見送る者

 この作品で初めて物語を書きました。
 いわゆる処女作ってものです。
 小説や物語を読み慣れている、目の肥えている方々には読むも苦しい駄作だと思いますが、温かい目で見てもらえるとありがたいと思います。

 

始まりの疑念

 私は現世と死後の世界とを結び死者の魂を受け入れ、見送る者。
 多くの者が死神と呼ぶ類の存在である。

 また一つ新たな魂が私の元へ来たようだ。
 今私の前に漂うは、単なる白い塊、これが魂だ。
 私はその単なる塊に右手を乗せた。
 これに触れるとそのモノの現世の記憶に触れることができる。
 
 私はこの行為が嫌いだ。
 それには現世で過ごしてきた【時】がある。
 それを覗くこの行為は好きにはなれない。
 人間の言葉を借りるなら、それが道理と言うモノだろう。
 しかし、それに触れることは私の使命なのだから仕方がない。

 私が右手を乗せた白い魂は輝きを増し、私の周囲を包んでいった。
 目の前には楽しそうに会話をする男と女がいた。
 二人とも30歳くらいだろうか。
 結婚がどうと聞こえるところを見ると婚約者同士なのだろう。
 「どこの式場は安いけど日程が」とか
 「こんな演出してみたい!」等、実に幸せそうである。

 私は幸せそうな二人を見て、嫌な気持ちになっていた。
 それは二人の幸せそうな姿を妬んでのことではない。
 私は知っているのだ。
 どちらかは必ず死ぬことを。

 一々感情移入しなければ良いのだが、それは私の性分だ。
 死神の使命であろうと、幸せが【死】によって崩れるのを見るのは嫌なのだから仕方がない。

 幸せ一杯のまま二人は結婚をした。
 月日が流れ
 「妊娠した!」
 不意の言葉に男の動きが止まった。
 時が止まったかのような、一瞬の静寂。
  男はただ、ただ、嬉しい感情だけを噛み締め、何も言えなかった。

 こんな時、人間は何て言えば良いのだろうか?
 この態度から女は男への感情が一気に薄れるのを感じていた。
 「ありがとう。」「おめでとう」
 この一言が欲しかったのだろうか?
 この時を境に女の態度は冷たくなっていった。

 男の行動を否定し、会話をしなくなっていった。
 女の態度の変化に男は困惑し、問うも要領を得ない。
 「俺が悪かったのかな?なんでだろうか?」
 自問し、そして自責の念に駆られる生活。

 人間とは何と面倒な生き物か。
 幾度と無く繰り返される人間模様に対する私の率直な考えである。
 子供ができ、幸せで包まれるハズであった家庭が崩壊していく音が聞こえるようだった。
 
 何故女は男をそこまで責め立て、追い込む?
 何故男は何も言わずに自責の念に駆られる?
 あぁ、人間とは本当に面倒な生き物だ。

 「!!!!!!!!!」
 女が男に何かを言った。
 何と言ったのだろうか?
 なぜそれだけ私にも聞こえない?
 私にすら聞くことが出来なかった言葉を不思議に思いながらも、確実に男の表情から生気が失せるのを感じた。

 しばらく呆然としていた男は既に死人かのような足取りで、外へと向かっていた。
 男の視線は虚空を見上げ、ヨダレを垂れ流していることにすら気付いていないようであった。

 どこへ向かうのだろうか?

 いや、もはやそれは問題ではない。
 この男は自ら死へと向かっているのだ。
 そして、私を包む光が薄らいでいく。

 最後の瞬間は見ることが出来なかったが、今男の魂が私の目の前にあることが、その後の真実である。
 最後の瞬間を見届けられないのも死神の使命なのだろう。
 使命なら仕方がない。
 
 この男は幸せを手に入れたがために、人を好きになったがために、私の目の前にいるのであろうか?
 男の人生は幸せだったろうか?不幸だったろうか?
 死神である私にはどうでも良いことだが、ふと頭をよぎった。

 私を包む光が完全に消えると、その魂は空高く舞い上がって消えた。
 人間の世界では死後の世界が存在し、自殺した者は永遠に苦しむ罪を背負うと信じられているそうだ。
 あの男はどこへ行き、どんな苦しみを与えられるのだろうか?

 魂を受け入れ、見送る行為は何度行っても悲しく、寂しいものである。
 ・・・・何度行っても・・・・
 ・・・・何度も・・・・・・・・
 自然と魂を受け入れ、見送る私。
 それを自然と行っている私。
 小さな違和感は膨らみ、そして確信へと向かう。

 ・・・やはりそうだ。
 思い出せない。
 いや、この感覚はそもそも以前の記憶自体が存在しないのだ。
 なぜだ?
 私はここに存在した時点から死神として・・・
 ・・・私はいつから存在した?
  
 ここに存在してから初めて沸いた自分自身に対する疑問。
 何故だろうか?
 「これ以上考えてはいけない」
 私は言い知れぬ、恐怖と呼べるような強い感情に押し込められ、思考を停止した。
 まぁ、これも私の使命なのだろう。
 使命なら仕方がない。
 次の魂が訪れるまで・・・・

感情

 どのくらいの時が経っただろうか?
 死神の世界に時間は無限に流れるものである。
 気が付くと目の前には白い塊が浮かんでいた。

 見慣れた人の魂だ。
 私はこの魂の上に右手を乗せた。
 私は、この魂の現世の記憶に触れなければならない使命を持っている。
 実に不快だが、死神としての使命なので仕方がない。

 白い塊から強い光が発せられ、いつものように私を包んでいく。
 私の目の前に若い男性が一人立っていた。
人間の年齢はよくわからないが恐らく25歳くらいであろう。
スーツを着て表情は実に活き活きとしている。

どうやら今から出社するところのようだ。
「行って来ます」
一瞬私に言ったのか?と錯覚を覚えたが、私は彼の記憶を見ているだけで、彼に私が見えるはずはない。
誰もいない部屋に対して言っているようだ。
まぁ、挨拶のように、言葉の意味よりも、言うという行動自体が大切なのだろう。

会社に着くと年配の男と、若い男が社員の前で紹介されている。
新しい上司と部下と言ったところか?
「なんだ、だから嬉しそうにしていたのか」
つい口を割って出た言葉だ。
もちろん誰にも聞こえないこの言葉は発せられると同時に消えていった。

この男はどうやら人の面倒を見るのが好きなようだ。
後輩と思われる男に実に熱心、丁寧に仕事を教えている。
しかし、彼には見えていないのか?
その熱心さを疎く思っているような、ジトッとした目で見ている新しい年配の上司が。

私の憶測は的中した。
上司は何かにつけて男を仲間はずれにするような指示を出し続け、後輩には仕事をさせないような指示ばかり出し始めていた。
後輩がしない分の仕事は全て男がこなしていた。
 それでも男は楽しそうであった。
 そもそも仕事自体が好きなのだろう。

 ある日同期と呼べる仲間から食事に誘われた。
 しかし男は仕事が残っているため、それを断った。
 後日、また同僚に食事に誘われた。
 しかし上司からの命令は続いており、仕事が減るわけもなく、また断った。
 次も、又次も、何度も断った。

 そんなある日、男は聞いた。
「あいつ仕事ばかりして、付き合い悪すぎる。出世でも狙っているんだろう。」
 いつも聞き慣れた同僚の声だ。
 男はそれでも表情を変えない。

「俺もそう思います。」
この言葉に男は始めて顔を歪めた。
彼の後輩の声だった。
一瞬その声がした方へ目を向けたが、既に彼らは背を向けて歩いていた。

男はわからなかった。
いや、後輩が裏切ったとか、そのようなことではない。
何か自分自身の中に発した感情がどのような感情なのかが理解できなかった。
【悔しい? 悲しい? 寂しい? 辛い?】
いや、どれとも違った。

それ以降彼は誘われなくなっていった。
これは上司のせいかわからないが、上司からの命令、仲間はずれは徐々にエスカレートしていった。
遂には一人では行えない仕事まで一人に押し付けられるようになっていた。

同僚は?後輩は?
「この仕事人間が!」
そう言わんばかりに、見てみぬ振りを決め込んでいるようだった。
彼はそれでも何とか仕事をこなしていった。
既に後輩の持分だけではなく、上司の仕事まで丸投げされるような状態であった。

 「彼は何を思う?」
 私はそんな疑問を持っていた。
 私が始めて人間の気持ちに興味を持ったのだ。
 しかし私は記憶に触れるだけ、感情までを知るすべはない。

 深夜一人になった会社で彼は仕事を終えると、それでも清々しい表情を見せていた。
 そんなある日、彼と上司二人で行わなければならない仕事が入った。
 二人きりで仕事をし、沈黙が続く。
 どうやら彼は上司に対しては笑顔や清々しい表情を見せないようだ。
 ・・・・沈黙・・・・
 ・・・・沈黙・沈黙・・・・
 
上司が口を開いた。
「お前、俺との仕事、楽しくないのか?」
 彼は作業を止め、しばらく考えた後
「もう少しでこの仕事やり終えますから大丈夫です。」
 否定も肯定もせず、濁すようにそう答えた。

「楽しいのか、楽しくないのかを聞いたんだ。そんなことは聞いていない。」
上司は続けた。
彼の中で何かが弾けたのだろうか?
「はい、全く楽しくありません。それどころか、貴方がいるせいで職場が苦痛です。仕事は楽しくやりがいもありますが、貴方が来てから職場は苦痛な場所に変貌しました。」

そうか、彼はそのように思っていたのか。
沢山の仕事を押し付けられても清々しい表情で仕事をし続けた彼の心の一端が見えた気がした。
上司はこの言葉を聞いて苦い表情一つせず、ニヤリと笑った。

「そうか。それなら今すぐ辞めろ。私から既に話はある程度通してあるから心配するな」
人間とは変なことを言うものだ。
これが人間の常識なのだろうか?
しかし私の興味は人間の常識よりも、彼の反応に向いた

「何でそうなるんですか?私は楽しいか楽しくないかを問われたから答えただけです。楽しくないからとクビになる意味がわかりません。」
 彼は普通に意見したり、物事を考えることもしていたのか。
 そのことに少し驚いた。

 そして数日後には彼は会社をクビになっていた。
 上司の根回しが最大に効力を発揮したのだろう。
 彼は私に背を向けていた。
 不意に私の方を向いたその表情は・・・・・

 光は薄れ、目の前には白い塊がただ浮かんでいるだけだった。
 彼は後輩を熱心に指導し、仕事もこなし、後輩の分の仕事まで面倒を見ていた。
 それなのに、その後輩にも、同僚にも蔑まれていた。
 報われないものである。

 ギリギリ、ギリギリ
 何だ?この音は。
 この空間には私とこの白い魂以外に存在しない。
 ギリギリ・・・
 なおも続く、不可解な音
 ギリギリ・・・・
 
「!!!!」
 音は私の口から発せられていた。
 どうやら無意識の内に歯と歯を強く噛み締めていたようだ。
 歯と歯が強く軋む音。
 
 なんだこれは?
 これは人間が悔しい時や怒りを我慢する時にする行為ではないか?
 何故私がそれをしている?
 彼の境遇に怒りを覚えたとでも言うのか?
 いや、私にそのような感情も、興味もないはずである。

 意識すれば簡単に止める事ができた。
 何だったのだろうか?
 私の歯軋りが止むのを待っていたかのように、白い魂は上空へと浮かび、消えていった。

 私は死神である。
 まぁ、死神なのに魂の記憶に触れ、見送るだけって使命にも疑問を持たないわけではない。
 何かこの私の変化と関係があるのかもしれない。
 しかし、それもまた死神の使命だとするのなら、それも仕方がない。
 私は使命をただ行うだけだ。
 仕方がない。
 仕方が・・・ない・・・ことなんだ・・・

見送る者

 あとがきを見てくださっているってことは、一通り読んでいただけたのでしょうか?
 読みにくい部分も多々ある、私の文章を読んでくれて有難うございます。
 今後も色々と考えてはいますので、温かい目で見守っていただけたら幸いです。

見送る者

主人公は現世と死後の世界とを結び、死者の魂を受け入れ、見送る者。 多くの者が死神と呼ぶ類の存在。 理不尽なことや、嫌な事でも【死神としての使命】と割り切っており「仕方がない」が口癖。 そんな彼がある魂の記憶に触れることで、初めてある疑問を持ちます。 その後も死神として多くの魂に触れることで、その疑問は更に大きく、そしてある確信へと向かっていく。(予定です!)

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • ミステリー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-03-18

Copyrighted
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Copyrighted
  1. 始まりの疑念
  2. 感情