奴隷ハーレムの作り方#11~師匠と呼ばせて~

漸く街に北門から入り、俺達はリーナの怪我の治療をする為に一度宿屋に戻った。
 リーナを椅子に腰掛けさせて、俺は治癒魔法をかける為にアイテムボックスからお馴染みの魔力回復薬を取り出した。
 多分今回は1本で足りるはずだ。

「よし、少し怪我した所を見せてくれ」

「わ、分かりました」

 そう言ってリーナは素足を出し、患部を外気に晒した。

「とりあえず治癒はするけど、俺多分気絶するから魔力回復薬を飲ませて起こしてくれるか?」

「あの、そこまでして貰わなくても自然に治るのを待っても――」

「駄目だ、そんなことしたら傷が残る。第一これはこういう時に使う能力なんだ。魔力量が少ないから多用できないのに、今使わなくていつ使うんだよ」

 遠慮するリーナの言葉を遮り、構わずリーナの足に手を翳し魔力を集める。
 白い光が傷を包み込み、徐々に塞がっていくのを見ながら、魔力回復薬を飲む。
 前々から思っていたんだが、これ栄養ドリンクの味に似ていてあまり好きじゃない。

「なあ、リーナ」

「何ですか?」

「あんまり遠慮するなよ。主従の関係だけど、俺達は冒険者の仲間でもあるんだ。だから俺はリーナを全力で守るし、リーナに背中を守って貰いたい」

 自分の思った事を吐露しながら、気が付いた。
 俺はリーナを信じてる。
 奴隷だからじゃない。リーナという人となりを見て感じて、俺はそう思えるようになったんだと。

「コーヤ様……あの! 私も――」

 リーナの声が聞こえた気がしたが、遠のいていく意識には勝てなかった。





「――言い逃げなんて、ずるいです」

 気を失ったコーヤを抱き締めながらリーナは呟いた。

「よいしょ、っと」

 コーヤを抱き上げて寝室へ運ぶ。

「コーヤ様は、重いですね」

 クス、と笑みを浮かべてベッドにコーヤを横たわらせ、ベッドの淵にもたれてコーヤの寝顔を見つめた。

――ホント、子供みたい。

 その無防備なコーヤを見て、そう思った。
 最初は助けてくれた優しい人なのかと思えば、自分の体を欲に塗れた目で見つめてきたり、奴隷を奴隷と思っていないような不思議な人だとリーナは思っていた。
 リーナは戸惑いながらも、コーヤの不器用な優しさを感じていた。

「コーヤ様の背中を守るのは、私の役目ですね」

 リーナは首に掛けていた三日月のペンダントを大事そうに握り締めた。
 コーヤを本当に主人として認めたのは、この時からだったかもしれない。
リーナはコーヤに顔を近づけて、耳元で囁く。

「私を守ってくれるって言って貰えて、嬉しかったです」

 コーヤの頬に、リーナは顔を寄せて口付けた。




 気を失っていた俺は、魔力回復薬の味に目を覚ました。

「あ、気が付きました?」

「ああ、ありがとう。やっぱりこの味は苦手だな……」

 魔力強化したらもう少し楽になるんだが。
 それは言ってても仕方がない事なので、気持ちを切り替えリーナに問い掛けた。

「俺はどのくらい気を失っていた?」

「そんなに時間は経ってないですよ。まだ日も高いですし」

 窓を見ながら言うリーナは、どこか晴れ晴れとした顔をしていた。

「怪我の具合は大丈夫か?」

「ええ、もうすっかり良くなりました! それにしても治癒魔法って凄いですね。治癒術師って貴重なんですよ? 私初めて見ました」

 ああ、そういえば最初にこの力を使った時は気を失っていたんだったな。

「へえ、そうなのか。まあこの力は神に与えられた力だ。俺自身の力じゃないし、むしろリーナの力の方が凄いと思うけどな」

「そんな事ないですよ。大事なのは、持っている力をいかに有効に使えるかどうかだと私は思います。だから少ない魔力で必死になって怪我を治すコーヤ様は、凄いと思います」

 いつになく褒められるので、どうしていいか分からない。
 手持ち無沙汰にしているとリーナが立ち上がり、扉に向かって行った。

「この後ウィレスさんの所へ向かうんですよね? 準備して待ってますので、気分が良くなったら行きましょう」

「ああ、分かった」



 少し休んでから宿を出た俺達は、ギルドの訓練場に来ていた。
 訓練場の中は学校のグラウンドのように地面が慣らされていて、それを周りの柵が囲んでいる。
 そんな中で訓練をしている冒険者達の中に一際体躯がでかく、そして迫力のある男が立っていた。
 その男は俺達の視線に気付き、冒険者達の相手をやめてこちらに向かって歩いてきた。

「よう! やっと来たかコーヤ、待っていたぞ!」

「ウィレスさん、お手柔らかにお願いしますよ」

 俺がウィレスと呼んだ男は、快活に笑い始めた。

「わっはっは! 丁度骨のある相手がいなかった所だ。俺が腕を見てやろう! こっちに来い」

 そう言ってウィレスさんは訓練場の空いている所に向かい、俺もその後を追っていると他にいた冒険者達の視線に気が付いた。

「ああ……また新たな犠牲者が出るのか」

「今日で何人目だよ。あいつも気の毒だな」

「〈戦狂のウィレス〉は今日も絶好調だな」

 おい、怖過ぎるからやめろ。ていうか最後の危ない二つ名は何なんだ。
 口々に囁いてる冒険者達を置いて俺はウィレスさんに渡された木剣を持ち、同じく木剣を持ったウィレスさんと向かい合う。
 緊張で硬くなっている俺は、ウィレスさんに声を掛けられた。

「そう硬くなるなコーヤ。受け止めてやるから胸を借りるつもりでかかって来い!」

 豪快に笑うウィレスさんを見て、少しだけ顔が和らいだ。

「コーヤ様顔がカチコチですよ!」

「そういう事わざわざ言わなくていいから!」

 リーナにからかわれて周りに笑いが巻き起こる。
 人前に立つのは苦手だから注目されて緊張してしまったが、そのおかげで少しは和らいだ。

――リーナに格好悪い所は見せたくないしな。

 気持ちを落ち着かせて、戦闘態勢に入る。

「――では、行きますっ!」

 俺は最初から全力で地面を蹴ってウィレスさんに迫る。
 まずは真っ向から打ち合う。
 だが、予想よりも遥かにウィレスさんの力が強く、拮抗していた剣はすぐに押し返された。
 態勢を崩した俺は、向かってくる木剣を受け流して後ろに跳ぶ。

――力も速さもウィレスさんの方が上だ。

 ウィレスさんは驚いたように目を丸くしていたが、急に笑い始めた。

「いや、驚いたぞ。まさか俺の剣を一瞬でも受け止めるとはな! コーヤ、お前を気に入った。俺が鍛えてやろう。さあどんどん来い!」

 できればご遠慮したいのだが、と臆病な思考になるが、この人に鍛えて貰えれば強くなれるかもしれない。

「ありがとうございます!」

 お礼を言いながら再びウィレスさんに迫る。
 今度は小回りを利かせて次々と剣戟を振るっていく。
 しかし全ての剣戟をいなされ、その間にも俺の体中に木剣が打たれる。
 木剣でも打たれれば痛い。だが、実剣なら俺はもう何回も死んでいる。
 思わず膝を突いた俺に、ウィレスさんは言った。

「筋はいい。だが圧倒的に実戦経験が足りていない。体は出来ているのに、お前の経験がそれに追いついていないな」

「あ、ありがとうございます……」

 強すぎだろこの人。まるで歯が立たなかった。

「しかしAランクの俺に少しは打ち合えるだけでも大したもんだ。ここにいる周りの奴等は一瞬で終わるからな」

 ニヤリと笑うウィレスさんを見た冒険者達は、視線を合わさないように自主訓練に励み始めた。
 この人ホントに怖い。でも頼もしいな。
 ウィレスさんくらい強くなれればリーナも他の人たちも守れるようになるかな。

「ウィレスさんって化け物ですね」

「はっはっは! そのくらい言われなきゃギルド長は勤まらんからな。褒め言葉として受け取っておこう。――明日からも大事な用が無い時はここに来い。しっかり実戦経験を積めば今よりも強くなるだろう」

「分かりました。師匠と呼ばせて頂いてもいいでしょうか?」

 この人の強さに憧れてしまった俺は師と仰ぐ事を決めていた。

「別に構わんが、なんかそう呼ばれるのはくすぐってえな。――それよりそこにいる奴隷の娘はどうする?」

「は、はい! あの、リーナです!」

 急に声を掛けられて吃驚したのか、声が裏返っていた。
 リーナ、お前も緊張してるじゃないか。
 ついでにリーナを鍛えてもらえるか訊いてみた。

「師匠。俺の奴隷も鍛えてやってくれませんか?」

「いいだろう。リーナ、だったな。お前も今から腕を見てやる」

 今度はリーナの相手をするつもりか。
 師匠どんだけ体力有り余ってるんだよ。

「よ、宜しくお願いします!」

 その後、リーナも完膚なきまでに打ちのめされ、俺と一緒に師匠と呼ぶ事になったのは言うまでも無かった。

奴隷ハーレムの作り方#11~師匠と呼ばせて~

奴隷ハーレムの作り方#11~師匠と呼ばせて~

  • 小説
  • 掌編
  • 青年向け
更新日
登録日
2015-03-02

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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