*星空文庫

姉さんがさ

かわら 作

 僕にはひとり姉がいます。
 可愛らしく、そして愚かな姉です。
 僕らはたった二人の姉弟ですから、助け合わなければならないのです。かけがけのない存在というわけです。
 しかし、この姉という人間は脆いのです。
 不器用で、ぐるぐると長たらしい意を伝えるのに何十分もかかってしまいます。
 一般人よりも動作が鈍いのは彼女の魅力的な部分でもありますが、一般人からしたら劣っている部分であるわけです。
 姉を見ると思うのです、僕という人間は姉の支えとなるため生まれたのだと。
 姉が不器用だというのなら弟の僕は器用で、姉の負は弟の光にあたるのです。すれば、必然と姉を補助する役目になるのです。
 僕自身それは当たり前のことでした。出来た弟、不出来な姉。対照的な兄弟を見る目はいつも決まっていました。
 それを良いと思ったこともないし、悪いとも感じたことはありませんでした。僕ら兄弟がそう見られることは仕方のないことだとわかっていました、そして、気にすることでもない。
 第一、僕らの相補された関係を他人がどう言おうが、彼らは絶対に侵入してくることは出来ないのですから。無駄なことです。
 しかし、姉が単体で馬鹿にされるのは許せないことでした。姉の全てを知らない人間が姉を見下すなぞ、はっきり言って殺してやりたい、首を絞め、魚が泡を吹くようにぽつりと謝罪を吐かせたら一気に地獄へ落とすのです。憎さがあれば当然です。
 僕の目の前で姉を馬鹿にする人間は母くらいでした、他の奴は僕に姉の悪口を言おうものならどうなるか知っているから。
 母はいつも言うのです。
 おまえはどうしてわからない子なのかしらね。
 抗議するのですが、横にいる姉を見ると途端に弱々しくなってしまいます。
 彼女の顔が、僕をそんな気持ちにさせるのです。口を紡ぎ、申し訳なさそうに視線を下へと向けているのです。理解出来ないのは、恥ずかしそうに頬を赤らめていることです。
 姉は、もう諦めてしまったのです。
 抗議する気持ちさえ失い、罵声すらも受け入れてしまうようになってしまったわけです。
 僕は悲しくなります。
 自分を肯定出来ない姉にさせてしまったことに悲しくなるのです。
 だから、だから僕は彼女の弟でいなければならないのです。
 心中にこんな考えがあるというのは、よろしくないことかもしれません。僕も姉を見下していると言われたら、その通りなのかもしれません。
 けれども、姉は汚い考えを見透かすかのようにそんな僕をも受け入れてしまうのです。
 晃、晃、と僕の名を呼ぶか細い姉の声。
 姉さん、明姉さん、と答える僕の声。
 家でも外でも、どこであろうとお互いがお互いを呼ぶ声は二人の耳に届くのです。すごくはありませんか、必要としあっていることが確かにわかるのです。
 こんな姉弟は他にないと思っています。
 ずっと姉弟でありたいと思っています。

『姉さんがさ』

『姉さんがさ』 かわら 作

対照にある姉と弟、その弟の独白。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2015-02-15
Copyrighted

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