俺のものだって自覚して
リクエスト*岩泉夢
1
授業終了のチャイムがなる。
クラスの大半は部活に入っているため、いそいそと支度を始める
が、帰宅部の大鹿浩菜もまたそれにならっていそいそと支度を始めた
「大鹿、今日も部活来るの?」
『うん!』
…あ、そうか、岩泉先輩を見に…
『及川先輩に来てって言われてるし』
「…え、そっち?」
『?何が?』
「いや、…うん、まぁいいや遅れるし、行こう?」
あれ、大鹿は確か岩泉先輩と付き合ってるんじゃ…
国見英は考えた。
隣のクラスの金田一の話を半分位聞き流しながら考えた。
そして一つの答えにたどり着いた。
「…でよー、…なぁ国見、聞いてんのか?」
「…もしかして、大鹿は及川さんと…」
「は?」
そう。大鹿浩菜は岩泉一と別れ、及川徹と恋仲になったのだ(予想)
………と、てっきりそう思っていたのだが
『岩泉先輩!かっこいいー!』
「よかったね岩ちゃん、焼けるねー、このこのー♪」
「う、うるせぇクソ川!」
「照れなくてもいいのに、今日も浩菜ちゃんの手作りお弁当だったでしょ?羨ましいなぁ」
国見英の予想は大きく外れた。
岩泉と大鹿のカップルは別れるどころか、仲睦まじく過ごしているらしい
「(そういえば誰にでもなつくから前にも別れたとか噂されてたっけ…)」
なんだ杞憂か。とドリンクを飲むが、飲み込む瞬間驚きの言葉が耳に入る
『及川先輩にも作ってきましょうか?』
「「はぁ!?」」
「え、いいの?」
あっけらかんとして彼氏でもないやつに手作り弁当宣言をした浩菜に、岩泉と国見が珍しくハモる
『岩泉先輩と同じのでいいなr「ちょっと大鹿こっちきて」!?』
彼氏だというのにあまりに不憫な岩泉を見ていられなくなり、国見は慌てて浩菜の言葉を遮る
「流石にお弁当はだめだろ」
『なんで?』
「いや、だってそういうのは、なんていうか……えーと…」
あぁもうこいつ天然か!と言いたくなるほどに無自覚な浩菜。
これでは岩泉先輩もさぞ大変だろう…と様子を伺うと
「…そーかよ、じゃあ及川にも作ってやりゃいいんじゃね?」
『…岩泉先輩…?』
「え、何岩ちゃん浩菜ちゃん俺に…痛い痛い岩ちゃん痛い!!」
「うっせえ!ほら練習はじめんぞ!!」
勝手にしろ、と言わんばかりの岩泉の態度に、さすがの浩菜も不安を覚えたのだろう。
その後は練習を見学はしたが、終始眉根を下げて俯き、見るからに落ち込んでいる様子だった
**
それからしばらくして部活は終わり
複数の部員は既に帰路に着いていた。
「………」
『…………』
そして、岩泉一と大鹿浩菜もまた、二人揃って帰路に着く。
ただただひたすら無言なまま。
「…なぁ、大鹿」
『は、はい』
「お前にとって俺って何?」
『え?』
ふと立ち止まって、真剣な顔で問いかけられる
思ってもみなかった問に、浩菜の頭にははてなマークが浮かぶ。
及川先輩ならまだしも、岩泉先輩が言うには少しばかり違和感のあるセリフだ
「…やっぱり、俺より及川の方がいいのか?」
『そんなことあるわけないじゃないですか!私は岩泉先輩が好きなんです!』
「っ、だったら及川にばっかり懐いてんじゃねぇよ!お前の彼氏は俺だろ!
浩菜にとって俺は特別じゃねぇのかよ!」
『…へ?』
「ッ!!」
…やってしまった。
まるで小学生のように嫉妬をさらけ出して声を荒らげてしまった。
浩菜は、声を荒らげたことより内容に気が行っているのか、ぽかんとした顔をしてこちらを見ている
岩泉に怒る感情はもうなく、むしろ自分が思わずしてしまった稚拙な行動に、堪らず顔が赤くなる
「な、なんて顔してんだよ…」
『だ、だって…』
それにつられ、浩菜の顔も赤く染まっていく
『岩泉先輩が、そんなこと言うなんて…』
「ら、らしくないとかいうんじゃねーぞ」
『ううん、…嬉しい』
「はぁ!?っちょ、ひろ…」
へにゃりと笑い、その笑みのままで抱きつかれ、岩泉は思わずたじろぐ
これでも男子高校生。好きな彼女に抱きつかれて戸惑わないわけがない
「…わ、悪かった」
『私も、ごめんなさい』
「あー、その、なんだ…
……ちゃんと、好きだ。嫉妬もする。だから、及川にばっかかまけてると嫌だ」
『うん……うんっ』
優しく抱き返し、耳元で小さく、しかし、しっかりと伝える
浩菜は、嬉しさに思わず涙ぐみながらもしっかりと頷く
少ししたあとゆっくりと離れ、お互いに見つめ合い、そして─
「好きだ」
小さな浩菜に対し、身をかがめるようにして、ゆっくりと口づけをする。
この体も、この心も、全部全部お前にやるから
お前の体も、心も、全部俺に欲しい。
そしてゆくゆくは……
それを言えるのは、まだ先の話。
End
俺のものだって自覚して