鶴の一声
リクエスト*鶴丸国永夢
1
『国永のばかっ!もういい!』
「俺も今回ばかりは折れないぜ!勝手にしろ!」
本丸中に二人の声が響く。
その騒ぎを聞きつけ、ちょうど通りがかったのであろう燭台切が部屋に入ってくる
「ど、どうしたんだい?」
慌てて声をかけるも時すでに遅し。
昨日…いや、今朝まではあんなに仲のよかった二人が、今は喧嘩し口も聞きたくない、と言わんばかりの空気だった
しかし二人は燭台切には目も呉れず、さらに言い合いをする
「美樹がこんな浮気者だとは思わなかったぜ」
『だからそれは国永の勘違いだって言ってるでしょ!』
「じゃああの時三日月のじじいと一緒にいたのはなんだったんだよ」
『そ、それは…』
押し黙る美樹に「ほら見たことか」と言わんばかりの顔をする国永は、部屋を出ていこうと踵を返す。
美樹は、何も言えずただ悲しそうな顔をして唇を噛み締めるしかなかった。
**
「で、どうしたんだい?」
『っ…』
「!?っちょ、落ち着いて、あぁもう目をこすっちゃダメだって!!」
ポロポロとこぼした涙を乱暴に拭うその姿に、燭台切は慌ててハンカチを渡す。
しばらくして少し落ち着きを取り戻した様子の美樹が、『あちがとう』と小さな声で呟く
「…大丈夫かい?」
『うん、ごめんね巻き込んじゃって』
「それは構わないけど、何があったのかは教えてもらえると嬉しいかな」
『…この前ね、鶴丸に何かプレゼントしようと思って、三日月に相談したんだ
そしたら一緒に選んでくれるって。だから買い物に言ったんだけど…』
「それを彼に見られて勘違いされた、と」
『…うん』
彼はううーん、と腕を組み少し考えを巡らせ、「そうだ」と思い立ったように手を叩いた
「仲直りしよう?」
『でも、あんなに怒ってる国永見るの初めてだし…許してもらえるのかな』
「大丈夫、僕がお膳立てしてあげるから」
気障ったらしくウインク(片目を閉じているので断言はできないが)をする燭台切はまさに伊達男だった。
**
そして、当日
「…なんだってんだ?何も言わず付いてきてほしい、だなんて」
「まぁまぁ、ちょっとしたサプライズだよ」
夜、自室でぼんやりしていると、珍しく燭台切が「何も言わずについてきてほしい」と言い出した
サプライズか。そう言われれば黙ってついて行ったほうが面白そうだと思い、ついていくことにした
「…さ、この部屋だよ。僕はここで失礼するから、あとは二人でお好きに♪」
「はぁ?二人ってどうゆう…って待てよ!」
珍しくも怖い笑みを浮かべ、さっさとその場を離れる燭台切を追うに追えず。
言われた通りにその部屋に入る
…するとそこにいたのは
「……こりゃあ驚いた」
『…こ、こんばんわ…』
普段とは違い、艶やかな着物を着て紅を指した美樹が、そこにはいた
「…どうしたんだ?それ」
『似合わない、かな』
「いや、そんなことはねぇ!…すごく、その…
…綺麗だ。とっても良く似合ってる」
『っ!そ、そっか、…よかった』
まともに会話をしたのは何日ぶりだろう、お互いに緊張しているのは一目瞭然だ。
らしくないほど会話がたどたどしい
『「あのっ」』
二人の声が被る。
「あ…美樹から言ってくれ」
『え?えぇと……その…これ』
「?なんだ?」
『開けてみてくれる?』
おずおずと差し出されたのは、紐がかけられた小さな箱だった。
言われるがままにそれを開けると…
赤い椿をかたどった硝子細工が、ちょこんと入っていた
「椿、か?」
『国永に似合うと思って、
…この間、勘違いさせちゃったでしょ?その時に買ったの』
「……そうだったのか」
あれは、自分に嫌気が差して三日月と逢引をしていたわけじゃない。
自分に贈り物をするためだったのか。
『ごめんね、私もあの時はカッとなっちゃって…っきゃ!?』
目の前の、自分から見たら年端もいかない女性が、人間ですらない自分のために考えて、贈り物をしてくれて。
そんな健気な姿が愛おしくて、愛おしくて。
たまらなく愛おしくて、抱きしめた
「…男の嫉妬は醜いというが、本当だな」
『く、国永…?』
「俺はな、美樹。三日月に嫉妬してたんだ。
美樹があのじじいに取られると、思った。…怖かった」
視線を絡ませ、美樹の手に口づけを落とし、そしてまた言葉を続ける
「…好きだ。いや、愛してると言っても過言じゃない。
元々刀の俺が何を言っているんだと言われるかもしれねぇが、好きだ。好きなんだ」
『ん…っ』
耳に、首筋に、胸元に、啄むように口付けをおとされ、擽ったさに思わず身をよじる
「だから、誰にも取られたくない。誰にもやらない。美樹の乱れた姿は、俺だけに見せて欲しい
……こんな俺は、嫌いか?」
『ううん、好きだよ』
頬を染め涙を流す彼女に、国永は熱く口付けをする
何度も何度も、見つめ合い、時間を忘れて
『ん、っ…ふ、国永…』
「ん…どうした?」
『ご飯、いかないと、…っしょくだいきりが…っひゃ』
燭台切、と言った瞬間、鎖骨を啄んでいた唇が、歯に変わった。
噛まれたのだ。
「…じじいの次はあの伊達男か」
『ち、違っ…』
「わかってる…が、この雰囲気の時に他の男の名を口に出すなんてなぁ。
…こりゃちっとばかし仕置をしないと、な?」
『っま、って…っあ、…』
「待ったはナシだ。お前と二人っきりにした時点でアイツもわかってるだろうよ
……今日は仲直りの証に、いっぱい愛してやるからな」
くすっと笑い、近くの灯りを消す。
夜はまだまだ長い。
End
鶴の一声