刻まれる1/4乗の物語

今、確かな同じ時を刻んでいる。
起き抜けでぼんやりしている朝も、別の場所で過ごす昼も、親子喧嘩をしてふてくされている夜も。
確かにあんたはそこに居て、確かに私もここに居て、これからも変わらぬ時を一緒に刻んで行くのだ。

雨の日も風の日も

私の朝は比較的早い方だと思う。私が目を覚ます頃、私以外の家族はまだ夢の中にいるようだ。家族と言っても父親は4年前から、新幹線で1時間半移動した場所に単身赴任中である。1ヶ月に1度帰ってくればいい方だ。そのため実際生活を共にしている人々と言ったら、母親と妹と飼い猫だけなのだけれど。
飼い猫はともかく、母親と妹を起こす役目はいつも私が請け負っている。別にしたくてしている訳ではないのだが、家族の中で朝に強い人物がどうやら私しかいないのだ。
母親に関しては2.3度声をかけてあげれば割とすぐに夢の中から現実へと戻ってきてくれるのだが、妹に関しては正直考えるだけで頭が痛くなる。何と説明すればいいのだろうか。妹に関しては、実は夢の中の方が現実なのではないかと思う程にとにかく起きないのだ。
「お母さん、起きて。ウォーキングに行く時間だよ」
声をかけるがそれだけでは起きないので何度か体を揺する。ちなみにこのウォーキングは、数年前から健康の為と言って私と母親で始めたものだ。妹ならばそんな時間があるならギリギリまで寝ていたいと言うだろう。私の朝が比較的早いというのは、この日課のおかげでもある。そうしてようやく母親が目を覚ます。
「ああ、おはよう〜。ん?今日も早いね」
まだ半分夢と現実を行き来しているような顔と声でそう答える母親。この毎朝のやり取りが割と嫌いではなかった。ぬくぬくの布団の引力に半分持っていかれながらも、のそのそと体を起き上がらせ、そして天にも昇る程の背伸びをするのだ。吸い込まれそうな程大きなあくびと共に。私はそこまで見届けたあと、1階のリビングへ降りていく。寝起きの水分補給をしている途中に母親も1階へ降りてくる。そのままリビングのカーテンを開け、部屋に光を呼び込もうとする。しかしこの日は入ってくるはずの日差しの代わりに、雨粒が窓をノックしていた。
「やだ!今日は雨じゃないの!」
私には特に雨も風も億劫になる要因ではないのだが、母親はそうではないらしい。
「今日は散歩するのやめとこうか?」
母親を気遣ってそう尋ねてみた。しかし母親も1度決意した意志は固い方なので、何だかんだ言いながらもウィンドブレーカーを羽織って準備し始めていた。まだ秋とは言えど雨の日の朝は寒い。母親は冷え性なので尚更だろう。
「あんた、そのままの格好で大丈夫かしら」
大丈夫、という意味で頷く。私は朝に強い上に寒さにまで耐性があるようだ。まあ、便利な体だとは思う。そしてまだ少し億劫そうな母親と共に外へ出る。母親は傘を持ち出していたが、私はウォーキングの邪魔になるのでいらないと伝えた。
実は、結構このウォーキングが好きな私は、外へ出るとテンションが上がってしまう。そうなってくると、もう少し体を動かしたくなって時々ジョギングを挟みながらコースを進んでいく。
「ちょっと待ってちょうだい!」
そんな母親の懇願を無視してしまうことも度々あった。母親は歳の割に若々しく美人な方ではあるので、すれ違うご近所さん達にもてはやされることも多い。しかし、やはりこのような場面ではやはり歳相応なのだ。確かに今日は雨も降っているからペースを合わせるべきだろう。傘を差しながらの母親に本気ウォーキングは辛いはずである。

刻まれる1/4乗の物語

刻まれる1/4乗の物語

長く感じたり、短く感じたり。同じ1分、1時間、1年ということには変わりないのだけれど。しかしその尊さを、今一度よく考えてみたい。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-02-22

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