笑顔の異端者
名を八壱叶刹。
性別は女。
当時の年齢は10歳。
彼女は異端で異常で、それでいて普通だった。
精神病棟でのお話。
精神病棟での話。
「はい、これは何に見えますか?」
「斧…か、ギロチン?」
見せられた絵にそう答えると、白衣を着た男の人は顔を青くした。
「ち、蝶々には見えないかい…?」
「蝶…あー、見えますね。でも、僕には蝶の形を模したギロチン刄に見えます。」
「なんか、凄く良く殺せそうですね」
僕の一言で、周りの空気は凍りつき、次第にざわめき出す。
そして僕は、隔離精神病棟に入れられた。
レベル7と書かれた隔離病棟内はとても静かで気持ちが悪かったことを覚えている。
いつも朝になると、白衣の男がやってきて僕に向かってこう言うんだ。
「君はどうしてそんなに笑顔なんだい」
どうして?
そんなこと聞かれても困る。
素直に言えることならば、僕だってこんなに苦労していない。
「さぁ?なんでだろうね。」
笑顔で返してやれば、男はやれやれと首を振る。
「君は変わっている。」
怖いよ。
そう言われて、僕はまた笑顔を見せた。
「そう?」
男は僕に話すだけ話して帰っていく。
何がしたいのか、したかったのか…僕には何も分からない。
ただ、分かるのは僕は異常者なんだってこと。
「君はどうしてそう、笑顔で怖いことが言えるんだい?」
さあ、なんでだろうね。
何回目かの質問に僕は首を竦める。
いつか、いつかの熱い熱い日に僕は暗闇で一週間屠殺場、戦場、虐殺の映像を見せられたことがあった。
頭に付けられた管は僕の脳波を図る機械と繋がっている。
暗い部屋でずっと、ずっとずっと見せられた黒紅梅が無残に飛び散る映像。
匂いも感触も無いから、僕は視界に映る黒紅梅に笑顔を無くして見ていただけだった。
ただ、見ていただけだ。
ただ、見ていただけが悪かった。
「君は異常だ、どうしてあんな映像を見せられて…正気でいられるんだ。」
どうしてって言われても…ねぇ?
さぁ?と首を竦めて苦笑を零す僕を男は気持ち悪いものを見るかの様な目で見てくる。
そして、何をされたわけではないが僕は五年間の隔離病棟生活に終止符を打った。
「異常なことが正常で通常。」
その答えは僕にとってなんの意味もなさなかったし、これから先、なすこともないと思う。
笑顔で門から背を向けて歩き出せば、男は安堵の顔を浮かべたことだろうと、心底思う。
僕は精神異常レベル7、隔離病棟始まって以来の究極系精神異常者だ。
僕に貼られたレッテルは消えることはない。
( 精神異常な平凡娘 )
end.
笑顔の異端者
はい、ということで処女作。
ただの妄想物なので、誹謗中傷などの一切は受け付けておりませぬ。
ご了承くださいませ。
叶刹の視覚と聴覚と感覚は普通じゃない。
幻覚幻聴は当たり前の虚偽娘です。