君へ……
「世界の出来事を私の意志によって左右するのは不可能であり、私は完全に無力である」
ルードヴィッヒ・ウィトゲンシュタイン
君がどう考えようと、世界は存在するし、それは、君とは決して相容れないものだ。
君の不満も、君の平穏も、君の胸を焦がすような恋も、君の幾千もの流した涙ですら地面に吸い込まれて後には何も残りはしない。
君と世界とは全くの別物なのだ。
だから君は、君自身の才覚で生きていかなくてはならない。
どんな些細なことだって君の隣に存在する世界のせいにはできないのだ。
有体に言えば、君が生きようが、死のうが、世界は明日も存在するし、これからも永遠に誰かの隣にあり続ける。
そういうものだと割り切ってしまえば、君の心は幾分かは軽くなるだろう。
飛翔できるほどではないにしてもだ。世界は君のことなどこれっぽちも認識することもなく、君がどんなに恋焦がれようとも振向いてさえくれないだろう。
そう、そんな簡単なことに気付くことさえ人は何年もかかったりする。
ラカン、アルチュセール、ドゥルーズ、ハイデガー、果てはニーチェを読み漁ったところで、とどのつまり、哲学書を何冊も読んだところで、君がなぜ生まれそして何処に向かうのかという永遠の命題は、君が自分の足で目指す地平の彼方にしかその答えはない。
答えは永遠に見つからないかもしれない。
しかし、書きつづけること、歩きつづけることが全てなのだ。
求めても得られないものがあるというその認識が全てなのだ。
世界は君を受容しないし、相手になどしない。だから君は、大いなる無力感に苛まれながらも君自身の意思で生きなければならない。
いや、生きようが、死のうが明日は必ずやってくるのだという無情をしっかりと意識することから君の明日は始まるのだ。
満天の星空に抱かれ、雨上がりの芝生の匂いを肺いっぱいに吸い込み、大樹の陰に怯え、日々の暮らしに心の平穏を感じる時・・・君は君の世界と折り合いをつけられるのかもしれない。
君へ……