンだって伝わった匂い…!ぷぷんとですっ♥︎)

律「うん。俺と小百合は将来、絶対に石田さんと瑠璃野さんよりすごい声優になりますよ、ってさ」

小百合「な…なにそれ…。意味わかんないよ…?嘘でしょ…はわわわ…あたしが瑠璃野さんよりすごい声優になるだなんて言ったの…?」

律「ははっ!そんな震えるほど喜んでくれるとはなっ!」

小百合「律くんの…ッ…バカバカバカバカバカバカ〜‼︎‼︎」

律「え?…うわぁぁぁっ⁉︎なにすんだよ小百合ィ!」

小百合「こら〜!待ちなさ〜〜い!もぉ〜〜!」

律「ははっ!やめろって〜!…うっ…痛っ…て…」

古川慶一郎「…おい兄ちゃん。人にぶつかっといて挨拶無しってえなるとよう…こりゃ事務所来てもらうしかねーやなぁ?兄ちゃんよぉ…!」

律「じ…事務所って…まさか…っ!」

小百合「ひっ…ご、ごめんなさい…」

古川「…ふっ。なーんてな笑」

律と小百合「…えっ?」

古川「まあでも。この辺り、そっちの御仁も珍しくないからなぁ!しっかり前見て歩けよ〜少年!」

小百合「ふぇ〜...冗談だったんですか〜」

律「…は、はい…すみません…でした…」

小百合「びっくりした〜」

古川の携帯から着信音。

古川「おっと悪ィ、電話だ。…はいもしもし古川ですっ!…おお!石田か!」

小百合「 …えっ?」

古川「いや〜たった今名古屋に駆けつけたんだがよう。公開収録イベントってまだやってっかなーと思ってなぁ!」

小百合(古川…?…しかも…石田って…まさかこの人…!」

古川「……ああ?終わっちまったのか⁉︎ちっ、サプライズゲストで俺が出りゃよう、
お前なんかよりもっと盛り上げてやったんだがなぁ!」

小百合「律くん…この人…」

律「…ああ、間違いない」

古川「……はっは!やかましいわ!……おう!んじゃ俺も次の現場行くわ。
…はいはい了解!んじゃーまたな!…とまあそうゆう訳で!兄ちゃんたちもじゃーな!」

律「あ…ハイ…ッ!」

小百合「…今日はその…なんてゆうか、すごい日だね…。信じらんない…!」

律「ああ…あの人が、かつて石田俊介の10歩先を歩いてた人らしい...」

小百合「それ…さっきご本人から?」

律「ああ」

小百合「すごいエピソードだけど……律くん。私たち、あんなすごい人たちよりすごくなるって…そう言ったんだよ?…ぁぁぁ…なんか更に怒りと恥ずかしさが込み上げてきたぁぁぁ…!」

律「うぁ…小百合!やっべ!逃げろ〜〜!」

小百合「もー!律くんのバカバカバカバカバカ〜!」


第5話へ続く



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ハイスクール!ノーリターン!
第5話
「嵐の前の一悶着」



小百合「はぁ…こないだの律くん事件(じけん)。絶対あれご本人に伝わってるよね…。消えたい…消えたいよぉぉ!」

橘 千恵「小百合おはー。ん、どした?そんな地縛霊みたいな顔して」

小百合「あ…千恵りん。おはよう…てゆうか。私、地縛霊みたいなそんな顔してた…?」

千恵「うんうん。今日から始まったか、地縛霊みたいな」

小百合「うーん、ある意味ブルーな出来事があったさー…」

律「おはよーっす」

清十郎「おはよう、律」

胡桃「あ、黒坂。おっはよ〜!ニヤニヤ…」

律「おう。…ん?どしたよ胡桃」

胡桃「小百合から聞いたよ〜?」

律「何を?」

胡桃「あんたさ、超人気声優の石田俊介と会って喋ったらしいじゃん」

律「おう、ガツンと言ってやったぜ」

胡桃「ぷはは!何がガツンとよ(笑)あんたさぁ…ほんといい度胸してるよね」

律「…それ、どういう意味だよ」

胡桃「はぁ?身の程知らず!って意味に決まってんじゃん!」

律「あのな胡桃。…俺のことはいいけどよ、小百合のこと馬鹿にするんなら…いくら胡桃でも許さねえぞ」

胡桃「なっ…何そんなムキになってんのよ…!ちょっとからかっただけじゃない!」

清十郎「まあまあ!二人とも落ち着きなって!」

律「清十郎、お前は引っ込んでろ」

清十郎「確かに今のは胡桃が悪いよ。はい、仲直り仲直り!」

胡桃「清ちん……分かった」

小百合「……あれ、律くん達…なんか揉めてる…?考え事してたらぜんぜん気づかなかった…!」

胡桃「ん〜…黒坂、ゴメン…」

律「いや…俺も…カッとなって悪かった。ゴメン」

清十郎「よし!仲直り完了!さ〜て律。後で僕からもいろいろ聞きたいことがあるから。(くだん)のお二人さんの、秘密のデートについて!」

律「!デデデデート⁉︎おい、お前何勘違いして…!」

小百合《こ、これは…!ちょっぴり嬉しい勘違いの匂い、ぷぷんとです…!「そそそそーだよ⁉︎あた、あたし達ただあの日!二人で公開収録の見学に行っただけだから!」

清十郎「ふ〜ん。二人きりでねぇ…。僕と胡桃は置いてけぼりでねぇ…」

小百合「か〜っ///」

律「いや…ッ…だ、だってお前ら!公開収録なんて興味無いだろーよ!」

胡桃「まぁね。あんたと小百合ほどアニオタではないわね」

小百合「胡桃…ッ…小百合のことアニオタって言わないで〜」

胡桃「あはは、ゴメン!アニ女にしとく!」

小百合「あんま変わってない……」

律「どっちでもいいよ」

小百合「良くなぁぁぁい!」

胡桃「てかさぁ、話変わるけど。明後日からさ、待ちに待った夏休みじゃん?しかも最後の!」

小百合「あ……そだね!高校生活最後の夏休みなんだよね…!」

清十郎「そうだね。夏休みといえば…。はい、じゃあ皆の意見を聞こうか。律は?」

律「ん?夏休みといえば?そうだな〜……花火とか!」

胡桃「誰と?」

律「え、いや……誰とって言われても」

胡桃「なにそれ。あんたってほんと色気無いんだからもう」

清十郎「小百合ちゃんは?」

小百合(はっ…!これは…律くんをフォローすべき匂い!ぷぷんとですっ!)
「えっと、私も花火が真っ先に思いついた、かな」

胡桃「ふ〜ん。もちろん!彼氏とだよね〜!」

小百合「かッ、彼氏…!で、出来れば……うん」

清十郎「そう。夏休みといえばッ!僕らには受験勉強もあるが。…やはり恋愛だよ…!」

律「れ、恋愛な。まあ、そうゆう楽しみ方も…いいんじゃないかな…うん」

胡桃「どうせあんたは一日中アニメ見てんでしょ!」

律「バカヤロ。俺はだな、声優になるための研究にだな、アニメを見てるんだよ」

胡桃「はいはいそーですか。あ、ねねね小百合、こないだ行ったカフェのさ、新店舗がオープンするらしいの〜!」

小百合「わぁ♥︎あそこのジェラートすっごく美味しかったよね!」

胡桃「うんうん。黒坂みたいな辛気臭いカビ臭いアニオタ放っといてさ!夏休みまた一緒に行こーよぉ!」

小百合「う、うん!分かった〜」

律「ぐっ…言いたい放題だな」

清十郎「…なぁ、律」

律「…うん?」

清十郎「お前と小百合ちゃん…結局のところ、どうなってるんだ?」

律「え…いや、別に…。ただの友達……だよ」

清十郎「…そっか。分かった」

律「なんだよ急に改まって…」

清十郎「いや、何でもないよ」

律「そっか…うん」

胡桃「ちょっとあんたたち、そろそろ1限始まるよー」

小百合「はわわ、席戻んなきゃ〜!」


そして、その日の放課後…。あの事件は、起きたのでした…!



第6話へ続く

#6〜#10

ハイスクール!ノーリターン!
第6話
「さらば友情」


夕日に染まる放課後の教室に、一人たたずむ清十郎。

清十郎(昇降口で律を待たせて、10分経過。
しびれを切らして僕を教室に探しに来るまでが…残り5分ほど、といったとこだろう。
鉢合わせの成功には、シビアなタイミングを要するが……これは千載一遇のチャンス。利用しない手はない。
さっき来たメールの返信からしても、小百合ちゃんは間も無くここへ すっ飛んで来る。
…この大事な忘れ物を受け取りに。。)

教室に向かい走る小百合の足音が近づいてくる。

小百合「ふぇぇ//////とんでもない忘れものをしてしまった〜!//////」

教室の扉を開ける小百合。

小百合「あっ、清十郎く〜ん!お待たせしました〜!」

清十郎「やあ小百合ちゃん。早かったね」

小百合「うんうんうん!////メールもらって急いで来た〜!///////」

清十郎「うん。予定通りだよ…ご苦労様」

小百合「…?」

場面変わり、昇降口。一緒に下校する約束をし、先に昇降口で待つように清十郎から言われた律の姿があった。

律「清十郎のやつ遅いなぁ…。ひょっとしてあいつ、先に帰ったかな?」

確認の為、清十郎の下駄箱に目をやる律。

律「…ん?下駄箱に靴がまだある、、ってことは。。まだ教室か…よし」

場面変わり、再び教室の清十郎と小百合。

清十郎「はいこれ。机の下に落ちてたから」

小百合「あ…私の日記…!清十郎くんありがとう…」

清十郎「いいえ、どういたしまして」

小百合「ね、ねぇ清十郎くん…一応確認したいんだけど…この日記の中身とか…」

清十郎「まさか。そんな下衆な真似しないよ」

小百合「良かったぁ…!あ、なんか疑うみたいなことしてゴメンね…!」

清十郎「そうだなぁ…じゃあさ、ちょっと僕のお願い聞いてくれたら許してあげよう」

小百合「ふぇぇぇ!うう…。はい…喜んで〜!」

清十郎「あはは。いや、ありがとう。なぁに、大したことじゃあないんだ」

小百合「うん…分かった」

清十郎「実は今、ちょっと演技で煮詰まっててね」

小百合「なるほど。演劇部の今度の舞台の話ね?」

清十郎「その通り。で、そのシーンなんだが、僕が恋人役を抱きしめるシーンでね。
明日にリハーサルを控えてるのに…その恋人役の女の子が今日、病欠していてね」

小百合「なるほどなるほど〜!大事なシーンだもんね、そりゃ練習しておきたいよね…分かった!」

清十郎「話が早いね、小百合ちゃん。じゃあ早速だけど、ここに来てくれるかい?」

小百合「あっ、はーい…」

清十郎「よし、そこでストップ。セリフは無いから、ただ抱きしめるだけ。
僕自身は表情なんかも演技するけどね」

小百合「了解ですっ!ふ〜…演技と分かっていてもこれは…なかなか緊張するね…!」

清十郎「そうだね。じゃあ失礼するよ…」

小百合「はいっ…!」

その時、何も知らずに教室へと近づいてくる律のわずかな足音を、
耳を澄ましていた清十郎が察知する。

清十郎(...この足音)
「…ドンピシャだ」

小百合「…?」

廊下をブツブツ言いながら歩く律。
そしてその直後、ありえない光景を目の当たりにする。

律「ったく清十郎のやつ……メールくらいよこしとけよな……ん?」

開け放たれた窓越しに見たのは、抱き合う清十郎と...小百合の姿だった。

清十郎「僕も…大好きだよ」

律「あっ…」

律と清十郎、互いの視線が交差する。
廊下に向かって立つ清十郎に抱きしめられ、小百合は律の存在が見えていない。

清十郎「……先に帰っててくれないか?」

律「え…ッ」

小百合「…ん?」

清十郎「…まったく。ちょっとは空気読んでくれよッ!」

小百合「…清十郎…くん?」

律「…ッ…!」

目の前の事態が飲み込めず、戸惑いながらその場を走り去る律。

清十郎「……これでよしと。ハイ、小百合ちゃんお疲れ様」

小百合「えっと…清十郎くん、確かセリフは無いって…」

清十郎「ああ、ゴメン。次のシーンのセリフだよ。つい呟いちゃったんだ」

小百合「あ、な〜んだ!そうゆうことか〜!」

清十郎「そうなんだ。ありがとう小百合ちゃん。今のでかなり手応えを掴んだよ」

小百合「いえいえ〜!こちらこそありがとう…。清十郎くん以外の誰かに拾われてたら…ひょっとして中身見られちゃってたかもだから…!」

その時、廊下から小百合に声を掛ける者がいた。同じ声優部の成美だ。

二階堂 成美「あ、小百合っち。そろそろ劇始めるよー」

小百合「ラジャ!すぐ行く!」

成美「はいよー。梨花と先に役選んでるー」

清十郎「じゃあ僕は失礼するよ」

小百合「あ、うん。私はちょっと部室寄って帰るから!また明日ね」

清十郎「うん、また明日」

小百合「成美〜ん!待って〜!」

成美「断る〜ッ!役取りは早いもの勝ちだ〜ッ!」

小百合「ふぇぇぇ!私たまにはロリじゃないのがいいよ〜!」

清十郎「…さぁてどう出る、律」


第7話へ続く


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ハイスクール!ノーリターン!
第7話
「奪われた恋」



律「…なんだったんだよさっきの…!…小百合と清十郎がッ……」

無我夢中で自転車を漕いで、行きつけの河川敷に俺は逃げ込んだ、つもりだった。

律「嘘じゃ……ないんだよな……あいつら…付き合ってたんだ……」

「ちょっと。この世の終わりみたいな顔で体操座りすんのやめてくんない?こっちまで鬱になってくるからさ」

律「え…お前…。こんなとこで…胡桃こそ何やってんだよ…」

胡桃「別に。ここ夕焼けキレイだからさ。学校帰りたまーに寄んのよ」

律「…ごめん、今はちょっと一人にしてくれないか……」

胡桃「なーんであたしがあんたの指図受けなきゃなんないのよ。てか黒坂…あんた泣いてんの?」

律「…あっち行けって…」

胡桃「…仕方ないなぁ。お姉さんが話聞いたげるから…何があったのか言ってみ?」

律「……小百合と清十郎が…ううっ…」

胡桃「ああ、そのこと。あんた鈍いもんね〜。知らなかったんだ?」

律「……知らなかった」

胡桃「てゆうか…んー、ちょっと厳しいこと言わせてもらうけどさ……この結末を迎えちゃったのって、全部あんたの自業自得じゃない?」

律「俺の……自業自得……」

胡桃「そ。あんたがちんたらハッキリしない態度取ってたから。清ちんと小百合くっついたんじゃん?」

律「……そうだな。全部俺の……俺がグズグズしてたからッ……」

胡桃「まあ元気出しなって」

律「俺は……。俺はッ……」

胡桃「ん、メールだごめん。……はいはいオッケーっと」

律「もう諦めるしか……無いよな」

胡桃「黒坂、立って」

律「うう…っ…なんだよ…ッ」

胡桃「見てらんないよ…バカ…」

律「…あッ……胡桃?」

胡桃「こうしててあげる。ほら、好きなだけ泣きなよ」

律「胡桃ッ……」

胡桃の胸に抱かれて......俺は泣いた。

胡桃「よしよし...」


第8話へつづく



ハイスクール!ノーリターン!
第8話
「連鎖する悪夢」


小百合「ふぅ。今日も暑かったな。私も律くんみたいに自転車通学にしよっかな。それにしても……鞍流瀬川の夕焼けってほんとキレイ。子供の頃、律くんとよく二人で川に入って遊んだなぁ。。

(小百合の回想シーン)

まだ幼い小百合と律が、鞍流瀬川で遊ぶ情景。

律「よーし小百合!んじゃ向こう岸まで一緒に渡るぞっ!」

小百合「無理だよ〜!急に深いとこあったら危ないよ〜!」

律「ったくぅ、本当小百合は世話の焼けるやつだなあ。…ほら、俺の手につかまれよ」

小百合「えっ…でもそれはその…まだ私たち…」

律「?…ほーら!さっさと行くぞ!」

小百合「あっ…じゃあ律くんっ!絶対にその手…離さないでね…?」

律「あったりまえだろっ。小百合のことは!俺が守ってやるっ!」

小百合「…う、うん///」



ふふっ。懐かしい思い出!…てゆうか律くん、今日もひょっとしたら何処かにいたりして……ってあれ、律くん……?それに胡桃?……なんで?なんで胡桃と律くんが抱き合ってるの……?嘘でしょ……?」

私は、偶然目の当たりにしたその光景に一歩も動けなくなった。震えている。身体ではなくて……心が。そして理解しました……私が律くんに対して自分の気持ちを…ちゃんと伝えられなかったから…。逃げてきたから…。こんなにも突然に。この恋を失ってしまったんだって……。涙が止まらないよ律くん……。私……こんなに律くんのことが大好きだったから……!でも…胡桃はいいこだから…。でも…っ…でも…!律くんの彼女が胡桃で良かっだなんで……今は…思えないよっ…!


胡桃「よしよし……これであんたもさ、また一皮剥けたんじゃん?」

律「…ぐっ…小百合…ッ…。…なんでだよ…ッ…小百合…っ…!」

胡桃「……ねえあんたさ、このまま小百合のこと諦めるつもりなの?」

律「諦めたくないけどッ!小百合は清十郎とッ……」

胡桃「そんなの関係無いよ……。もしあんたが小百合を好きなら……伝えなよその気持ち……!」

律「胡桃……!」

胡桃「ねえ、ハイスクール・ノーリターンって言葉知ってる?」

律「……知らない」

胡桃「読んで字の如く、高校生活は……18歳の夏は一度きり!二度と戻れないのよ?だから……後悔してる暇があるなら!ぶつかってきなさいよ……!」

律「でも俺はッ……」

胡桃「あんた男でしょ⁉︎キンタマついてんでしょ⁉︎……惚れた女だったら!もっと本気で奪いに行きなよ……!」

律「……俺、小百合が好きだ……!」

胡桃「…そのセリフはさ、小百合に言ってやんなさいよ。バカ」

(小百合)
…私は、いつのまにか逃げ出していた。…気がつくと家の前で、一人立ち尽くしていた…。玄関を足早に抜ける。お母さんから夕食の知らせを聞いても無視した。…今は、笑顔が作れないし…泣きじゃくってひどい顔してるから…。部屋に入るなり扉の鍵をかけ、ベッドに顔をうずめる。ここならもう大丈夫だ。好きなだけ大声で泣ける。…私は、すべてを忘れようと後悔の涙に暮れた。



第9話へ続く



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ハイスクール!ノーリターン!
第9話
「真相と決断」



律「……終業式が終わったら、俺は小百合に告白する。それにしても清十郎のやつ……手の込んだ芝居しやがって。なんだよ夕べの電話……!」

清十郎「よお、律。夜分に悪いな」

律「……何の用だよ」

清十郎「いや、お前にはまず一番に報告しておこうと思ってな」

律「待てよ清十郎、俺は……」

清十郎「実は、胡桃と付き合うことになったんだ」

律「……え。今お前何て言った?」

清十郎「胡桃と付き合う、そう言ったんだ」

律「おい……ふざけんなよ……!じゃああの小百合とのことはどう説明すんだよッ!」

清十郎「ありゃ芝居だ」

律「芝居?」

清十郎「小百合ちゃんにちょっと手伝ってもらってな。ある男の恋心に火をつけてやろうと思ったのさ」

律「まさかその男って……!」

清十郎「そ。黒坂 律、お前だよ」

律「どうゆうことだよ……!」

清十郎「それは僕のセリフだ。お前こそいつまで小百合ちゃん待たせるつもりなんだ?」

律「それは……」

清十郎「空気読めって言ったのは、お前と小百合ちゃんとのことだぞ?」

律「清十郎、お前……」

清十郎「それと、小百合ちゃんにも種明かししてあるよ。胡桃からな」

律「胡桃から?」

清十郎「ああ。胡桃にも一芝居打ってもらったよ。あの河原での一部始終、あれ小百合ちゃんに目撃させた」

律「!……あの時堤防沿いの道に……小百合がいたのか?」

清十郎「ああ。少し離れたところから、僕が胡桃にタイミングを見計らってメールを送った」

律「あ……あの時のメール……」

清十郎「胡桃が抱きしめたお前を、ちょうど小百合ちゃんが目撃するようにね。まあ、ちょっと荒いやり方ではあったが、お前同様、彼女のハートにも火をつける為にな」

律「馬鹿野郎……荒っぽすぎるだろ……。でも……ありがとよ……!」

清十郎「まあこの貸しは学食10回分でいいよ」

律「恩に着るぜ、清十郎……!」

清十郎「まったくだ。ちなみにこのままグズグズしてたら、本当にこの先どうなってたか心配だったんだ」

律「えっ?」

清十郎「小百合ちゃんな、倍率めちゃめちゃ高いんだ。他校の奴らからも大人気。週一で男から告白されてるよ。胡桃からの情報だから間違いない」

律「……マジかよそれ」

清十郎「ああ。でも、全員振ってるんだ。どこぞにいる意中の男が、なかなか重い腰上げないからな」

律「……誰にも渡したくねぇ!」

清十郎「だったら。しっかり捕まえとくんだな。は〜疲れた疲れた。お前のせいでこっちは頭フル回転させたからな!んじゃおやすみ」

律「悪かった……あっ、清十郎って……もう切ってやがる。ちぇ……ありがとよ、清十郎」

(律)
さてと。清十郎にお膳立てもしてもらったことだし、ここはいっちょ俺も男を見せないとな……。


(小百合)
どれくらい泣き続けたのか分からない。気がつくと、朝になっていた。思ったより目が腫れていなくてよかった。これなら終業式に出られる。……律くんとは目を合わせられないだろうけど……。

私が支度を済ませ、ちょうど登校しようとしていた矢先のことでした。

(スマートフォンのバイブ音)

小百合「あ、胡桃から着信……。なんだろ。え...ゆうべ10回以上不在でかかってきてたって……緊急の電話?まさか胡桃に!……ってちょっと気まずいけど出なきゃ……!もしもし!」


第10話へ続く


ハイスクール!ノーリターン!
第10話
「火のついた乙女心」

その朝、胡桃からかかってきた一本
の電話。気まずい気持ちでいっぱいでしたが、私は意を決して着信に応じることにしました……。

胡桃「あ!やっと繋がった……小百合おはよ……!」

小百合「うん……それより胡桃、何かあったの?」

胡桃「あーうん……小百合にちょっと報告があってさ」

小百合「あ……うん。……昨日帰り、偶然見ちゃったの」

胡桃「知ってる。あれ見せたの、あたしと清ちんの作戦だから」

小百合「え、作戦……?」

胡桃「そ。……あ、まずは報告からするね」

小百合「……うん」

胡桃「実は、あたしと清ちん!めでたくカップルとなりましたとさ!」

小百合「え?じゃあ……律くんは……?」

胡桃「ああ黒坂ね。じゃ、あの時のこと、一から種明かしするね」

小百合「う、うん……」

胡桃「まず、教室での小百合と清ちんの一幕。あれね、あの日の帰り、清ちんと帰る約束してた黒坂が、なかなか昇降口に現れない清ちんを不思議に思って、教室に探しに来たギリギリのタイミングを狙って……清ちん、小百合にハグをしたの」

小百合「じゃああの時清十郎くんが呟いたセリフ……あれ、律くんに対してだったの?ううん、それよりも……あのハグを律くんが見てたってこと?」

胡桃「正解。すべてはね、小百合とあのバカのじれったい恋心に火をつける為だった!って訳」

小百合「ふぇぇぇぇ……律くん、どんな風に思ったんだろ……!私と清十郎くんがお芝居とはいえ、抱き合ってて……!」

胡桃「だいじょーぶ!黒坂にも清ちんから種明かししてあるからさ。誤解はちゃんと解けたみたいよん」

小百合「本当?良かった……!」

胡桃「で、お次は小百合の番。てか……まず、謝るね……!お芝居とはいえ、荒っぽいやり方しちゃって。多分小百合には超悲しい想いさせちゃったと思う……」

小百合「うん…こんな形で失恋するだなんて…思ってもみなかった…」

胡桃「ゴメンね……!でも、もう分かったでしょ?このままグズグズしてたら、いつか本当に最悪の展開になってたかも知れないって」

小百合「うん…!私、一晩中泣いていろいろ考えて…!もう待たないって決めたの…!今日私…ッ…律くんに告白しようって…!」

胡桃「小百合…!めっちゃ気合い入ってる…!」

小百合「うん…!胡桃と清十郎くんのおかげでね…!」

胡桃「うまくいくよ…きっと!」

小百合「うん…!あっ…それより!胡桃のほうこそ…清十郎くんと…!」

胡桃「あはは、うん。…まあうちらも、人の世話焼けるほど恋愛マスターじゃないんだけどね!」

小百合「え〜⁉︎二人とも経験豊富なイメージあるよ〜!入学当時からすっごくモテてたし…!」

胡桃「清ちんは確かにね。あたしはそんなことないよ!」

小百合「ん〜そうかなぁ」

胡桃「…実はね、あたしと清ちん、付き合うのこれで二回目なんだ」

小百合「え…ッ!そうなんだ…?」

胡桃「うん…。話、だいぶ遡っちゃうけど聞きたい?」

小百合「当たり前だよぉ!」

胡桃「……分かった。でね、あたしと清ちんは、中学時代からお互いに片思いしてたの。二人ともその当時はまだ若かったってゆーか…なかなかアクション起こす勇気が無かったんだ」

小百合「あ…それって…今の私と律くんみたいな…」

胡桃「そう。だから、あんたたちのこと、高校から一緒だから…もうかれこれ見守り続けて3年か。そろそろあたしも清ちんも痺れ切らしちゃってさ」

小百合「はい…!お手数おかけしました…」

胡桃「ふふ。まあでも、あんたたちのおかげであたしと清ちんもさ、またよりを戻すきっかけが出来たってゆうか」

小百合「えっ?そうだったの?」

胡桃「うん。今回のお節介大作戦を二人でやろうって言い始めて、あたしと清ちん、付き合ってた時みたいに二人で過ごすというか、打ち合わせする時間が増えたの」

小百合「ふむふむなるほど…!それでそれで…?」



第11話へ続く


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#11〜#15

ハイスクール!ノーリターン!
第11話
「胡桃の恋」



胡桃「じゃあ、続き話すね。…でさ、あたしと清ちん、片思いのまま終わったかと思いきや偶然にも!同じこの高校に入ってさ…!」

小百合「ふぇぇぇ!運命すぎるよそれ…!」

胡桃「だよね?そこからはあっという間。たまたま二人きりで教室にいたらさぁ…」

小百合「うんうん…!」

胡桃「ふふ…いきなり抱きしめられて…キスされた」

小百合「あぁぁぁぁ…!」

胡桃「だから…なんかちょっと先手打たれたみたいで悔しくなっちゃって!……告白は、あたしからしてやったんだ」

小百合「なんてなんてなんて…?」

胡桃「えー!それ言わせんの⁉︎」

小百合「そこボカすのはリスナーに対して拷問だと思う…!」

胡桃「え〜!超恥ずかしいんだけど…!仕方ない、他ならぬ小百合のお願いだかんね……てか絶対内緒にしてよ?」

小百合「もてぃろんだお!」

胡桃「よし…。でその時あたしはね…咳払い「ずっとずっと大好きだったから…!」

小百合「うんうん!ずっと大好きだったから…?」

胡桃「あ…あたしを…!清ちんの…ッ…!特別枠にしてください…ッ!」って言いましたぁぁぁ!はい終わりッ!」

小百合「わぁあぁ…胡桃…乙女だぁ…!小百合が男の子だったら絶対感激してるよ…!」

胡桃「あー恥ずかし!てかまだ話これからだから!」

小百合「あっ、はいはい続きどうぞ…!」

胡桃「うん…でも、幸せな時間は長く続かなかったの」

小百合「えっ…なんで…?」

胡桃「付き合ってみて分かることもいろいろあるんだ。そうね、価値観の違いとか、物事の優先順位とかね」

小百合「ふぇぇぇ…!なんか胡桃…大人っぽい発言…!」

胡桃「うん。そうゆうのがお互い…我慢しきれなくってさ。…ある日清ちんから…友達に戻ろって言われた」

小百合「あぁぁぁぁ…切ないよ…!そんなの切なすぎるょ…!」

胡桃「うん……超泣いた。多分ゆうべの小百合みたいに」

小百合「分かる…超分かるよぉ…!」

胡桃「で…ウチら別れて…その後はお互い、別の相手と恋愛繰り返してきたんだけど…。つい最近のこと。またあの時みたいに…たまたま教室で…二人きりになったの。ちなみにその時お互いフリー」

小百合「来たぁぁぁぁぁ…!」

胡桃「うん…。二人とも、気持ちは同じだった。……随分遠回りしてきたけど、あたしと清ちん、どちらもお互い以上に好きだって思える相手に出会わなかったって」

小百合「うんうん…!」

胡桃「だから今度は…あたしから清ちんにキスした」

小百合「きゃーっ!」

胡桃「そしたら清ちん…。もう二度と……もう二度とあたしを離さないって言ってくれた」

小百合「あぁぁぁぁぁ…胡桃…おめでとう…!改めておめでとう…!」

胡桃「ありがと。さぁ次は!あんたたちの番だぞ?」

小百合「任せて胡桃……!小百合は今!めっちゃ勇気リンリンモードでありますッ!」

胡桃「うん、その意気だよ。気持ち、バッチリ伝えておいで」

小百合「ありがとう胡桃…!って…あぁっ!もうこんな時間っ⁉︎じゃあ胡桃!もう切るねッ!また後で〜!」

胡桃「あはは、切れた。さぁて…いよいよ夏休み前、最後の登校日!あたし…もう既にダブルデートのプラン練ってるんだから…。小百合!バッチリ結ばれてきなよぉっ♥︎」

小百合)胡桃との通話を終えた私は、玄関まで猛ダッシュしました!普段は徒歩で通学しているのですが、今朝に限ってはそれでは遅刻してしまいます…!とゆうことで…学校に届け出はしていませんが、私は自転車に乗って爆走することにしたのでした…!

小百合「ハァッ…ハァッ…。自転車使ってなんとか間に合った〜!さあ体育館に急げ〜っ!」



第12話へ続く


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ハイスクール!ノーリターン!
第12話
「窓辺の二人」

私が体育館に駆け込むと、既にたくさんの生徒たちが着席し、終業式の開会を待っていました。自分のクラスを探していると、どこからか胡桃の声がしました!

胡桃「おっ、小百合〜!こっちこっち〜!」

小百合「ひゃ〜!なんとか間に合った〜!あ……律くん……」

律「お、おはよう」

小百合「おはよう……!」
《こ、これは…なんとも照れ臭い匂い…ぷぷんとです…!》

清十郎「ふっ。さぁて、そろそろ退屈なお話の時間の始まりだ」

胡桃「清ちん寝ると見た」

清十郎「正解」

小百合「清十郎くんっ!ちゃんと先生のお話聞かなきゃダメだよ…っ」

律「…悪い、俺も本番に備えて寝るわ」

小百合「律くんまで…!まったくも〜!ん?本番…?」

胡桃「あはは、黒坂も清ちんも多分寝不足なんでしょ」

清十郎「すー…すー…」

律「すー…すー…」

小百合「二人とももう寝てるし…!ちょっとぉ…胡桃もなんとか言ってよお…って…

胡桃「すー…すー…」


小百合「…三人とも寝てるし…。…はぁ。つまんないよう…ふぇえぇ……んぅ…でも…私もちょっと…眠いかも…」


胡桃「小百合…!起きなって!ほーら!あんたたちも!」

清十郎「ん…おお。おはよう胡桃」

胡桃「清ちんそれ今日二回目。ほら黒坂、起きなっつーの!」

律「ぐっ!…おい胡桃…!お前なぁ…いきなりビンタは無いだろが…!」

小百合「律くん…ッ!大丈夫…?」

律「あ…。うん、小百合の手のひら、冷たくて気持ちいいよ…」

胡桃「ぐっ…転んでもタダじゃ起きない奴め…!」

清十郎「おーい、教室戻ってホームルームだぞー」

小百合「はーい!」

ホームルームが終わり、クラスメイト達が続々と下校してゆく。気がつけば、教室には私達4人しか残っていなかった。

清十郎「さてと…。邪魔者は退散するとしようか」

胡桃「そだね。あ、清ちん。この後ランチ行かない?」

清十郎「了解。とゆうわけで、律に小百合ちゃん、お先に失礼するよ」

小百合「あっ…はいっ」

律「おう…」

胡桃「じゃあお二人さん、ごゆっくり♥︎黒坂ァ!シャキッとやんなよぉ⁉︎」

律「ん?痛って!今度は肩パンチかよ…!」

胡桃「あはは!闘魂注入したった♥︎じゃーね〜ん」

律「ち…あの野郎…!」


小百合《こ、これは…俗に言う…本番開始の匂い!ぷぷんとです…よね…!そうとくれば!よしっ…私から切り出そうっ…!》
「…律くん」

律「…う、うん」

小百合「…あ、明日から夏休みだね…」《ち、違〜う!…そんな世間話じゃなくて…!》

律「…そうだな!」

小百合「…はぅ…」

律「咳払い)…あ、あのさ!」

小百合「は、はいっ!」

律「…昨日のことだけど…。俺も小百合も、まんまとあの二人にしてやられたな」

小百合「うん…。でもそのおかげで私、今日律くんにお話が…あります…っ」

律「俺も…小百合に伝えたいことが…あるよ」

小百合「…は、はいっ!…えっと…あ、どうしよう…!律くんから…したい…?」

律「あ〜…そ、そう…しよっかな…。てか…ここ風来なくて暑いから…窓際に行かないか?」

小百合「そ、そだね…!」

《まるで競走するみたいに、私と律くんは窓際を目指して速足で移動しました…!緊張がどんどん高まっていきます…!》


律「…いい風吹いてる」

小百合「う、うん…!涼しくて気持ちいい…!」

律「さ、小百合。本当は、俺たちがあの約束果たせたら……自分の気持ち、伝えようと思ってたんだけど」

小百合「うん…。」
《もう待ったなしです…!この流れは…!俗に言う…こ、こ、告白の匂い…!ぷぷんとです…!」



第13話へ続く


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ハイスクール!ノーリターン!
第13話
「秘密の静寂」


小百合「うん…!私は…もうずっと前から多分、今の律くんと同じ気持ちでいたんだけど…!」

律「…小百合も…?」

小百合「うん…!でも、もしそれを口に出してうまくいかなかったら……律くんと一緒に歩いてきた今日までの日々が…なくなっちゃうんじゃないかってすごく怖くて…私…逃げてたの…」

律「ごめんな…。俺がもっと早くお前に向き合えてたら…そんな思いさせずに済んだのに…」

小百合「ううん、律くんが謝ることなんかない…。今までだって…私にとって律くんと過ごしてきた時間は…すごく幸せな時間だったから…!」

律「俺だって…!小百合といると居心地が良くって…!なんてゆうか…気がつくと小百合のこと考えてたりして…!本当は…もうずっと前から分かってたんだ…自分の気持ち…!」

小百合「律…くん。嬉しいよ…。あのね、私…!」

律「…待って小百合…その先は…俺に言わせてくれないか…」

小百合「…やだ。…私だって律くんに言いたいもん…!」

律「小百合…。ん⁉︎…誰か来る…!仕方ない…ッ…そこのカーテンの中に隠れるぞっ…」

小百合「う、うんっ…」

律「…静かに…」

宇田 凛子「おかしいわねぇ。確かに今、生徒の話し声が聞こえた気がしたんだけど……」

小百合「……律くん……見つかっちゃうよ……!」

律「……この声。英語の凛子先生か……!頼む……通り過ぎてくれ……!」

宇田「あら、窓が開けっ放し。ちゃんと戸締まりしなきゃダメよう……」

(……ヤバイ。見つかる……!)

宇田「ん?……ふふ、まあ気持ちいい風吹いてるし、また後で見回りに来た時に閉めればいいでしょ」

小百合「……えっ?」

宇田「やれやれ...(小笑)青春ねぇ……」

律「……気づかれてない!助かったぞ……!小百合、もう大丈夫だ」

小百合「…律…くん…」

律「…小百合…?」

小百合「えっとね…その…同時に伝え合う方法が…一つだけあるの」

律「…どうやって…?」

小百合「…ちょっと目をつむって…」

律「…こ、こうか?…」

小百合「…」

律「!…」

小百合《女の子からキスなんて…律くんに引かれちゃわないかな…。ちょっと心配だけど…。でも…言葉じゃなくて…私達の気持ちを同時に伝え合うには…この方法しかなくて…。私…今、律くんとキスしてる…。誰にも見られない、このカーテンの中で…。くちびるから…律くんの気持ちが流れてくる…私だって…律くんのことが…大好きだよ…。…お願い…伝わって…。》

小百合「…はぁ…っ」

律「…ッ…ハァ…ッ」

小百合「…律くん…伝わった…?」

律「…うん…伝わった…///」

小百合「…かぁ〜っ///」

律「…小百合…!」

小百合「…はい…っ」

律「…俺…お前が好きだ…!」

小百合「…私も…律くんのことが…っ…。…大好きだよ…!」

律「…くっそ…嬉しいなぁ…!本当に小百合と俺…付き合ってるんだよな…っ?」

小百合「うん…なんか照れちゃうね…!」

律「ああ……なんかまだ実感が湧かなくて…!」

小百合「うんっ…私も…!でも…律くんが私のファーストキスの相手で良かった…」

律「…うん…俺だって…!」

小百合「すごく緊張したの…でも…頑張りました…!」

律「…うん。頭なでなでしてやる」

小百合「ふぇぇぇ…!律くん…!いつからそんな女子の胸キュンポイントを…!」

律「…ん?なんか言ったか?」

小百合「ううんなんでもない///」

律「よし、もう大丈夫みたいだ。帰ろうぜ、小百合」

小百合「うんっ!」

律「どうせあいつら、河川敷で待ち伏せしてるよ」

小百合「ふふ!かもしれないね…!なんか…二人で登場するの照れる…!」

律「…確かに」


学校を後にした私と律くんは、いつもの帰り道を…いつもとは違って…!手を繋いで歩いていきました…!手汗が出まくっていないかとても心配です…!
…やがて私達は、鞍流瀬川の河川敷に到着したのでした…!

律「あれ…?あいつらいないな…」

小百合「ほんとだね…。でも…ちょっとホッとし…」

胡桃「あああー!手を繋いだ素敵なカップル発見!」

律と小百合「わああぁっ⁉︎」

清十郎「甘いなぁ!裏の裏をかいたのさ…!僕と胡桃は河川敷ではなく、橋の下から観察してたよ!」

律「ば…ばっかやろー!驚かしやがって〜!」

小百合「はぁ…びっくりしたぁ…!でもこの度は、お世話になりました…!」

胡桃「小百合、おめでと。んで黒坂ァ…!あんた小百合泣かしたら許さないんだかんね?とりま!お祝いパンチ!」

律「ぐはッ…!胡桃…?お前今の…みぞおちだぞ…ッ!」

胡桃「ふふん。これで今回の貸しはチャラにしといたげる」

清十郎「こらこら胡桃、やりすぎだよ」

律「まったくだこのバカ…ッ…でもよ…ありがとな…!」

清十郎「おう。…さてと、明日からいよいよ夏休みだ」

小百合「うん!高校生活最後の夏休み〜!」

胡桃「そうそう。だからぁ、うちらリア充のすることといえば…!青春の謳歌!からの〜…一泊二日!カップル旅行が〜!来〜るぅ〜♥︎」

律「う…まさかお前らもう…」

小百合(こ、これは…!まさかの展開の匂い!ぷぷんとですっ!キャー/////)

清十郎「もちろんだよ。宿泊先は既に予約済みさ。4人分ね」

胡桃「えっへん!感謝しなさいよねっ♥︎」

小百合「ふぇええ///やっぱりぃぃぃ…!はわわ…!」



第14話へ続く


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ハイスクール!ノーリターン!
第14話
「青春マリンロード」

小百合《先日のびっくり旅行プランの発表から、一週間が経ちました...!ここだけのお話ですが...今回の旅行、私は胡桃との二人旅ということになっています...!まさか男女4人でだなんて、両親にはとてもじゃないけど言えません...!お父さんはそんなこと私から聞いたら、倒れてしまうでしょうから...!
という訳で、私たち四人は今、先ほど降りた駅で借りたレンタサイクル二台に乗り、ある場所を目指しています…!清十郎くんの道案内ですが…どんな場所なのかは尋ねても教えてくれません…涙 ちょっぴり意地悪です…!...でも、先ほどから頬を撫でる海風が気持ちよくて…!しかも律くんの背中にもたれかかっているので…ドキドキして落ち着けません…!///さっきから、この旅でこれから起こる、あることないことを妄想して…一人でフルフルしています…!



清十郎「ようし、着いたぞみんな」

胡桃「ふふ。懐かしいな」

小百合「うわあ…素敵…!真っ白な灯台…!」

律「なぁ清十郎。なんか、あそこのフェンス…変じゃないか?」

清十郎「ああ。あのフェンスこそ、最大の醍醐味さ」

律「なんだって?」

胡桃「そうそう!よーく見てみ?」

小百合「あ…!あのびっしりぶら下がってるの…南京錠だよ律くん…!」

律「あれが全部…南京錠⁉︎」

清十郎「その通り。ここは野間灯台、通称「白亜の灯台」ってゆうんだ」

胡桃「ねえ清ちん、ウチらのつけたやつ、まだあるかな…」

清十郎「どうかなっ」

胡桃「えっ…?」

清十郎「いや、ってゆうのもさ、こないだ見たニュースでここが出てて知ったんだが…」

胡桃「それ…どんなニュース?」

清十郎「うん、それがさ。…恋人たちがあまりにもたくさんの南京錠をかけた重みで…当初から設置されてた初代フェンスが倒壊したらしいんだよ!」

胡桃「あはは…倒壊とかヤバイ!やっぱここカップルに大人気なんだね…!」

小百合「ふふふ!そんな伝説まであるなんて…!」

律「いや…それ伝説とは言わないだろっ」

清十郎「はは。まあそれはさておき、ちゃんとしたジンクスならあるぞ?」

胡桃「そうそう!ここのフェンスにぃ、カップルが想いを込めて一緒に南京錠をかけると…」

小百合(こ、これは…!縁結びの匂い!ぷぷんとですっ♥︎)
「うんうん、一緒に南京錠をかけると…?」

胡桃「受け付け完了〜!」

律「え…?まだ他にステップがあるってことか?」

清十郎「その通り。まあとりあえず、そこの土産物屋で南京錠を買おう」

胡桃「そうしよ〜!レッツゴー!」

私たちは、お土産物屋さんに立ち寄り、恋の南京錠を購入することになりました…!なんだか、ドキドキする響きですね…!恋の南京錠っ♥︎

胡桃「清ち〜ん♥︎これとかどう?」

清十郎「素敵じゃないか、それにしよう。会計は僕がするよ」

胡桃「あ、ありがとう…」

律「小百合は…どのデザインが好き…?」

小百合「えっと…律くんは…?」

律「んん…俺は小百合が選んだものだったら…多分好き」

小百合「ふぇぇぇ…ちょっぴりプレッシャーだよそれ…!…わ、分かった。えっと…あっ…じゃあこれとか…!」

律「うん、それ俺も好き。見せて」

小百合「あ…。はい、これ。って…律くんっ?」

律「すいません、これください」

「野間灯台へようこそ。はいはいこちらで宜しいですか?」

律「はい」

「980円になります」

小百合「律くん…っ」

律「いーってば!」

「ありがとうございます。…お兄さんたち、見たところ高校生くらいかしら?」

小百合「あっ、はいっ」

「ここ良いとこでしょう?若いコたちがもう毎日わんさか来るのよ〜!」

律「はい、大人気スポットみたいですね」

胡桃「小百合〜!先行ってるねぇ!」

小百合「あっ、はーい!」

「そうなのよ。でね、その南京錠をかけたら、灯台の方へ進むの。そうするとすぐに鐘があるわ」

律「鐘…ですか?」

「ええ。絆の鐘、って言うのよ」

小百合「…絆の鐘…」

「南京錠に想いを込めた二人がその鐘を一緒に鳴らすと…。あらロマンティック!二人はいつまでも離れず幸せになれる!ってゆうジンクスがあるの」

律「なるほど…!それは素敵なジンクスですね…!」

「でしょう?さあさあ、まずはその南京錠をかけてらっしゃいな」

小百合「は、はいっ…!」


律「鐘が聞こえる…」

小百合「あ…!胡桃たちだ…」

清十郎「律!先に南京錠かけてこいよっ!」

律「おう!…小百合、行こう」

小百合「うん…」

律「お、マジックが設置されてる…」

小百合「なるほど…!このマジックで…南京錠に二人でメッセージを書くんだ…!」

律「あ…なんて書こっか…」

小百合「じゃあまず、二人の名前…さ…ゆ…りっ…と」

律「…り…つ…。よし、出来たっ」

小百合「ちょっと待って…裏にメッセージ書きたい…」

律「あっ…」

小百合「…これでよし…っと」

律「なんて書いたのか見せて」

小百合「あっ…!」

律「…!」

小百合「…はぅ…///」

律「…小百合…。…俺も…だからさ、この文字、上からなぞることにする…!」

小百合「あ…はい…///」

律「…よし、かけるぞ。小百合はここ持って」

小百合「うん…!」

律「いくぞ?せーのっ!」

カチリと音がして…私と律くんの恋の南京錠は…無事フェンスに取り付けられました…!お次は、絆の鐘ですっ…♥︎



第15話へ続く



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ハイスクール!ノーリターン!
第15話
「絆の鐘」



小百合《さてさて…これで受け付けは完了したはず…!お次はいよいよ、絆の鐘を鳴らしに行きます…!》

律「…小百合?ほら、清十郎たちんとこ行くぞ」

小百合「あ…うんっ」

清十郎「…お、来た来た。じゃあ二人ともこちらへ」

胡桃「小百合、このロープ持って。ほら、黒坂も」

律「あ、ああ…」

小百合「なんかこれって…ちょっと結婚式みたいな気分…!」

胡桃「確かにネ!まあでもいいじゃない。いずれ迎える本番前の予行練習ってことでさ」

律「さ、小百合と俺が…!…結婚…!」

清十郎「まあ今からそう身構えることはないさ。とりあえず近い将来でさ、二人の幸せを願えばいいんだよ」

小百合「そ、そうだよね…!よし…じゃあ律くん、鳴らそっか…!」

律「おう…!せーの…」


祝福の鐘が、優しく辺りに鳴り渡りました…!

小百合「…近くで聴くと…一層キレイな音色…!」

律「よし、…ぶつぶつ」

小百合「さて…私もお祈りしようっと…!」



胡桃「…てかこの二人…長ッ!」

清十郎「はは…確かに」


律「…よし、これで大丈夫だ」

小百合「うん…私もたくさんお祈りした…!」

胡桃「よっしゃぁぁぁ!みんなで幸せになるぞー!」

一同「おー!」


清十郎「さあみんな、もう少し移動するぞ。この先を走っていくと、千鳥が浜海水浴場がある」

律「おお!海で遊ぶのか!楽しみ!」

胡桃「まったく、黒坂って本当子供みたい。はしゃいじゃってさ」

小百合「…やっ…たぁぁぁぁ!海だ海だ〜!何年振りだろ〜!」

清十郎「はは、似た者カップルってやつだね。そうゆう胡桃は楽しみじゃないのかい?」

胡桃「べっ、別に…!あー…めっちゃ楽しみとか…そんなこと口が裂けても言えないみたいな…。あたしオトナだから」

清十郎「…背伸びしてる胡桃も可愛いよ」

胡桃「え…」

清十郎「でも…僕だけに見せる、いつもの無邪気な胡桃も好きだよ」

胡桃「…はぁ♥︎清ちんがあたしの彼氏で本当良かった…♥︎なんてときめく発言するの…♥︎」

律「おい!お前らー!なにやってんだよー!置いてくぞ!」

小百合「早く早く〜!」

胡桃「ぐっ…黒坂。本当空気読めないやつ…」

清十郎「はは、胡桃。乗って」

胡桃「うんっ」

清十郎「てゆうか律ゥ!お前道分かるのかよぉ!」

律「そんなもん行けば分かるだろぉ!」

胡桃「はは…いるよね、ああゆうやつ」

清十郎「まったく…あいつらしいよ。さ、僕らも負けてらんないな。飛ばすぞ胡桃。しっかり捕まって!」

胡桃「…うん。ぴとっ♥︎」

小百合《私と律くんは、海岸に沿ってひた走りました…!目的地のはっきりした場所は分かりませんが…!こうゆう行き当たりばったりも嫌いではありませんっ!それに、律くんとだったら。…迷子になるのも楽しめそうです…!

律「小百合…!清十郎達、振り切れたか…?ハァッ…ハァッ…」

小百合「え〜っと…うん!かなり遠くまで離した〜!」

律「よし…!ハァッ…ハァッ…」

小百合「何がよしなのか分かんないけど…!」

律「…見ろよ。…二人きりで見る、初めての水平線だ…!」

小百合「…うん。ふふ、律くんたら、そんなに私と二人きりになりたかったんだね」

律「…ノーコメント」

小百合「素直じゃないなぁ」

律「てゆうか…もう聞こえてるだろ」

小百合「え…?」

律「し、心臓がドキドキしてる音!」

小百合「…ちゃんと聞いてみるね」

律「わっ…小百合…!」

小百合「…本当だ。律くんの心臓、すごくドキドキしてる…」

律「うん…」

小百合「律くん、こうすれば私のドキドキも聞こえる…?」

律「うっ…小百合…!」

小百合「振り向いたら…だめ」

律「…ああ、聞こえる。俺と小百合の鼓動が…重なってる」

小百合「はい、おしまいっ」

律「…もうちょっとだけそのままでもいいんだぞ…」

小百合「もう。律くんのエッチ!」

律「だ、だってさ!小百合の…すっげえ柔らかくて…あったかくて…!」

小百合「ノーコメント!」

律「ちぇ。ずっちぃなぁ!」

小百合「あはは、律くんこそ!エッチぃなぁ!」

律「ははっ!こりゃ一本取られたな…ん?ああっ!」

清十郎「追いついたッ!そしてこの勝負、僕と胡桃の勝ちだッ!」

小百合「ああっ⁉︎律くん!抜かされちゃったよぉ汗!立ち漕ぎ全開じゃないと負けちゃうっ…!」

律「…無理だ。今立てない…!」

小百合「なんでなんで?」

律「…男の子だからだ」

小百合「……あっ…察し/////」

胡桃「ほらほら黒坂どうしたぁ!そんなのんびり漕いでたら追いつけないぞぉ!」

黒坂「小百合…すまん」

小百合「…し、仕方ないよ…!私の責任でもあるし…」

律「…うん、あれは反則だ」

小百合《しばらくして、先に到着していた清十郎くんと胡桃に合流した私たちは、各自水着に着替え、白砂のビーチへと繰り出しましたっ!》


第16話へ続く


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#16〜#20

ハイスクール!ノーリターン!
第16話
「一触即発」



小百合「そおれっ!」

律「うわあっ!どこ飛ばしてんだよ〜!ぶっ…」

胡桃「あはは!黒坂ざまぁ!」

清十郎「小百合ちゃん、律。胡桃と飲み物買ってくるけど、何がいい?」

小百合「あっ…ありがとう!お金後で払うので!」

清十郎「いいってそんなの」

律「悪ぃ清十郎。んじゃあ俺、カルピスウォーター!」

小百合「あっ!同じく!じゃあ私、律くんから少しもらうっ!」

律「ってことは…ッ…つまりその…」

胡桃「間接キスごときにはしゃぐな!」

律「る、るっせーな!俺と小百合はお前と違ってフレッシュなの!」

胡桃「あはは!照れてやんの〜!」

清十郎「ははは。じゃあ胡桃、行こう」

胡桃「うん」

清十郎「ちょっと財布取ってくるよ」

胡桃「あっ、今度あたし出すよ!」

清十郎「ん?…そうか、ありがとう」

胡桃「ううん。すぐ行くから、先に売店行ってて」

清十郎「分かった」

胡桃「お財布お財布〜っと…」

「あの…もしかして、麦野センパイじゃないですか?」

胡桃「?…そうですけど」(誰だろこのコ…)

「やっぱり!へぇ〜…てことは、清十郎センパイの最新彼女、ってことですよね?」

胡桃「ま、まぁ…そうなる、かな…」

「ぷはは!超受ける!あんたみたいなブスがよく清十郎センパイの彼女にしてもらえたよねぇ…!」

胡桃「なっ⁉︎…何なのあんた…ッ、いきなり失礼なこと言わないでよ…ッ…!」

「びびってんじゃねーよ、ブス。てかどんな手使ったのか知んないけどさぁ…ウチ絶対認めねーから」

胡桃「黙って聞いてりゃ…好き放題言ってくれんじゃないの…。あんたウチの学校の2年?名前名乗りなさいよ!」

「ムカつくなぁ…。なんで清十郎センパイの最新元カノのウチの名前知らないワケ?」

胡桃「はぁ?あたしは清チンが過去にどこの誰と付き合ったかとか興味ないの!」

「…何なのその余裕…ムカつく。…あんたのせいで…ウチ捨てられたんだかんね…」

胡桃「…とりあえず名乗んなって」

「…真知花」

胡桃「…真知花ちゃん、か。…で、あんたどうしたいわけ?ここであたしと殴り合いでもしたいの?」

真知花「…人目につくし、今日のとこは勘弁しといたげる」

胡桃「ふーん、まいいけど。あたし強いよ?」

真知花「なめんな。あんたみたいなブスにウチが負けるワケねーし」

胡桃「あのさ…あんたもうちょっとその言葉遣いどうにかなんない?」

真知花「は?説教すんじゃねーよババァ…!」

「真知花〜?誰?知り合い?」

真知花「あっ、希。ゴメン〜!人違いだった〜!みんなんとこ戻ろ?」

希「オッケー。てか向こうにイケメングループ発見したから。逆ナンしにいこっ」

真知花「行く行く〜!……あ、胡桃センパイ。…ウチ、絶対奪い返しますから…清十郎センパイのこと…!」

胡桃「…やれるもんならやってみれば?」

真知花「…覚えてなさいよ」

胡桃「やれやれ…清チンの最新元カノ、か」

清十郎「おーい…胡桃…?」

胡桃「あっ清ちん…ゴメ、なかなか財布が見つかんなくって…あっ、あった!」

清十郎「…」

胡桃「清ちん?どしたの…?」

清十郎「いや、知り合いの後ろ姿に似てるやつがいたから…多分人違いだよ」

胡桃「…そか。…じゃあ売店行こっか」


第17話へ続く


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ハイスクール!ノーリターン!
第17話
「ガールズ・トーク」


律「うおおお!届かん!」

小百合「あはは!律くんまだまだ修行が足り〜ん!」

律「ぶはっ…あのコースはしんどいぞ小百合…!」

小百合「あっ、胡桃たち戻ってきた!」

律「んあ?お前らどこまで買いに行ってきたんだよー!おっせーぞ!」

胡桃「カチーン」

清十郎「ゴメンゴメン!僕がちょっとお腹壊しちゃってね。胡桃にトイレに付き合ってもらってたんだっ」

胡桃「えっ…」

律「あはは!確かに、水まだちょっと冷たいかんな!小百合、俺たちも一回上がろうぜ」

小百合「うん、そーしよー!ほら清十郎くん、お日様にお腹あっためてもらって!」

清十郎「あ、ああ」

胡桃「てか黒坂ァ!あんた買ってきてもらっといて遅いはないでしょがぁぁぁ!」

律「ぐっ…うえ!(咳込み)飲んでるとごにチョークスリーパーとかねーだろ!」

小百合「あはは、律くんカルピスまみれだ〜!」

胡桃「ぷはは!ざまぁ!」

小百合「ちょっとちょうだい」

律「あっ…」

小百合「くびっ…くびっ…ぷはぁ。美味しいっ」

律「…小百合…。うえッ!」

胡桃「このドスケベがぁぁぁ!間接キスにムラムラしてんじゃな〜い!」

清十郎「あはは!胡桃、ほどほどにね」

律「げほっげほっ…おい!清十郎!お前この猛獣の教育ちゃんとしとけよぉ!」

胡桃「あん?誰が猛獣だってェェェ⁉︎」

律「くっ…もうその手は喰らうか!おりゃッ!」

胡桃「なっ…⁉︎」

律「…はっはっは!押し倒し一本だ!」

胡桃「てか…。どこに顔めりこませて言ってんのよ…ッ!」

小百合「…アウトォ」

清十郎「うん…アウトだな」

律「あ…ッ!」

胡桃「サイテー」

律「ぶっ…痛っでぇぇぇ!全力でビンタじやがっだぁぁぁ!」

胡桃「当ったり前でしょ⁉︎このオッパイに触れていいのは清ちんだけなの!バーカ!」

清十郎「確かに…そこはいくら律でも譲れないな」

小百合「まったくもう。私という者がありながら…!」

律「お前ら…ちょっと待て…!何かがおかしい!」

清十郎「さて!海水浴もそろそろ切り上げだ。次はあの山の中腹にあるキャンプ場に向かうぞ!」

小百合「は…!もしかして…そこは宿泊施設があるところかな…?」

胡桃「正解!あ、うちらもちろん泊まるとこ別だから。ちゃんとバンガロー2つ予約したかんね!」

律「…じゃ、じゃあ…夜はお互い…パートナーと二人きりってことか…?」

清十郎「そうだよ。律は4人で一夜を過ごしたかったかい?」

律「いや…特に異存は、無いよ」

小百合「…私も…大丈夫です…」

胡桃「よし!じゃあ小百合、着替えに行こ?」

小百合「あ、うんっ」


小百合(私と胡桃は着替えをするために、ビーチ備え付けの女子更衣室へ向かいました!)


胡桃「は〜…疲れたぁ。海入ると結構体力使うよね」

小百合「うん…!でも楽しかったね!」

胡桃「そだね。…ん?てゆか小百合…いつもはあんまり目立たないけど…服の上からだと着痩せすんのね…」

小百合「えっ…あっ…そうなのかな…」

胡桃「意外って言ったらあれだけど…美巨乳とか超羨ましい…!」

小百合「えええ/////肩こるし…そんないいこと無いよ…!」

胡桃「いやいやいや…あたし女だけど…。男だったら小百合のカラダ、たまんないと思う…!」

小百合「ふぇぇぇ!なんか胡桃、目つきが怖いよ…!」

胡桃「あはは!だってホントのことだもん!まあとりあえず…今は小百合と黒坂、心が結ばれてる訳じゃん?」

小百合「うん…そだね」

胡桃「そして今夜迎える訳じゃん…?二人きりの初夜…!」

小百合「かぁ〜っ/////」

胡桃「まあ流れによっちゃ今夜、身も心も結ばれるかもだね。心の準備は出来てる?」

小百合「…一応、うん…/////」

胡桃「恥ずかしがることないって。好きな人と深く繋がりたいって思うことは、すごく自然なことだよ」

小百合「…うん」

胡桃「小百合が黒坂をうまくリードしなきゃだかんね?多分あいつ童貞でしょ」

小百合「/////…それをゆうなら…私もなんだけど…!」

胡桃「それでもよ。盛り上がるとさ、男って暴走したりするから。生でしたいだの、中に出したいとか言い出すの」

小百合「ふぇぇぇ…!」

胡桃「だからさ、避妊だけは!うちら女が特にしっかりしなきゃダメ。それに小百合には大きな夢があるんでしょ?」

小百合「うん…!律くんと約束した…!」

胡桃「そか…。まあ、営みに関しては、最初うまく出来ないかもだけど、とにかくしっかりね!

小百合「うん…頑張る…!」

胡桃「うん。それにやっぱり赤ちゃんだってさ…親から望まれたタイミングで生まれてきたいと思うしさ」

小百合「うんうん…」


小百合(やっぱり胡桃はとても頼りになります…!密やかに緊張していた私の心を、随分とリラックスさせてくれました…!まったく怖くないと言えば嘘になるけれど…。私…心の準備、改めて出来ました…ッ!その後、律くんたちと合流した私と胡桃は、再び自転車に乗り、次の目的地を目指しました…!)


第18話へ続く


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ハイスクール!ノーリターン!
第18話
「レッツ・パーティー!」



清十郎「さあみんな着いたぞ。ここが僕ら四人が宿泊する施設だ」

胡桃「え…?バンガローって聞いてたんだけど…!」

小百合「うわぁぁぁ…!こんな素敵なところに泊まれるんですか…?」

清十郎「ああ…言い忘れてたな、ごめんよ。実はさ、急遽このコテージにキャンセルが出たって連絡があってさ」

律「へえ、清十郎この施設にも問い合わせしてたのか」

清十郎「ああ、ここなら何度か家族で来てるし、設備も使い勝手もいいからな」

胡桃「家族でよく来てたんだ?」

清十郎「ああ。実はここさ、僕の父親が経営してる、会員制のリゾートコテージなんだ」

律「マジかよ清十郎…!お前、やたら品格あるなとは思ってたけど…ひょっとしてセレブなのか…?」

清十郎「はは、そんなんじゃないよ。ウチで経営、管理してる宿泊施設なんて、せいぜい国内に50ヶ所程度さ」

小百合「ふぇぇぇ…!清十郎くん、それセレブってゆうんだよぉ…!」

清十郎「ん?そうなのかい?いや、僕がイメージするセレブってゆうのは、油田やら高層マンションやらを所有してる方々かなと」

胡桃「ちゃうちゃう…国内にこんなリッチなコテージを50ヶ所ってすごいことだから…!」

清十郎「まあ、その話はこれくらいにして。とりあえず中に入ろう。律と小百合ちゃんは右手のコテージを使って。僕と胡桃は左手のコテージを使うから」

小百合「はーいっ!お世話になりますっ!律くん、行こっ?」

律「お、おう」

清十郎「荷物を置いたら、とりあえず食事にしよう。あそこに見えてるのがさ、ガーデン・キッチンだ」

胡桃「おお〜!あそこでキャンピングパーティーも出来るんだ〜!」

律「ようしお前ら、俺の特製おでんを楽しみにしてろよ!」

小百合「えっ!律くんカレー作るんじゃなかったの…?」

胡桃「あはは、どうせ黒坂のことだから。買い出ししてる途中で気が変わったんでしょ!」

律「正解だっ!小百合。俺のおでんを信じろ!絶対うまいから…!」

小百合「え…あっ、うん…!」

清十郎「まあまあ、メニューはどれだけあってもいいじゃないか。それに、今夜は僕も腕を振るいたくてね。事前にピザ生地を仕込んできたんだ」

胡桃「ちょ…小百合、うちら女子がこのままじゃヤバイ…!」

小百合「そ、そだよね…私たちだってお料理女子力見せなくちゃね…!」

清十郎「あ、みんな。コテージ備え付けの冷蔵庫には、食材があらかた揃えてあるから。自由に使ってくれて構わないよ」

胡桃「素晴らしいじゃん…!あ、じゃああたし、デザート作る…!プリンとかなら時間かからないし…!小百合は?」

小百合「えっと…律くんがおでん、清十郎くんがピザ、胡桃がデザート…だよね。…じゃあ!私、ドリンク作るっ!フルーツをふんだんに使った、小百合特製フルーツジュースぅ!」

胡桃「決まりっ!じゃあまた後でね!」

律「小百合〜、先に行くぞ〜!」

小百合「あっ、置いてかないでよ〜!」

小百合(私たち四人は、それぞれの寝泊まりするコテージに別れ、荷物の整理を済ませると、ガーデン・キッチンへと向かいました。)

律「ようし、やるか小百合」

小百合「うんうん…!それにしても充実した設備だね…!調理器具ならなんでもありそう…!」

清十郎「さあみんな!レッツ、クッキングだっ!」

清十郎くんの号令を受け、私たちは各自、メニューの調理に取り掛かりました。一時間程が経過し、テーブルには様々なお料理が出揃いました…!どれも美味しそうです!

胡桃「はいはいみんな、グラス持った?」

律「おう!乾杯だ乾杯!」

小百合「あはは…私のドリンク、不味かったらごめんなさい…!」

清十郎「こんな美味しそうなフルーツジュース、見たことが無いよ…!さあみんな!この素晴らしいひと時に乾杯しよう!」

一同「カンパ〜イ!」

律「…うっ」

胡桃「……な、なにこれ…」

清十郎「…ッ!」

小百合「えっ…や、やっぱりお口に合わなかった…!?」


ハイスクール!ノーリターン!
第19話
「穴があったら入りたい!」


清十郎「こんな美味しそうなフルーツジュース、見たことが無いよ…!さあみんな!この素晴らしいひと時に乾杯しよう!」

一同「カンパ〜イ!」

律「…うっ」

胡桃「……な、なにこれ…」

清十郎「…ッ!」

小百合「えっ…や、やっぱりお口に合わなかった…!?」

一同「うま過ぎるッッ!なんだこのドリンクは〜!///」

胡桃「小百合ィ!こんな美味しい飲み物…飲んだことないよぉぉ!」

小百合「やったぁっ…良かった〜!」

清十郎「素晴らしいクオリティだ…!」

律「小百合…!おまっ、お前ってやつは…!なんて飲み物を作るんだ…!てかこれ毎日俺に作って欲しい…!」

小百合「え…律くん…それってつまり…ッ!」

律「んっ?」

胡桃「黒坂ぁ。あんたこの場面でプロポーズとか…なかやかやるじゃん!」

律「痛って!な…ッ、プロポーズゥ?」

清十郎「あはは、そうだよ。小百合ちゃんに毎日これを作ってくれってお願いは。つまり、結婚して毎朝自分にこのドリンクを持たせて欲しい、ってことだろ?」

律「うっ、うわぁぁぁ!そ、そりゃまあ確かに…俺は…小百合と…!」

小百合「…律くんてば…恥ずかしいよ…!でも…すごく嬉しい…ですっ」

胡桃「ふふっ、まあとりあえずはさ!黒坂が一人前の男になってからでしょ!」

律「お、大人の男…ってことか…!」

清十郎「まあまあ、今からそう身構えなくても大丈夫だって」

小百合「う…うんうん、これから二人でちょっとずつ、素敵な大人になろ…?」

律「小百合…。うん、俺、お前のこと…きっと幸せに出来るような男になるよ…ッ!」

小百合「律くん…ありがとう」

胡桃「ふふ、まったく…黒坂!あんたさぁ、そうゆうラブラブは二人きりのときにやんなさいよね!」

律「はっ!わぁぁぁぁ!お前らッ今聞いたこと忘れろ!」

清十郎「そりゃ無理な相談だ!きっと僕らが大人になって再会した時の笑い話決定だよ!」

胡桃「そうそう!は〜面白い!あんた真っ直ぐすぎ!」

律「うう…勘弁してくれよお前らぁ…」

小百合「律くんが今くれた言葉…私にとっては、ずっとこの先忘れない大切な言葉だったから…。そんなに落ち込まないで…?」

律「小百合…ありがとう」

胡桃「ほ〜ら〜!またまたラブラブトーク始めるつもりかぁぁぁ!」

清十郎「あはは、この食事が終わったら、次は温泉が待ってるぞ」

小百合「ふぇっ?温泉?」

清十郎「ああ。ここから少し歩くけどね。これまたウチの父親が管理してる、コテージを使う者限定の温泉があるんだ」

胡桃「もう至れり尽くせりってやつね…すっご!」

清十郎「といっても、そこまで大きなものではないんだ。せいぜい、大人二人用ってとこだろうね」

律「じゃ、じゃあ入るときは順番に交代で入るのか、一人づつ…」

胡桃「あほか。そんなの混浴に決まってんじゃん。ねー小百合?」

小百合「…ねー、と言われても…ねぇ?律くん」

律「お…俺はかまわないけど…ッ、さ、小百合さえ…良ければ…うん」

小百合「ふぇっ?あっ、ああっ私?……恥ずかしいけど…分かった」

清十郎「よし、決まりだな」

小百合(その後の話し合いの結果、胡桃と清十郎くんが先に入ることになり…ドキドキしながらの、みんなの美味しい手料理ディナーも終わって、私と律くんはコテージに二人きりで待機しているという…今ここです…!二人ともこの後のことを妙に意識してしまい、絶妙に話が弾みません…!)

律「…さっきの夕食…た、楽しかったな…」

小百合「う、うん…」

律「…」

小百合(ふぇぇぇ!会話が弾みません…!)

律「…着替えの用意しなくちゃだな…っ」

小百合「あっ!律くん、私シャンプーとか持ってきたやつあるから…これ一緒に…あっ!」

律「あっ…俺拾う…っ」

小百合「わぁぁぁぁ律くん!私が拾うよ…っ!」

律「あっ…」

小百合「きゃっ…」

律「…小百合…っ大丈夫か…?」

小百合「…律…くん…」
(こ、この展開は…っ…!見つめあう二人…そして…!口づけの匂い…!ぷぷんとです…っ…ふぇぇぇ///)

胡桃「はぁ〜!いい湯だった〜!お待たせっ!…って…あらら、お邪魔…だったかしら…?」

小百合「ふぇぇぇ!待ってた待ってたよ胡桃ぃぃぃ!ぜんぜんお邪魔じゃないからぁぁぁ!」

清十郎「…律、タイミング悪くすまない」

律「ま、待って待ってたぜ、清十郎…っ!」

清十郎「はは、じゃあごゆっくりどうぞ」

律「お、おうっ。よし、行くか、小百合…!」

小百合「う、うん…!」

小百合(こうして私と律くんは、いよいよ人生初となる、こ、こ、混浴というものにチャレンジすることになりました…!だだだ第18話に続きますっ…!)



第20話に続く


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ハイスクール!ノーリターン!
第20話
「桃色に染まる二人」



小百合(恥ずかしい場面を胡桃たちに見られてしまい、私と律くんは逃げるようにしてそそくさと温泉に向かいました…!清十郎くんから教わった道を、徒歩で約五分。やがて、素敵な佇まいの小屋が見えてきました…!)

律「さあ着いたぞ。とりあえず、中に入ってみるか」

小百合「うんうん」

小百合(私たちは何故か、周りに人がいないことを確認してから、小屋へ入りました…!不本意ですが、不審者の匂い…ぷぷんとです…!)

律「おお…奥の扉の向こうが…温泉なんだよな…!」

小百合「うんうんっ…湯気がモクモクしてるね…!よしっ、じゃあ着替えようっ!」

律「こ…ここで一緒に脱ぐのか」

小百合「ハッ…そ、そうだよね…それはちょっと…あっ、嫌って訳じゃなくて…あの…恥ずかしい…かな」

律「そ、そっか…あっ、じゃあどうしよかな…」

小百合「じゃあ私、目をつむってるから…その間に律くん先に入っちゃって…!」

律「…俺は別に見られても平気だけど…分かった。ちょっと待ってろよな…」

小百合「…もういいかな?」

律「よしっ、じゃあ先に汗流して浸かってるよ!」

小百合「うんっ!…扉が閉まった音…よし、じゃあ次は私だ…」

小百合(私は、妙にドキドキしながら脱衣を済ませ、いよいよ律くんの待つ温泉へと足を踏み入れました…!)

律「さ、小百合…ちょっと滑りやすいから気をつけろよな…ッ」

小百合「う、うん…律くん、こっち見ちゃダメだからね…!」

律「わ、分かった」

小百合(私はまず、備え付けのシャワーで汗を流し、それからあり得ないスピードで全身を洗いました。こんなに急いでお風呂するのは初めてです…!)

小百合「…じゃあ、入るね」

律「あっ、うん…」

小百合「も、もうこっち向いて大丈夫だよ…!」

律「そ、そっか…じゃあ。って…うっ…!」

小百合「…律くん?」

律「あ、いや、小百合、タオルしてなかったから…びっくりした」

小百合「温泉に入るときはいつもしないんだ…それに、このお湯、乳白色だったから、大丈夫かなって…」

律「そ、そっか。いや、なんでもない…ッ。えっと…あ、あのさ。向かいあってるのもなんだから、隣り行ってもいい?」

小百合「うん…」

律「…いい湯だよな」

小百合「そうだね…すごく気持ちいい…」

律「…あっ」

小百合「…繋いでてもいい…?」

律「…うん」

小百合「なんか…今だに信じらんないね…こうやって私と律くんが…一緒にお風呂入ってるとか…」

律「…俺も。夢みたいだ」

小百合「…ここなら、誰にも見られないね…」

律「うん…」

小百合「……温泉でチューとか…ただでさえポカポカしてるのに…ダメだよう…」

律「ごめん…。ほんのりピンクの顔した小百合見てたら…吸い込まれたってゆうか…」

小百合「なにそれ…まるで私のせいみたいじゃない…。律くんだって…水もしたたるなんとやら…だよ…」

律「わっ…小百合…!」

小百合「…肩貸してもらっててもいい…?」

律「あっ…ああ」

小百合「…もう一回」

律「…うん」

小百合「…」

律「…小百合、好きなのか…?」

小百合「…ノーコメント」

律「い、今…首縦に…ッ。…じゃあ、お言葉に甘えて…」

小百合「…っ」

律「…今の…初めてやってみた…」

小百合「…ズルいよいきなり…」

律「…だって…先にしてきたの…小百合じゃん…」

小百合「…///」

律「…頭がドキドキして…とろけるみたいな気分になる…」

小百合「…ノーコメント」

律「…出るか」

小百合「うん…私、ちょっと時間かかるから、律くん先に出て?」

律「よしっ…て…あっ」

小百合「きゃあ///」

律「さ、小百合!ごめんッ」

小百合「も〜///律くんのバカバカぁぁぁぁ…///」

律「うっ…じゃあ俺、先に出てるかんなっ…!」

小百合「あっ…うん」
《……ふぅ、びっくりした。…ってゆうか…律くんの象さん…ふぇぇぇ…あれくらいの大きさって…男の子の普通なの…?ううう…目に焼きついてしまったじゃないかぁぁぁ…!ハッ…いかんいかんっ!ちょっと湯冷まししてシャキッとしよう…っ!》


第21話へ続く


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#21〜#25

#21〜#25

ハイスクール!ノーリターン!
第21話
「サクランボの実る頃」


律「小百合のやつ…まだかな…」

小百合「ごめ〜ん!お待たせ〜!」

律「お…やっぱ小百合も浴衣にしたんだ…?」

小百合「うん、脱衣所の片隅に用意されてるの見つけたから…。でも、変じゃないかな?私、似合ってる?」

律「うん…すごく色っぽいってゆうか…似合ってる」

小百合「ふぇ?私なんかが色っぽい…?えーとえーと…ありがと」

律「…荷物持つよ、貸して」

小百合「…律くん、優しいね」

律「んなことないよ、普通だろそんなの」

小百合「…ありがとう」


小百合(私達がコテージに戻ると同時くらいに、胡桃からメールが入りました…!)

小百合「律くん、胡桃からメール来て…今夜はもう別行動でよろしく、だって…」

律「え⁉︎まだ10時なのに…そっか、分かった…」

小百合「とりあえず…まったりする?」

律「…」

小百合「律くん…?」

律「えっ?あ、ああ…そうだな、旅先で掛け合いとか、なかなか新鮮かもな!」

小百合「あはは、そんなこと言ってないよう」

律「え…あ、ごめん。また聞き間違えた」

小百合「疲れてるんだよ、きっと。だから、お部屋でのんびりしよう?」

律「そ、そうだな…!」

小百合(私達は部屋に戻ると、リビングのソファに腰掛け、テレビでも見ることにしました…!)

律「…ポチっとな。小百合、俺ちょっとトイレ行ってくるから、好きなチャンネルにしていいよ」

小百合「…わっ」

律「…ん?な⁉︎なんでいきなりエッチなビデオになってんだよ!」

小百合「ふぇぇぇ…!」

律「さ、小百合…チャンネル変えていいぞ」

小百合「さっきからやってるよう…!でも変わんないの…!」

律「リモコン調子悪いのかよ…!」

小百合「…律くん」

律「ん?」

小百合「その…律くんはこうゆうの…彼女とかいても…普段見たりするの…?」

律「え。…うーん、いや、小百合と付き合い始めてからは見てないよ…。それまではまあ…たまに」

小百合「私と付き合ってからは見てないの…?じゃ、じゃあその…なんてゆうか…処理みたいなことって…どうしてるの…?」

律「なんなんだよ小百合…///お前変なこと聞くんだな…!言わないとダメか…?」

小百合「…うん、興味ある」

律「…場所変えてもいい?」

小百合「…う、うん」

律「…あそこで話すよ」

小百合「…あそこって、ベッドルーム…?」

律「…入るのやめる?」

小百合「……ちょっとだけ…怖い」

律「…」

小百合「でも…一緒に…入りたい」

律「…分かった」

小百合(少しぎこちない足取りで、私たちはベッドルームの扉を開け…中に入りました…!ここに入るということは…つまり、覚悟を決めなければいけない匂い…!ぷぷんとです…っ!)

小百合「…あれ?律くん、電気つけないの…?」

律「…月明かりがキレイだし、いいかなって」

小百合「…そだね」

律「とりあえず、座るか…」

小百合「うん…」

小百合(しばらくの間、私たちは無言でベッドに腰掛けていました…。律くんはさっきの質問の返答をなかなか切り出してきません…!そんな律くんを見ていたら…私、なんだかいてもたってもいられなくなって…。)

律「…え…小百合…?」

小百合「…律くんだって怖かったんだよね…。でもこれでもう大丈夫…だよ」

律「なんで裸になってんだよ…」

小百合「…私、もう逃げたりしないし…律くんのこと、本当に好きだったら…ありのままの自分で…受け止めたいなって…」

律「…小百合。ちょっと待ってて…」

小百合「うん…」

律「…これで…小百合と一緒だ」

小百合「…お布団入ろ」

律「…うん」

小百合「…ギュってしてほしい」

律「…うん」

小百合「…律くんの匂いがする」

律「…うん」

小百合「…律くんのハート…ドキドキしてる」

律「…」

小百合「んっ…」

律「…小百合もドキドキしてる」

小百合「…律くん…さっきの答え…教えて…」

律「…もう…答え始めてる」

小百合「…うん…知ってた…」

律「でも…っ…ちゃんと出来るかどうか…不安なんだ…っ…頭の中では何度も練習したけど…っ…」

小百合「…私だって初めてだから…失敗したって大丈夫。だから…」

律「…小百合」

小百合「…来て、律くん」


小百合(この夜、かくして私たちは…身も心も結ばれたのでした…。えっ…?この先の詳細ですか?ふぇぇぇ…そ、それはちょっと…私と律くんだけの秘密ですっ!ここまで話したのだってすっごく恥ずかしかったんですから…!ごめんなさいっ///…はぅ…え、えーと…そして二人は朝を迎えました、まるっ!)



小百合「んぅ…いつのまにか寝ちゃってた…」
(律くんは…まだ寝てる。よだれたらしちゃって…ふふ、可愛い。あ、今何時かな…ってあれ。お父さんからメール来てる…なんだろ…)

小百合「えーとなになに……えっ!」
(お父さんから届いていたそのメールには…にわかに信じられない内容が記されていました…。眠気も一瞬で吹き飛んでしまうような…!)

小百合「…夏休みが終わったら…。嘘でしょ…?イヤだよ…どうしてこのタイミングなの…?」


第22話へ続く



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ハイスクール!ノーリターン!
第22話
「夢なんかじゃない」



小百合「…夏休みが終わったら…。嘘でしょ…?イヤだよ…どうしてこのタイミングなの…?」

(お父さんから届いていたそのメールには…にわかに信じられない内容が記されていました…。)


(to 小百合
旅行中にこのような知らせをすまない。実は、昨夜上司から辞令を受け、8月いっぱいを以って父さんの転勤が決まった。
イタリアのヴェニスという街だ。
それに伴い母さんやお前には、知人や友人とのしばしの別れを強いてしまうことになるだろう。
すまない。
だからと言う訳ではないが…今しているお友達との旅行を、存分に楽しんできなさい。
父さんと母さんは、これから小百合の転校手続きおよび、向こうでの編入先の学校のリサーチをしておく。
受験を控えたこの時期に、不本意ながらお前たちに迷惑をかけてしまいすまない。
詳しくは小百合が帰ってからまた話す。)

小百合(幸せそうな寝顔の律くん…。
二人で素敵な夏休みにするはずだったのに…。こんなのあんまりだよ…。どうしてこのタイミングなの…?こんなこと…言えないよ…。律くんには…お別れの日まで…黙っておこう…。そうすれば律くんにはきっと…素敵な夏休みをプレゼントしてあげられるもん…。私さえ我慢すれば…。
…決めた。このことは、誰にも話さない。
最高の夏休みにする。悔いが残らないように。精一杯律くんと恋愛する…!)

律「…ん…小百合?起きてたのか…」

小百合「わっ!律くん!ゴメン起こしちゃった?おはよっ!」

律「はは…おはよう。朝からお前は元気だなっ…」

小百合「うんっ!小百合は今日も!元気全開だよっ!」

律「…小百合、こっち…来て」

小百合「ん?どうした?って…あっ…」

律「…夢じゃないんだよな」

小百合「…うん。夢なんかじゃないよ」

律「…小百合」

小百合「…律くん…」

胡桃「おっはよ〜!」

小百合/律「うっ…わぁぁぁ!胡桃⁉︎」

胡桃「って…あらら、またお邪魔タイミングだったかしら?」

小百合「べべべ別に!ちょっと律くんの目ヤニ取ろうとしてただけだから…!」

胡桃「ふふ!黒坂ってば。あんた子供ねぇ」

律「なっ…ばっかやろ!俺と小百合はもう子供じゃねーよ!って…あっ…」

胡桃「ははーん?さては…!」

小百合「わあわあわあ!胡桃!違うのこれは…!そうゆう意味じゃなくって!私も律くんももう18歳ってゆうか…こ、子供じゃないんだよー!ってゆうか…///」

胡桃「了解了解。そのあたりについては、また小百合から詳しく聞かせてもーらおっと!」

律「な…!小百合っ!この猛獣に変な話するなよっ!」

小百合「…う、うん」

律「なんだその頼りない返事はー!」

胡桃「あはは!」

清十郎「おーいみんな。そろそろチェックアウトの準備開始だよ」

小百合「あっ、清十郎くん!おはようっ!」

清十郎「二人ともおはよう。おや?ふーむ…なるほど」

律「なんだなんだその眼差しはっ」

清十郎「いや。律も小百合ちゃんも、雰囲気変わったなって」

小百合「ドキッ」

清十郎「はは。…今回の旅行、余計なお節介かとは思ったけど。お役に立てたみたいで良かったよ」

律「だ、だからなんの話してんのか分かんねーっつの!」

胡桃「さー馬鹿は放っといて、出発の準備しよー!」

律「う、うるせえ馬鹿っ!」

小百合「まったくもう…律くんのバカ…!」

律「うっ…面目ない…」


私たち四人は支度を済ませ、帰路につきました…!名鉄電車に揺られ、途中でJR武豊線に乗り換え、無事大府駅に到着です。

清十郎「いやあ、みんなお疲れ様。おかげさまですごく楽しい旅になったよ。ありがとう」

小百合「いえいえこちらこそー!観光から素敵な宿泊先まで手配してもらって…!本当にありがとう…!」

律「ああ。清十郎、ありがとな」

胡桃「かー!黒坂。あんた小百合みたいにもっとまともな締めの挨拶、清ちんに出来ないの?」

清十郎「胡桃。いいんだよ、これが僕と律のいつも通りだから」

胡桃「えー?そうなのそうなの?うん、分かった」

律「ケッ、急に女女しやがって」

胡桃「あ?何か言っ…た?」

律「ぐえっ!…ぼ、暴力…反対ッ!」

小百合「あはは」

清十郎「よし、じゃあここで解散しようか」

胡桃「はーい!ねね、清ちん。これからどこ行く?」

律「おう!ほんじゃお前らまたなー!」

小百合「またね〜!」


律「…小百合、俺たちはどうする?」

小百合「…うん。私、今日はちょっと帰ろーかな…。体調も少し悪くて…」

律「そっか…。なんか小百合、顔色優れなかったもんな、朝から」

小百合「ゴメンね、律くん」

律「ううん。じゃあ送るよ。自転車二人乗りで来て正解だったな。ちょっと取ってくるから、ここで待ってろよ」

小百合「うん…ありがとう」

しばらくすると、律くんが自転車に乗って現れました。

律「お待たせ。乗れるか?」

小百合「…うん大丈夫」

律「…よし、じゃあ出すぞ」

小百合「…律くん」

律「ん?どした小百合」

小百合「…このまま…私のこと…さらって欲しいって言ったら…どうする…?」

律「え…⁈いや…あはは。なんかそのセリフさ、ドラマチックでいいな!そうだなー、返しとしては…分かった、二人でどこまでも行こう。とかかな…」

小百合「…ありがとう。冗談だよ」

律「どうしたんだよ急にっ。変なやつ!しっかりつかまってろよ!」

小百合「…うん」

小百合(帰りたくないよ…。本当にこのまま律くんとどこかへ消えてしまいたい。家に帰ったら、お父さんから最後通告の詳細を知らされるだけ…。離れたくないよ、律くん…。)



第23話へ続く


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ハイスクール!ノーリターン!
第23話
「家族会議」


律「小百合、着いたぞ」

小百合「え…もう?」

確かに駅から私の家までは、自転車ならだいたい10分くらいという短距離ですが…いろんな想いを頭に巡らせていたら。あっという間に律くんとお別れの時が来てしまいました…。

律「てか…やっぱ顔色悪いな、今日はゆっくり休めよ」

小百合「うん…ありがとう。じゃあ…またメールするね」

律「おう」

小百合「律くんも…次のデートで行きたいとこあったら教えて」

律「分かった。…じゃあまたな」

小百合「…うん、また」

律「…小百合?そんなに袖強く引っ張ってたら動けないぞ、あはは…」

小百合「あっ…ゴメン。伸びちゃった?ゴメンね」

律「ううん大丈夫。じゃあ行くわ」

小百合「うん…」

小百合(さっきのセリフ…。あれを彼に本気で伝えられたら…どんなに良かっただろう。でもそんなこと、現実的にありえない。
…私はまた、逃げ出そうとしている、目の前の現実から。でもそれじゃダメなんだ。もし私がイタリアに移住することになっても…別に律くんと一生逢えなくなる訳じゃない。今の時代ネットだってあるし、遠距離でも頑張ってるカップルはたくさんいる。
…でも。
それって私のわがままじゃないかな…。滅多に会うことの出来ない私が、恋愛したい盛りの年齢の律くんから、貴重な青春の時間を奪い取る…。それって、律くんにとって迷惑じゃないかな…。
もし私さえいなければ…。律くんはきっと、私なんかよりもっと素敵な女の子と、楽しい青春を送れるかもしれない…。
とりあえず今は…目の前の現実に立ち向かおう。でも…闘ったところで多分…希望なんて無いけれど。

小百合「…ただいま」

練袮 百恵「あら、おかえり。旅行はバッチリ楽しんでこれた?」

小百合「…うん」

百恵「…どうしたの?顔色が優れないみたいだけど…」

小百合「平気。…お父さんは?」

百恵「…リビングで小百合を待ってるわ。転勤のこと、本当小百合や私には気の毒なことになったって…すごく落ち込んでるみたいだから…」

小百合「…お母さん。私、今ね…」

百恵「今、なに…?」

小百合「ううん、なんでもない。…お父さんとこ行ってくるね」

百恵「小百合…。ええ」

小百合「…お父さん、ただいま」

練袮 秀樹「帰ったか。おかえり」

小百合「…メール、見たよ」

秀樹「そうか…。母さんやお前には、本当申し訳ないと思ってる」

小百合「…なんで?なんでこのタイミングで転勤なんかになったの…?」

秀樹「それは…会社が決めたことだ。父さんだって、長年住み慣れたこの街を離れるのは残念だが…」

小百合「理由は何…?なんでお父さんが選ばれたのか…。理由を教えて!」

秀樹「…」

百恵「小百合…お父さんを責めるのはよして。お父さんはね、職場の…」

秀樹「やめるんだ。…そんなことは小百合に話さなくていい」

百恵「あなた…でもそれじゃ小百合が納得出来ないわよ…」

小百合「お父さん…話して」

秀樹「お前には関係のないことだ。分かってくれ」

小百合「関係あるよ…!私やお母さんを巻き込んでるじゃない!」

百恵「小百合…やめなさい。落ち着いて」

小百合「納得いかないよ…!なんでこのタイミングで…!」

秀樹「……若者に失敗はつきものだ。仮にその失敗が、いくら多大な損失を発生させたとはいえ、まだここから成長を遂げるはずの可能性が...摘み取られようとするのを…!...父さんな、黙って見過ごす訳には...いかなかった」

小百合「それって…じゃあ、部下ののピンチを救うために…お父さんが身代わりで転勤することになったってこと…?」

秀樹「部下の失態は、管理職に就く父さんの責任でもある」

小百合「…お父さん…優しすぎるよ…」

百恵「本当よね…。でもお母さんね、お父さんのその、お人好しすぎるくらいの優しさに触れて…この人にどこまでもついていく、一緒に生きようって…そう思って結婚を決めたのよ」

小百合「お母さん…」

秀樹「母さん…娘の前でそんな話よさないか」

百恵「いいじゃない。そんなことがあって生まれたのが…そう、小百合なのよ。小百合には、お父さんの優しい血がしっかり流れてる。お母さんよーく知ってるわ」

小百合「…そうだよ…子供の頃からずっと…。お父さんの背中を見てきたから…。自分でもお父さんに性格似てるって分かってるよ…」

秀樹「俺の実家にお前たちを残すことも考えたが…愛知から北海道の片田舎へ移り住むのと、海外で一緒に暮らすのと…言葉の壁はあるだろうが、いずれにせよ。置かれる環境の変化にそう大差はないだろう」

百恵「あなた、海外赴任の期間はどれくらいなの?」

秀樹「恐らく…二年や三年の話ではないだろう。新しいプロジェクトも動き始め、その責任者に俺が配属された」

小百合「…お父さん。さっきは責めるようなこと言ってごめんなさい…」

秀樹「気にするな。小百合の言い分も当然だ。…大人の都合に付き合わせてすまない」

小百合「…私、お父さんのこともお母さんのことも大好きだから…。困らせるようなこと言って…本当ごめんなさい…。日本で最後の夏休み、しっかり楽しんで…私、イタリアへ行きます…!」

秀樹「…すまない。ありがとう」

百恵「でも…将来の夢はどうするの?」

小百合「それは…。声優になるための勉強なら、海外でも出来るし…。この先イタリアでまた他にやりたいこと見つかるかもだし…うん」

秀樹「具体的な赴任期間が分からんのではっきりとは言えないが…もし小百合がこの先大人になって、その時にまだ声優を志していたならば。帰国してその道を進むという選択肢もあると…父さんは思う。ただ、大学か短大だけはきちんと出てもらいたいんだ。向こうにも教育水準の高い大学はたくさんある。入学までにある程度の英会話を身につけてもらう必要もあるが…」

小百合「…そうだね。今からいろいろ頑張らなくちゃ…うん」

百恵「立派になったわね、小百合」

小百合「そうかな…。でもいつまでも子供みたいにわがままも言ってられないから」

百恵「お母さんに出来ることがあれば、いつでも相談してね」

秀樹「もちろん父さんにもだ」

小百合「…二人ともありがとう」

百恵「さてと。お腹空いたでしょ?お昼にするわね」

小百合「あ…ごめん。私お腹空いてないから…。それより疲れちゃって。ちょっとお昼寝してきていい?」

百恵「分かったわ。あなたは?」

秀樹「俺は頂くよ」

小百合(部屋に戻った私は、そのままベッドに沈みこみました。頭の中が真っ暗です。いえ、逆かもしれません。未来が真っ白になったような気がして…両親の前ではああ言ったものの、本当はどうしようもないくらいの不安と悲しみに押し潰されそうです…。
律くん…どの選択が私たちにとって一番なんだと思う…?
もし友達に戻っても…私達、あの約束を果たすために歩きだせる?
私なんかよりもっと素敵な声の女の子に出会って…そのコと恋人同士になって…私達が叶えるはずだった夢を…約束を…。きっと、そうなるよね…。だって私達…ただの友達に戻るんだから…。
律くん…苦しいよ。
私…どうしたらいいの…?


第24話へ続く



ハイスクール!ノーリターン!
第24話「夏の終わり」


律「あーあ、夏休みも明日で終わりかぁ」

小百合「うん…そうだね」

胡桃「二学期始まるネー。受験勉強もガチで始まるぅ」

清十郎「まあまあみんな。せっかく四人で遊びに来たんだからさ。今日くらいは楽しくいこう」

律「まーそうだな!てか俺ここ初めて来たけど気に入ったわ」

小百合「うん…イタリア村ってゆうだけあって、すごくこだわって作られたテーマパークだよね…」

胡桃「うんうん、まさか運河まで流れてるとはネ。早くあれ乗りた〜い!」

清十郎「まあまあ抑えて。ゴンドラにも後で乗ろう。とりあえず、休憩休憩」

律「小百合、俺のジェラートもひとくち食べる?」

小百合「あ、欲しい。いいの?」

律「あーん」

小百合「…んんっ、美味しい!」

律「だろ〜!」

胡桃「あー。黒坂また間接キスぅ?」

小百合「ぶっ」

律「べ、別にそうゆう目的じゃねーよ!」

清十郎「アツイ二人のせいで。更に気温が上がったんじゃないか?」

小百合「あはは。そんなことないよもう…!でも、確かに今日あっついねぇ」

胡桃「うん、ここパラソルあって良かったネ」

清十郎「さて、みんな涼んだところで。そろそろゴンドラに乗りにいくかい?」

律「おお!行こう行こう!」

胡桃「あんた絶対運河に蹴落としてやるぅ」

律「いやいやいや…マジやめろよな」

小百合「あはは。胡桃すっごい悪い顔してるよぉ!」

胡桃「ぐへへ…!」

律くん達と過ごす、楽しい時間が過ぎていきます。私たちはゴンドラに揺られながら、子供のようにハシャいでいました…!

清十郎「それにしても驚いたな。まさか運河を抜けて湾に出られるとは」

小百合「うんうん!夏休みだけのクルージングコースがあるとは聴いてたけど…こんな素敵な船で航海出来るなんて最高だよね…!」

胡桃「オラオラ〜」

律「わ!やめろっつのバカ!」

清十郎「あはは」

小百合「あっ、みんな見て。あれ南極観測船ふじ だよ!」

律「おお、でけえ…!」

清十郎「確か小学生の時の遠足で来たよね」

律「ああ!そうだ、思いだした!」

胡桃「今だっ!えいっ!」

律「うわっ!」

小百合「律くん危ないっ!」

胡桃「あり?」

律「なんてな!お見通しだ!って…ん?小百合?」

小百合「きゃあッ!」
(やってしまいました…!嫌な予感がして、サッと律くんを助けようとした私でしたが…!どうやらこの展開…私一人で海に落ちる匂い…ぷぷんとですッ!)

胡桃「…え、小百合!ヤバイ!」

小百合「ぷはっ…ううっ…!」

清十郎「すぐに助けを!」

律「俺が行くっ!」

清十郎「急げ律!流されてるっ!」

胡桃「黒坂ァ!お願い!」

律「小百合ッ…今助けるかんな…ッ!」

小百合「ううっ…服着てるから…思うように泳げない…よ…。もう…浮かんでられない…!」

律「くっそ…!意外と流れが早い…!」

清十郎「船頭さん!急いであの二人を追ってくださいッ!」

「は、はいっ!」

胡桃「うう…小百合…!」

律「ハッ…ハッ…小百合ィッ!もうちょいの辛抱だッ頑張れェッ…!」

小百合「…律…ッ…くん…!」

律「…ハッ…ハッ…あと…少し…ッ!」

小百合「…も…もう…ッ…ダメ…ッ」

律「ううっ…!沈むな小百合ィィッ!…ここで見失ったら絶対ダメだッ…!潜るしかないッ…!」

清十郎「…おい…二人が消えたぞ…!」

胡桃「やだぁ…!二人ともどこぉ…?」

清十郎「ぐっ…仕方ない、僕がっ…!」

胡桃「あっ…!ああっ!清ちん…ッ!待ってッ…!」

清十郎「胡桃!離すんだッ…!」

胡桃「違う…あそこ…黒坂と小百合が…!」

清十郎「律…それに…!小百合ちゃんも無事だ…!」

胡桃「お兄さん!早く二人を引き上げて!」

「は、はいっ!」


律「間一髪だ…ッ。小百合…大丈夫か?」

小百合「げほっげほっ…う、うん…大丈夫…!」

律「よし。…ほら、もうじき船が来るからな…」

小百合「…律くんありがとう」

律「…こんなとこで小百合を失うわけにはいかねーよっ…!」

小百合「私も…律くんを失いたくないよ…!」

律「…俺を?…ああ、うん。俺たちには約束があるしなっ!」

小百合「…私なんかでいいの…?」

律「はぁ?…バーカ。つまんないこと訊くなっつの!俺には…小百合だけだ、うん…」

小百合「離れたくない…!」

律「…離さねー。お前のことは…ッ俺が絶対守る…ッ!」

清十郎「おーい!二人とも!さぁつかまれっ!」

律「小百合、お前から上がれっ」

小百合「あっ…うんっ」

胡桃「小百合ぃぃ…良かっだぁぁぁ…ゴメン…ゴメンね…!」

小百合「胡桃…。もう大丈夫だから。泣かない泣かない…っ」

胡桃「だっで…だっで二人とも…わぁぁぁん…!」

律「胡桃ィ!お前泣いてないで俺のことも引き上げろよぉ!」

胡桃「ふぇっ?…あっ、ああうん…っ。ゴメン黒坂ぁ…!」

清十郎「代わるよ。ほら律、つかまれっ!」

律「よっし!なんとか助かったな」

清十郎「すみません、ご迷惑をおかけしました」

「いえいえ、お二人ともご無事で何よりでした…!」

胡桃「はいっ…もう二度とこんなことしないよおにしばず…!ゴメンなざい…!」

「はい。では、一度船着き場へ戻りますね」

律「あのっ…これって警察に言うんですか?」

「そうですね…一応事故であり、未然に防げなかったのはこちらの責任でもありますので…」

律「いえっ!船頭さんは悪くないっすよ!あの…これ以上迷惑かけるのは申し訳ないので…このまま向こう岸までお願いします!」

「えっ…しかし」

律「お願いしますッ!夏休み最後の思い出をッ!暗いものにしたくないんですッ!」

「そ、そうですか…」

清十郎「船頭さん、僕からもお願いしますッ!」

胡桃「清ちん…黒坂ァ…」

小百合「…うん、私からもお願いしますッ!」

律「へへっ!」

小百合「私と律くんが!ちょっと急に海で泳ぎたくなっちゃっただけなんですっ!ゴメンなさいっ!」

「そ、そこまで仰るのであれば…分かりました」

小百合(私たち4人は、予定通り向こう岸に到着し、ひとまず港公園にて休憩を取ることにしました…!)

胡桃「みんな…ゴメン…」

律「まったくだぜ。これに懲りてもう俺をいじめんなよなっ!」

胡桃「…うん」

小百合「胡桃、もう気にしないで」

清十郎「みんなこう言ってくれてる。だから胡桃、元気出して、ね?」

胡桃「うんっ…うんっ!ありがとう…!」

律「へへっ!」

小百合「よし、服も乾いたし。これからどこ行く?」

清十郎「小百合ちゃん、大丈夫なのかい?」

小百合「うんっ!元気全開っ!」

律「よし。じゃあここからは別行動な。今4時だから…5時にまた集合して帰ろうぜ!」

清十郎「了解。さ、胡桃。何か美味しいものでも食べに行こう。ロブスターなんてどうだい?」

胡桃「ロブスター!めっちゃ食べたい!」

律「あはは。さすが猛獣だな!食欲旺盛だなっ!」

胡桃「ああん?誰が猛獣だってのよっ!」

律「ははっ、それでいーんだよ!やっぱ胡桃はそーこなくっちゃよ!」

胡桃「…バカ。清ちん、行こ」

清十郎「じゃあ律、小百合ちゃん。また後で」

小百合「うん、また後で。…律くん、胡桃のこと…ありがと」

律「んーん。あいつが暗いと調子狂うかんな。あんな猛獣だけど、根はいいやつだからさ」

小百合「あはは、てか猛獣は言い過ぎだよう!胡桃は私には天使なんだからぁ!」

律「あはは、悪い悪い。…さて、少し歩くか?」

小百合「うん…。時間ちょっとしかないけど、遊園地行かない?」

律「いいね。小百合なんに乗りたい?」

小百合「私…律くんと二人で…観覧車乗りたい…」

律「…俺もそう思ってた」

小百合「…嬉しい」

律「よし、行くぞ小百合っ!」

小百合「うんっ」


第25話へ続く


ハイスクール!ノーリターン!
第25話「あの日と同じ空」



眩しい西日に、お互い少し顔をうつむかせながら、私と律くんは手を繋いで観覧車へと歩いてゆきました…。幸い混み合っている様子もなく、観覧車の受付に着くなり私たちは席へと通されました。

律「小百合、どっちに座る?」

小百合「えっと…じゃあ内側っ」

律「わかった。奥行けよ、海が見えるからさ」

小百合「…ありがとう」
(これで本当に最後なんだよね…。律くんと乗る…多分、最後の観覧車。でもそんな素振り見せちゃだめ。いつも通りに…いつも通りに…!)

律「おお…どんどん地上から遠ざかるぞ」

小百合「わぁ…高いねぇ!まだ半分くらいしか来てないのに…!」

私たちは、覗きこむようにして眼下の景色を眺めていました。その直後、風に煽られた私たちのゆりかごが大きく震えました。

小百合「わわっ!」

律「うおっ…けっこう揺れるな。ちゃんと座ってたほうがいいな」

小百合「そだね…」

短い沈黙のあと、律くんの口から聞いた言葉を…私はきっと、ずっと忘れることはないと思いました。そう、きっと…ずっと。

律「小百合、見ろよ。空が黄金色に染まってきた。あの約束した時もさ、こんなキレイな夕暮れだったよな…」

小百合「うん…うん…」

律「んー…気のせいかもなんだけどさ、お前最近元気ないよなっ…」

小百合「え…そ、そんなことないよ」

律「…そか」

小百合「…私、律くんといるとすごくハッピーだよ」

律「…よし、じゃあもっとハッピーにしてやるよ」

そう言った律くんは、おもむろにポケットから何かを取り出し、私に差し出しました。

小百合「律くん…これは?」

律「うん…これさ、うわっ!」

小百合「きゃあっ!」

律「な、なんだ今の震動…⁉︎」

小百合「わかんない…わかんないけど律くん!これ…観覧車止まってる…!」

律「本当だ…。なんだよ…故障か?」

小百合「わかんない…。多分ここ、一番てっぺんだから下の様子も見えないし…復旧を待つしかなさそだね…」

律「あ、ああ…」

小百合「びっくりしたけど…こんな最高の景色をふたり占め出来ることは…ちょっとラッキーだね」

律「ハハ…確かに。とりあえず待つしかなさそうだな…。じゃあ…さっきの話…続けるよ」

小百合「…うん」

律「あ…これさ、あんまり高いもんじゃねえけど…俺の…気持ち」

小百合「嬉しい…開けてみてもいい?」

律「…うん」

小百合「わぁ…キレイな指輪…!律くんありがとう…!」

律「へへっ…ちっちゃいけどさ、一応…ダイヤモンドだ」

小百合「…えっ?」

律「本当はさ、あの日の約束を果たして…俺が一人前の男になったら言おうと思ってたんだけど…!」

小百合「な…何を?」

律「まあ…どうせ将来、小百合に言うことだし…このことで小百合をもっとハッピーに出来るかわかんないけど…」

小百合「うん…」

律「約束を果たして…準備が整ったら…」

小百合「…律…くん」

律「…俺と結婚してほしい」

小百合「!…じゃあ…この指輪は…!」

律「うん…ちゃんとしたやつはまた改めて買うけど…今、俺が小百合に示すことが出来る…最高の気持ち…だよ」

小百合「えぐっ…!律くん…どうして…?」

律「小百合…っ、泣くなよ…っ!」

小百合「もー…反則だよう…えぐっ…えぐっ…」

律「笑えよ、小百合」

小百合「うんっ…うんっ!あはは…!」

律「…返事は今じゃなくていいよ…うん。だってまだ俺たち、付き合いはじめたばっかだし…あ、っていっても…もうだいたいお互いのこと分かってるよな!あはは…」

小百合「うんうん…っ確かに!…あーあ…ずっとこのまま時間が止まっちゃえばいいのに…っ」

律「…泣くな小百合。…俺がいるよ」

小百合「…好き。大好きだよ律くん……」

律「ん……」

小百合(お別れを直前に控えたこのタイミングで…律くんからまさかのプロポーズ…。神様はなんて意地悪なんだろう。私のハートを、風に揺れるこのゴンドラのように波立たせるよ。私…自分の気持ちに、素直になってもいいの…?

律「…うっ…動き出した…!」

小百合「あ…本当だ」

律「これで一安心だなっ」

小百合「うん」

律「うお、時間やべえ!けっこう長い時間故障で止まってたみたいだ。もうあいつらと待ち合わせの時間だぞ…!」

小百合「あっ…本当だ、もうこんな時間…!あたし、胡桃に連絡するね?」

律「しなくていい」

小百合「えっ?」

律「今は…小百合と俺だけの時間だからさ」

小百合「…うん」

律「…夏休み、明日で終わりだな」

小百合「…うん」

律「…高校生活、最後の夏休み…か」

小百合「…律くん、最高の夏休みを…ありがとう」

律「はは、なに急に改まってんだよ」

小百合「あたしも頑張るから…律くんも頑張って…!」

律「おう!絶対にあの約束、一緒に果たそうな」

小百合「…うんっ」

律「よし、そろそろ下に到着だ」


こんなにも。こんなにも涙を堪えたこと…今までなかった。…律くん、最後まで本当のこと…言わずにごめん。意気地なしなあたしを…きっと律くんは…後で怒るかもしれないね…。でもやっぱり…さよならなんて言えないよ…。

係員「お客様、先ほどは機械トラブルで大変ご迷惑をおかけしました!お怪我などございませんか?」

律「あ、全然へっちゃらです。すみません、ちょっと俺たち急ぎますんで…失礼しますっ!」

係員「あっお客様っ!」

律「小百合、行くぞっ!」

小百合「あっ…」

不意にあたしの手を取り、走りだした律くん…。イタズラっぽく笑って、あたしをグイグイ引っ張っていきます…。

律「小百合!まだ走れるか?」

小百合「…うんっ!最後まで走る…ッ!」

律「おう!ほら、あそこがゴールだ!」

小百合「…うんっ」

胡桃「あー!黒坂やっと来たー!」

清十郎「ははは、二人ともおかえり」

律「悪ィ!お待たせ!」

胡桃「何やってた訳ェ?待ち合わせ5時だったじゃん⁉︎」

律「ああ、ちょっと観覧車が最高に面白くてさ。つい2周しちゃったんだ。な!小百合」

小百合「え…うん」

胡桃「はぁ⁉︎なら連絡くらいしてよね!あたしと清チンも乗りたかったのにー!ここで待ちぼうけしたんだかんね⁉︎」

清十郎「まあまあ。胡桃も落ち着いて」

胡桃「えー…でもぉ」

清十郎「じゃあ今度は 僕ら2人で来たときは、3周しよう」

胡桃「わお!清チンと二人きりで3周とか…!あああ…!」

小百合「く、胡桃…よだれ出てるよぉ…!」

律「ははは!どんな妄想してんだよ!」

胡桃「ハッ、あたしとしたことが…!いけない情事に想いを馳せていたー!」

清十郎「…うん、こりゃ無事でいられそうにないな(笑)」

無事に合流したあたし達は、地下鉄に乗り帰路につきました。楽しい時間は、なぜこんなにも速く過ぎるのでしょうか。律くんは、いつも通りにあたしを家まで送り、爽やかな笑顔で帰宅しました。そう、いつも通りに。そして、いつも通りに朝日は昇り、遂にお別れの朝がやってきました…。



第26話へ続く

#26〜#30

ハイスクール!ノーリターン!
第26話
「揺れる想い」

(小百合)
そして…とうとうその日がやってきました。天気は快晴!だったら…この暗い気持ちも、少しは紛れたのに…生憎の曇り空です。
予報では、間も無く雨になるみたい。
現在、時刻は午前7時。きっと律くんはまだ、夢の中でしょう。
飛行機の時間は11時ですが、余裕を持って行動出来るように、こんな朝早くから空港を目指すことになりました…。


小百合の父 秀樹「小百合、忘れ物無いか?」

小百合「忘れ…物」

秀樹「ん?あるなら早く取ってきなさい」

小百合「う、ううん。大丈夫」

秀樹「そうか。よし、じゃあみんな。長年住み慣れたこの家とも…今日でお別れだ」

百恵「そうね…いろいろあったわ、数えきれないくらいに。…小百合…あなた、本当に忘れ物は無いのね…?」

小百合「お母さん…」

秀樹「どうした、母さん」

小百合「…大丈夫だよ。行こう?イタリアってどんなとこかなぁ…!ワクワクしない?」

百恵「…ええ、そうね」

秀樹「ん、タクシーが来たぞ。お前たち、荷物を乗せなさい

小百合/百恵「はーい!」

(小百合)
私たち一家三人は、それぞれの荷物をトランクに積み込み、タクシーにて一路中部国際空港へと出発したのでした…。

百恵「小百合…昨日はお友達と何処かへ出掛けてたみたいだけど…お別れのことは話したの?」

小百合「…もちろんだよっ!」

百恵「そう」

小百合「あ、でも…まだメール出来てない友達もいるから…ちょっとメールしてていい?」

百恵「ええ、そうなさい」

小百合「うん…」
(ちなみに、声優部の皆には昨日、グループ通話でお知らせ済みです。。
思ったとおり、部長の成美ん、、連絡遅いって怒ってたなぁ…怒ってるのに泣いて別れを惜しんでくれて…嬉しかったなぁ…。
それにいつもハイテンションな大天使、梨花たんまで泣いてくれるんだもの…。言うまでもなく、私も大号泣しちゃって、、最後のほう、感動と悲しみがカオスだったなぁ…(笑)
えへへ…友達って本当、ありがたいものです。
おっといけない、メールしなくちゃ。…まずは胡桃と清十郎くんから。。)

場面変わり、
胡桃の家のチャイムを鳴らす清十郎

胡桃「はーい」

清十郎「望田と申しますが、胡桃さんはいらっしゃいますでしょうか」

胡桃「清チン!おっはよ〜♥︎」

清十郎「うん、おはよう」

胡桃「すぐ行くネ!」

清十郎「あ…急がないでいいから」

胡桃「無理ィ!…ガチャ」

乱暴に切られるインターホン
直後胡桃が現れる

胡桃「おっ待たせ〜♥︎」

清十郎「は、速いな汗…よし。じゃあ出掛けようか」

どこからか聞こえるスマホのバイブ音

胡桃「うんっ♥︎…って…清チン、スマホ鳴ってない?」

清十郎「ん?いや、胡桃からも聞こえたけど。メールかな」

胡桃「んー…ん⁉︎小百合から…?」

清十郎「僕と胡桃宛てにだね。律が宛先に入ってないなんて珍しいな…内容は…なになに…」

少しの沈黙の後、口を開く清十郎と胡桃

清十郎「こ…これは…ッ」

胡桃「…嘘でしょ…!昨日までそんな素振りぜんぜん見せなかったじゃない…!」

清十郎「…きっと、小百合ちゃんなりの優しさだよ…。それは僕らに宛てられたこの文面からも読み取れる…」

胡桃「…小百合が…いなくなっちゃう…!」

清十郎「それにしても…急すぎる…!律には…!もちろん個別でメールしているだろうが…」

胡桃「この時間じゃ絶対黒坂起きてないよ!」

清十郎「ああ、その可能性が高い。…胡桃、律の元へ急ごう!」

胡桃「うん!」


場面を律の部屋に移す
繰り返し鳴り止まないアラーム

律「…うーん…るっせーな…なんで目覚まし止まらねーんだよ…切っても切ってもすぐ鳴りだすぞ…くそ」

場面、再び清十郎と胡桃へ

胡桃「清チン!黒坂繋がんない⁈」

清十郎「…呼び出しはするんだが…すぐに切られる」

胡桃「ああんもう!黒坂のバカ!なにしてんのよぉ!」

清十郎「…律の家が見えた!急ごう!」

チャイムを連打する胡桃

胡桃「ごめんくださーい!!ごめんくださーい!!黒坂ァァァ!いつまで寝てんだコラァァァァ‼︎」

清十郎「く、胡桃…」

玄関ドアが開く

律「おいおいおい…!さっきからの着信もお前らかよ。ったく…朝っぱらからどーしたんだよ」

胡桃「ぐっ…黒坂ァッ!」

胡桃の強烈なビンタを喰らう律

律「ん?…ぶあっ‼︎」

胡桃「これで目え覚めた…⁈」

律「うっ…痛ぅ…ッ!」

清十郎「律、起き抜けにすまないが緊急事態だ。すぐにメールのチェックを!」

律「…メール?…なんなんだよ…えーっと…。新着一件…小百合からじゃん、なんだろ」

胡桃「さっさと読みなさいよッ!」

しばしの沈黙の後、青ざめる律

律「……なんだよこれ…ッ」

清十郎「律…ッ!このまま小百合ちゃんを行かせていいのかッ!」

律「…いい訳…ねーだろ…ッ!セントレアから11時の便だよな…ッ!今何時だ⁉︎」

胡桃「…九時ッ!」

律「クソッ…!迷ってる暇ねえッ!最速でセントレアへ行くにゃどうすりゃいい…!」

胡桃「名鉄からセントレアまで直行がある!多分一番早く着く!」

律「それだ…!清十郎!お前の速い自転車借りんぞ!名鉄までぶっ飛ばすッ!」

清十郎「あっ!律…ッ!」

胡桃「黒坂…ッ!あんた絶対間に合わせなよ…ッ!」

清十郎「胡桃ッ!僕らも空港へ急ごうッ!」

胡桃「だよね…!こんな別れ方、寂しすぎるもん!」

清十郎「同感だ…!すぐにハイヤーを手配するッ!胡桃!大通りまで走るぞッ!」

胡桃「了解ッ!」



第27話へ続く




ハイスクール!ノーリターン!
第27話
「ありがとう」

降り出した雨。
全速力で自転車を飛ばす律。

律「ハァッ…ハァッ…!あんのバカ…ッ…!電話かけても留守電だし…ッ!くっそォォ…ッ間に合ってくれ…ッ!!」

小百合からのメールを回想する律。

…………………
(小百合)

律くんへ

おはよ。朝早くからメールしてゴメン。。昨日は本当素敵な一日をありがとう。
私…恋人同士で観覧車乗るとか…ずっと憧れてたから…。
その夢を律くんと叶えられて、すごくいい思い出になった…ありがとう。

律「ハァッ…ハァッ…何が思い出だよ…ッ…!それはこれからもっとたくさん作るはずだったんじゃねーのかよッ!」

(小百合)
まさかの…プロポーズまで…!もらった指輪…律くんの私への気持ちがすごく伝わってきて…本当嬉しかった。…ありがとう。

律「ハァッ…ハァッ…何がありがとうだッッ!嬉しかったとか…何いなくなるみたいなセリフ吐いてんだよ…ッ!」

(小百合)
じゃあ、そろそろ本題に入るね…。
私が今から伝えることで、律くんにはきっと…悲しい想いをさせちゃうかもだけど…私、勇気を出して伝えることにしました。
こんなギリギリまで言えずにいたこと、本当にゴメンなさい…。
何度も話そうと思ったけど…律くんと過ごすことの出来る、この最後の夏休みを…いつも通り、二人で笑っていたかったから。。

律「ハァッ…ハァッ!最後だなんて…最後だなんて言うなァァッ!…ハァッ…ハァッ…!
次デートで行きたいとこ…考えとけって言ったの…お前だろうがァァ…ッ!」

(小百合)
律くん…私ね、お父さんのお仕事の都合で、イタリアへ行くことになりました。。いつ帰国出来るかも分からないそうです。。でも、向こうへ行っても、声優を目指すのは変わらないよ。あの日交わした約束は、いつまでも私の…一生の宝物だから。。

律「ハァッ…ハァッ…!イタリア…?そんなもん関係ねえッ!距離がなんだ…ッ!クソ…ッ!それに…ッ…当たり前だ…ッ!んなもん…俺にとっても一生の宝物に決まってんだろぉが…ッ!ハァッ…ハァッ…」

(小百合)
でも私…もう律くんのそばにはいられなくなる。
私が律くんの彼女でいる限り、私の勝手な都合で…律くんから貴重な青春の時間を奪ってしまう。
だから私たち…付き合う前みたいに、ただの幼馴染みに戻ったほうがいいと思う…。
それに律くんは、とても素敵なひとだから…私なんかよりふさわしい女の子が現れるよ、きっと。。せっかくプロポーズまでしてくれたのに…こんな形で裏切ることになって…ゴメン。

律「ふざけんな…ッ!余計なお節介しやがって…ッ…!こんな終わり方…ッ!受け入れらんねぇよ…ッ!…ううっ…小百合…ッ!行くな…ッ…行くなよ小百合ィィィッ!」

(小百合)
今はね、セントレアに向かう途中。11時の便で日本を発ちます。。
あーあ…(笑)やっぱりあの時、本当に律くんにさらってもらえば良かったなぁなんて…ちょっぴり考えちゃうけど…ふふ。
このご時世に駆け落ちなんて…ドラマの世界くらいだよね。

最後になりましたが…一言だけ。。

律くん、きっと幸せになって。
私、お祈りしておくから…!
そして…お互いに夢を叶えよう。
私も頑張るから!約束だよ?
ちっちゃい頃から今日まで…私のこといつもかまってくれて…本当にありがとう。
やっぱり言葉なんかじゃ伝えきれないけど…たくさんの伝えたい気持ちがあるの。
何度でも言わせてね。。


…ありがとう。。。ありがとう。


大好きな律くんへ

小百合より


律「…ううううう!俺にはお前しかいないんだよ…!余計な気ィ回しやがって…!
ハァッ…ハァッ……行くな…小百合…!勝手に俺から離れるなーーーッ!」


場面変わり、中部国際空港(セントレア)出発ロビーにて


秀樹「母さん、ちょっと手洗いに行ってくる」

百恵「あ、私も行くわ。小百合は?」

小百合「私は大丈夫。ここで…待ってる」

百恵「そう。じゃあ行ってくるわね」

小百合「うん」

(小百合)
フライトまであと一時間か…。
余計な事考えないように…さっきまでスマホの電源落としてたけど…。ひょっとしたら…律くんから着信、来てるかな…。

スマホの電源を入れる小百合。
しばらくして、通知音が聞こえる。

小百合「あ…着信…来てる。。胡桃から…10回も…。その前は…。あっ!」

ディスプレイの着信履歴を見たまま沈黙する小百合。

小百合「…律くんから3回かかってきてる…。どうしよう。私からかける?
ううん…そんなことしたら。。この決意が揺らいじゃう…。
そうだよ…。昨日のデートが最後の律くんとの思い出のはず…!そのはずだったのに…!
私…何を期待してるの…?…どうして待ってるの…?そんな奇跡起きないよ…!
それなのに…律くん。。律くん…!どうして律くんの名前を呼んでしまうの…?
…逢いたい。最後にもう一度だけ…君に逢いたい…!


場面変わり、空港へ向かう清十郎と胡桃の乗るハイヤー車内。


胡桃「…清チン、うちら間に合うかな…」

清十郎「…フライトには間に合うだろうが…。この急展開はさすがにどうしようもない…残念だよ」

胡桃「うん…。あーあ…お父さんの転勤かぁ…。仕方ないよね…」

清十郎「ああ、そればっかりはね…サラリーマンには付き物だからな…」

胡桃「…だよね」

清十郎「…ちなみに、小百合ちゃんのお父さんて、外資系の企業にお勤めされてたのかい?」

胡桃「どうだったかなー…確か小百合から一回聞いたことあるよーな気がするんだよね」

清十郎「…」

胡桃「…あっ、思い出した。確か…MMT商事、だったかな」

清十郎「…MMT…商事?聞いたことがあるぞ…!」

胡桃「うん。確かそこの部長だった気がする」

清十郎「…そうか、なるほどね」

胡桃「らしいよ」

清十郎「うーん…多分これは、職権濫用だろうな…」

胡桃「てか今はそれどころじゃないよ。あたしこれで小百合に会えなかったらさぁ…?多分明日寝込んじゃうよ…はぁ」

清十郎「よしよし…。さぁそろそろ空港が見えてくる頃だぞ」

場面変わり、空港玄関口。
立ち尽くす、ずぶ濡れの律。

律「…10時10分か。…へっ、ざまーみろ。。俺は間に合ったぞ小百合。。待ってろ…!今逢いに行くかんなッッ!」


第28話へ続く


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ハイスクール!ノーリターン!
第28話
「忘れ物と贈り物」


秀樹「すまん、待たせたな」

小百合「あっ、ううん…大丈夫」

百恵「お待たせ〜、お手洗いすっごい混んでた〜」

秀樹「ふむ、全員揃ったな。では搭乗口へ向かおう」

百恵「小百合、行くわよ」

小百合「あっ…うん」

(小百合)…ちょっぴり期待しちゃったけど…律くん、私もう行かなくちゃ…。

秀樹「まずは手荷物検査だ」

百恵「ええ、行きましょ。…小百合?」

(小百合)あの手荷物検査を越えたら…もう律くんと…触れ合うことは出来ないんだ…。
さようなら、律くん。何度でも言うよ。本当に…本当に、ありがとう…。

百恵「…小百合、あなた本当に忘れ物は無いのね?」

小百合「…お母さん」

秀樹「おーい、急げよー」

小百合「私…私…!」

百恵「…やれやれね、そんなことだと思った。
お母さん何年小百合のこと見てきたと思ってるの?」

小百合「…うん…うん」

百恵「ギリギリまで諦めないこと。ただし、タイムリミットが来たら潔く振る舞うこと。いいわね?」

小百合「…うん、お母さん…ありがとう」

百恵「あなた!」

秀樹「…どうした!」

百恵「ちょっと飲み物だけ買ってきますから!ゲート前で小百合とお待ちになって!」

秀樹「ギリギリだなぁ…。分かった!急ぎなさい!」

百恵「…涙を拭きなさい、小百合」

小百合「…おがあさん…!」

百恵「タイムリミットは残り10分よ。さ、お父さんのとこへ急いで」

小百合「…うんっ」

そして5分が過ぎた。

秀樹「母さん遅いな…」

小百合「…そうだね」

小百合(律くん…!律くん…!私はここだよ…!ここにいるよ…!)

秀樹「…ん?あれは…」

駆け寄ってくる律に目を凝らす秀樹。

小百合「…?…ああっ…!…間に合った…!来てくれたんだ…っ!」

律「見つけたぞ…っ!小百合ィィィィッ!!」

小百合「律くんッ…‼︎」

百恵「…どうやら間に合ったみたいね」

律「ハッ…ハッ…。小百合…!」

小百合「…律…くん…ッ」

律「ハァッ…ハァッ…余計なお節介してんじゃねーよ…ッ!」
何がイタリアだ…ッ…何が俺の貴重な青春だ…ッ!何がありがとうだッ…!」

小百合「…ううっ…!」

秀樹「君は…黒坂さんとこの律くんか。随分久しぶりだ」

律「…おじさん、お久しぶりです…ッ」

秀樹「だが小百合、時間がない。話があるなら急ぎなさい」

小百合「…律…くん…」

律「…距離が何だってんだよ…。時間が何だってんだよッ!ふざけんなッ!
小百合がいない青春なんて…そんなもんいらねーんだよッ‼︎」

小百合「私だって…ッ…私だって…ッ!律くんのことが必要だよ…ッ!でも…ッ!」

律「…しばらくは会えなくなるかも知れねーけど…!勝手に俺のこと…思い出にすんなよッッ‼︎」

小百合「…待たせても…いいの…?」

律「…当たり前だッ…!俺が一人前になって…ぜってーお前を迎えに行くッ‼︎分かったかッ‼︎」

小百合「…うん。分かった…!」

律「…ならいーんだよ…。気をつけて…行ってこいよ…ッ!」

小百合「…うん」

律「って…小百合…?」

小百合「…行ってくるね、律くん」

律「…っ…」

秀樹「…忘れ物、か」

百恵「…素敵ね」

秀樹「…青春てやつだな。父親としては少し複雑だが…」

小百合「お父さん…お待たせしました…。行こう?」

秀樹「…そうだな、行こう」

胡桃「小百合〜!」

小百合「あっ…胡桃!それに清十郎くんも…!」

清十郎「ハァッ…ハァッ…なんとか間に合ったみたいだね…ッ」

胡桃「うんうん…ッ!小百合っ…!会いたかったんだからぁ…!」

小百合「私もだよう…胡桃ぃ…!」

秀樹「君たち、小百合を見送りに来てくれてありがとう。
だがそろそろ行かねばならない。申し訳ないが、ここで失礼す…」

秀樹の携帯に着信。

秀樹「まったく…この忙しい時に誰だ…む?」

百恵「…あなた?」

秀樹「…社長からだ」

着信に応じる秀樹。

秀樹「…はい、練袮です。…ええ、これから発つところですが…
…ど、どうゆう…ことでしょうか…はい…はい…いえ、とんでもないです。
承知致しました。お休みの日にわざわざご連絡頂き、ありがとうございました。
…はい、では失礼いたします」

百恵「あなた、急ぎましょう。飛行機に間に合わなくなるわ」

小百合「お父さん、急ごう」

秀樹「…母さん」

百恵「…あなた?」

秀樹「…飛行機はキャンセルだ」

小百合「…え?」



第29話へ続く


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ハイスクール!ノーリターン!
第29話
「キミがいる」


百恵「あなた、急ぎましょう。飛行機に間に合わなくなるわ」

小百合「うん、急ごう」

秀樹「…母さん、小百合」

百恵「…あなた?」

秀樹「…飛行機はキャンセルだ」

小百合「…え?え?」

秀樹「俺の転勤が白紙になったそうだ。配属部署も役職も…これまで通りらしい」

百恵「どうゆうことなの?」

秀樹「俺にも分からん。上が決めたことだ。従うしかあるまい」

百恵「…そうね」

秀樹「…話を聞いてまず気がかりだったのは、代わりに派遣される者だが…既に手配済みだそうだ。
しかし我が社からではなく、親会社である望田グループ系列の会社から人選されるらしい」

百恵「そう。ふふ、サラリーマンて大変ね」

秀樹「ふっ、本当にな。…まあ確かに、今回のプロジェクトは複数の企業が
絡む巨大プロジェクトだったが…この展開にはいささか驚いたな」

小百合「…お父さん?」

秀樹「帰るぞ小百合。転勤は白紙だ」

小百合「!……本当に本当?」

秀樹「ああ、全部今まで通りだ」

律「小百合!飛行機大丈夫なのかよ!」

小百合「…律くんっ!」

律「…んん?なんで小百合こっち戻ってくるんだ??」

清十郎「…行けよ、律」

律「え?」

胡桃「もたもたするんじゃなーーい!行っけ〜!」

律「ぐあっ…!痛…って!…はは…なんか良く分かんねーけど…!行くに決まってんだろーがっ!」

息を切らせ走り寄る小百合と律。

小百合「律くんっ…律くんっ!」

律「小百合…っ…小百合っ!」

抱き合う小百合と律。

小百合「律くん……!」

律「わっかんねーな…!…どうゆうことなんだよっ…ハハっ」

小百合「うん…奇跡が起きたんだよ…。お父さんのイタリア転勤がね…たった今白紙になったの!」

律「マジかよ…ハハ…!じゃあ小百合は…!」

小百合「全部今まで通りだよ…!」

律「…くっそ…。なんだよ…この展開…!まるでアニメみたいじゃねーかよ…っ」

小百合「本当だねっ…!あはは…!」

秀樹の咳払い。

秀樹「小百合、父さんと母さんは先に帰ってるからな。お友達とゆっくりしてきなさい」

小百合「えっ⁉︎」

百恵「…良かったわね、小百合」

小百合「お母さん…うんっ。ありがとう…!」

百恵「あなた、行きましょう」

秀樹「うむ」

律「…くっそ…夢みたいだ」

小百合「…夢なんかじゃないよ。私…ここにいるもんっ」

律「…ああ、小百合が俺の目の前にいる…。これは夢なんかじゃねーよな…!
へへっ!…おかえり、小百合」

小百合「…ただいま、律くん」

胡桃「…あのー。あたしと清チンも居るんですけどー」

小百合「わわっ!胡桃っ!あははっ…分かってる分かってる〜!」

清十郎「小百合ちゃん、僕らからも言わせてほしい」

小百合「え?」

胡桃「うんうん!せーのっ」

胡桃/清十郎「おかえりっ!」

小百合「…二人ともっ…ありがとう…!ただいまっ!」

律「にっひひ!さーて、これからどーする?」

胡桃「夏休み最終日だからー…」

清十郎「となるとやっぱり…花火大会しかないね」

小百合「うんうん!あっ、でも…都合良く今日開催の花火大会なんてあるかな?」

律「胡桃、調べてくれよ」

胡桃「は?なんであんたに命令されなきゃいけないワケ?自分で調べれば?」

律「あん?俺はスマホとか苦手なの!お前のがそうゆうの得意なんだからいいじゃんかよう」

胡桃「ったく、スマートじゃないんだから黒坂はー…清チンを見習いなさいよネー…えーっと、花火大会花火大会…」

清十郎「胡桃、調べる必要は無いよ。僕がセッティングするから」

胡桃/小百合/律「えっ⁉︎」

胡桃「せ、清チン…。まさか…そのまさかなワケ??」

清十郎「うん。プライベートに打ち上げ花火しようかなって」

胡桃「はぁ♥︎聞いた?黒坂ァ!清チンのスマート過ぎる一言!」

律「はは…マジかよ…。ってか!プライベート花火大会とか…ッ…そんな発想!庶民にあるかよぉ!」

小百合「あはは!それは確かに〜!思いつかないよ〜!」

清十郎「じゃあ決まりだね。となると、早速だけど移動しよう。
表にハイヤーを待たせてるから、それに乗って港まで行く。
花火師にも連絡を取って港で合流したら、僕のクルーザーで沖まで出る」

律「せ、清十郎のクルーザー⁉︎」

清十郎「うん。免許取り立てだから、少し揺れるかもしれないけどゴメン。
ああそうだ、僕は初めてじゃないけど、真下から眺める花火も風情があって美しいからお楽しみに」

胡桃「清チンっ♥︎スマート過ぎるぅぅ///」

律「はは…見習えるかこんなのぉぉぉ!」

小百合「あははは!清十郎君っ、お世話になります〜!」

清十郎「とんでもない。さ、行こうみんな」

(小百合)なんだか…未だにこの展開が信じられないけど…!全部ほんとにほんとのことなんですっ!
泣いたり笑ったり、いろいろあったけどっ…!私…私…っ!すごく幸せな匂い!ぷぷんとですっ♥︎
そしてそして…!最高の夏休み最終日の匂いもっ!ぷぷぷぷぷぷんとですっ♥︎


第30話へ続く


........................................................


ハイスクール!ノーリターン!
第30話「ベストフレンド」


(小百合)
港に移動した私たち4人は、花火師さんたちの合流を待って清十郎くんのクルーザーに乗り込み、意気揚々と打ち上げ海域を目指すことになりました…!
すっかり陽もくれて、水面には穏やかな陽射しがキラキラと輝いています…!
操舵室にはキャプテンの清十郎くんと胡桃、デッキには私と律くん。それにしても…!こんなシチュエーション初めてで…!さっきから律くんと子供のようにはしゃぎっぱなしです…!


清十郎「さぁ出航だ」

胡桃「うん。ドキドキする…」

窓越しに、デッキではしゃぐ律と小百合の声が聞こえる。

清十郎「はは、律と小百合ちゃん、盛り上がってるね」

胡桃「うん。風が気持ち良さそう」

清十郎「胡桃も行っといで。僕のことは心配ないから」

胡桃「ん〜…」

清十郎「…どうかした?」

胡桃「清チン…ひとつ聞いてもいい?」

清十郎「もちろん構わないよ」

胡桃「……そういえばさ、ウチらが空港に向かう途中…清チン、車止めて外で通話してたじゃん?」

清十郎「…そのことか(笑)」

胡桃「うん…。あれ、何の連絡だったのかなーって」

清十郎「…勘がいいね、胡桃は」

胡桃「えへへ…」

清十郎「話すつもりは無かったんだけど…仕方ない(笑)…実はあの時、会長に連絡してたんだ」

胡桃「会長??」

清十郎「ああごめん、父だよ僕の」

胡桃「清チンのお父さん…!ってことはまさか…!」

清十郎「察しが良過ぎるな、胡桃は」

胡桃「だって…!このハードな局面をひっくり返せるなんて…それしかあり得ないもん!」

清十郎「うん…いくら会社の跡継ぎだからって…まだ役職にもついてない僕がそれをするのは…正直、職権濫用だと思った。でも…律と小百合ちゃんが離れ離れになるのだけは…どんな手を使ってでも止めたかった」

胡桃「清チン…カッコ良過ぎ…」

清十郎「そんなことないよ。僕は僕にやれることをしただけ。それだけだよ」

胡桃「…ますます惚れ直しちゃったよ清チン。…じゃあ、ご褒美あげなきゃね…」

清十郎「…ん」

胡桃「…っ。。……ん⁉︎」

清十郎「どうしたの、胡桃…って…あ(笑)」

視線を感じ、デッキに目をやる胡桃と清十郎。

律「小百合、今の見たか?み、見たよな…?」

小百合「えっ…あっ、うん///」

胡桃「うわあ最悪…油断したぁ…。多分今のチュー…ガッツリ見られたぁぁぁ」

清十郎「ははは、そりゃ恥ずかしいなぁ!はっはっは」

胡桃「う…うん」

律「なあ清十郎!打ち上げポイントってまだかよ!」

清十郎「そうだな…このあたりまで来れば大丈夫、かな…。よし、律!このあたりにしよう!」

律「よっしゃあ!」

小百合「わ〜!ここで打ち上げるんだね〜!楽しみ過ぎる〜!」

デッキに出てきた清十郎くんが、花火師の皆さんと打ち合わせをしています…!程なくしてそれも終わり、私達はクルーザーの二階部分へと集められました…!

清十郎「さ、間も無く打ち上げだ」

胡桃「あーあ。夏休みもこれで終わりかー」

律「…なんか、いろいろあったよな」

小百合「うん。本当に…いろいろあったよね」

胡桃「ふふ!あのお節介大作戦から始まってぇ…」

清十郎「小百合ちゃんと律、そしてその作戦をきっかけに、胡桃と僕が結ばれて…」

小百合「ふふ!まさかのお泊まりデートに発展して…!」

律「う…。ここで俺の番かよ…!」

胡桃「ははは!何動揺してんのよう!」

律「いや…それは、その…。なんてゆーか、うーん…」

清十郎「初夜だね」

律「そう、初夜だ…。って!うわあっ!」

小百合「か〜っ///律くんたらもう〜っ!他にもうちょっと控え目な言い回しないかな〜///」

胡桃「あはは!」

律「えっ…あっ、じゃあ…そうだな、お…大人に…なった、とか」

小百合「ハイハイハイカット〜/////次行きま〜す///それから4人でイタリア村、ダブルデート〜!」

清十郎「ははは、そうそう!胡桃と律がふざけあってて…(笑)」

胡桃「うわぁぁぁん!そうそう!黒坂があたしに一杯食わせようとするから〜!」

小百合「はい(笑)早とちりで律くんを助けようとして。見事に海に落ちてしまったのが私です〜(笑)」

律「ははは!いや、でもあん時はマジで焦った(笑)でもよ!見事に小百合を助けたのが…ハイ、胡桃!誰だったっけ!」

胡桃「ぐっ…あんたそれをあたしに言わすとか…!」

律「へっ!日頃のお返しだー!」

清十郎「ははは。よし、助け舟だ!そう!小百合ちゃんを見事に救ったヒーロー、その名は!ハイ、小百合ちゃん!」

小百合「えっ…私⁉︎」

胡桃「ハイハイ小百合。言ってやってー」

律(咳払い)

小百合「私の…ヒーロー。それは…。律くんですっ!」

清十郎「はい拍手〜!」

胡桃「ブーブー(笑)」

律「へへっ…小百合。俺にとってのヒロインも…お前しか、いない。うん」

小百合「…えへへ///」

胡桃「全くもう。あんた達ってばすぐ二人の世界に入るんだからぁ!」

小百合「あっ…失礼しました…」

律「たはは…悪ぃ汗」

清十郎「仲睦まじくて微笑ましいね」

小百合「おかげさまです〜///」

律「…んでもって、今日の事件。清十郎と胡桃に叩き起こされて…小百合からのメール見て…」

小百合「…うん。私…苦しくて…苦しくて…だけど…律くんや胡桃、清十郎くんと過ごす夏休みを…いつも通りに楽しく過ごしたくって…私…!」

胡桃「…小百合ィ…もう黙っていなくなるのとかぁ…絶対ヤダかんね…?」

小百合「胡桃ぃ…!」

清十郎「小百合ちゃんは強い。僕には到底真似できないよ。でも…僕らは仲間だから。もっと頼ってくれると嬉しいな」

小百合「清十郎…くん。。ありがとう…ありがとう…」

律「…最後は俺からだ、小百合」

小百合「…律…くん…っ」

律「もし次にこんなことがあろうもんなら…」

小百合「う…うん…っ」

律「そん時はもう遠慮しねえ…。お望み通り、お前をさらってやるッ!」

小百合「はい…その時は…待ってます…っ!」

律「もう二度とお前を失うのはごめんだ…!小百合はッ!…未来で俺の妻になる女だかんなッ!」

小百合「…もう律くん…もうっ///泣かせないでよぉ…!」

律「…泣くなよ小百合。もう…大丈夫だから」

小百合「うん…うんっ…」

胡桃「…ってか、えっ⁈なに今の!く、黒坂のくせに…ッ!サラッとプロポーズしてなかった⁉︎」

清十郎「うん、してたね(笑)…こりゃあ僕も…負けてらんないなっ」

胡桃「え…清チン…それってまさか…今から…!」

清十郎「いや(笑)それはまた近いうちに。二人きりの時にね(笑)」

胡桃「は…はいっ♥︎」

清十郎「なにはともあれ!こうして四人でさ、夏休みを打ち上げることが出来て…本当に良かった!」

胡桃「うんうんうん!」

小百合「みんな本当にありがとう〜」

律「よっしゃあ!清十郎!打ち上げだあ!」

清十郎「了解っ」

小百合(階下の花火師さん達に、清十郎くんがサインを出しました。その直後…!)

(打ち上げ花火が一斉に上がり、大輪の花を咲かせる音)

胡桃「うっわぁぁぁ///清チン!めちゃくちゃキレイキレイキレイ〜/////」

清十郎「うん!ほら胡桃!あっちの花火もキレイだよ!」

小百合「わあ!…すごい…!ねっ!律く…」

律「…」

小百合「…」

律「…小百合のが…キレイだ」

小百合「…律くん…私…っ!律くんのこと…っ…愛してる…!」

律「…うん、俺も小百合のこと…愛してる…っ!…絶対にお前を幸せにする…っ!この花火に誓って!」

小百合「うん…っ…ぴとっ」

律「さ、小百合…」

小百合「律くん、私のこと…。しっかりつかまえてて///」

律「うん…!」

小百合「…花火、キレイだね」

律「…うん」

こうして、私達の最後の夏休みは、無事に幕を閉じたのでした…!最高の思い出の匂いと共に…っ!



第31話へ続く

#31〜#36

ハイスクール!ノーリターン!
第31話
「桃栗祭がやってくる!」


小百合(夏休みが終わり、二学期に入りました。時折吹く爽やかな風に、秋の匂いがぷぷんとしています。
   例年のごとくこの季節は、桃栗高校文化祭、通称桃栗祭の準備で、どの部活もバタバタしているのですが...。
   成美んから話を聞いた限り、あのミラクルはきっと、この日から幕を開けていたんだと思います。。。
   


桃栗山高校、校長室にて。

ドアノックの後、女性教諭が現れる。

「失礼します。校長、2番にお電話です」

小出「あら…どなた?」

「卒業生の方だそうですが…お名前はおっしゃいませんでした」

小出「…わかりました、ありがとう」

「いえ、では失礼いたします」

回線を繋ぎ、受話器を取る小出。

小出「…お待たせいたしました。校長の小出でございます」

「あっ…小出先生、お久しぶりでーすっ!」

受話器越しに聞こえたその声に、小出の眉がピクリと動く。

小出「…なんだか聞き覚えのある声…ひょっとしてあなたは…」

「さっすが小出セーンセっ♥︎」

小出「今の呼び方で確信したわ。瑠璃野 遥さん」

瑠璃野 遥「良かった〜!覚えてくださってて!」

小出「教え子の声を忘れるようでは、教師として不覚ですもの。それに遥さんのご活躍は、よくテレビでも拝見しているわ」

瑠璃野「わっ…ありがとうございます!はいっ…ようやくお仕事が増えてきまして…」

小出「そう。それは何よりね」

瑠璃野「あ、ご挨拶がまだ途中でしたね…すみません!ご無沙汰しておりました〜突然お電話差し上げて申し訳ありませんっ!」

小出「構いませんよ(笑)卒業生から連絡をいただけるなんて、嬉しい限りよ。…ところで、ご用件はなんだったかしら?」

瑠璃野「ええ、実は…。私も在籍していた声優部に、小百合さん、という方がいらっしゃいませんか?」

小出「まあ、よくご存知ね。つまりあなたの探し人は、現声優部3年生の、練祢小百合さんのこと?」

瑠璃野「…ビンゴ!あっ、はい!」

小出「練祢さんに何の御用かしら?」

瑠璃野「ええっと…ちょっと私の知り合いから伝言を頂きまして…それがその、小百合さんという方からなんですが…」

小出「まあ、そうだったの!」

瑠璃野「はい。それでですね、一週間後に控えた桃栗祭なんですが…」

小出「ええ」

瑠璃野「ネットで下調べさせて頂いたんですが…今回の桃栗祭、声優部の出し物は、校内放送によるこえ劇を予定してるみたいですね」

小出「その通りよ。…もしかしてあなた、いらっしゃるの?」

瑠璃野「はいっ!声優部OGとしてもぜひ!可愛い後輩の企画のお手伝いが出来れば!と思いまして…!」

小出「なるほど…遥さんがスペシャルゲストとして、声優部の出し物に飛び入り参加する、ってことね…?」

瑠璃野「はい、僭越ながら…。でも小出先生、出来ればこの件は内密にお願い出来ませんか?」

小出「もちろん。サプライズプレゼントであれば、あらかじめ生徒たちに知らせていては面白くありませんからね(笑)」

瑠璃野「ありがとうございます!あっでも…部長の方だけにはお話を通しておいて頂けると、当日動きやすいのですが…」

小出「わかりました。部長の二階堂さんだけにはお伝えしましょう」

瑠璃野「ありがとうございますっ!では当日、小出先生にお会いするのも楽しみにしておりますっ!」

小出「ええ、私もよ。ではまた当日、桃栗祭で会いましょう」

瑠璃野「はいっ!…あ、それと…劇の内容についてなんですが…」

瑠璃野の話に耳を傾ける小出。

小出「…ええ……なるほどね、今まさに放送されている、あれをやるのね。それに加えて更に…、ふふ。それは楽しみですね」

瑠璃野「はいっ!宜しくお願いいたします!では失礼しますっ」

小出「ご機嫌よう。…さて、今年の桃栗祭、ますます楽しみになってきましたね…!そうとなれば…仕度を済まさなくちゃね…」

内線を繋ぐ小出。

小出「…小出です。すみませんが、3年Aクラスの二階堂さんを、校長室にお呼び願えるかしら?」

「かしこまりました」

数分後。校長室のドアがノックされた。

二階堂成美「二階堂です、お呼びでしょうか…!」

小出「お入りなさい」

成美「失礼します…!」

小出「忙しいところ呼び出してしまって、ゴメンなさいね」

成美「とんでもないです…!と、ところで…私にご用件とは…!」

小出「ええ、実は…」

小出は、先ほどの瑠璃野とのやり取りを成美に説明した。

成美「そ、そんなことが…実現するのですか…!」

小出「そのようですよ。それと、この件については…くれぐれも内密にお願いしますよ」

成美「わかりました…!では失礼いたします…ッ!」

校長室を退出した成美。廊下を早足で歩きながら、動揺を隠しきれず独り言を漏らす。

成美「か〜…マジか〜…!こりゃあ今年の桃栗祭…!我が校始まって以来、史上最高のビッグイベントになる匂い…!ぷぷんとじゃないか〜!」



日時、場面変わり、桃栗祭当日。
声優部部室にて落ち着かない様子の小百合。

(小百合)
そして、待ちに待った日がやってきました!
10月に入って季節は秋真っ盛り!そう、我が桃栗山高校は今!
各部活が準備を完了させ!文化祭ムード一色に沸いているのです!
今日からの二日間、私の所属する声優部では、出し物として校内放送をお借りしたこえ劇を企画していますっ!
正午からのお昼休み、生徒たちのお食事のお供として…!
声による素敵な夢の世界へといざなえたら!どんなに素敵なことでしょうか〜!
現在時刻は11時。本番まであと一時間…!ワクワクドキドキの匂い…!ぷぷんとです…っ!


第32話へ続く


ハイスクール!ノーリターン!
第32話
「新入部員の凱旋」



声優部部室にて、台本の到着を待つ成美、梨花、小百合。


成美「そろそろ、かな…」

古澤梨花「ねえねえ小百合たん!台本まだ⁉︎まだなわけですか⁉︎」

小百合「あはは、梨花ぽん!興奮しすぎだおー!」

梨花「だってだって!いくらライブ感出したいからって本番一時間前からリハーサルに乗り込むんだよ?」

小百合「うん、確かに(笑)かなりぶっつけ本番の匂い、ぷぷんとだねっ!」

梨花「そうだよ意味わかんないおおおお!なんでこの土壇場にきて演目チェンジなのお!?」

小百合「うん...きっと成美んに何か、作戦があるに違いない...と、思う」

梨花「作戦...?」

成美「…よし、時間だ。咳払い)では!会議および打ち合わせを始める」

梨花「やったー!!会議だー!!」

盛り上がる梨花たちの会話を立ち聞きしていたかのように、タイミング良く部室のドアが開き、奇妙な声の女子生徒が現れる。

奇妙な声の女子生徒「はーい!お待たせしました〜!台本到着でごわす〜!」

梨花「ふにゃ?」

成美「お…お待ちしておりました…っ!」

梨花「誰だかわなんないけどご苦労様ですー!ねね!成美ちゃん!もしかしてこのコ!新入部員な訳ですか⁉︎」

成美「…そ、そうなる…かなっ」

梨花「やっっっっっっっったー!待望の新入部員が乗り込んで来たァァァァ!」

成美「咳払い)ま、まあまあ…ご本人からお話があるようだから…」

小百合「うん…失礼だけど、桃栗高に3年間いて、初めて見かけた顔のような…?」

奇妙な声の女子生徒「あはは…汗。やっぱもう…制服とか似合わない?」

成美「い、いえ…当時の先輩を存じ上げませんが、何の遜色もないかと…!」

小百合「え?先輩??」

いつもの声に戻った女子生徒「ふっふっふ…!二階堂さん!じゃあ紹介よろしくッ!」

小百合「まさか…!嘘でしょ…?信じらんない…今の声…っ‼︎」
(こ…これは…これはこれはこれはァァァァ!複雑なミラクルの匂いが匂いが匂いが匂いがァァァァぷぷぷんとですっ!!」


成美「えっ…私から紹介ですかー!咳払い)…では、改めてご紹介しよう。我が桃栗山高校、声優部OGにして、本日のスペシャルゲスト!瑠璃野 遥先輩だっ!」

梨花「へ〜!瑠璃野さんっていうんだ〜」

小百合「え?え?下の名前が...遥、ちゃん...?って...えーーーー‼︎⁉︎はわわわ…ありえない…!…る、る、瑠璃野遥さん…?ウチの卒業生にして声優部OGだったんですかーー⁉︎」

瑠璃野 遥「そうなんだよ〜!あ、只今二階堂さんからご紹介に預かりました、桃栗山高校卒業生!瑠璃野 遥ですっ!いえいっ!」

あっけにとられる小百合と梨花。

成美「いえいっ!…(咳払い」

瑠璃野「とゆわけで!本日はどうぞよろしくお願いしますっ!」

梨花「えっと…ちょっと整理しよう、うん…!」

小百合「うんうん…!一回落ち着こう…!」

瑠璃野「ふふふ…」

梨花「羊が一匹…羊が十匹…羊が百匹…羊が千匹よしッ!!」

小百合「ふぇぇ余計カオスだよ梨花ぽん…ッ!」

梨花「かまわな〜いッ!」

小百合「か、かまわないの⁉︎」

梨花「要するにッ!クロノ・サーカスで主人公スミレ役バリバリの…!あの瑠璃野さんが今ここにっ!乗り込んできた訳ですよね⁉︎」

瑠璃野「えへへ、見てくれてるんだ?嬉しいありがとー!ちなみにあなたお名前は?」

梨花「うぁ…やっぱ本物だ…。あっ!拙者!古澤エンジェル梨花です!ちなみにエンジェルは勝手につけたミドルネームの巻(まき)です…!」

瑠璃野「あはは面白い!天使の梨花ちゃん!よろしくぅ!」

梨花「よよよよろしくお願いしますダッシャーコラァ!」

瑠璃野「イエイ!ダッシャーコラァ!(笑)…でぇ、明らかにみんなのリーダー感漂わすあなたがっ!二階堂さんね?再確認オナシャス!」

成美(生オナシャス生オナシャス生オナシャス聞けたー!)
成美「は、はいっ!現声優部部長、3年Aクラス!二階堂成美と申します…!オナシャスッ!」

瑠璃野「よろしこ二階堂さん!オナシャスッ!」

成美「ここここちらこそよろしこオナシャスします!」

瑠璃野「ということは…残ったあなたが…」

小百合「ふぇぇぇ…!」

間の悪いタイミングで、息をせききらした律が現れる。

黒坂 律「すみません!遅くなりましたぁ!」

鹿 範人「律っちゃん!ダッシュで準備やっ!はよせなっ!」

律「お、おうっ!」

小百合「…律くん??それに…範人くんまで??」

成美「二人ともようこそ!どうぞ本日のライブミキシング、よろしくお願いします!」

律「うっすうっすー!」

範人「くるっぽくるっぽばっさーん!」

瑠璃野「…ビンゴ。手前の彼が律くんか…」

小百合「え…律くんが声優部のこえ劇に参加するんだ…?」

律「ああ、二階堂さんから依頼されてな。ほら、俺も範人もさ、音声編集とかちょっとかじってるじゃん?」

小百合「う、うん…」

律「その話をたまたま二階堂さんとする機会があって。そんで今日のこえ劇に、オレと範人でリアルタイムSEやらBGMやら、それから皆さんの声をミキシングするってゆう大役を任されたってわけさ」

成美「そうゆうことだ皆。今日のこえ劇はいつもと違い、黒坂くんと範人くんのライブミックスにて!ボイスドラマ仕立てのものになる予定だ〜!」

梨花「ベリグベリグ〜!」

瑠璃野「ちょ〜っと失礼!さっきの続きだけど…じゃあ残ったあなたが…小百合さんね?」

小百合「は…はい…!練祢小百合と申します…!」

瑠璃野「了解了解…。そして君が律くんね?」

律「えっと…はい、黒坂律ですけど…君、声優部?見たことない顔だけど…」

瑠璃野「あー!違うのこれは。ここに入り込むのに制服姿のほうが私ってバレにくいかなって!」

二階堂「黒坂くん、改めてご紹介するよ。瑠璃野遥先輩だ」

律「はい?………瑠璃野…さん…っ⁈」

瑠璃野「チャオ!」

律「チャ…チャオ⁉︎」

範人「…こいつぁガチだねえ…!」

瑠璃野「君たち二人の話、石田くんからよーく聞いてるよ〜?」

律「!…石田さん…から…?へ…へへ…っ…マジかこれマジなのかぁぁぁぁぁ!」

小百合「ひぃぃぃぃ…!まさか…あの時律くんが石田さんに話したってゆう…あれですか…?」

律「この状況が未だに信じらんねーけど…!小百合…良かったな…!」

小百合「ぜんっぜん良くないッ…!」

瑠璃野「ふむふむ…君たち二人が、将来あたしと石田くんよりもっともーっとすごい声優になるってゆう二人だよね?」

瑠璃野からの謎の発言に戸惑いざわめく成美。

成美「な、なんなのこの展開は…!」

梨花「さっぱりわからんぞなー!」

小百合「あ…それについては…ちょっと誤解があって…!その…私は確かに声優を目指してますけど…!瑠璃野さんはずっと憧れの存在で…!」

瑠璃野「あはは!そんなかしこまらないでも。別に怒りに来たわけじゃないからさ」

律「そ、そうなんですね…じゃあ今日は、小百合に宣戦布告をやり返しに来てくれたんですね…!」

小百合「律くん‼︎‼︎ちょっと黙ろう…?」

律「うっ…!」

瑠璃野「宣戦布告ってなによ(笑)違う違うぅ!君たち二人がどんなコなのか、興味があっただけ。しかも母校の後輩って聞いてたからさっ」

律「あ…石田さんの言ってた桃栗高出身の声優って…瑠璃野さんだったのか…!」

小百合「…私、瑠璃野さんが桃栗高の卒業生だって…知りませんでした…!すみませんっ!」

瑠璃野「そりゃそうだよ(笑)だってあたし、出身校とか公表してないもん!名前だけは本名にしちゃったけどネ」

律「ほ、本名だったん…」

小百合「律くん?ちょっと黙ろう…?」

律「う…」

小百合「それで今日は…石田さんから私たちのことを聞いて…!」

瑠璃野「そう。どんなコたちか気になったってのと、ちょうど時期的に文化祭が近かったから」

小百合「はいっ」

瑠璃野「ようやくあたしもお仕事増えてきてね、知名度も上がってきたみたいだから。この辺りで声優部OGとして、後輩のイベント盛り上げに一役買えたらなぁって!」

小百合「瑠璃野さん…。ありがとうございますっ!私…私、感激ですぅ…!あ…それで…実際に私と律くんをご覧になって…がっかりさせてしまいませんでしたか…?

瑠璃野「んん…。じゃあ二人とも、あたしの目を見て」

律「は、はいっ…では…ガン見失礼します…!」

小百合「お、同じく…大注目失礼します…!」

小百合と律の目を交互に見据える瑠璃野。しばしの沈黙が部室を包む。

瑠璃野「……ふーん。いい目つきしてる。石田くんの言ってた通りだ」

小百合「ほっ…嬉しいお言葉ありがとうございますぅぅ…!」

律「ああ、小百合はともかく、俺は石田俊介を越える男だからな…!」

瑠璃野「あはは!君最高だね!いいよいいよ、その勢い!やっぱり若さってすごいなぁ!」

小百合「…もうっ律くん…!私恥ずかしいよ…!」

瑠璃野「あはは!でもその意気が大事だから。まあこれからでっかい壁にもどんどんぶち当たるだろうし。勢いがなきゃ乗り越えらんないからさ!」

律「はいっ!ですよね!」

小百合「も〜…律くんてば本当能天気なんだから〜…!」

瑠璃野「オッケーオッケー、よし。二階堂さん、はいこれ、クロノ・サーカス第24幕、後半の台本」

成美「あっ、ありがとうございます…!このシーンは…確か緊迫したシーンですね…!」

小百合「うんうん、栗原さんがムスカーリに襲われちゃって…ピンチのところにスミレのお母さんが駆けつけるんだよね」

梨花「そうそう。ドロシたんとルンカたんが来るんだよね!」

律「二階堂さん。うちらミキシングの準備してるからさ、配役決まったら教えてよ」

成美「了解!では瑠璃野先輩、配役どのようにいたしましょう」

瑠璃野「そうだなぁ…ひととおり皆の声を聞かせてもらった感じ…二階堂さんはムスカーリ、梨花ちゃんがボタンかな」

成美「承りましたっ!やはりドロシルンカは、アニメでもその声を担当されてる瑠璃野先輩しかないですよね!」

瑠璃野「なんか申し訳ないね…!いや、本当はみんなのうちの誰かにお任せしたかったんだけど…そうなると、サプライズ的にさ、多分リスナーから疑問がられちゃうよね…」

小百合「うんうん。私たちだってやっぱり、瑠璃野さんが演じるドロシルンカを生で体験したいですっ!」

梨花「だねだねだねー!あ…ちょとまてちょとまておねいさん!小百合たんの役はどうしますのん!」

瑠璃野「うん、そこなんだけど…ちょっとあたしのわがまま聞いてもらっていい?」

小百合「大歓迎です!逆に私、憧れの瑠璃野先輩のわがままに振り回されたいくらいです…!」

瑠璃野「…小百合、ありがとう」

小百合「はわわ…!ドロシボイスの瑠璃野先輩から下の名前で呼ばれた…!」

梨花「遥たんの巧みな誘導にまんまと振り回されたがる小百合たんな件」

瑠璃野「あはは!バレたか(笑)梨花ちゃんには敵わないなぁ!うん、あたしね…」

小百合「はい…っ!」

瑠璃野「ルンカだけやらせてもらうよ!」

小百合「え…!じゃあドロシは誰が…!」

瑠璃野「ふふふ。とゆうことは〜?」

成美「ドロシ役に〜?」

梨花「小百合たんが〜?」

瑠璃野、成美、梨花「来ぅ〜る〜!」

小百合「ふぇぇぇ…!わたた私なんかがドロシたんの声を担当していいんですかぁぁぁぁ///!」

瑠璃野「バッチリお似合いだと思う!ふふっ。ドロシはあんたに任せたかんね?」

小百合「ふぇぇぇ!生ルンカたんにドロシお願いされたぁぁぁぁ!わかっ分かりました…!精一杯やらせていただきます…!」

瑠璃野「よし!決まり!じゃああとは成美に仕切ってもらおう!」

成美「ふぁっ!了解しましたぁ!ではまず!各自台本に目を通せッ!」

梨花「ふぁっ!二階堂隊長っ!お言葉ですがぁ!本番まで残り5分でありまぁすっ!」

成美「な、なんだと…?これはまさか…!エフェクトハイパー早送りか…!瑠璃野先輩との夢のような時間だからぁぁぁ!」

小百合「あはは、確かに…よ、よし!じゃあみんなっ?ぶっつけ本番…だねっ!」

梨花「ハイテンションの割りに青ざめた顔色の小百合たんな件」

瑠璃野「あはは!大丈ー夫!日頃の訓練の成果を発揮すれば行けるよっ!失敗を恐れるなお前たちー!」

成美「はは…!桃栗高声優部ッ!ふぁぁぁぁぁいッ!」

小百合/梨花/瑠璃野「ふぁぁぁぁぁいッ!」

成美「よし…黒坂くん、範人くん、配役が決まったからの…早速だが本番だッ!」

範人「漆黒ッッ!」

律「うっす!こっちも準備オッケーっすよ!あらかた音響とSEのイメージも出来てます!」

小百合「律くん…!なんか頼もしい…!」

律「へへっ、まぁな」

瑠璃野「よしっ!じゃあみんな!えいえい!」

成美/梨花/小百合/律「お〜〜!!」

小百合(とんでもないことになってきました…!まさかの瑠璃野さん合流で浮き足立つ我が声優部!そして、一発本番勝負のこえ劇が…!間も無くオンエアされますっ…!いったいどうなってしまうんでしょう…!これは…っ!大波乱の匂い…っ!ぷぷんとですっ!)



第33話へ続く



ハイスクール!ノーリターン!
第33話「こえ劇スタート!」



瑠璃野「…はぁ?…殺せるもんならやってみッ!」

梨花「私達は...っ!悪には屈しないっ!」

成美「ふ…まさかペンタスの宿敵のお前たちが現れるとはな」

小百合「…スミレがこの事件に関わっているんですか…⁉︎それに…ペンタスってどなたなんですか…?」

成美「…偶然にもお前の娘スミレは、この惑星の未来を左右する事件に巻き込まれたのさ」

小百合「エウロパの…未来?」

成美「ふ…お前がペンタスを知らぬのも無理はない。そして、知ったところで今更なにも変わりはしない」

小百合「…詳しく話してください…ッ」

成美「…余談が過ぎた。…この施設の破壊は、私自ら執り行うことにしよう」

瑠璃野「…破壊?」

梨花「お願いっ!もうやめて...!」

小百合「詳しく話しなさいッ!」

成美「ふふ…」

小百合「⁉︎…天井をすり抜けた…!ルンカ!止めるわよッ!」

瑠璃野「当たり前だしッ!」

成美「…ふはは!…ん⁉︎んんん⁉︎」

律(小声「…?二階堂さん…?どうしたっ⁉︎」

小百合(…成美ん…?)

成美「…お、お前達を召喚するのは久しぶりだ…!えと…。い、出でよ!ハリオンッ!ロベリアッ!」

瑠璃野「なっ‼︎召喚魔法っ⁉︎」

その時、突然部室のドアが開き、二人の男が乱入してきた!

石田「…呼ばれて飛び出てルネッサンス!…ではなく(笑)ロベリアッ!参上でございますッ!CV、石田俊介ッ!」

古川「ふはははッ‼︎我が名はハリオンッ‼︎脆弱なる魔人共を蹴散らしに降臨してやったぞーーッ‼︎CVッ!古川慶一朗ッ!」

律と小百合「…え?」

瑠璃野「ふふっ!」

成美、梨花、範人「えーーー‼︎‼︎」

瑠璃野「ハッ!雁首揃えてなんのお祭りィ⁉︎」

石田「決まってるじゃあ〜りませんか!ねぇハリオンッ?」

古川「言わずもがなだっ!…今・日・は…ッ!桃栗山高校文化祭だろうっ!違うかッ!」

石田「ええ、ええ!その通りですッ‼︎さあ皆さん…!ここからは誰も聴いたことのないクロノ・サーカス…ッ!つまり…!初体験スペシャルバージンエピソードですッ!」

古川「ふはは…!究極の恐怖をッ!貴様らに見せてくれようッ!…マハリクマハリタエロエロエッサイムーーッ‼︎オオオオ!漲ってきおったぞーーッ!我が巨塔がーーッ!」

瑠璃野「くっ…ドロシ…。こいつらなかなかの変態…いや、手練れだわ」

小百合「…複雑な気分ネっ…!」

瑠璃野「そうね、猥褻極まりないゲスと鬼畜ネ…!長引かせるのは得策じゃあないッ…!」

小百合「そ、そうでゲスね…!はわっ///」

瑠璃野「ぶっ、ちょっ(笑)!…そうとくればッ‼︎ウチらの最強コラボ魔法でぶっ飛ばすしかないッ‼︎外すんじゃないわよ⁉︎ドロシィィ!」

あらかじめ用意しておいた呪文詠唱文の書かれたカンペを小百合に見せる瑠璃野。

小百合「ゴクッ…!最強コラボ魔法…!了解…ッ‼︎」

石田「おやおや!まさかとは思いますがあなたたちッ!…私とハリオンを先に昇天させるおつもりですか…?」

古川「ふはははッ‼︎我らに敵う変態などッ‼︎この惑星にはムスカーリ様しかおらぬわッ‼︎」

成美「えええええ…///」

瑠璃野「行くよッ…ドロシ!」

小百合「オッケールンカッ!」

瑠璃野&小百合「…風と涙の魔女、アイズオブウェットの名のもとに呼びかける…!
この星に吹く母なる風よ…!汝、我らの祈りを聞き届けたまえッ…!ティアドロ…!アポロニックッ!グローリーーーッ‼︎」

二人がその呪文を唱えた直後。
世界が静寂に包まれる。
遠く宇宙の遥か彼方、太陽からこの惑星エウロパに向かって吹く太陽風が、二人の呼びかけに応えたのだ。
大気が震え始める。

石田「ふっ…一体どんなすごい魔法かと思えば…。何も起こらないじゃあないですか…!興醒めですねえ…!」

古川「…いや、ロベリアよ。何か…とてつもなく嫌な予感がするぞ…!敵の殲滅を急げッ!」

瑠璃野「バーカ。もう手遅れだっつーの」

古川「何ィ…?」

小百合「この世の果てで…悔い改めてください…ッ!」

瑠璃野「精魂尽き果てな…ッ!」

石田「ッ⁉︎…なんだあれはっ…!空からこちらへ迫ってくるあの真っ赤な雲のかたまりは…っ…!」

古川「…ハッ…確かにこりゃあ…手遅れだ…ッ」

石田「ハリオンッッ!撤退だァァァァッッ!」

古川「…ッグオオアアアアーーッッ!!」

石田「ッガァァァァーーッ!」


轟音一閃。彼方へ吹き飛んだロベリアとハリオン。


小百合「…さて。まだ私たちとやり合うおつもり?」

成美「グッ…!覚えておくがいいっ!」

消えたムスカーリ。

瑠璃野「…ひとまず、ウチらの勝ちネ」

小百合「うん…でも、まだまだ油断出来ないわ。彼女の今後の動きに注意しなければ…」

瑠璃野「とゆうわけで…!我ら桃栗高声優部と!そのOGである私、瑠璃野遙&おかしな仲間たちがお送りしました、ライブこえ劇!クロノ・サーカスいかがでしたでしょうかっ!えっと、まず今回の無茶な企画提案を快諾して下さった校長の小出先生!ありがとうございましたっ!そしてっ!今回ぶっつけ本番にも関わらず!素敵なこえ劇を一緒にしてくれた声優部後輩のみんなにっ!感謝とエールを込めてありがとうっ!最後になりましたが…告知失礼しますっ!」

成美「ブフォっ!瑠璃野先輩の告知っ⁉︎」

瑠璃野「先ほどお聴き頂いたようにっ!素晴らしいこえ劇をやってのけた我が声優部ですがっ!
ただいま絶賛!部員大募集しておりますのでっ!今回のこえ劇を聴いて、少しでも興味を持ったそこのキミ!アナタっ!
この機会にぜひぜひ声優部に入ってくださ〜〜い!よろしこオナシャスっ!瑠璃野遥でしたっ!チャオチャオチャオ〜〜!
律くん…EDフェードイン…!マイクオールカット…!」

律「!…あっ、ハイッ…!」

ドラマが終了し、EDが流れている。

瑠璃野「…ハイッ!みんなお疲れ様〜〜!飛び込みの二人もGJッ!」

古川「ふん(笑)」

石田「ハイッ!お疲れ様でしたッ!」

成美「る、瑠璃野先輩…何という粋な計らいを…っ!ありがとうございますっ!ありがとうございます…っ!」

小百合「お…お疲れ様でした…!最後のご挨拶もびっくりしましたけど…!あっあのっそれより瑠璃野さんっ!この展開はいったい…っ…!」



第34話へ続く



ハイスクール!ノーリターン!
第34話「ミラクル再び」



瑠璃野「…ハイッ!みんなお疲れ様〜〜!飛び込みの二人もGJッ!」

小百合「お…お疲れ様でした…。…あっあのっ瑠璃野さんっ!この展開はいったい…っ…!」

瑠璃野「あはは!この二人?ちょ〜〜っとしたあたしの…遊び心、ってやつよん!」

石田「まったく遥ちゃんたら…招集が急すぎますよ!」

古川「はっ確かに!瑠璃野から連絡あったの昨日だもんなあ!」

瑠璃野「あははゴメンゴメン!他ならぬあたしの頼みとあらばさっ!きっと二人とも来てくれるかなーって!」

律「えと…石田さん、古川さん」

古川「よう、兄ちゃん」

石田「やあ律くん、久しぶりだね」

律「ど、どうもお久しぶりですっ…。あ、瑠璃野さんからこの話があったの昨日なんですか??」

石田「そうなんだよ〜〜!まったくこのアイドル声優様には敵わないよ(笑)」

瑠璃野「誰がアイドルよ(笑)」

律「あはは…」

古川「おう!姉ちゃんも久しぶりだな!」

小百合「ひっ!あのっ…ふる、ふる、ふるふるふる」

古川「古川だ(笑)いつぞやは世話になったな!」

石田「んん?三人は面識あったのかい?」

古川「まぁな。あー7月に名古屋で公開収録あったろ?」

石田「ありましたねぇ」

古川「あんときお前から電話かかってきた時よう、この二人にちょっとドッキリ仕掛けてたんだよ(笑)」

瑠璃野「古チンがドッキリ?古チンが?」

古川「フルチンフルチン言うな(笑)」

石田「くくっ…相変わらずみんなイタズラ好きですねえ(笑)」

瑠璃野「あっ、とまあ思い出話はこれくらいにしてぇ…!みんなと一緒に出来たこえ劇!すっごく楽しかった〜〜!」

成美「ハイっ…途中からまさかの!瑠璃野さんオリジナルシナリオが待ち構えていたとは…!」

梨花「うんうんうん!私も目ん玉飛び出しちゃうくらいびっくらこいた〜〜!」

瑠璃野「あはははは目ん玉飛び出したか〜〜!」

小百合「…あ、あのっ!わた、わたし…!ドロシ役、大丈夫だったでしょうか…?」

瑠璃野「うん!バッチリ務めてたと思うよッ!迫力も存在感もすごかった!グッジョブ!」

小百合「…本当…ですか…!」

古川「確かに。あの急ごしらえのカンペを相手によ、あれだけ臨場感のあるセリフ回しが出来るのは…たいしたもんだぁな」

石田「ですねえ。これはいよいよ、瑠璃野遥を越える逸材の登場かな?」

小百合「ふぇぇぇ…石田さん…っ!それは律くんが勝手に言ったことでぇ…!」

律「ハハッ!いーじゃんかよ。現にこのお三方がこう言ってるんだぜ?」

小百合「はうぅ…!」

瑠璃野「小百合っ!次共演する時はもちろん!…アニメでね?」

小百合「瑠璃野さん…!ハイッ…!私…頑張りますっ…!」

瑠璃野「待ってるから…。律くんもねっ!」

律「えっ…」

瑠璃野「キ・ミ・はっ!石田くんを越えちゃうんでしょっ?」

古川「ハッ!てことはよお…この俺様にも宣戦布告するつもりなんだよなぁ?」

律「うっ…ははは…」

石田「まさかとは思うけど…此の期に及んで怖じ気づいたわけじゃあないよね?律くん(笑)」

律「ぐっ…。そ、そんなわけないっすよ…っ!俺と小百合は…ッ!」

小百合「あっ!また巻き添えにしてる〜〜!」

律「石田さんと瑠璃野さんと古川さんを越える声優に…ィ!絶対なってみせますからッ!!」

古川「ふん、上等だ(笑)」

石田「ああ、楽しみにしてるよ」

小百合「あっ…ああ〜〜…」

瑠璃野「オッケー!そうこなくっちゃ!若さって素晴らしいっ!
さあさあ石田くん!古チン!ウチらはそろそろ退散するよ〜〜!」

古川「あ?今来たばっかだぞ?」

石田「やれやれ…今この放送室には。僕らのファンが多数詰めかけてることでしょうねえ」

瑠璃野「そーゆーこと!(笑)ってなわけだからみんな!ろくな挨拶も出来なくてゴメンね!」

成美「い、いえっ!先輩方!お疲れ様でしたぁッ!」

梨花「最高に楽しかったですッ!ありがとうございました〜〜ッ!」

瑠璃野「こちらこそみんなありがとうっ!あ…小百合これっ」

小百合(小声「えっ…名刺?」

瑠璃野(小声「…煮詰まったらいつでも相談乗るからっ」

小百合「っ!ありがとうございます…っ!」

瑠璃野「ふふっ!よっしゃあお前らぁ!ずらかるぞっ!」

古川「へいへい。んじゃ諸君!あばよっ!」

石田「ではみなさん、ごきげんよう〜っ!」

放送室を後にした瑠璃野、石田、古川の三人。
入れ替わりに廊下の奥から、殺到する生徒たちの足音が迫ってくる。

二階堂成美「さぁて…もぬけのからのこの部室に…彼らの冷めやらぬ熱狂が暴動起こさなきゃいいけど…はは…」

突然すごい勢いで部室のドアが開かれ、生徒達がなだれ込んでくる。

生徒「ちょっと!今の放送ガチなの⁉︎」
生徒「瑠璃野さんと石田さんと古川さんはどこ〜〜⁉︎」

小百合「ちょっ…皆さんっ!落ち着いて…っ」

生徒「おい声優部ゥ!三人はどこにいるんだよお!」

梨花「いや…っ!えっとそれはその…!」

成美「みっ、皆さ〜〜ん!落ち着いてくださ〜〜い!」

小百合「ふぇぇぇ〜〜!誰かこのパニック鎮めて〜〜!」


第35話へ続く


ハイスクール!ノーリターン!
第35話「瑠璃野遥の置き土産」


二階堂成美「さぁて…もぬけのからのこの部室に…彼らの冷めやらぬ熱狂が暴動起こさなきゃいいけど…はは…」

突然すごい勢いで部室のドアが開き、生徒達がなだれ込んでくる。

生徒「ちょっと!今の放送ガチなの⁉︎」
生徒「瑠璃野さんと石田さんと古川さんはどこ〜〜⁉︎」

小百合「ちょっ…皆さんっ!落ち着いて…っ」

生徒「おい声優部ゥ!三人はどこにいるんだよお!」

梨花「いや…っ!えっとそれはその…!」

成美「みっ、皆さ〜〜ん!落ち着いてくださ〜〜い!」

小百合「ふぇぇぇ〜〜!誰かこのパニック鎮めて〜〜!」

律「やれやれ…ったく仕方ねえな…っ!」

小百合「…律くん?」


律「…おいっ!お前ら!よく聴け!さっきの声劇は昨日!
当日騒ぎになるのを見越して!事前録音したものだっ!本人達は今日は来ていないっ!」

小百合「律くん…!」

生徒「ええ〜〜⁉︎何それガッカリ〜〜!」

律「贅沢言うなっ!あの放送は!ウチの学校だけのスペシャルイベントだぞ⁉︎
まあでも…お前らがギャーギャー文句言うようなら…さっきの声劇の再放送はやめよっかな〜〜!」

生徒「ええ〜〜!もっかい聴きたいっ!静かにするからもっかい流してよ〜〜!」

律「…二階堂さん、あと宜しく」

成美「…わ、分かった。…とゆうわけですから!再放送は明日!同じ時間にいたしますので!
今日のところは皆さん!お引き取り願いますっ!」

生徒「は〜〜い…」
生徒「残念ね〜〜」
生徒「でも明日再放送だって〜〜」

おとなしく引きあげてゆく生徒達。

律「よし、なんとか撃退したな…」

小百合「律くん…!お見事な口から出まかせだった!すごいっ!」

律「はは、でも音源は冗談抜きでちゃんと収録したかんな!実際明日再放送して帳尻合わせとけばいいだろ!あとは…本人たちが無事脱出出来てるかだな」

小百合「うんうん!あの変装ならきっと大丈夫っ!」

梨花「ドキドキし過ぎたら…お腹すいた〜〜!ウチらもお昼にしようよ〜〜!」

成美「ふふ、そうだな。とりあえず大成功ってなわけで!みんなお疲れ様っ!」

小百合「お疲れ様でした〜〜!」

律「お疲れっス〜〜!なあなあ範人…!それにしてもさっきのライブ!ヤバかったよな〜〜!」

範人「…そだね、律っちゃん」

律「?…なんだよ範人、神妙な面して…」

範人「オレ、決めたよ…」

律「え?(笑)決めたって…何をだよ」

範人「…声優部に入りたい」

律「いっ⁉︎お前…っ、じゃあラノ研はどうすんだよっ…」

範人「掛け持ちでなんとか…ならない?」

律「掛け持ち…っ。ま、まあ…ウチはそんなガッツリ活動してるわけじゃないからアレだけど…」

範人「それに…さっき瑠璃野さんや石田さんが律っちゃんにしてた話…」

律「あっ…‼︎」

範人「律っちゃん…!あの三人を超える声優になるとか…初耳なんですがッ⁉︎」

律「うっ…それは…‼︎」

範人「みずくさいじゃないですか抜け駆けしようとしてたですかァァァァ⁉︎」

律「いやっ!それはアレだっ!小百合との約束とかオレの…っ」

範人「小百合たんとの…約束…っ⁉︎そ、そっちの抜け駆けをしてたのかァァァァ!きっ、貴様〜〜!」

律「ち、違っ、違わないけど範人ッ!誤解だ〜〜!」

範人「むむむむむ…そうとなると早速行動開始せなあかんやないかいっ!二階堂部長ッ!」

成美「ふぉっ?範人くんどした⁉︎」

範人「はい、単刀直入に申し上げますとですね…!あっし、この通り冴えない歯牙ない男でございやすが…!」

小百合「範人くん(笑)成美んに片膝ついて何の相談?(笑)」

範人「へい…!あっし、先ほどのこえ劇をご一緒して…非常に感銘を受けやした…っ!願わくばぜひっ!あっしを声優部にっ!入部させておくんなせえっ!」

梨花「ほう…おぬし、名をなんともうす」

範人「へい、あっしは…いえ、名乗るほどのもんじゃあござんせん…っ」

梨花「ええいっ勿体振るではないわっ!このもんどころが目に入らぬと言うのか〜〜!」

範人「まっ、眩しく輝くその印籠は…っ!」

律「ハッ、なんだよこの寸劇は(笑)」

梨花「左様っ!これはのう…!うまい棒博多めんたい味であるぞっ⁉︎頭が高い頭が高〜〜いっ!」

範人「ハハ〜〜っ!」

成美「えと、範人くん?入部するんよね?大歓迎だけど…?」

梨花「ブフォっ!成美んの容赦なき一刀両断ギャァァァ///」

範人「わわっ!本当ですかっ!ありがとうございます〜〜!漆黒っ!漆黒っ!」

小百合「ふふっ、範人くん!びっくりしたけどっ!声優部にようこそ〜っ!」

律「あ〜分かった分かった!んじゃオレも入るっ!」

小百合「えっ⁉︎律くんも声優部にっ⁉︎」

律「ああ、二階堂さんからOK出たらな」

成美「ファァァ///なんて日だッ!この三人ぼっちだった声優部にっ!男子部員が二人もァァァァ!もちろん黒坂くんも大歓迎だよおおおお!」

小百合「やったあ!」

範人「律っちゃん!良かったでござるな!」

律「おう(笑)まあ範人は向いてるかもな。そのノリの良さとか、存在感あるその声とかもさ」

範人「くるっぽくるっぽばっさ〜〜ん!」

小百合「あはは!範人くん面白〜〜い!」

その時、不意に部室のドアが開き、そこには数人の生徒が立っていた。

成美「ん?」

生徒「さ、さっきの放送聞きました…っ!私も…声優部に…入部したいんですけど…!」

成美「え…こんな立て続けに…!」

生徒「オレも入部したいっス…!」

小百合「こ、これは…!瑠璃野さんのおかげな匂い…!ぷぷんとですっ!」

生徒「私もです〜〜っ!」

梨花「信じらんない…!閑古鳥鳴くこの声優部に…!入部希望者が続々と乗り込んできてるとか…!」

成美「う、うむ…!あっ!ではみなさん!まず入部手続きをしてもらいますのでっ!こちらへどうぞ〜〜!」

律「ハハっ!こりゃ声優部、なんとも賑やかになってきたな〜!」

小百合「うんうんっ!本当瑠璃野さんのおかげだよね…!」

律「そうだな。…でもさ、小百合の演技だって、瑠璃野さんに負けないくらいすごく良かったぜ?」

小百合「え…///本当に…?」

律「うん。なんつーのかな、まるで未来が見えたような…」

小百合「…私がプロになって…瑠璃野さんや石田さんや古川さんと…共演してる、みたいな?」

律「うん。ミキシングしてて…オレも混ざりたくて仕方なかったよ(笑)」

小百合「うん…!本当ミラクル体験だったもんね…!」

律「うん。改めて小百合は、瑠璃野さんを超える女の子だって確信した」

小百合「あっ!そういえば律くん⁉︎またまたとんでもない宣戦布告して!」

律「あっ…あれな…」

小百合「もう〜〜!」

律「でもさ…本気だぜ、オレ」

小百合「…律くん!」

律「そんくらいの気合いがなきゃよ、オレと小百合の夢は叶えらんねーよ」

小百合「…ふふっ、まぁね」

律「うん(笑)だろっ?」

小百合「はいはい(笑)まあ今回はそうゆうことにしといたげる!」

律「おう!頑張るだけだぜっ!あ、そうだ、とりあえず昼メシ食ったらさ、二人で他の部とか見て回らないか?」

小百合「うんうん!せっかく最後の文化祭だしね!胡桃や清十郎くんたちの舞台も見たいな〜〜!」

律「そうだな!よし、じゃあ小百合。屋上行こうぜっ」

小百合「うんっ!」

こうして声優部の出し物は、瑠璃野さんをはじめ、いろんな人の協力で、無事大成功を収めました!まさかの律くん声優部加入もあり(笑)なんだか、キツネにつままれたような気分ですっ!そしてそして〜〜!これから律くんと二人きりで屋上ランチっ!と意気込む私でしたが…浮かれる私と律くんの知らないところで…事件は、起こっていたのでした…。


第36話へ続く

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ハイスクール!ノーリターン!
第36話「幼き恋」

演劇部の部室で、小百合たち声優部の校内放送ボイスドラマを聴いていた清十郎と胡桃。

清十郎「いや〜〜声優部の出し物、すごく面白かったねぇ。胡桃、あれが俗に言うボイスドラマってやつかい?」

胡桃「…」

清十郎「胡桃?」

清十郎の呼びかけに上の空の胡桃。思い詰めた表情で、今朝の真知花とのやり取りを回想していたのだった。

真知花「胡桃セーンパイっ!おはようございます〜〜!」

胡桃「あんた…確か真知花ちゃん、だよね…おはよう」

真知花「今日は待ちに待った桃栗祭ですねっ!」

胡桃「そ、そうね。…で、あたしに何の用?」

真知花「これですっ!」

胡桃「…手紙?」

真知花「ハイっ(笑)今すぐ読んでもらっていいですか?」

胡桃「…分かった」

真知花「…クスクス」

胡桃「…昼休みが終わったら…屋上に、行けばいいのね?」

真知花「ハイっ!胡桃先輩とォ、どうしても二人きりでお話がしたくって…クスクス」

ゆっくりと胡桃に歩み寄る真知花。

胡桃「…話って…清ちんの…グッ⁉︎」

すれ違いざま、胡桃の腹部に拳を打ち込む真知花。

真知花「…当たり前だろ、ブス(笑)てかビビって逃げんなよ?」

胡桃「ッ⁉︎…はは、やっぱそう来るか…そのほうがあんたらしいわ」

真知花「話し合い、楽しみにしてま〜〜すっ!」

虚ろな眼差しの胡桃に、再び清十郎が声をかける。

清十郎「胡桃?お〜〜い」

胡桃「あっ…うん、そうなの?」

清十郎「いや…質問したのは僕なんだけど…」

胡桃「え…ゴメン。ちょっとボーッとしちゃって…。聞こえてなかった」

清十郎「…大丈夫かい?2時間後には僕らの舞台も本番だよ?」

胡桃「うんっ…平気。あっ、清ちん、あたし…ちょっと用事あるから…先にお昼たべちゃって?」

清十郎「ん、分かった」

胡桃「…じゃあ行ってくる。すぐ戻るネ」

演劇部の部室を後にする胡桃。

清十郎「…用事、か」

同じ頃屋上では、階段室の裏手で人目を避けるように小百合と律がランチをしていた。

律「……うん、うんっ!美味いっ!」

小百合「本当⁉︎良かった〜〜!お母さん直伝のスペシャルサンドウィッチなんだっ!」

律「これは…毎日食いたいくらい美味い…!」

小百合「ま、毎日っ…。それってつまり…その、けっ、けっ、けっこ…」

律「おう!けっっっこうオレたくさん食べるからな!量はこれの2倍でも楽勝だっ」

小百合「…あはは。律くん…けっこう食べるのね…!」

その時、小百合たちのいる場所の裏手で、階段室のドアが開く音がした。

律「…誰か来たな」

小百合「…うん」

物陰からその来訪者の声に聞き耳を立てる律。話し声がわずかに聞こえてくる。一人ではない。気配からするに、十人くらいはいるかのような賑やかさだ。そこへ冷たく響く少女の声。

少女「ハーイあんたたちィ。打ち合わせ通りよろしくネー。あ、もしあれだったらお持ち帰りしちゃっていーのでー。煮るなり焼くなりまわすなり、お好きにどうぞー」

律「…なんの話だ?」

少年「おう真知花ァ。それガチでやっちゃうけどいいか?」

真知花「当たり前っしょ。まあでも、所詮ビッチだからさー。たいして美味しくないと思うけどネ」

少年「ひゃっは!オレ一番手頂きっ!」
少年「おい待てよ…あの女、オレが前から目ェつけてたんだぞ」

律「…あいつら…ウチの学校のヤツじゃねぇ」

小百合「…律くん、なんか…あの話の内容、マズくない…?」

律「ああ…明らかにヤバい」

そこへ再び真知花の声が響く。

真知花「じゃああんたたち二人はドアの両脇ネ。例のビッチが入ってきたら閉じ込めるからさ。よろしく」

少年「了解だぜ」

真知花「他の連中もそこの物陰に行ってくれる?」

少年「へいへーい」

律「ち…こっちに来やがる…ッ。小百合、そこのハシゴで階段室の屋根に登れ!」

小百合「う、うんっ」

不良少年達から身を隠すため、階段室の屋根に間一髪逃れた小百合と律。その直後、階段室のドアが開き、何者かが現れた。

真知花「へえ…(笑)ビビらずによく来れましたねえ…胡桃セーンパイっ」

胡桃「…話、するんでしょ」

律「…胡桃⁉︎」

小百合「…嘘でしょ…?」

真知花に歩み寄る胡桃。

胡桃「さっさと始めてよ」

真知花「ハイ、ドア閉めてー」

胡桃「ドア…?…あっ⁉︎」

振り返る胡桃の視界に、複数の男たちが映る。そして閉ざされた階段室のドア。

不良少年「胡桃ちゃん、つっかまーえた〜」
不良少年「ひゃっは!意外と可愛いじゃん!オレ好みだぜ!」

胡桃「なっ…なんなのこいつら…っ」

真知花「話し合いとか…んなもんしねーよ、ババア(笑)」

胡桃「ど、どうゆうことよ真知花…っ…!」

真知花「呼び捨てにすんなよ。ビッチの分際でさぁ…。てか自分の状況理解してんならさ、真知花さん、でしょ?」

胡桃「…ぐっ」

真知花「じゃあ始めよっか。公開処刑」

胡桃「ッ…あんたっ!きちんと話し合いに応じなさいよっ!」

真知花「黙れよブス。だから話し合いなんかしねーって言ってんじゃん。ウチから一方的に判決を言い渡すの。分かった?」

胡桃「…は、判決…?」

真知花「そ。じゃあ判決下すね。あんた麦野胡桃は、本日を以って清十郎センパイの彼女を辞退することとする」

胡桃「なっ…⁉︎」

真知花「反論は認めませーん。以上」

胡桃「…清ちんの彼女を…辞退する…?」

真知花「おい、誰が復唱しろって言った?あんたの返事はただひとつ。分かりましただけだよバーカ」

胡桃「…ふざけないでよッ…!」

真知花「はあ?てかゴメン、めんどいからさ、とりあえずボコらせてもらうわ」

胡桃「…卑怯者ッ…!」

真知花「…ウチから清十郎センパイを奪ったテメえは卑怯者じゃねーのかよッ!」

胡桃「…はっ、そんな性格してるからだよ…あんたが失恋した理由はさ…。あんた狂ってる…!」

真知花「清十郎センパイは私だけのものなのッ!あんたみたいなブスには不釣り合いなのッ!」

胡桃「…モノ?清ちんが…モノって言った?」

真知花「言いましたよー!だからなんなの⁉︎」

胡桃「…真知花。あんたの恋は…幼いわ。てゆうか…そんなの恋ですらない。ただの子供のワガママだよ…!

真知花「誰が子供だって…?」

胡桃「愛する人は…所有物じゃないッ!」

真知花「…知ったふうな口利いてんじゃねーよババア…ッ!もうキレタわ…あんたたちッ!やっちゃいなッ!」

小百合「…く、胡桃が…危ないっ!」

律「…小百合、大至急ここに清十郎を呼んでくれ。それまでオレがなんとかしてみせる…ッ」

小百合「!律くん…っ?」

律「頼んだぞ、小百合…!」

小百合「…分かった…ッ」

胡桃「あたしは…ッ…やめないっ!あんたなんかの脅しで…ッ!絶対に清ちんの彼女をやめないッ!!」

真知花「キャハハハ!いつまでそう言ってられんのかしらねえ〜?」

律「そこまでだッ!お前らッ!」

不良少年「あん?なんだあいつ。あっ、ひょっとして…正義の味方じゃね?ギャハハ!」

胡桃「…ッ…黒坂…!」

真知花「ハッ…覗きですかぁ?セーンパイ」

律「馬鹿野郎。そうゆう下衆なことはよ、お前みたいな卑怯者の得意技だろーが」

真知花「なっ…ウチが…卑怯者ッ⁉︎」

颯爽と屋根から飛び降りる律。

律「胡桃、助太刀するぜ」

胡桃「いやいや…あんたじゃ戦力的にちょっとキツいかもネ…」

律「るっせーバカ。一人よりマシだろ」

胡桃「…ゴメン、ありがと」

真知花「どいつもこいつも…ッ!お前らぁ!二人ともぶっつぶせッ!」

胡桃「黒坂ッ!来るわよッ!」

律「…さーて、戦闘開始といきますかッ!」


第37話へ続く

#37〜#41

ハイスクール!ノーリターン!
第37話「正義の味方、現る!」



律「そこまでだッ!お前らッ!」

「あん?なんだあいつ。あっ、ひょっとして…正義の味方じゃね?ギャハハ!」

胡桃「…ッ…黒坂…!」

真知花「ハッ…覗きですかぁ?セーンパイ」

律「馬鹿野郎。そうゆう下衆なことはよ、お前みたいな卑怯者の得意技だろーが」

真知花「なっ…ウチが…下衆ッ⁉︎」

颯爽と屋根から飛び降りる律。

律「胡桃、助太刀するぜ」

胡桃「いやいや…あんたじゃ戦力的にちょっとキツいかもネ…」

律「るっせーバカ。一人よりマシだろ」

胡桃「でも…っ…黒坂には関係ないじゃん…?」

律「大アリだ。仲間のピンチだろーが」

胡桃「…ゴメン、ありがと」

真知花「どいつもこいつも…ッ!お前らぁ!二人ともぶっつぶせッ!」

胡桃「黒坂ッ!来るわよッ!」

律「…さーて、戦闘開始といきますかッ!」

真知花の脇を固めていた二人組が、一斉に律と胡桃に襲いかかる!

不良少年「オッラァァァァ!」

律「落ち着いて見極めろ…」

不良少年「死ねコラァァ!」

律「軸足確認…速く鋭くッ!ハッ!」

不良少年「ぐっ⁉︎」

律「もいっちょォ!」

不良少年「グアッ!こ、こいつ…脚を…ッ!」

胡桃「く、黒坂…!あんた今のケリ…!」

律「必殺のローだ」

胡桃「はぁ…⁈」

不良少年「て、テメェェ!ぶっ殺すッ!」

一瞬の出来事に呆気を取られていた少年たちだったが、再び束になって二人に襲いかかり、
少年の殴打が胡桃の頭部にヒットした。

胡桃「キャァッ!…痛ぅ…ッ」

律「胡桃ッ!」

不良少年「へっ、まずは女からやっちまえッ!」

胡桃「…ッやってくれたわね…ッ!」

不良少年「おーおー恐ェ!睨まれちゃった!ギャハハ!」

真知花「笑ってんじゃネェ!なんでもいいからさっさと片付けろッ!」

律「胡桃、大丈夫かッ…!」

胡桃「黒坂ッ!後ろッ!」

不良少年「ヒャッハーッ!」

律「しまっ…!ぐうっ…」

胡桃「黒坂ッ!」

真知花「そうそうそれでいいのよッ!さっさとぶっ殺せっ!」

律「お前ら…ッ」

不良少年「ヒャッハ!んじゃボコっちまえ!」

律「グッ…!」

胡桃「誰をボコるって…?オラァッ!」

不良少年「あ…パンツ見え…グハッ!」

律「ハイキック…⁉︎」

胡桃「ハァッ…ハァッ…どんなもんよッ!」

胡桃の足元に崩れ落ちる不良少年。

律「ふんっ、さすがじゃねーかよっ!胡桃ッ!」

不良少年「マグレ当たりでなに調子こいてんだァァオラァッ!」

律「…振りかぶりすぎだぜ」

不良少年「なっ…⁉︎」

律「ここっ!」

胡桃「⁈袖を掴んだ…ッ!」

不良少年「うお…ッ!」

律「ガラ空きの大腿部裏をッ打つッ!」

不良少年「アガァッ!」

胡桃「またローキック…!ううん、その前の立ち会い…ッ!黒坂あんた…ッ!」

律「お喋りは後だッ!残り5人ッ!」

不良少年「全員でかかれェェッ!」

胡桃「チッ…!背中預けるわよ!黒坂ッ!」

律「おうっ!」

乱打戦を辛くも耐え凌ぐ律と胡桃。息を殺してそれを見つめる小百合。

小百合「清十郎くん…ッ!お願いッ!早く着信に出てッ…!」


数回に渡って小百合は清十郎に連絡を試みていたが、ちょうど間の悪いことに、
清十郎は舞台本番用の衣装チェックの為着替えをしており、スマホは脱いであったブレザーのポケットにあった。


清十郎「ふむふむ、最初はちょっと派手過ぎやしないかと心配だったが…案外そうでもないな…」

小百合「清十郎くん…っ!清十郎くん…っ!」

小百合の必死の願いが通じたのか、ようやく清十郎が僅かに聞こえるスマホのバイブ音に気づいた。

清十郎「ん?…携帯鳴ってるか…?…こんな時間に誰が……おや、小百合ちゃん?」

すぐさま着信に応じる清十郎。

清十郎「もしもし、小百合ちゃん?」

小百合「出た…っ!清十郎くんッ!大変なの…っ!」

清十郎「落ち着いて、小百合ちゃん。一体どうしたの?」

小百合「今すぐ屋上に来て…ッ。胡桃と律くんが…っ!」

清十郎「すぐに行くッ」


詳しい話も聞かずに屋上へと走り出す清十郎。
派手な貴族の衣装に身を包んではいたが、お構いなしに廊下を疾走していく。


男性教師「望田ー。廊下走るなよー」

女生徒「清十郎くんだっ!かっこいい〜///あれ舞台衣装かな〜」


突き刺さる好奇の目を振り切って走る清十郎。


清十郎「嫌な予感はこれだったのか…ッ!どうしてあの時気がつかなかった…ッ!胡桃のおかしな様子にッ!」


その頃屋上では、なんとか不良少年たちを退けたものの、傷だらけになった胡桃と律の姿があった。


律「ハァッ…ハァッ…これであと二人だな…ッ」

胡桃「真知花ッ…!あんたまだやんの…ッ⁉︎てかあんたが直接来なさいヨッ!」

真知花「チッ…!揃いも揃って使えねえやつらだなァ…!」

和真「へへっ、まんまとヤラレちまったなあ」

真知花「あん⁉︎ちょっと和真!あんた真打ちでしょ!さっさとやっちゃってよッ!」

和真「はーあ。面倒くせ」

真知花「か、金払ってんだからこっちはァ!ちゃんと動きなさいよッ!」

和真「へいへい。んじゃまあ、いっちょお仕事しますか〜。うしっ!」

律「…胡桃、お前は手を出すな…。こいつ…多分強ぇぞ」

胡桃「でっでも…ッ!」

律「清十郎が来るまで…なんとか食い止めてみる。もしオレが負けたら…お前は小百合と逃げろ、いいな」

胡桃「小百合?どこにいるの…⁉︎」

律「…階段室の屋根の上だ」

胡桃「…わ、分かった…。でも黒坂…負けないでよ…?」

律「…多分な」

和真「さーて、お喋りは終わったかい?」

律「ああ、オレがお前の相手だ…ッ」

和真「呼吸を整えな、小僧」

律「…余裕だな。いいのかよ、敵をそんなに休ませちまって」

和真「すぐに終わっちまったら面白くねーだろ?」

律「…よし。……始めようぜ」

和真が構える。一瞬の静寂。直後。

和真「…シッ!」

律「グゥッ!」

間一髪で和真の鋭いパンチをかわす律。

和真「へえ、今のをよけるのか。お前動体視力いいな」

律「…ハァッ…ハァッ…!」

和真「…お楽しみはこれからだぜ」

律「…かかってこいよ」

和真「…シッ!シッ!シシッ!」

律「グゥッ!」

ガードを固め、防戦一方の律。

和真「オラ、どうした小僧。守ってばっかじゃ勝てねーぜ?シッシシッ!」

胡桃「黒坂…ッ」

和真「じゃあこのままサンドバッグにしてやるよ…ッ!」

律(こいつのボクシングスタイル…ッ!
隙が無い…ッ!決めるなら…カウンターの一発しかねえ…ッ!)

和真「オラオラどうしたあ!」

律「グアアァッ!」

和真「ちっ、つまんねえ…。んじゃ女のほうから仕留めっとすっかな。お前は休憩してろや」

律「⁉︎やめろッ!お前の相手はオレだろーがッ!」

和真「あ〜ん?じゃあ打ち合いしようぜ?小僧…!」

律「グッ…分かった」

和真「へっ、そうこなくっちゃよ」

律「ウラァッ!」

和真「ホイ、捕まえた〜!」

律「グッァァァァ!」

和真「痛ぇだろ?ハハッ!オレの握力はちぃとばかし強力だからよ!
このままおてて繋いで殴り合いしようぜえ!オラァッ!シッ!シシッ!」

ガードの出来ない律をめった打ちにする和真。次第に律の顔が腫れあがってゆく。

和真「よーし、ダンスは終わりだ」

律「う…あ…っ…あ…」

胡桃「もうやめて…やめてよぉ…ッ」

真知花「ハハッ!いい顔してますよ、胡桃セーンパイっ!
じゃあこれで清十郎センパイとは別れてくれるってことですよね?」

和真「よお真知花、こいつどうする?」

真知花「いーよ潰しても」

胡桃「ッ!やめてって言ってるじゃないっ!」

真知花「あん?口の利き方がなってねーぞ?ババア(笑)」

律「…く、胡桃…」

和真「お前は黙ってろ…よっ!」

和真の強烈なボディブローが律を捉える。悶絶する律。

真知花「おい胡桃。セリフわかんないなら教えてやるよ(笑)
真知花さん、もうやめてくださいお願いします、清十郎センパイの彼女は辞退させてもらいますから、許してください…だよっ!」

胡桃「…ハァッ…ハァッ…ま…真知花…さん…ッ…!」

真知花「キャハハ!最高に受ける!真知花さんだってさ!」

律「…胡桃…ッ…やめろ…やめろ…ッ!」

胡桃「黒坂…ッ…ゴメン…あたし…あたし…ッ」

和真「めんどくせーな。さっさと言えよホラッ!」

胡桃の頬に平手打ちを見舞う和真。

胡桃「キャァッ!」

真知花「キャハハハ!」

その場に倒れる胡桃。

律「て…テメェ…相手は女だぞ…ッ!」

和真「地獄の沙汰も金次第、ってな。お金もらってんのよこちとら。女だろーが関係ねーんだよ」

律「お前だけは許せねぇ…ッ!オラァッ!」

和真「ウッ…!」

律のパンチが和真の頬を掠める。

律「ハァッ…ハァッ…次は外さねえ…!」

和真「あらあら〜。こりゃちょっとカッチーンと来たな〜〜。小僧が生意気によッ!」

律「胡桃に…ッ…オレの仲間に手を出すなァァァァッ!ウラァッ!」

その時だった。階段室の扉が勢いよく開かれ、そこには…清十郎が立っていた。

和真「しゃらくせーんだよッ!シッ!」

無情に空を切る律のパンチに、被せるようにして放たれた和真の強烈なパンチ。
律の顎先を完璧なまでに捉えたそのパンチは、一瞬にして律の意識を断ち切った。

清十郎「律ゥゥッ!」

小百合「律くんッッ!」

真後ろへと崩れ落ちる律、最後の視界に一瞬だけ入ったのは…泣き叫ぶ小百合の姿だった。

律「…さ…ゆり…」

小百合「イヤァァァァッ!」

胡桃「あ…あ…ッ…黒坂ァッ!」


第38話へ続く



ハイスクール!ノーリターン!
第38話「アクシデント」



律「胡桃に…ッ…オレの仲間に手を出すなァァァァッ!ウラァッ!」

その時だった。階段室の扉が勢いよく開かれ、そこには清十郎が立っていた。

和真「しゃらくせーんだよッ!シッ!」

無情に空を切る律のパンチに、被せるようにして放たれた和真の強烈なパンチ。
律の顎先を完璧なまでに捉えたそのパンチは、一瞬にして律の意識を断ち切った。

清十郎「律ゥゥッ!」

小百合「律くんッッ!」

真後ろへと無防備に崩れ落ちる律、最後の視界に一瞬だけ飛び込んだのは…泣き叫ぶ小百合の姿だった。

律(…さ…ゆり…)

小百合「イヤァァァァッ!」

胡桃「あ…あ…ッ…黒坂ァッ!」

鈍い音と共に、律が後頭部からアスファルトに倒れ込んだ。

清十郎「まずい…ッ!」

和真「いやーな倒れ方したなぁ…御愁傷様でしたっと」

清十郎「律ッ…!しっかりしろ…ッ!大丈夫かッ!」

返事をしない律。完全に気を失っているようだ。小百合も駆け寄り懸命に声をかける。

小百合「律くん!律くん…ッ!返事してぇ…お願いだからぁ…ッ」

胡桃「黒坂…あたしを…あたしを守ろうとして…ッ!」

清十郎「!胡桃…ッ…その傷…!」

和真「ふっふ!なあお前、なんなんだよそのふざけた格好はよ(笑)」

清十郎「…胡桃と律をこんな目に遭わせたのは…お前か」

真知花「せ…清十郎センパイ…ッ!そうですっ!その人が全部悪いんです…ッ!
あたしを脅して胡桃センパイを呼び出させて…こんなことに…ッ!」

和真「おやおや。そうゆう展開すんのかぁ?」

清十郎「真知花…それは本当なんだな…?」

真知花「本当です…ッ!もちろん信じてくれますよねっ…?」

胡桃「あんた…救いようのない下衆ね、やっぱり…!」

清十郎「胡桃…」

和真「ハハッ!まあそうゆうことにしといてやるよ!」

真知花「ちょっ…あんた何を…ッ!」

和真「おい、清十郎くんとやら。とゆうわけでよ、オレが今回のラスボスらしいわ」

清十郎「やめておけ…今の僕は手加減出来そうにない…」

和真「ほう、こりゃ楽しみだねぇ。そこのクズみたいにガッカリさせてくれんなよ?」

清十郎「クズ…?ひょっとしてそれは…律のことか…」

和真「正解!…あれ?ひょっとしてオコなの?清十郎くん、オコなんですか〜?(笑)」

清十郎「…構えろ」

和真「…ふん、お前もな」

清十郎「どこからでもかかってこい…!」

二人の空気が急速に張り詰めてゆく。動かない清十郎に対し、徐々にその間合いを詰めてゆく和真。直後。

和真「シッッ!」

よける素振りもせず、その頬に和真のパンチをもろに喰らう清十郎。

和真「あん…?」

清十郎「……この痛みを…ッ…胡桃と律に味あわせたのか…!」

鬼気迫る表情、眼差しの清十郎に、思わず和真が動揺を見せる。

和真「うっ…」

清十郎「…どうした?終わりか?」

和真「ハッ…!終わるのはお前だよッ!」

再び和真の強烈なパンチが清十郎に迫る!

一瞬の出来事だった。身をひるがえす清十郎。和真のパンチを飲み込むようにその両腕に捉える。

清十郎「せァァァァァッ!!」

和真「こいつ…ッ…柔道かッ…!」

清十郎の竜巻のように鋭い一本背負い投げが、和真の体を跳ね上げていた。
直後、これ以上ないほどの強烈な勢いで和真の体はアスファルトに叩きつけられていた。
余りの衝撃と痛みに、和真は声も出ず身動きひとつ取れない。
軍配は、清十郎に上がったのだった。

和真「…ぐっ……あ……ッ」

清十郎「…しばらくそこで横になっていろ。…それから小百合ちゃん、すぐに救急車を呼んでくれ。
胡桃の怪我はもちろん、律の容体が気になる」

小百合「は…はいっ!えーっと…救急車救急車…っ」

慌てふためきながら救急車を手配する小百合。

胡桃「清チン…あたし…ゴメンなさい…ッ…。あたしのせいで黒坂が…ッ」

清十郎「今は事態をまだ把握出来ていないが…胡桃。君の怪我も心配だ…」

胡桃「あたしは平気…。でも黒坂は…ッ」

清十郎「ああ。かなりひどい怪我を負っている…。事態の詳細については…とりあえず真知花、君から洗いざらい聞かせてもらう」

真知花「ひっ…。清十郎セン…パイ…。これはその…ッ。ウチは被害者で…ッ」

清十郎「被害者にしては…無傷できれいな顔をしてるね」

真知花「そ、それは…っ。でもッ!でも…ッ…ウチの心は…胡桃センパイのせいで…本当に傷だらけで…ッ!…あっ」

清十郎「…完全に誤解だね。。。だいたい読めてきたよ」

胡桃「もう逃げらんないわよ…観念しなさいよね」

真知花「ぐっ…!はは…何が観念よ…ッ!笑わせないでよッ!
あんた何様⁉︎ウチから清十郎センパイを奪っといて…ッ観念しろですって…?」

清十郎「…真知花、それは誤解だよ」

真知花「…な、何が誤解…なんですか…」

清十郎「君から僕を奪ったのは…胡桃なんかじゃあない」

真知花「…じゃあ誰が…ッ」

清十郎「…君に別れを告げたあの日に。僕は今言おうとしてることを確かに言ったよ」

真知花「…思い出したくない…あの日のことは…お願い…清十郎センパイ…やめて…!」

清十郎「…真知花。君から僕を奪ったのは…他の誰でもない、僕ら自身だよ」

真知花「…イヤ…ッ…ウチのせいなんかじゃない…ッ!悪いのは全部ッ!胡桃センパイですッ!」

胡桃「…真知花」

真知花「き…気安くウチの名前を呼び捨てにすんじゃねーッ!」

清十郎「…君のその幼さが…他人を思いやることをしない身勝手さが…ッ…当時の僕には…背負いきれなかったんだ…ッ!
だから別れを選んだ…!君に過ちを悟ってほしくて…ッ!」

真知花「ウチの幼さ…身勝手さ…?」

清十郎「ああ…。それと、誤解のないよう改めて言っておくが…。
僕の胡桃への想い、その後の展開に関しては…随分前から僕自身が抱えていた問題で…。
結果として、君の気持ちに応えきれなかったのは…僕の不甲斐なさが原因だよ。胡桃に非は何一つない」

胡桃「清チン…」

真知花「じゃあ…ウチが今まで抱えてきたこの気持ちは…ッ…全部…全部…ッ…間違いだったんですか…?」

清十郎「…すまない、真知花」

真知花「なっ…なんで…。…なんで清十郎センパイが謝るんですか…?」

清十郎「…君をあの時…救えなかった」

真知花「…そんな風に…言わないでください…ッ…。もうっ…分かってる…から…ッ…。ウチ…分かりました…から…ッ!」


泣き崩れる真知花と同時に、現場へと救急隊が駆けつけた。
先ほどまでダウンしていた不良少年たちは、清十郎と真知花がやり取りをしている間に姿を消しており、
要救助者として明らかなのは律だけだった。


救急隊員「こちらの男性の搬送で違いありませんね?」

小百合「は…はいっ…」

救急隊員「ではすみませんが付き添い人宜しくお願いします。…1.2.3っ!」

小百合「はいっ…」

胡桃「小百合…黒坂のこと…お願いね…」

小百合「…任せて」

胡桃「小百合…っ…ごめん…ね…」

小百合「…ううん。じゃあ後のこと…お願いね…」

胡桃「…分かった」


息の合った隊員の連携により律が担架に乗せられ、
そして速やかに救急隊員と律、小百合は救急車へ乗り込み病院へと急いだ。



第39話へ続く


ハイスクール!ノーリターン!
第39話「キミがいない」


救急隊員「こちらの男性の搬送で違いありませんね?」

小百合「は…はいっ…」

救急隊員「ではすみませんが付き添い人宜しくお願いします。…1.2.3っ!」

小百合「はいっ…」

胡桃「小百合…黒坂のこと…お願いね…」

小百合「…任せて」

胡桃「小百合…っ…ごめん…ね…」

小百合「…ううん。じゃあ後のこと…お願いね…」

胡桃「…分かった」


息の合った隊員の連携により律が担架に乗せられ、
そして速やかに救急隊員と小百合は救急車へ乗り込み、病院へと急いだ。

病院到着後、医師の処置を受ける為慌しく搬送された律を、玄関ロビーにて待つ小百合。
その表情に精彩はなく、今にも不安で押し潰されそうな面持ちだ。
時間だけが無情に過ぎてゆく。永遠とも思われるような、重く辛い時間。
律の無事を願いつつも、万が一の事態が脳裏をよぎる。
たまらずに立ち上がった小百合。その時だった。

律の母「小百合ちゃんっ!」

小百合「…律くんのお母さん…!」

律の母「律は…っ…無事なの…⁉︎」

小百合「今はまだ…治療中…です」

小百合の父「千鶴子っ!」

千鶴子「あなた…っ!」

小百合の父 久「律の容体は…っ」

千鶴子「小百合ちゃんが搬送に付き添いしてくれたみたいで…。律は現在も治療中だそうよ」

久「そうか…。小百合ちゃん、律がお手数おかけしたみたいで…すまなかったね」

小百合「いえ…とんでもないです」

「小百合ちゃん、律の意識はハッキリしてるの?」

小百合「…いえ。…搬送時、律くんは…気を失っていて…今もまだ…」

千鶴子「…そう。大事に至らなければいいのだけど…心配だわ」

重苦しい沈黙が辺りを包む。
そしてその数十分後、事態は動いた。一人の看護婦が足早に三人へ歩み寄ってくる。

看護婦「黒坂 律くんのご家族でいらっしゃいますか?」

久「はい、そうです」

看護婦「律くんの意識はまだ回復していませんが…一通り治療が終わり、現在は病室へと移動しましたのでご案内します」

千鶴子「…はい、お願いします」

看護婦の案内で律の病室へと通された三人。

千鶴子「…律。いったいどうしてこんなことに…?」

小百合「律…くん…」

事件当時に受けた怪我の影響で、律の顔はそこかしこが腫れていた。たまらずに目を伏せる小百合。

医師「黒坂律くんのご両親ですね」

千鶴子「はい」

医師「…単刀直入ではありますが、容体についてのご説明をさせていただきます」

久「はい」

医師「まず、外傷に関しては、恐らく争いによるもので、二、三日もすれば腫れも引くでしょう。
ただ…ご覧のように、その争いの最中で後頭部を強く打っており、現在も意識が戻らない状態です。
脳内部への損傷が危惧されますが…ひとまず本人の意識の回復を待って、その後の処置については、
それから決めさせていただきく思っております」

久「…分かりました、どうぞよろしくお願い致します。
この度は息子がご迷惑をおかけしまして、申し訳ありませんでした」

医師「いえ。一刻も早い容体の回復を願うばかりです。現状としては、点滴投与による安静ということでお願い致します。
また何かありましたら、いつでもすぐにお知らせ下さい。では失礼致します」

千鶴子「…ありがとうございました」

久「…小百合ちゃん」

小百合「…はい」

久「律のこと、ありがとう。きっと大丈夫だから。母さんもだ。しっかりしなさい」

千鶴子「…ええ、きっと大丈夫よね…きっと」

久「…とりあえず、ここからは私たちが律の様子を見ておくから。小百合ちゃんは学校に戻ってくれて構わないが…」

小百合「…分かりました。でも…っ!明日もお見舞いに来ます…っ」

千鶴子「…ええ。律の意識が戻ったらすぐに連絡させてもらうわね…ありがとう、小百合ちゃん」

小百合「とんでもないです…。あ、私…多分これから学校に戻って、
警察の方ともお話しなくちゃいけないかと思うので…一旦ここで…失礼します…ね」

久「分かった。送ってあげられなくて申し訳ない」

小百合「とんでもないです…では」

(小百合)その後、学校では一連の騒動を巡り、先生や警察の方から私や胡桃、清十郎くん、そして…
加害者の少年への聴き取りなどがありました…。
その結果、胡桃や律くん、清十郎くん達の正当防衛が認められ、
最終的に律くんへ暴行を加えた少年が事件の主犯格として逮捕され…事件は収束したのでした…。
楽しかったはずの…最後の桃栗祭。まさかこんな形になってしまうなんて…思いもよりませんでした…。
そして放課後、私たち三人は…あの河川敷で途方に暮れていました。誰も…何も言わずに。
時間だけが過ぎていく中、最初に口を開いたのは…胡桃でした。

胡桃「ねえ…二人ともさ…ううん黒坂も入れて三人だね…。
今回のこと…全部あたしのせいで…本当に…本当に…っ…ごべん…!」

清十郎「…そうじゃないよ胡桃…。真知花にあんなことをさせた原因は…この僕に他ならない…っ…!
しかも律や小百合ちゃんにまで迷惑をかけて…本当に…合わせる顔がないよ…。申し訳ない気持ちでいっぱいだ…」

小百合「…もっと早くに私が…清十郎くんや先生に連絡してれば…良かったんだ…。
二人のせいじゃ…ないよ…。私にもっと勇気と行動力があれば…事件は未然に防げたんだ…。全部私のせいだよ…!」

胡桃「そんなの…!小百合のせいなんかじゃない…っ!」

清十郎「胡桃の言うとおりだよ…!小百合ちゃんは僕にちゃんと連絡をくれた…!
胡桃の様子が普段と違ってたのに…見過ごしてしまった僕に責任はある…!」

胡桃「…清ちん違う…清ちんのせいじゃないよ…ッ…!」

小百合「…律くんは…怒ってるかな…。なんで…なんで私がもっと早く助けを呼んでくれなかったんだ…って…!」

清十郎「小百合ちゃん…胡桃…違う、すべては僕の責任だ…!」

胡桃「…あいつ…なんであたしのことなんか守ったのよ…本当…何カッコつけてんのよ…っ…黒坂のくせに…ッ…なんでよ…!」

それぞれが自分を責めていた…。
悔しくて悔しくて…悲しくて辛くて…。
こんな私たちを見たら…律くんは何て言うだろう…。考え過ぎだって…笑い飛ばすかな…。
ねえ律くん…君に逢いたい…。君の声が…聞きたいよ…!


その日、私たち三人の話し合いは…なんの着地点も見いだせず…それぞれが眠れぬ夜を過ごし、翌朝を迎えたのでした…。



小百合「…お母さん、今日学校お休みしてもいい…?」

百恵「…気持ちは察するけど…。小百合、あまり思い詰めないようにね?」

小百合「うん…」

百恵「学校へは後で私から連絡しておくわ。今日はゆっくり休みなさい」

小百合「…あとで律くんのお見舞い行ってくるから…」

百恵「分かったわ」

私は、居ても立っても居られずに支度を済ませ、病室の面会開始時間を待ちながら、部屋で塞ぎこんでいました…。
すると、静寂を破り一本の電話が鳴りました。着信は…律くんのお母さんからでした。
律くんの容態に変化があった時に、すぐに知らせて欲しいと…私からお願いして連絡先を交換させて頂いていたのです…。

千鶴子「おはよう、小百合ちゃん」

小百合「おはよう…ございます」

千鶴子「律のことなんだけど…さっき意識が回復したわ…でも…」

小百合「ほ、本当ですかっ?分かりました!今すぐ伺いますっ!失礼しますっ!」

雫「あっ…」

(小百合)律くんの意識が戻った…!良かった…。本当に良かった…ッ!

私は、一目散に病院を目指し、自転車を飛ばしました…。

…そこに待つ、辛い現実のことなど知りもせずに…。



第40話へ続く



ハイスクール!ノーリターン!
第40話「リセット」

律の母、千鶴子から小百合への着信。

小百合「も…もしもしっ!」

千鶴子「おはよう、小百合ちゃん」

小百合「おはようございます…ッ!」

千鶴子「律のことなんだけど…さっき意識が回復したわ…でも…」

小百合「ほ、本当ですかっ?分かりました!今すぐ伺いますっ!失礼しますっ!」

千鶴子「あっ…」

(小百合)律くんの意識が戻った…!良かった…。本当に良かった…ッ!

私はまず、清十郎くんと胡桃にメールでこのことを知らせ、一目散に病院を目指し、自転車を飛ばしました…。

…そこに待つ、辛い現実のことなど知りもせずに…。



場面代わり、律の入院する病院にて



小百合「303号室…303号室は…っと…あった!あそこの病室だ…!」

律の病室の前に立ち、大きく深呼吸する小百合。

小百合「よし…。おはようございます…っ」

千鶴子「おはよう、小百合ちゃん。朝早くに呼びつけたみたいになっちゃって…ごめんね」

小百合「とんでもないです…お知らせありがとうございました…」

千鶴子「どうぞ、入って」

小百合「はい…失礼します…」
(あのカーテンの向こうに…律くんがいる…。どんな顔するべき…?まず何から話そう…)

千鶴子「律、小百合ちゃんがお見舞いに来てくれたわよ」

小百合「…律くん、具合はどう?」

律「あ…気分は…悪くないです」

小百合「…?そ、そう。なら良かった…。でも…どうしたの?私に敬語なんて」

律「えと………すみません、思い出せなくて」

小百合「へ?思い…出せない?」

千鶴子「…小百合ちゃん、あのね…」

律「…母さん、小百合さんがオレにとって…どんな友達だったのか…詳しく教えてくれないか?」

小百合「!…小百合…さん?」

律「母さん、早く」

千鶴子「え、ええ…小百合ちゃんはね、律が幼い時からずっと…あんたの一番の仲良しで…」

小百合「…律くんのお母さん…?なんで律くんに私のこと…説明してるんですか…?」


一瞬、千鶴子が息を呑む様子を見せ、心苦しそうな表情で小百合を見つめ口を開いた。


千鶴子「聞いての通りなの…。意識は回復して…顔色も良くなってきてはいるけど…。
今朝律に、昨日小百合ちゃんが救急車で一緒に病院まで付き添ってくれたことを話したのよ…そしたら…」

小百合「…嘘…ですよね…?」

千鶴子「…担当医の先生が言うには…頭部への強い衝撃による後遺症や、一時的な記憶障害の可能性もあるって…」

小百合「…そんなのって…そんなの…あんまりじゃないですか…!律くんは何にも悪くないのに…っ…!」

律「…小百合さん、話がよく見えないけど…オレ、君を悲しませるようなことしたみたいで…ごめんなさい」

千鶴子「…律…っ」

小百合「…そんな…そんなのって…あんまりだよ…っ」

千鶴子「…律は、私や主人のことは覚えているみたいで…。
小百合ちゃんやお友達に関しては…これから色々と記憶の有無が判明してくると思うわ…」

小百合「…律くん…?私のこと…本当に思い出せないの…?」

律「…ごめんなさい、小百合さん」

小百合「…」

残酷な現実を突きつけられ、病室の床にへたり込む小百合。その瞳からは大粒の涙が零れ落ちて止まずにいた。
その時、病室のドアが開き清十郎と胡桃が現れた。

清十郎「律っ!」
胡桃「黒坂っ…!」

千鶴子「あら…お友達?」

清十郎「お母さん、おはようございます…。律の容態が回復したと小百合ちゃんから伺い…」

千鶴子「…ええ、意識は戻ったんだけど…」

胡桃「…小百合?なんで小百合泣いてるの…?黒坂意識戻ったんでしょ⁉︎」

清十郎「…胡桃、何か様子がおかしい」

胡桃「…清ちん?」

清十郎「律っ!小百合ちゃんと何を話した?」

律「…何をって言われても…オレはただ…」

胡桃「ただ…?」

律「…君たちのこともそうだけど…思い出せない…って」

清十郎「そんな…まさか…。律、僕と胡桃のことが分からないのか…?」

胡桃「…黒坂…嘘でしょ…?」

律「…すみません。オレには…君たちが誰だか…分からないです」

千鶴子「…ごめんねみんな。せっかくお見舞いに来てくれたのに…。
律、ちょっと今…きっと混乱してるのよ…一時的にこうなる可能性もよくあるって…先生も仰ってたから…きっと大丈夫よ。
いずれ…いずれあなたたちのこと…思い出すわ」

清十郎「くっ…律…!僕だよ…清十郎だ…!」

思わず律の両肩を掴み必死に律の記憶に訴える清十郎。
困惑した様子の律。

胡桃「えぐっ…黒坂ぁ…あたしだよ…っ…胡桃って呼んでよ…っ!いつもみたいにさぁ…!」

律「うう…っ…ごめんなさい…本当に…ごめんなさい…っ」

清十郎「…もうよすんだ胡桃。…律のお母さん…。取り乱してしまい…申し訳ありませんでした…。
律の置かれている状況は…理解しました」

千鶴子「…清十郎くん、ありがとう。胡桃ちゃん、それに小百合ちゃんも…本当にありがとう…」

胡桃「えぐっ…えぐっ…ウチらはともかく…これじゃ小百合が…!小百合が…っ」

小百合「…私…今日はこれで…失礼します…っ」

清十郎「あっ…小百合ちゃん!」

胡桃「小百合…っ!」

居た堪れずに病室から走り去る小百合。

清十郎「お母さん、僕らも一旦失礼します」

千鶴子「ええ、また来てね…」

清十郎「胡桃、小百合ちゃんを追いかけよう!」

胡桃「…う、うんっ」



第41話へ続く

ハイスクール!ノーリターン!
第41話「ちぎれゆく絆」

病院敷地内駐輪場。
呼吸も荒く、落ち着かない様子で自転車に乗り、その場を離れようとする小百合。


小百合「…こんなことって…!こんなの…あんまりだよ…っ!律くんの中から…私が…消えちゃうなんて…!」


病院玄関前、自動ドアが開き清十郎と胡桃が小百合を探し飛び出してくる。すぐに小百合を見つける清十郎。


胡桃「清チンッ!小百合は⁉︎」

清十郎「…っ!あそこだ。急ごうっ」

胡桃「うん…っ」

すぐさま小百合に駆け寄る清十郎と胡桃。

胡桃「…小百合っ!黒坂のことはきっと…!一時的なものだよっ!」

小百合「…そうかもしれないし…そうじゃないかもしれないよ…!」

清十郎「…小百合ちゃん。投げやりになるのはまだ早い…!」

小百合「…私だって諦めたくない…!でも…っ!…この現実を…受け止められない…!」

清十郎「それは僕や胡桃だって同じ気持ちだよ…でも…!」

胡桃「そうだよ小百合…!黒坂が記憶を取り戻すきっかけになるためにも…!
今こそ小百合が…!あいつの一番そばにいてあげるべきだよ…!」

小百合「…っ…勝手なことばっかり言わないでよッ!胡桃や清十郎くんには分かんないんだよッ!」

胡桃「…小百合」

小百合「好きなひとに忘れられるのが…どれだけ辛いか…!分かんないくせに勝手なことばっかり言わな…ッ」

(胡桃の鼻をすする音、嗚咽がもれそうになるのを必死で抑えている)
堪えきれず頬を涙が伝う。
そんな胡桃を見て、
言いすぎた自分にハッとする小百合。
気まずい空気に包まれる三人。

清十郎「…胡桃」

胡桃「…ごめんね…小百合。…あたしだもんね…?小百合から一番大事なもの奪ったの…あたしだもん…!」

小百合「……胡桃…。そうじゃないの…そんな意味じゃ…ッ」

堪らずにその場から走り去る胡桃。

清十郎「!胡桃っ!…小百合ちゃん。確かに君の言うとおり…僕と胡桃には計り知れない悲しみが…小百合ちゃんにはあるかとは思う」

呼吸を乱し動揺する小百合。

清十郎「…でも。律は僕ら三人にとって…!かけがえのない大切な仲間だよ…。それだけは分かってほしい…。
僕ら三人は…同じように苦しんでる…!胡桃を放ってはおけない。失礼するよ」

胡桃を追って清十郎もその場を走り去る。
一人立ち尽くす小百合。

小百合「私もう…疲れちゃったよ…律くん。。」

そう呟くと、力無くその場に倒れ込み、気を失う小百合。

小百合が目を覚ますと、そこは見知らぬ場所のベッドだった。
腕に目をやると点滴が投与されており、その場所が病室だと悟った。

小百合「…ここは…病室?」

「お目覚めかい、小百合さん」

小百合「!…律…くん?」


第42話へ続く

#42〜#46

ハイスクール!ノーリターン!
第42話「希望の匂い」

小百合が目を覚ますと、そこは見知らぬ場所のベッドだった。
腕に目をやると点滴が投与されており、その場所が病室だと悟った。


小百合「…点滴?ここは…病室?」

「お目覚めかい、小百合さん」

小百合「!…律…くん?」

律「驚いたよ…。君がオレの部屋を出た数分後に、急に窓の外からざわめく声が聞こえてきてさ…
覗いてみたら小百合さんが倒れてるのが見えたから…。ロビーまで降りていって、知り合いだって申し出たんだ。
それで…今さっきまで、付き添いさせてもらってたとこ」

小百合「…私、気を失っちゃったんだね…」

律「みたいだね…あ、具合はどう?気分は?」

小百合「うん…今は大丈夫」

律「そっか…なら良かったよ」

小百合「…付き添いしててくれて…ありがとうね」

律「どういたしまして。…はは、本当は先生から安静にしてろって言われたんだけど…
君が倒れてるのを見たら、いつの間にか病室を飛び出してた。なんでか分かんないし…後で叱られたけどね(笑)」

小百合「律くん…」

律「ん?」

小百合「…もし私が律くんと同じ立場でも…きっとそうしたと思う。。」

律「それは…友達、だから?」

小百合「…ううん」

律「じゃあ…なんで?」

小百合「それは…」

小百合が口を開こうとするのと同時に、病室のドアが開いた。

練袮百恵「小百合!…突然倒れたって黒坂さんから連絡があって…!具合はどうなの?大丈夫なの?」

小百合「お母さん…。うん、今は落ち着いてるから…ご心配おかけしました」

百恵「そう…あら、律くん。ひょっとして、小百合の看病してくれてたの?」

律「あ…はい、でもお母さんも来たことだし…オレ戻りますね」

百恵「ありがとう〜!そうね、小百合よりあなたのほうがひどい怪我してるじゃない!病室まで送るわ、行きましょ」

律「あ、いえ…一人でも」

百恵「ささ、律くん行きましょ。何号室かしら?」

百恵のテキパキとした引率に病室へと連れ去られる律。
部屋を出る間際、何か言いた気に小百合を振り返るが、二人にそれ以上言葉は交わされなかった。

小百合「なんでって…。律くんは恋人だからに決まってるよ…。
でも…嬉しかったな…。今、彼に私の記憶は無いけど。。でもきっと…想いが残ってたのかも…。
諦めちゃダメだよね、律くん…。私、信じることに決めたよ。。
いつか君が…全部思い出して、また元通り、、ってゆうのは高望みかもしれないけど…いつかその日が来るように。
…私、律くんのそばにいる。。ずっと…そばにいるから。。」

その時、律と百恵と入れ違いに病室のドアが開いた。

清十郎「小百合ちゃん…!」

小百合「清十郎くん…胡桃…!」

清十郎「あれから胡桃と駐輪場に戻ったら…。小百合ちゃんの自転車がまだあったから…慌てて律の病室へ向かったんだ。
それで律から小百合ちゃんの入院を聞いて…!」

小百合「そうなの…ゴメンね、私までこんなことになって…」

胡桃「小百合…?具合は…だいじょぶ…?」

小百合「胡桃…っ。さっきはその…気が動転して…誤解させるようなこと言って…本当にゴメン」

胡桃「…小百合。ううん、私こそ…小百合の気持ち察してあげられなくて…
しかも自分のことばっかり責めるような気持ちになっちゃって…爆発しちゃった。。ゴメンね」

小百合「…胡桃、清十郎くん。私…諦めないことにした…。さっき二人が言ってくれた通り…私…律くんのそばにいるよ…!」

清十郎「小百合ちゃん…!」

胡桃「ふふっ…そうこなくっちゃ!」

小百合「うんっ…!律くんが元気になったら…二人で思い出の場所とか…巡ってみようかなって…!」

胡桃「なるほどっ!それは効果的かも!」

清十郎「ああ、名案だね。もし小百合ちゃんさえ良ければ、僕らを含めて四人の思い出の場所へも同行するよ」

小百合「ありがとう、もちろんそうさせてもらうつもり。だって今のところ…律くんが忘れちゃってるのって、私たち三人だもんね…」

胡桃「うんうん。なんてゆーかさ、あのバカがしおらしくしてると…張り合い無いんだよね(笑)」

小百合「ふふっ、なんだかんだ胡桃と律くんって…仲良しだもんね!」

胡桃「…仲良し⁉︎う、うーん、まぁそうなるのかな?」

清十郎「あはは、このごに及んで素直じゃないなぁ」

胡桃「はぅう」

小百合「あはは!胡桃が困ってるよう!清十郎くんっ」

清十郎「ゴメンゴメン(笑)」

胡桃「んもうっ!二人ともイジワルだな〜!…まあでも。ウチら久しぶりに笑ったんじゃない?」

小百合「あ…そうだね」

清十郎「うん。あの出来事を無かったことになんて…そんなの難しい話だけど。
それぞれが受け入れて…前を向くしかない」

胡桃「清チン…」

小百合「清十郎くんの言うとおりだね…。律くんはいなくなったわけじゃない。
私たちに出来ることをしよう。また四人で笑い合えるように…!」

胡桃「オッケー!なかなかに厳しい道のりになるかもだけど…!諦めずに頑張ろうっ!」

清十郎「よしきた!絶対に律の記憶を取り返そう!」

小百合「ありがとう…二人とも」

胡桃「ううん…あたしこそありがとう。さっきは…黒坂に続いて、小百合までいなくなっちゃうような気がして…」

清十郎「でも小百合ちゃんは立ち上がってくれた。僕からもありがとうだよ」

小百合「ううん、二人のおかげだよ。…やっぱり、この四人は特別だね…。友達って本当にありがたいなぁって…」

胡桃「そだね…。小百合、一緒に頑張ろうネ!」

小百合「うんっ」

胡桃「あ、てか小百合も病人じゃん!ねえ清チン、ウチらそろそろ…」

清十郎「そうだね、そろそろおいとまするとしよう。
じゃあ小百合ちゃん、今後の展開についてはまた、律と小百合ちゃんが退院してからのことになりそうだね」

小百合「うん…!学校もあるし、そのことについてはまた後日だね…!」

胡桃「リョーカイ!じゃあ小百合、お大事にしてねっ」

小百合「うん、ありがとうっ!じゃあまた学校でね!」

胡桃と清十郎くんが病院を後にし、入れ違いでお母さんが戻ってきました。

百恵「小百合。お父さんね、仕事終わったら迎えに来るって」

小百合「うん、分かった」

百恵「あら…なんだか随分顔色が良くなったんじゃない?」

小百合「ふふ。ご心配をおかけしましたっ!」

百恵「本当よもう〜。きっと夏の疲れが溜まってたのよう。あんまり根詰め過ぎちゃだめよ?」

小百合「はーい、気をつけますっ!」

しばらくするとお父さんが駆けつけ、私は退院し自宅へと戻ることになりました。
いろいろな出来事が重なって、悲しかったり辛かったり、落ち込んだりもしましたが…!
私、元気になろうとしてる匂い…!ぷぷんとですっ!
律くん…私も胡桃も清十郎くんも…待ってるから。。君がいつもの笑顔を見せてくれる日を。。


第43話へ続く

「ハイスクール!ノーリターン!( 第1話〜第42話 ボイスドラマ用シナリオ版)随時更新

「ハイスクール!ノーリターン!( 第1話〜第42話 ボイスドラマ用シナリオ版)随時更新

あらすじ キラキラと輝くハイスクール・ライフは、人生でただ一度きり。 物語は、茜色に染まる河川敷で交わされた、幼馴染みの小百合と律の約束から始まる。 それは、お互いの夢を叶えた先にある更に大きな夢。その過程で織り成される甘酸っぱい恋愛劇や試練に対する苦悩。 二人の親しい友人である胡桃と清十郎らも、物語の展開の鍵を握る大きな存在。 果たして、小百合と律は見事結ばれ、交わした約束は果たされるのか。 誰もが抱いたことのある青春の淡い感情を、ひたすら眩しいタッチで描くリアル青春群像劇、ハイスクール!ノーリターン! 切なくも胸キュン必至なストーリーを、必ずやあなたにお届けします。

  • 小説
  • 長編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-03-24

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  1. #1〜#5
  2. #6〜#10
  3. #11〜#15
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  5. #21〜#25
  6. #26〜#30
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  8. #37〜#41
  9. #42〜#46