夫は影になった

夫は影になった

夫は影になった
何かが後ろを通る
足元が夫だと教えている

夫は影になった
いつからかわからない
気配が消えていた

子どもには見えるのだろう
時々声が聞こえる
一瞬夫の形がそこにある

遠くにいるでもなく
近くに感じるのでもなく
手を伸ばせば消えてしまう
陽炎のよう

ただそこにあるのを
見つめるだけ
感じるだけ

夫は影になった
時々ネバーランドから還ってくる
子どもをさらおうと帰ってくる
連れて行けない
寂しさだけを残して

勝手に洗濯機が動いている
お湯を沸かす音がする

夕暮れの中
泣く赤ん坊
わけもわからずとまどう母のように

影になった夫と暮らす
一緒に行こうか捨てて行こうか
靴下一つ捨てられぬまま
見えぬ背中に問いかけてみる

夫は影になった

夫は影になった

  • 自由詩
  • 掌編
  • 成人向け
更新日
登録日
2015-03-05

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